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加賀 恋の行方編 9話

【留置所】

石神
ふん、いいザマだ

サトコ
「石神教官、やめてください!どうしてこんな‥」

加賀
てめぇとはいつか、決着つけなきゃなんねぇと思ってたとこだ

情報をリークした疑いで、加賀教官が拘置された。

(石神教官なら、加賀教官を助けてくれると思ったのに‥)
(どうして、手錠をかけられて抵抗できない加賀教官を殴ったりするの‥)

ゆらりと立ち上がると、加賀教官が石神教官を蹴り飛ばす。

サトコ
「加賀教官!」

石神
この程度で決着など、笑わせるな

加賀
もう警察には戻れねぇかもしれねぇからな。最後くらい思いっきり殴ってやるよ

揉み合うようにして石神教官が加賀教官を殴り、掴み合いになった。

石神
すべてお前が蒔いた種だ!

石神教官がもう一度拳を振りぬくと、加賀教官が壁に背中を叩きつけられてその場に座り込む。

サトコ
「も、もうやめてください‥加賀教官は、強引な取り調べで怪我をしてるんです!」

石神
それも、今までこの男がやってきたことだ

加賀教官のそばに寄り添う私を一瞥すると、石神教官が加賀教官と同じ目線にしゃがみ込んだ。

石神
‥運があれば、またイチからやり直せるかもしれないがな

加賀
ハッ、冗談じゃねぇ。そんな運なんざいらねぇよ

松田
『石神、その辺にしておけ。じきに有罪になる運命だ』

スピーカーから松田理事官の声が聞こえてきて、石神教官が立ちあがる。

石神
‥君もこの男とはもう関わるな

サトコ
「教官‥」

そのまま私たちに背を向け、石神教官が拘置所を出て行った。

(いつも喧嘩ばかりだけど、ここぞという時には助け合う2人だと思ってた‥)
(でも、違うの‥?あのホテルの爆破事件の時は、たまたま意見が一致しただけ?)

石神教官がいなくなっても、私はしばらく、加賀教官のそばから離れることはできなかった。

【モニタールーム】

翌日、その日最後の捜査会議がモニタールームで開かれた。

石神
‥以上、加賀捜査官による情報のリークの裏付けを取るため、各員、私の指示に従うこと
現在拘束中の加賀捜査官に関しては、モニタールームで常に監視しておけ

松田の部下
「配置は一人でいいですか」

松田
「ああ、一人で構わない。私も交代で監視に入ろう」

石神
理事官に行っていただくようなことでは

松田
「構わない。人手不足だからな」

(モニタールームで監視を行うのは、一人‥)
(理事官は完全に加賀教官を疑ってるし、協力してくれそうなのは石神教官くらいだけど)

サトコ
「あの‥私も交代で監視に入ってもいいでしょうか‥!」
「もしくは、なんでもいいので手伝わせてください‥!」

石神
許可できない

サトコ
「なぜですか‥」

石神
お前は加賀捜査官の専任補佐官だ
加賀を逃がそうとする可能性がある者に監視は任せられない
加賀班の者も、全員捜査から外し待機とさせている

(ダメだ、石神教官も完全に敵に回った‥)
(こんな時に、加賀教官の味方になってくれる東雲教官も颯馬教官も、後藤教官までいないなんて)

松田
「この件に関しては、これ以上時間はかけたくない」
「マスコミに知られる前に‥明日にでも、証拠をあげろ」

捜査官A
「でも、加賀さんは自白しないんだろ?あの人からウソの供述を取るのは無理だよな」

捜査官B
「要するに、偽物の証拠をでっちあげろってことだろ」

理事官に聞こえないように、隣で公安課の刑事たちが話している。

捜査官A
「まあ、上がその気になれば、簡単に証拠なんてでっちあげられるもんな」

捜査官B
「これで加賀さんもおしまいか‥敵が多い人だったから、いつかはこうなると思ったけど」

(証拠をでっちあげる‥!?そんなことしたら加賀教官は本当に‥!)

石神
‥氷川

松田理事官がモニタールームを出て行こうとした時、石神教官が声をかけてきた。

サトコ
「は、はい‥」

石神
君の気持ちもわからなくはない。だが、余計な真似はするな

サトコ
「でも‥!」

石神
君にできることはない。何もせず待機していろ

<選択してください>

A:無理です

サトコ
「そんなの無理です!どうして誰も、教官を信じてあげないんですか?」

石神
これまでのツケが回ってきただけだ

サトコ
「だって、いままで加賀教官に助けてもらった人だっているのに‥」

石神
奴が、それ以上のことをしてきたというだけの話だ

B:教官は平気なんですか?

サトコ
「石神教官は平気なんですか?加賀教官がこんな‥」

石神
質問の意味がわからない

サトコ
「教官は、いざという時には加賀教官を助けてくれると思ってました!」
「普段はケンカしてても、きっとなんとかしてくれるって‥」

石神
‥くだらない感傷だな

C:わかりました

サトコ
「‥わかりました」

石神
くれぐれも、単独で加賀に接触しないように
余計なことをすれば、君の将来も危うくなることを忘れるな

(将来なんてどうでもいい‥それよりも、教官を助けたいのに)

松田
「石神、もういい。訓練生になど、何もできないだろう」

鼻で笑い、理事官はモニタールームを出て行った。



【寮 自室】

部屋に戻っても、落ち着いてなどいられなかった。

(こうしている間にも、証拠がでっちあげられてるかもしれない)
(どうしたらいい‥私が教官のためにできることは)

とにかく何か調べようと携帯を取り出すと、新着メールがあることに気づいた。

(誰だろう?鳴子かな)

メールを開くと、そこには『東雲歩』の文字。

サトコ
「え!?」

(『加賀さんを助け出す手伝いをしてほしい)』
(『今はこれしか言えなくて悪い。でもサトコさんしか頼める人がいないんだ』)

サトコ
「東雲教官‥無事だったんだ‥!」

(行方不明で敵の手に落ちたなんて言われてたけど)
(このメール‥相手の目を盗んで送って来たんだ‥)
(教官のことだから、きっとうまく逃げ出せたのに違いない!)

メッセージの下には、学校の講義室で待つ、と場所が指定されていた。

サトコ
「これで、教官を助けられる!」

携帯を強く握り、講義室へと走った。



【教場】

サトコ
「東雲教官、お待たせし‥」

指定された講義室へ入った瞬間、突然、校内の電気がすべて消えた。

サトコ
「なに‥?」

(停電‥?でも、このタイミングで‥?そんなのおかしい‥)

???
「バカめ」

その声に振り返ろうとする前に、口を布のようなもので覆われた。

サトコ
「‥っ!」

(‥っ!あのメールは敵の罠だったんだ‥私‥何で気付けなかったの)
(東雲教官は‥“加賀さん”って‥呼ばな‥)

全てを悟った時には体の力が抜け、その場に崩れ落ちていた。

(頭が重い‥体もあちこち、ぶつけたみたいに痛い‥)
(私‥どうして‥)

無理矢理まぶたを開けると、ぼんやりと、加賀教官の姿が見えた。

サトコ
「教官‥」

加賀
しゃべらなくていい

手錠で拘束されている教官が、なんとか私を助け起こしてくれる。
私も同じように、両手に手錠がかけられていた。

サトコ
「これは‥」

松田
「目が覚めたか」

サトコ
「松田理事官!?どうして‥」

松田
「なぜって?」
「お前はここで、裏切られた腹いせに加賀を殺し、自殺するんだ。歪んだ愛の末路としてな」

サトコ
「!」

(何を言ってるの‥?)

ようやくはっきりしてきた頭を振って、松田理事官を見る。
その手に黒く冷たく光っているのは、まぎれもなく拳銃だった。

サトコ
「まさか‥あなたが」

松田
「余計なことを嗅ぎまわらなければ、死ぬこともなかっただろうに」
「東雲にリーク情報を調べさせるとは、迂闊なことをしたものだな、加賀」

加賀
だから歩を襲撃したのか

松田
「殺すつもりだったが‥意外としぶとい男だ」
「だがあいつも、そのうちお前たちのあとを追わせてやる」

サトコ
「じゃあ‥松田理事官が警視庁の機密情報を外部に漏らしてたんですか?」
「あんなに大量に‥あんな重要な情報を!」

松田
「重要なものほど、金になる」

その言葉を聞いて、東雲教官が言っていたことと結びついた。

(そうだ‥リークした犯人は、事件に関わっていた人じゃなくて、事件の大きさを重視してるって)
(お金のために、この人は外に情報を漏らしてたんだ‥)

松田
「警察の情報というのは、驚くほど高く売れる」
「特に、竹田のようなあくどい政治家にはな」

サトコ
「竹田ともつながってたんですか‥」

加賀
竹田が知り得た警察の情報は、すべてこいつが流したものだ
俺たちが尾行していることもな

(あの時、梅田に襲われて‥じゃああれも、松田理事官が裏で手を引いていたの?)

サトコ
「警察の人間が、なんてことを‥!」

松田
「警察には欲がないと思うか?刑事は清廉潔白でなければならないのか?」
「綺麗ごとを言うな。みんな、自分が一番かわいいに決まっている」

加賀
浜口良美に銃を流したのも、お前か

松田
「もう少しうまくやると思ったんだがな、やはり女はダメだ」
「お前たち2人とも始末できれば、東雲もリーク情報までたどり着かなかったかもしれないのに」

加賀
俺は浜口の嫁が車に細工した時から、後ろにいる人間を追っていた
遅かれ早かれ、お前にたどりついただろう

松田
「‥ふん。それが命取りだと言うんだ」
「本来なら、私が直接手を下さずお前たちを始末するのが理想だったんだがな」
「お前たちは、私に近づきすぎた。この手を汚すのも仕方ないだろう」

サトコ
「理事官‥どうしてですか?なんでこんなこと」

松田
「言っただろう、すべて金のためだ」
「それに、情報を横流しして相手の情報を手に入れれば、手柄を立てることもできる」
「金も地位も手に入れることができるなんて、理想だろう?」

(この人、狂ってる‥!もう善悪の区別もついてないんだ)

加賀
これだけペラペラ喋ってくれるってことは、どうせモニタールームの電源は切ってあるんだろうな

松田
「当然だ」
「電線と予備電源の装置を破壊して、氷川サトコが加賀を殺すために侵入した」
「『加賀教官と一緒に私も死ぬ』ってな」
「すべては加賀を愛する氷川が起こした悲しい事件だ」

(まさか、東雲教官からのメールは、理事官が私をおびき出すために‥?)
(私はまんまとその策略にハマって、また教官に迷惑をかけてるんだ)

泣き出しそうになる私とは裏腹に、加賀教官は松田理事官を睨みつけるように見ていた。

加賀
小物だな

松田
「なに?」

加賀
くだらねぇって言ってんだ
金だ出世だ‥てめぇの力でもぎ取れねぇから、こんな汚ねぇ手段に出る
フッ‥クズ以下だな

松田
「貴様‥!自分の立場がわかっていないようだな」

銃を構えたまま、理事官が加賀教官を蹴り飛ばす。

サトコ
「やめてください!」

松田
「うるさい!口のきき方を教えてやっているだけだ!」
「貴様もこれまで、こうやって部下を鍛えてきたんだろう?」

笑いながら、理事官が何度も何度も、教官を蹴った。

<選択してください>

A:身を挺してかばう

サトコ
「教官‥!」

思わず加賀教官の前に飛び込む。
理事官に腹部を蹴飛ばされて、呼吸ができなくなった。

加賀
バカ野郎!

サトコ
「だって‥きょ、教官が‥」

B:松田をけなす

サトコ
「最低!教官が言ったように、あなたは警察のクズです!」

松田
「‥どうやらお前にも教育が必要なようだな」

加賀
やめろ‥それの教育は俺の役目だ

ボロボロになりながらも、教官が私をかばう。

C:隙を見て逃げる

(なんとか、隙を見つけて逃げ出せたら‥!)

松田
「逃げようなどと考えないことだな」

サトコ
「‥‥‥!」

松田
「それとも、加賀と別々に死にたいか?」

(この人‥本当に私たちを殺すつもりなんだ)

松田
「これが今回の事件のすべてだ。全部知って、心置きなく死ねるだろう」

加賀
すべて‥?だからてめぇは小物だって言ってんだ

松田
「なに?」

加賀
てめえは何年前からリークに手を染め始めた?
それとも、その足りねぇ頭じゃそんなことも忘れたか?

傷つけられて力も出ないのか、だらりと手錠をかけられた両手を投げ出しながらも、
教官はまだいつものように不敵に笑っている。

(教官、どうして‥)

体も動かない、手も使えない‥この状況をひっくり返せる要素はひとつもない。
それなのに、教官はまだ諦めていないように見えた。

松田
「なんなんだお前は‥この期に及んで、勝ち目があるとでも思っているのか?」
「いいだろう、望み通り殺してやる」

理事官の銃が、教官に向けられる。

(もうダメだ‥!私たち2人とも、理事官に‥)
(違う‥、最後まで諦めちゃダメだ‥!教官なら絶対諦めない‥!)
(何か‥私にできることは‥!)

サトコ
「‥!」

加賀
お前が俺の役に立つとは到底思えねぇな
普段から人の話を最後まで聞かねぇ、人の視線の意味も理解できねぇ

不意に思い出したのは、昨日の教官の言葉。

(普段から人の話を最後まで聞かない‥視線の意味も理解できない‥?)

教官を見つめると、至近距離で目が合う。
その視線が、ほんの一瞬、松田理事官に向けられた。

加賀
‥サトコ

サトコ
「え‥?」

加賀
‥いけるな?

松田
「何をごちゃごちゃ言っている」

(今のは‥)
(教官からのサインだ‥!)

理事官の銃がカチャリと冷たい音を鳴らした時、私は全身で理事官に体当たりしていた。

松田
「何っ‥」
「このゴミ女が!!」

サトコ
「教官を殺させたりしない!」

松田
「くそっ‥お前から殺してやる!」

素早く、銃口が私に向く。

松田
「死ねぇぇぇ!!」

銃声と同時に、弾がコンクリートに当たった音が聞こえた。

サトコ
「‥‥っ」

恐る恐る目を開けると、銃を後方に弾き飛ばされ、手を押さえてうずくまっている理事官。
そして‥手錠を外して立ち上がる加賀教官の姿があった。

サトコ
「教官‥!」

加賀
よくやった。お前が生み出した数秒が活きた
‥よく、俺の視線の意味を理解したな
助かった

持っていた鍵で私の手錠を外し、教官がポンと頭に手を置く。
理事官の足元には、教官のものと思われる手錠が落ちていた。

(あの一瞬で手錠を外して、それを理事官に投げて拳銃を弾き飛ばした‥!?)
(だけど、どうして教官が手錠の鍵を持ってるの?)

松田
「そんなバカな‥!なぜ‥!」
「くそぉぉ‥!」

慌てて拳銃を拾い上げようとした理事官の手元から、銃声音と共に再び銃が弾き飛ばされる。

後藤
動くな

石神
そこまでです、松田理事官

振り返ると、石神教官と、その隣で銃を構える後藤教官が立っていた。

加賀
遅ぇよ


すみません、それ、オレのせいかも

サトコ
「東雲教官!」

颯馬
歩を探し出すための協力者の手配に少し手間取ってね‥
お待たせしました

颯馬教官に肩を借りて、痣だらけの東雲教官が足を引きずりながら歩いてくる。

(みんな、どうして‥)
(まさか、最初から加賀教官と東雲教官を助けるつもりだったの‥!?)

加賀
さて‥

ゆっくりと歩いて行き、加賀教官が理事官の銃を拾い上げる。
そしてその銃口を理事官に向けると、いつもの悪い微笑みを浮かべた。

加賀
楽しい楽しい取り調べの時間だ
どう落とし前つけてもらおうか

松田
「‥‥!」

みんなに囲まれ、悔しそうに唇をかむ松田理事官を、
私は、加賀教官の背中に護られるようにして見つめていた‥‥

to be continued

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