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ラブストーリーはカレから突然に ~加賀~ 3話

【野球場】

私は教官に腰を抱かれ、今にもキスをしそうなくらい顔が近づいてきた。

(ど、どうしよう、このままだと‥‥あっ)

ふと視線をグラウンドに向けると、バッターがボールを打っている姿が目に入った。

サトコ
「‥あっ!打った!教官!」

加賀
あ?

サトコ
「見てください!バッターが打ちましたよ!」

バッターが打ったボールはどんどん伸び、こちらに向かって飛んでくる。

サトコ
「あっ!」

(ボールがこっちに向かってきてる‥とれそうかも!)

私は狙いを定めて、思いっきり手を伸ばす。

パシッ!

すると、飛んできたボールは見事私の手の中におさまった。
その姿があまりにも見事だったのか、周りにいた人たちが「おおっ!」と歓声を上げる。

サトコ
「教官、見てください!ホームランボールですよ!キャッチできました!」
「これも教官たちに鍛えられてる証拠ですね!」

加賀
お前‥

サトコ
「って、なんで引き気味なんですか!?」

加賀
女が取るかよ。しかもあの状況からホームランボール取るなんてありえねぇ

サトコ
「えっ、ダメでしたか?」

加賀
いや‥
‥むしろ、お前ならあり得るか

(なんだろう、褒められてる気がしない)
(あ、そうだ)

サトコ
「教官、よかったらこれどうぞ」

加賀
取ったのはお前だろ

サトコ
「でも、教官、野球のファンなんですよね?」
「やっぱり、好きな人が持っていた方がいいとおもいますし」

加賀
だから、別にファンじゃねぇっつって‥

サトコ
「いいから受け取ってくださ‥」

教官にボールを渡そうとした、その時‥

ポツ、ポツ‥‥

サトコ
「ん?雨‥?」

ポツ、ポツ‥‥ザーッ!!

(いきなり土砂降り!?しかも雷まで‥)

突然の豪雨に、観客席は騒然となる。
選手たちも、ベンチに駆け込んでいた。

加賀
ボケッとすんな。行くぞ

サトコ
「あっ‥」

私は教官に腕を引かれ、室内へと逃げ込んだ。

【球場内】

室内は雨から逃げ込んできた観客でいっぱいだった。

サトコ
「試合は中止みたいですね」

加賀
これだけの雨だからな
‥チッ、せっかくいい試合だったつーのに‥

外を見ても止む気配はない。
暗い空を見て小さくため息をつく。

サトコ
「すぐ止みますかね?」

加賀
無理だろうな

サトコ
「ですよね‥」

(せっかくの観戦だったのに‥しかもデートの最後に雨って‥)

サトコ
「はぁ‥」

加賀
‥おい

サトコ
「はい‥って」
「教官、どこにいくんですか?」

加賀
ついて来れば分かる

教官はそう言って傘を買い、私を連れて外へ出た。



【ホテル】

ついていった先は、ホテルだった。

(まさか、ホテルに連れて来られるなんて‥それに教官、受付で予約って言ってたよね?)
(あらかじめホテルを予約してたってこと?)
(そ、それって‥いや、でも‥!)

1人でぐるぐると考えているとグッと腕を引かれる。

加賀
先に風呂入ってこい

サトコ
「わ、私は大丈夫なので、教官がお先にどうぞ!」

加賀
俺は後でいい

サトコ
「でも、身体冷えちゃいますよ?」

加賀
それはテメェも一緒だろーが

サトコ
「そうですけど‥」

加賀
ああ‥
俺に脱がせてほしいってことか

サトコ
「どうしてそうなるんですかっ!」

加賀
素直に、『脱がしてください』って言えば、脱がせてやらないこともない

サトコ
「は、話を聞いてください!」

教官はニヤリと笑うと、暴れる私の服に手を掛ける。

サトコ
「だ、大丈夫です!自分で脱げます!」

加賀
だったらぐだぐだ言ってねぇで、さっさと入れ

サトコ
「わわっ!」

教官は私の背をトンッと押し、シャワー室へ押し込んだ。

【シャワールーム】

熱いシャワーを浴び、ホッと息をつく。
自分でも気づかないうちに冷えていた身体が、徐々に体温を取り戻していくようだった。

サトコ
「教官は相変わらず横暴だ‥」

(言葉はキツイけど、私の事心配して言ってくれてるんだよね)
(本当、教官の優しさは分かりづらいな‥)
(今回のデートだって‥)
(講義だけじゃなくて任務もあって忙しいのに、私のために時間を空けてくれた‥)

思い返してみれば、歩調を合わせてくれたり興味のない映画を一緒に見てくれたり。
今日一日で、教官のいろいろな優しさに触れてきた。
私はふと、この前東雲教官が言った言葉を思い返す。


加賀さんなら、上手にエスコートしてくれると思うよ

(オシャレなレストランに連れて行ってくれた‥野球だって、何も知らない私に色々教えてくれた‥)
(さりげなく気を使ってくれてたし‥教官って女性の扱いが上手いよね)
(厳しいけどかっこいいし‥)
(やっぱり、エスコートが上手いのは付き合った女の人の影響‥とか?)

サトコ
「‥‥‥」

(私よりももっと大人っぽい女性と‥)

自分で考えたことなのに軽く凹む。

(私なんて、恋人どころか生徒に間違えられてた‥)

サトコ
「いや、生徒なのは合ってるけど‥」

(球場でだって子どもみたいにはしゃいじゃったし‥)
(これじゃあ、大人の女として意識してもらえないのも仕方ないよね‥)

サトコ
「っ‥」

考え込んでる間も熱いシャワーを浴び続けたせいか、少し立ちくらみがした。

(まずい‥逆上せる前に早く出よう)

私はお湯を止めると、少しフラフラしながらシャワー室を出た。



【部屋】

シャワー室から出ると、加賀教官が少しイラついた様子でソファに座っていた。

加賀
遅ぇ

サトコ
「す、すみま、せん‥」

加賀
‥顔が赤いな

サトコ
「大丈夫、です‥」

加賀
長風呂すんのは勝手だが、自分の体調くらい管理しろ

サトコ
「‥‥‥」

加賀
はぁ‥

教官はため息をつくと、私の腰を支える。

サトコ
「え‥?」

加賀
無理してんじゃねぇ

めんどくさそうな顔をしながらも、教官は私をベッドに寝かしつけてくれる。

加賀
大丈夫か

教官は少し乱暴に私の頭を撫でる。

サトコ
「っ‥」

パシッ!

それが子ども扱いされているような気がして、私は思わず教官の手を振り払った。

加賀
‥‥‥

(教官に八つ当たりして、これじゃ本当に子どもだよ‥)

加賀
何か言いたい顔してんな

サトコ
「‥何でもないです」

加賀
言え

サトコ
「‥言いません」

加賀
言わなきゃわかんねぇだろ

サトコ
「‥‥‥」

加賀
ったく‥

サトコ
「‥‥‥」

加賀
言わねぇならこのまま抱くぞ

サトコ
「!」

強い力で手首を掴まれ、そのままベッドに押し倒される。

(ふ、振りほどけない‥)

力を入れてみるけど、敵うはずもなく‥
無駄な抵抗だとすぐに諦め、おずおずと口を開いた。

サトコ
「‥教官は、女の人の扱いに慣れてるんだなって思ったんです」
「今日だって私、生徒に見られてたし‥プライベートでも生徒から抜け出せないんだなって思って」

加賀
‥‥‥

サトコ
「それで教官の過去の事をいろいろ考えてたら、なんだか‥」

加賀
くだらねぇ

サトコ
「くだらくなんかないです‥本気です‥」

加賀
チッ‥お前は本当にバカだな

サトコ
「あっ‥」

教官は私の腕を引き、強引に抱きしめてくる。
あまりにも強い力で抱きしめられ、少しだけ苦しかった。

サトコ
「教官‥?」

加賀
過去に嫉妬したって仕方ねぇだろ

サトコ
「んっ‥」

少し強引に唇に自身の唇を重ねる。
息もできないような荒々しいキスに、どんどん思考力が奪われていく。

サトコ
「教、官‥」

加賀
バカでクズで鈍感

サトコ
「そんな言い方、しなくてもいいじゃないですか」

加賀
俺は事実しか言ってねぇよ

教官はそう言って、楽しそうに目を細めた。

加賀
悔しかったら、俺の中に入り込んでみろ

サトコ
「っ!き、教官だって‥ちゃんと捕まえてないと知りませんから!」

加賀

私の言葉に、教官は珍しく驚きの表情をする。

加賀
‥上等だ。大口叩いて、後悔するんじゃねぇぞ

サトコ
「んんっ‥」

今度は噛みつくようにキスが降ってくる。
息をする間もない深いキスに、私は思わず教官の胸を叩く。
だけど教官はそんな私の手を取り、覆いかぶさるようにのしかかる。

加賀
覚悟しろ

サトコ
「っ‥」

器用に服を脱がせながら、キスの雨はやまない。

加賀
お前だけが嫉妬してると思うなよ

夢うつつに、教官の言葉が聞こえ‥‥

加賀
‥もうとっくに入り込んでんだよ、お前は

私は教官の温もりに抱かれながら、意識を手放した‥‥



【教場】

数日後。
小テストの結果を受け取った私は、思わず顔をしかめた。

サトコ
「うわぁ‥」

鳴子
「どうしたの、サトコ?」
「って、その点数は‥」

サトコ
「ど、どうしよう、鳴子。こんなヒドイ点数取るなんて‥」

鳴子
「どうしようって言われてもね‥」

サトコ
「加賀教官に怒られる!」

鳴子
「サトコ‥」

鳴子は私の肩にポンッと手を置くと、無言で首を振った。

サトコ
「そ、そんな反応しないで‥」

鳴子
「とにかくほら、早く教官室に行った方がいいんじゃない?今日も呼び出されてるんでしょ?」

サトコ
「う、うん‥」

(早く行かないと、余計に怒られそうだし‥)

サトコ
「行ってくるね‥」

鳴子
「行ってらっしゃい!骨は拾ってあげるからね!」

鳴子は笑顔で私の事を見送る。

(うぅ‥この前はトップをとったのにな‥何を言われるんだろう‥)

私は肩を落としながら、重い足取りで教官室に向かった。

【個別教官室】

教官室にやってきた私は、加賀教官を前に縮こまっていた。

加賀
この前トップをとったと言ってたのはどこのどいつだ?

サトコ
「すみません‥」

加賀
俺の補佐官がこんな点数とってんじゃねぇよ、クズ

サトコ
「はい‥」

(うぅ‥言い返せない‥)

加賀
次こんな点数取ったら承知しねぇからな
分かったらそこの資料まとめとけ

サトコ
「はい!」

急いで資料のあるデスクへ向かうと、あるものが目に入った。

(あのときのホームランボール‥)

加賀
さっさとしろ

サトコ
「は、はい!」

(教官、大事にしてくれてるんだ‥)
(いろいろ考えちゃって凹んでたけど‥)
(今は恋人らしく見えなくても、徐々にそうなっていけばいいんだし‥)
(‥よし、頑張ろう!)

私は緩む頬に気合いを入れ、資料のまとめ作業にかかったーー

Happy End

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