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加賀 出会い編 4話

【寮監室】

加賀教官の部屋に夜食のトレイを置いた直後、振り返ったその先に‥‥

加賀
ここで何してる

(は‥裸!?ななな、なんで!?)

サトコ
「わ、私‥け、決して覗きなんてそんなことは!」

加賀
あ?

サトコ
「い、いえ!」

(びっくりした‥)

シャワーから上がってきたばかりの教官に目を泳がせる。
上半身裸のまま私の横を通り過ぎて
ドサッとソファに腰をかけ、テーブルの書類に目を通し始めた。

(か、帰っていいのかな‥っていうか加賀教官が髪下してるところ、初めて見た)
(いつも以上にセクシーというか‥だ、ダメだ‥どこ見ていいかわからない)

加賀
で?

サトコ
「あ‥食堂のおばちゃんに頼まれて、夜食を持ってきました」

ようやく書類から顔を上げて私を一瞥すると、顎で自分の向かいのソファを指す。

加賀
座れ

サトコ

「え?」

加賀
二度も言わせんな

サトコ
「っし、失礼します」

慌てて向かい側に座ると、持っていた資料を半分渡された。

加賀
年号順に並び替えろ

サトコ
「は、はい」

加賀
ったく、あのクソメガネ。こんなチマチマした作業、他の奴らにやらせろよ‥

文句を言いながらも教官も持っている資料を年号順に並び替えている。

サトコ
‥教官って、資料整理とか苦手ですか?

加賀
得意だと思うか?

サトコ
「いえ‥」

加賀
基本、デスクワークはやらねぇ

サトコ
「そんな感じですよね」

苦笑まじりに言うとじろりと睨まれ、私は慌てて口をつぐむ。

(髪下してるし、いつものスーツ姿じゃないし‥うっかり気が緩んじゃいそう)

資料整理に集中していると、時折、教官が無言でトレイの夜食に箸を伸ばす。
その様子を見ていると、トレイのお肉はすべて消え、野菜は手つかずで残った状態だった。

サトコ
「‥教官、野菜は最後に食べるんですか?」

加賀
あ?

サトコ
「いえ、残してるから‥好きなものは最後に食べるタイプなのかと」

加賀
こんなん食わなくたって死なねぇだろ

(ってことはやっぱり、嫌いなんだ‥)
(そんな綺麗にトレイの端に野菜を寄せて‥子どもみたい)

教官は資料をテーブルに置き、デザートのムースに手を伸ばす。
よく見ると、ムースだけは2つトレイに乗っていた。

サトコ
「え?」

加賀
なんださっきから、うるせぇな

サトコ
「す、すみません」

教官は2つあったムースをあっという間に食べてしまう。
結局残ったのは野菜だけだった。

(なんてバランスの悪い食べ方‥注意したいけど、したら絶対怒られる‥)

そんなことを思いながらチラリと教官を見ると、思いがけず目が合う。

加賀
もういい、トレイ持って出て行け

サトコ
「あ、もう帰っていいんですか?」

加賀
何を期待してる

サトコ
「え?」

加賀
ああ‥お前も一応、女だったな
その気なら、相手してやってもいい

(その気って‥!)

サトコ
「あの」

加賀
そのつもりで来たんだろ?

<選択してください>

A:からかわないでください

サトコ
「か、からかわないでください!その気もなにもないくせに‥!」

加賀
なら、その気がある奴には簡単にやらせるんだな

サトコ
「ち、違います‥!」

加賀
そういうことだろ

B:頼まれただけです

サトコ
「食堂のおばちゃんに頼まれただけです!じゃなきゃ男の人の部屋になんて来ません!」

加賀
ああ、男慣れしてなそうだしな

サトコ
「そういうのは別にどうでもいいじゃないですか!」

加賀
よくねぇよ。色仕掛けが必要な捜査の担当になったら
お前みたいのでも役に立つかもしんねぇだろ

C:女としてみてくれるんですか?

サトコ
「それって‥加賀教官は、私のこと女として見てくれてるってことですか?」

加賀
あ?見て欲しかったのか?

サトコ
「い、いえ、そういうことじゃなくて‥」

(いつもクズ呼ばわりだから、少しは人間扱いしてもらえるのかと‥‥)

加賀
どうする?

サトコ
「!」

誘うような、どこかけだるそうな教官の肩越しに、奥の寝室のベッドが見えた。

(ど、どうするって言われても‥‥)

何も言えずにいると教官はソファに深く身体を預けて煙草に火を点ける。
その姿が様になっていて一瞬惚けたが、慌ててトレイを持って立ち上がった。

サトコ
「わ、私まだ晩ごはん食べてないので、失礼します!」

加賀
そうか。その気になったら後で来いよ

サトコ
「来ません!」

(っていうか、今さらだけど早く服着て‥!)

鼻であしらう加賀教官に、私は逃げるように部屋をあとにした。

【教官室】

数日後、他の教官に頼まれて加賀教官に資料を届けに向かった。

(ちょっと気が重い‥‥)

この間のことを思い出して小さくため息をつく。
考えても仕方ないと、私は資料を抱え直しドアをノックした。

サトコ
「失礼します。加賀教官に‥‥」

加賀
だからそれはお前の役目だろうが

石神
勝手に決めるな。それではチームワークが崩れる

颯馬
まあまあ

いつものように言い合いになる2人の間で、颯馬教官が余裕の微笑みを浮かべている。

(教官たち以外にも、見たことない人たちが何人かいる‥みんな公安課の人なのかな)

戸口のところで立ち止まっていると、加賀教官が私に気付き手を伸ばした。

(あ、資料よこせってことかな)

会議の邪魔にならないよう無言で手渡す。
軽く会釈をして加賀教官から離れようとすると、腕を掴まれ、引き止められた。

(待ってろ、ってこと?何か用事があるのかな)

石神
今回の訓練は今までにない大規模なものになる。おのずと、連携も必須だ

加賀
ならお前が譲れ

石神
それはこちらのセリフだ。今までのように一人で突っ走られたら困る

加賀
うるせぇな。手柄立てりゃ文句ねぇんだろ


兵吾さんにはオレが持ってる情報を伝えておくから問題ないですよ

公安刑事
「お前の情報も、加賀さんの勘も公安課では有名だが‥一人に任せるのは」

さっき石神教官が言ったように、大規模な訓練のため、現役の公安刑事たちも加わるらしい。

颯馬
ターゲットは汚職疑惑のある政治家、竹田
大物政治家ですから、向こうも一筋縄ではいかないと思います


そもそも、そんなヤバい相手を訓練の対象にするのが間違いなんじゃない?

後藤
このくらいの訓練をパスできなきゃ、使い物にならない

加賀
同感だな。できねぇクズを間引くいい機会だろ

石神
どちらにしても、竹田と接触する可能性のある潜入捜査は、後藤のチームが適任だ

加賀
今までのやり方じゃ無理だ。向こうを油断させるには‥そうだな、女がいる

石神
女?

加賀
ってわけで、それは俺とコイツでやる

グイッと加賀教官が私の腕を引っ張った。

サトコ
「えぇ!?」

加賀
男と女で行動すりゃ、たいていは向こうの目を欺ける


でも大丈夫ですか?氷川さんには荷が重いんじゃない?

加賀
言っただろ、できねぇクズは切る
おい

サトコ
「は、はい」

加賀
やりたいよな?

有無を言わせない態度で、加賀教官が私を見下ろす。

(これ‥できません、なんて言える雰囲気じゃない!)

震えながらうなずくと、加賀教官はニヤリと笑った。

加賀
お前んとこのチームはサポートに回れ。得意だろ、情報分析

石神
‥‥‥
何度言えばわかる。お前のその勘に頼りすぎた捜査は

加賀
リスクが多すぎて了承できない

石神
そうだ

加賀
よくもまあ、毎度毎度同じことが言えたもんだな。その勘に負けてんのはどこのどいつだ?

石神
負けてなどいない。お前とはやり方が違うだけだと何度も言っている
だいたい、お前の勘というのはいつも‥‥

加賀
まだ説教かよ

うんざりしたように、加賀教官は石神教官の方へ私の背中を押す。

サトコ
「わっ」

加賀
ならお前がそいつをうまく使ってみろよ。潜入でも囮でもなんでもいい

サトコ
「お、囮!?」

加賀
俺の忠実な奴隷だからな。きっちり躾けてある

石神
「‥‥‥」

2人の間に無言の火花が散った後、石神教官が目を伏せた。

石神
「‥やむを得ないな
ではうちと後藤、颯馬班の編成を決める

他の公安刑事たちが、石神教官の方へと集まった。

颯馬
サトコさん、大変なことになりましたね

サトコ
「颯馬教官‥‥」

颯馬
でもサトコさんと加賀さんの連携を見せてもらえるのは、少し楽しみです

サトコ
「れ、連携ですか‥‥」

(颯馬教官、もしかしてちょっとおもしろがってる‥?)


そうそう、兵吾さんと2人で潜入捜査なんて、おもしろそうだよね

サトコ
「え?」

(私、今声に出してた?)

悟られたことを疑問に思っていると、東雲教官がにこりと笑う。


要するに恋人のフリをするってことでしょ?
男女2人でないと行けないところに潜入する可能性もあるし

東雲教官の言葉に、いつぞやのラブホテルの出来事が浮かんだ。

サトコ
「で、でも‥あくまでも捜査ですよね?」


そうだね。だけど
もしかしてほんとに兵吾さんに食べられちゃったりして

(た、食べられる!?)

加賀
歩、無駄口叩いてる暇があるなら仕事しろ


はーい

加賀
いくぞ

サトコ
「え!?は、はい!」

(教官と恋人のフリをして潜入捜査‥?急なこと過ぎて、頭がついていかない‥)

ポイントサイトのポイントインカム

【屋上】

あとを追いかけて屋上までやってくると、教官がフェンスに寄りかかってタバコをふかしている。

(タバコ吸ってる姿も、絵になる‥)
(シャワー浴びた後の髪を下したところも、普段とは違った色気みたいなのがあったけど)

サトコ
「って、私、何を‥‥」

慌てて首を振る私に視線を流し、不意に、加賀教官が腰を抱き寄せてきた。
突然近づいた距離に目を見開く。

サトコ
「えっ‥‥」

加賀
‥‥‥

サトコ
「か、加賀教官!?」

加賀
今夜、俺の部屋に来い
じっくりかわいがってやる

サトコ
「!?」

(い、いきなり何!?)

<選択してください>

A:行きません!

サトコ
「い、行きません!なに言ってるんですか!」

加賀
‥なに本気にしてる

サトコ
「‥か、からかったんですか!?」

加賀

うるせぇ、喚くな

B:突き飛ばす

サトコ
「な、何するんですか!」

突き飛ばそうとするが、加賀教官はびくともしない。

加賀
もし俺が犯人だったら、お前は一巻の終わりだ

サトコ
「そ、それより離してください!なんでこんな‥‥」

C:本気ですか?

サトコ
「教官‥ほ、本気ですか?」

加賀
‥ったく、んなわけねぇだろ

サトコ
「え!?」

真っ赤になる私を見て、教官がため息をつく。

加賀
この程度でこれか‥先が思いやられるな

サトコ
「この程度って‥‥」

加賀
潜入するからには、どっからどう見てもそれらしく振舞う必要がある
バレたら、計画が全部水の泡だからな

(ってことは‥今の、潜入捜査の練習‥)
(何か一言言ってくれればいいのに、わかりにくすぎる‥‥)

加賀
まあ、回数増やせばどうにかなるか

私の背中をフェンスに押し付けて、教官がゆっくりと顔を寄せる。

サトコ
「加賀教官‥ち、近いです」

加賀
どうしてほしい?今なら、お望みどおりにしてやるよ

(ど、どうしてほしいって‥言われても‥!)

加賀
この前の続きか?それとも‥‥
ああ、このまま外でってのも悪くねぇな

サトコ
「なんの話ですかっ‥‥」

慌てて教官から顔をそらすと、愉しそうに私を追い詰めていた表情が一変した。

加賀
‥ヘマしたら、即切るからな

サトコ
「え‥‥」

加賀
使えない駒はいらねぇんだよ

フェンスから手を離して、教官は屋上を後にする。

サトコ
「‥‥‥」

(使えない駒‥私は、教官にとっては所詮『奴隷』で『駒』にすぎない‥‥)
(そんなの、わかってるけど‥さっきのは不意打ちすぎるよ)

誰もいない屋上で、私は頬の熱を抑えようと必死だった。

to be continued

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