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加賀 カレ目線 6話



『告白の前に』

【教官室】

報告書の作成が終わると、石神が入ってきたのを見て立ち上がった。

加賀
ほらよ

石神
‥‥‥
なんの冗談だ

俺の手の報告書を見て、メガネ野郎が指でメガネを持ち上げる。

加賀
今回の一連の事件の報告書だ
うちの奴隷には、複雑すぎて荷が重かったからな

石神
ふん、助けてやった礼のつもりか

加賀
誰がてめぇに助けてもらった

報告書をデスクに放り投げると、石神がそれを手に取る。

石神
‥この部分は、説明が足りない

加賀
あ?

石神
ここも、もう少し経緯を詳しく書け
これでは上層部に都合のいいことを付け加えられて終わりだ

加賀
その辺ならてめぇもよく知ってんだろうが

石神
俺は当事者ではない。お前が書くべきだ

加賀
あー。拘留室のてめぇのあの一撃が効いてな。記憶がぶっ飛んで曖昧だ

石神
あの程度でどうにかなるようなら、俺も楽でよかったんだがな

加賀
手錠掛けられて身動きが取れねぇ人間を好き勝手に殴り倒す奴に、とやかく言われたくねぇな

石神
手錠をかけられてたにも関わらず
俺のメガネにヒビを入れたのは、どこのだれだっただろうな

加賀
てめぇのメガネ事情なんざ知るか

石神に背を向けて部屋を出ようとした時、後ろから声をかけられた。

石神
加賀

加賀
あ?

石神
東雲に伝えておけ。退院したら祝賀会を開くと、黒澤が張り切っていたと

加賀
なんで俺に言う

石神
どうせ東雲の見舞いに行くんだろう

(歩といい、このプリン野郎といい‥なんだってこう、人の考えを読みやがる)

肩をすくめて、公安課ルームをあとにした。



【屋上】

屋上でタバコをふかしていると、ドアが開く音がした。
続いて、ゆっくりと誰かが歩いてくる気配。


せっかく来てくれたと思ったら、差し入れだけ看護師に渡して帰るなんて
相変わらずひどい人だな。頑張った部下にねぎらいの言葉はないんですか?

加賀
そんなもん、てめぇには不要だろ


そんなことないですよ。兵吾さんからお褒めの言葉なんて、めったにもらえないですから
サトコちゃんは、オレより先にもらえたんですよね。うらやましいな

加賀
お前じゃなきゃできねぇことが山ほどある
無駄口叩いてる暇があんならさっさと戻ってこい

歩は笑いながら俺の隣に並ぶと、屋上の外に向かっていた俺とは逆に、
フェンスに背中を預けるようにして切り出した。


その後どうです?事件は

加賀
お前がつかんだ情報を追えば、おのずと松田につながる
自供したボイスレコーダーもある。あいつの失脚は間違いねぇ


それは、内部的に‥ってことですよね?

(‥さすがに鋭いな)

加賀
ああ


兵吾さん‥松田のこと、公表するつもりないでしょ

加賀
公表したところでどうなる
俺は、あいつが持ってる情報が手に入りゃ、それでいい


‥‥‥

それ以上、歩は何も聞いてこなかった。


そういえば‥昨日お見舞いに来た黒澤がペラペラ喋っていったんですけど
兵吾さんが何も弁解しないから、相変わらず『仲間殺し』の悪評は消えてないそうですね

加賀
知ったことじゃねぇな


サトコちゃんも、その仲間殺しの手駒だ‥なんて、一部で色々言われてるみたいですけど

加賀
‥‥‥

確かに、その噂があることは否定しない。
無言の俺に、歩が静かに問いかけてきた。


いいんですか?兵吾さんの今後に、あの子は邪魔ですよ
今回みたいに窮地に陥った時、サトコちゃんの存在がさらに兵吾さんの首を絞めるかも

歩の言葉に、今回のことを思い返してみる。

(確かに、あいつに危険が及ぶリスクで迷いもした)
(だが‥)

加賀
くだらねぇな


はい?

加賀
俺もあいつも、何も変わらねぇ
そんなつまんねぇ人間になるくらいなら、喜んで辞職してやる


ハハッ、でしょうね

最初から俺の返事などわかっていたかのように、歩が笑う。

(何も変わらない)
(俺のこの想いも、最初は何を血迷ったかと思ったが‥結局変わらなかった)

最後の一息を吐き、遠くを見つめる。

(そろそろ『駒』は卒業だ)
(だが、そうなったからには‥覚悟しとけよ)


あ、また悪い顔してる

加賀
ああ、楽しい悪巧みだ


サトコちゃんを一生縛りつけておくための?

加賀
俺が縛りつけるんじゃねぇ。あいつが望んでることだからな


ああ、サトコちゃんってマゾっぽいですからね

サトコの顔を思い浮かべて、俺たちは口の端を持ち上げて笑った。

【バスルーム】

(まだ終わったわけじゃねぇ‥これからまだ、黒幕を暴く仕事が残ってる)
(けど、とりあえず今は‥)

バスルームの扉が開く音がして、両手で体を隠したサトコが恐る恐る入ってくる。

加賀
遅ぇ

サトコ
「す、すみません‥」

加賀
さっさとしろ

先に湯船につかると、泣きそうな顔でサトコが追いかけてきた。
俺から体が見えないように急いで湯船に入ると、肌を隠すように膝を抱えて座る。
緊張で固まったサトコを自分の前に座らせて、後ろから抱きしめた。

サトコ
「の、のぼせそうです‥」

加賀
我慢しろ

サトコ
「そんな無茶な‥!」

湯船の中で肌の感触を楽しんでいると、どんどん耳が赤くなっていくのがわかった。

加賀
どうした?

サトコ
「っ‥‥」

加賀
まさか本当にのぼせたわけじゃねぇだろうな‥

耳元でそう尋ねてやると、サトコが必死に首を振る。

サトコ
「あのっ‥きょ、教官の手っ‥」

加賀
なんだ

サトコ
「へ、変なところを触るのは、その‥」

加賀
なら、こっちの方がいいか

二の腕や頬をつまんでやると、さらにサトコの頬が赤くなる。

サトコ
「うう‥教官ってほんと、柔らかいものが好きですよね‥」

加賀
言っただろうが。お前を褒めてやってもいい、唯一の長所だってな

サトコ
「それは本当に複雑なんですけど‥」

そう言いながらも、ようやくサトコにいつもの笑顔が戻った。

(‥この笑顔が悪くねぇなんて、末期だな)

そんなくだらねぇ考えを振り払うために、サトコの頬に張り付いた髪の毛を耳にかけてやった。

加賀
どっちにしろ、仕置きだ

サトコ
「えっ!?」

加賀
5分で来いっつっただろ

サトコ
「ご、5分ジャストでしたよ!」

加賀
30秒遅れだ

サトコ
「そんな‥!ここ、時計ないのにそんな正確にわかるわけ」

反論しようとするサトコの唇を、キスでふさいだ。

サトコ
「っ‥‥」

加賀
刃向うのか?

サトコ
「い、いえ‥」

加賀
なら、言う通りにできるな?

サトコ
「奴隷は卒業したはずなのに‥」

まだ文句を言うサトコを黙らせるために、肌に指を這わせる。

(この感触は、俺だけのもんだ)
(お前の体も、心も‥全部な)

Happy  End

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