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加賀 出会い編 8話

【教官室】

加賀
使えないクズはいらねぇ。今すぐ消えろ

冷たく言い放たれた言葉が自分に向けられているものだと、すぐには理解できなかった。

サトコ
「教官‥‥」

加賀
聞こえなかったか?もうお前は用済みだ
さっさと出て行け

そう言い捨てると、何事もなかったかのように周りの部下に指示を出す。

(どうして‥今朝は普通だったのに)
(昨日のミスをなんとか挽回して、教官の役に立ちたいって思ってたのに‥)

ぎゅっと拳を握る。
静まり返った教官室に、ドアの開く音が響いた。
入ってきた石神教官は、加賀教官の前で立ち尽くしている私を見て目を細める。

石神
どうした。何かあったのか

加賀
どうってことはない、役立たずのクズを切ったところだ

後藤
‥‥‥

後藤教官が、私に視線を向ける。

石神
加賀、説明しろ

加賀
「‥知っての通り、昨日コイツのミスのせいで捜査は失敗に終わった
利用価値のねぇ駒は、さっさと切り捨てる。それだけのことだ

颯馬
相変わらずですね、加賀さん。ただ今回に限ってはまだ‥

加賀
これは決定だ


‥‥‥

(‥初めての仕事で、戸惑いも恐怖もあったけど)
(でも、絶対に最後まで責任を持ってやり遂げたかった‥!)

加賀
何度も言わせるな。目障りだ

サトコ
「加賀教官‥」

消え入りそうな声が漏れた。

(やっぱり教官は、自分の利益のためだけに部下を駒として使う人なの?)
(だけど‥私が今まで見てきた加賀教官は‥‥)

【屋上】

フラフラと屋上に向かい、ベンチに座る。

(役立たずのクズ‥言われ慣れた言葉だけど、今日のは今まで以上に辛い‥)
(私、本当に教官に見限られたんだ‥)

鳴子
「あ、サトコ!」

サトコ
「鳴子‥」

同僚男性A
「ここにいたのか」

2人は私を探していたらしい。
私の雰囲気を察して、鳴子が静かに隣に座った。

鳴子
「潜入捜査を降ろされたって‥ほんと?」

サトコ
「うん‥私のミスのせいで、尾行してること、犯人に気づかれたかもしれなくて」
「そんな大きな失敗したんだから、当然だよね‥‥」

鳴子
「でも、今回の捜査だって加賀教官に無理矢理やらされたようなものなんでしょ?」

サトコ
「‥‥‥」

(確かに最初はそうだった‥)
(だけど、怖い以上にすごく勉強になった。教官たちの捜査の様子を目の前で見れた‥)

同僚男性A
「まあ‥ほら、仕方ないって。先に切られてよかったのかもしれないだろ」

サトコ
「どういうこと?」

同僚男性A
「加賀教官って、仲間殺しって噂があるだろ?」
「もっとでかいミスして死にそうなときに見捨てられるよりは‥」

サトコ
「そんなことしない!」

鳴子
「サトコ?」

サトコ
「確かに怖いし、口も悪いし、仲間なんて平気で捨てそうだけど」
「でも‥教官はきっと本当はそんなことする人じゃないよ‥」

同僚男性A
「でも火のないところに煙は‥って言うだろ?」
「まぁ、実際はわかんないけどさ、じゃ、オレら行くわ」

鳴子
「元気出してね、サトコ」

(『仲間殺し』の噂が本当なら)
(あの時、自分の手柄を放棄してまで捜査員を助けに行ったりしない)
(でも私、『役立たず』とか『クズ』とか言われたのに、なんで教官のために怒ってるんだろう‥)

2人がいなくなってからも、まだ一人でぼんやりしていた。

(頭の整理がつかない‥明日からどうしよう‥)

サトコ
「はぁ‥」


兵吾さんにフラれて落ち込んでるの?

振り返ると、いつの間にか東雲教官が立っていた。


それとも、怒鳴られて落ち込んでる?

<選択してください>

A:フラれてません

サトコ
「あの‥私、別に教官にフラれたわけじゃ」


そう?失恋した時みたいな顔してるけど

サトコ
「教官は教官です。厳しくてダメなことはしっかり叱ってくれる‥」


それがわかってて、なんでそんな顔してるの?

B:そのくらいで落ち込みません

サトコ
「‥今さら怒鳴られたくらいで落ち込んだりしません」


へぇ、強いね

サトコ
「加賀教官は、意味もなく怒鳴ったりしないってわかってます」


じゃあ、なんでそんな顔してるの?

C:慰めてくれるんですか?

サトコ
「もしかして、慰めてくれてるんですか?」


オレが?君を?なんで?

(だよね‥東雲教官っていつも笑顔だけど、実は裏表ありそうだし‥)


で、どうなの?

サトコ
「‥どっちも違います」

サトコ
「‥加賀教官に言われたことはすごく悔しいし、『クズじゃない』って言い返したいです」
「でも‥私の力が足りなかったせいで、ずっと加賀教官の足を引っ張ってたことも事実で」
「教官に言われたことじゃなくて‥自分の無力さが悔しくて、情けないです」


まぁ、兵吾さんに比べたら、君の刑事としての資質はゼロに近いだろうね
あの人は、公安刑事になるべくしてなったような人だから

サトコ
「なるべくしてなったような人‥」


ちなみに、正反対だけど石神さんもそんな感じだよね
オレたちは、2人に認められて今ここにいる

(認められて‥か)
(私は、そこまで行けなかったってことなのかな‥)


でも

さらに目を伏せる私に、東雲教官が続けた。


これまでこんなに長く兵吾さんとやってこれた人はほとんど見たことないよ
ましてそれが女性で、生徒なんてね

サトコ
「でも‥それは、教官がフォローしてくれたからです」
「私が教官の役に立てたことなんて、一度も‥」


そう?兵吾さんはたぶん、もっと早く君を切ることもできたと思うけど

サトコ
「え?」


それをしなかったのは、君に何かしら、認めてもいいって思う部分があったからじゃないの?

まぁ、もしかしてただの気まぐれかもしれないけどね

サトコ
「どっちですか‥」


それは君自身で考えてよ
オレ的には、君がいて助かることって言えばお茶を淹れてくれることくらいだし?

東雲教官の笑顔を見ながら、さっきの言葉を思い出した。

(東雲教官の言ってたことが本当なら‥もしかして加賀教官は)
(少しでも私のこと、認めてくれたのかな‥そうだといいな)

サトコ
「‥私、今度の審査、頑張ります」


何、急に

サトコ
「今の私ができるのは、そのくらいしかないと思うから」


ふーん、まあ、頑張ればいいんじゃない?審査するのは兵吾さんだけどね

サトコ
「うっ‥‥」

(確かにそうだ‥加賀教官は誰も合格させてくれないんじゃ、って最初の頃は思ったけど)
(でも、少しでも認めてもらえるように‥夢の刑事になるために、頑張ろう)

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【モニタールーム】

竹田の捜査から外されて少し経った頃。
私が公安学校に入学して、2か月が経とうとしていた。

石神
皆に担当してもらっていた実践訓練である竹田の捜査も、大詰めだ

颯馬
今回の最終ミッションに向けて、これから最後の合同捜査会議を行います


いま自分たちがいる班で、君たちがどれだけ自分の役割を的確にこなせるか
それが、この訓練のあとの審査に通過できるかどうかにつながってるからね

後藤
他班と連携を取りながら、捜査にあたるように

教官たちからの言葉に、全員が綺麗に敬礼をする。

(私はあれから加賀教官のチームを外されて、他の教官のチームに配属になった)

前は事あるごとに命令されたり奴隷だと言われていたのに、
今はそれもなんとなく寂しさを感じていた。
そっと加賀教官を窺うが、もちろん私に目をくれることはない。

(あれから、一度も目が合ってない‥まるで私が存在してないみたいに)
(本当に教官に見放されちゃったんだな‥‥)

【ホテル】

石神教官と東雲教官が得た情報では、竹田は都内の某高級ホテルで会合を行う予定だった。
竹田の逮捕に向けて、私たちも各チームに分かれて秘密裏に行動する。

鳴子
「サトコのチームは、後方サポートだよね」

サトコ
「うん、鳴子もだよね」

鳴子
「審査を通過するためには、前方でぐいぐい活躍したかったんだけどね」
「でもまだ、逮捕できるような証拠をつかめてないし」

サトコ
「部屋を盗聴してるっていうから、その中で決め手になる会話が出ればいいんだけど」

鳴子
「そうしたら、潜入してる私たち全員で竹田を確保だね」

サトコ
「うん‥」

(ホテルの周りは竹田に気づかれないように囲んであるし)
(もし私たちに気づいて竹田が逃げようとしても、無理なはず‥)

教官たちの会話を聞いても、何事もなく順調に作戦は進んでいるらしい。
その時。

ドォン‥と遠くで小さな爆発音が聞こえた。

サトコ
「何、あの音‥」

鳴子
「ちょっと、こんなの作戦に入ってた?」

どこかで何かのスイッチが入る音がして、間もなくホテル内のスピーカーから雑音が聞こえてくる。

男の声
『よく聞け。このホテルに小型爆弾を数か所設置した』
『今のは牽制だ。次はどこだろうな』
『建物がどこまで耐えられるか、見ものだな?』

悲鳴やざわめきがあちこちの部屋から聞こえてきて、一斉に部屋から客が飛び出してくる。

男性客
「おい、今のはなんだ!?」

女性客
「爆弾ってどういうことよ!?」

あっと言う間に、ホテルの中が騒然となる。

加賀
作戦はいったん中止だ!全員、一般人の誘導に回れ!

加賀教官の指示と共に、私は女性と子供がいる客へと声をかける。

サトコ
「何も持たず、すみやかに非常階段の方へ向かってください」

鳴子
「大丈夫です。落ち着いて行動してください」

石神
全員、一般人の誘導が終わったらすぐに退避しろ!

鳴子
「今の人たちで最後!?」

サトコ
「あ、待って‥!まだ‥」

ドーン!

さっきよりも近くで爆発音が聞こえて、床が微かに揺れる。

(また爆発‥!)

壁に手をついて体を支えようとすると、微かに足が痛んだ。

サトコ
「っ‥‥」

(そうだ、まだ足完治してないんだった‥‥)

加賀
何やってんだ、クズが

振り返ると、加賀教官が怒りを含んだ表情で立っている。

加賀
さっさと出ろ。邪魔だ

<選択してください>

A:まだ他に誰かいるかも

サトコ
「待ってください。まだ確認できていない場所があるんです。もし誰かいたら‥」

加賀
そんなことしてる間にホテルが吹っ飛んだらどうする

サトコ
「じゃあ、まだ避難してないかもしれない人たちを見捨てるんですか!?」

加賀
しんがりは俺たちの仕事だ。クズが口出しするな

B:教官も退避してください

サトコ
「教官も早く退避してください!」

加賀
俺に指図するとは偉くなったもんだな
いいからクズは早く出ろって言ってんだよ

サトコ
「待ってください。まだ他に退避していないかもしれない人が‥」

C:クズじゃありません

サトコ
「クズじゃありません!もうその呼び方、やめてください!」

加賀
捜査の邪魔しかできねぇ奴が偉そうな口叩くんじゃねぇよ

そう言われると、何も言い返せない。

加賀
いいからさっさと出ろ。最後の確認は俺らの仕事だ

その時、またどこかから爆発音が響いてくる。

サトコ
「さっきよりも近い‥」

加賀
早く行け!

半ば無理矢理押し出されるような形で、私は非常階段へと向かった。

【外】

非常口から外へ出ると、大勢の人でごった返していた。

(よかった‥なんとか一般人の誘導は無事にすんだみたい)

でも不意に場が騒然として、急いで鳴子の方へ駆け寄る。

サトコ
「どうしたの?一般人の誘導はもう終わったんでしょ?」

鳴子
「そうだけど‥加賀教官だけ、戻ってないって!」

サトコ
「え‥」

(戻ってない‥?だって、さっき私と一緒に)
(でも、私の後に出てすぐ状況を確認しに走ってどこかへ行って‥それから見てない)

背筋が冷たくなるのを感じた時、1人の女性がこちらに走ってきた。

女性
「すみません、子供がいないんです!5歳の男の子、見かけませんでしたか!?」

サトコ
「いつからですか!?」

女性
「避難途中、気付いたらもういなくて‥さっき、刑事さんにも伝えたんですけど‥」

サトコ
「あの、もしかしてその人、怖い感じの人でしたか?」

女性
「はい‥でも子供がいないって言ったらどこかに行ってしまって」

(加賀教官‥まさか、子供を探しに‥)

女性の言葉に、この場がさらにざわめいた。

to be continued

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