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恋の秋 颯馬1

サトコ
「私、颯馬教官のお手伝いをさせてもらいますね」

颯馬
ありがとうございます
貴女が手伝ってくれるなら、広報の仕事も楽しくなりそうですよ
とりあえず、当日のパンフレットを作りたいので、手伝ってもらえますか?

サトコ
「はい‥!」

颯馬教官の優しい笑顔に、思わず私も笑顔で答えていた。

石神
颯馬にはイベント用のホームページも作ってもらう


ホームページ?それならオレが作った方が早いでしょ‥
なんでオレは子どものお守りなわけ?

にっこりと優しい笑顔を見せながら、颯馬教官が言葉を返してくる。
こんな風に言われると、私も手伝うと言ってよかった、なんて思えてくるから不思議だ。

颯馬
歩、これも仕事のうちですよ


わかってます。言ってみただけです

颯馬
お互い、自分に割り当てられた仕事を頑張りましょう
それじゃ、行きましょうか
今から早速、広報会議があります。これから忙しくなりますよ

サトコ
「はい!頑張ります‥!」

広報係は、颯馬教官の教官室を借りて、すでにそれぞれ業務を行っていた。

黒澤
サトコさん!

サトコ
「黒澤さんも広報係に?」

黒澤
一番楽しそうな係ですから!
それに、広報係にいたほうがイロイロとやりやすいし

サトコ
「イロイロ‥?」

黒澤
いえ、こちらの話です!
ではっ!

(相変わらず嵐みたいな人‥)

サトコ
「イロイロ‥ってなんでしょう?」

颯馬
さあ‥何かよからぬことをしなければいいんですけど‥

私と同じように不安を感じ取ったらしく、颯馬教官も苦笑いしながら呟く。

颯馬
とりあえず、パンフレットの作成に取り掛かりましょう
資料はまとめてあるので、貴女に任せてしまっても構いませんか?

サトコ
「はい、分からないことがあったらその都度質問させて頂きます」

颯馬
分かりました。それではよろしくお願いしますね

(よぉし、頑張るぞ!)

思わずグッと拳を握ると、颯馬教官が不思議そうな顔をしてこちらを見る。

サトコ
「どうかしましたか?」

颯馬
いえ‥サトコさんは妙に気合いが入ってるなぁと‥
あまり無理しないでくださいね

サトコ
「ダメです、ダメです!」
「だって、公安学校の存続がかかっているイベントなんですよ!」
「私は、この学校がなくなってもらったら困るんです!」
「だから、少しでも公安学校の良さを知ってもらおうと‥」

颯馬
‥あの‥何がなくなるって言いました?

サトコ
「え‥公安学校、なくなるかもしれないんですよね‥?」
「このイベント」

颯馬
‥‥‥

私の言葉を聞き、颯馬教官はきょとんとした後‥

颯馬
‥ふふっ
‥なるほど
貴女は本気にしていたんですね
その噂

サトコ
「どういうことですか?」

颯馬
最近校内を歩いていた方々は、確かに視察のためにいらしてましたが‥
あくまで “視察” ですよ
新設したばかりの学校をなくすなんてこと、ありません

サトコ
「え‥」

颯馬
ふふっ、可愛いですね、私の恋人は

クスクスと笑う颯馬教官が、少し意地悪な手つきで頭を撫でる。

(は、恥ずかしい‥)



サトコ
「つ、疲れた‥」

とっぷりと夜も更けた頃、ようやく私は自分の部屋に帰宅することができていた。
おかげで、パンフレットの構成はほぼ完成。
入稿待ちの状態までこぎつけた。

(とりあえず、明日も早くから広報係の仕事があるし‥)

コンコン、と控えめなノックが聞こえてくる。
首を傾げながら玄関ののぞき穴を見ると‥

サトコ
「颯馬教官‥!?」

颯馬
こんな時間にすみません
広報係の連絡に来たんですけど、大丈夫ですか?

サトコ
「連絡ですか?」

<選択してください>

A:中へどうぞ

サトコ
「よければ、中へどうぞ」

颯馬
ありがとうございます
それでは、お言葉に甘えて少しだけ‥

B:さすがに中にいれるのは‥

(夜も遅いし、中に入れるのはやめた方がいいかな?)

颯馬
ふふっ
そんな顔しなくても何もしませんよ

C:ここで大丈夫かな‥?

(ここで大丈夫かな‥?)

(中に入れないのも失礼だけど、中にどうぞっていうのも期待しているようで‥うーん)

颯馬
サトコさん?

サトコ
「あっ、中へどうぞ‥!」

(はっ、思わず自分が望んでいる方を言葉にしてしまった‥)

サトコ
「どうぞ」

颯馬教官の前に淹れたての紅茶をおいた。
ふわりと立ち込める香りが鼻をくすぐる。

颯馬
ありがとうございます
まぁ、明日は今日作ったパンフレットの印刷に行きますよ
‥と、伝えにきただけなんですけどね

サトコ
「そうなんですか?」
「それだったら、携帯にいただければ‥」

颯馬
ただ貴女に会いたかった、と思っていただいて構いませんよ

サトコ
「え‥!」

颯馬
確かに、自分らしくないとは思ったんですが‥
貴女と同じ係になれて、自分でも思ったより浮かれているようです

向けられた優しい笑顔に、胸が早鐘を打つ。

(颯馬教官も、同じ気持ちだったんだ‥!)

サトコ
「そ、そういえば、颯馬教官は広報係に立候補したんですか?」
「それとも、東雲教官みたいに室長から‥?」

颯馬
それもありますが‥私自身もやりたかったんですよね

サトコ
「広報に興味があったんですか?」

颯馬
ええ。だって、楽しそうじゃないですか‥“イロイロ”と

(‥黒澤さんとおなじぐらい、不安な “イロイロ” を感じる)

颯馬
今日は、貴女の可愛い勘違いも見ることが出来ましたしね‥

昼間の事を思い出しているのか、颯馬教官が、微かに笑みを零す。

サトコ
「颯馬教官、出来れば昼間の事は忘れてもらいたいんですけど‥」

颯馬
‥今は『教官』じゃないですよ?

颯馬さんが私と目線を合わせるように覗き込んでくる。
何かをねだるような‥普段のオトナなカレからは想像できない少し子供っぽいしぐさ。

(こういうの、可愛くてズルいなぁ‥)

サトコ
「私も‥颯馬さんに会えてうれしかったです」

私の言葉を聞き、颯馬さんは満足そうに微笑み、頭を撫でてくる。
少し、子ども扱いされているようなきがしたけど、颯馬さんの手は温かくて嬉しかった。

颯馬
明日からは特に忙しくなりますけど、頑張りましょう

顔を近づけながら、颯馬さんが囁いてきて、私はドキドキしながら目を閉じようとした。
けれど‥。

サトコ
「‥?」

私の目が完全に閉じる前、颯馬さんは私の唇に人差し指を当ててきた。

サトコ
「‥!」

颯馬
おやすみのキスをしたいけど‥今は我慢します
ドキドキして明日からの仕事に差し支えたらいけませんからね

(なんか、キスを待っていたみたいで恥ずかしい‥!)
(‥待っていたみたいっていうか、実際に期待していたんだけど‥)

颯馬
そんな可愛い顔してもダメですよ
私も教官ですし、厳しい時には厳しくするんです

サトコ
「‥今は教官じゃない時間って言ったのに」

私の拗ねる言葉を聞いても、颯馬教官は穏やかな笑みを浮かべるだけだった。

颯馬
それじゃ、おやすみなさい

サトコ
「‥はい」

(そうだ、今は甘い気分に浸っている場合じゃない)
(しっかり広報係として働かないと‥!)



翌日、石神教官にインタビューするため、私は資料室に来ていた。

石神
公安学校に入学するからには、相応の覚悟を持ってもらいたい
警察官としての‥
と、大丈夫か、氷川
メモが追い付いていないようだが?

サトコ
「す、すみません」

石神教官にインタビューをしていたけど、あまりの早口にメモが追い付かない。
そのことを指摘されて、私はビクビクとした態度をとるしかなかった。

そら
「ねぇ、オレのインタビューもしてくれるんだよね?」

石神
‥末広、まだ俺のインタビューが終わっていないだろう」

そら
「石神さんの話って長いから、オレ、待つの飽きてきちゃったんだけどー」

石神
悪かったな、話が長くて

<選択してください>

A:ケンカはやめてください

サトコ
「あの、ケンカはやめてください‥」

石神
ケンカなどしていない

そら
「そうだよ、オレたちは普通に会話してるだけ」

(‥ピリピリした雰囲気だったけど、あれで普通なの?)

颯馬
二人とも、彼女を困らせるのはやめてください

B:あの、インタビューを‥

サトコ
「あの、インタビューを‥」

そら
「ていうか、オレを先にしてよ!」
「ちゃっと終わらせて、一緒にお祭りまわろうよ!」

サトコ
「ええ!ダメです、私、広報の仕事が残ってて‥」

そら
「えー、つまんなーい」

石神
広末、遠回しに嫌がられてることに気づけ

そら
「はぁ?これだから石頭メガネは‥」

石神
なんだと?

(な、なんだか悪化してるんだけど‥!)

颯馬
とにかく!
さっさと、インタビューを終らせてもいいですか?

C:どうしよう‥!

(早くインタビューを終らせたいのに、これじゃいつまでも終わらないよ‥)

颯馬
二人とも、自分の行動で彼女が困っているのが分かりませんか?
ケンカや言い争いは、他人に迷惑が掛からないところでお願いしますよ

サトコ
「颯馬教官!」

颯馬
彼女に少し付き合ってほしいことがあるので迎えに来たんですが‥
どうやら正解だったみたいですね

(颯馬教官が来てくれてよかった‥!)

ポイントサイトのポイントインカム

インタビューを終えた後、颯馬教官と一緒にホームページを飾る写真を選んでいた。

サトコ
「これ、全部颯馬教官が撮ったんですか?」

颯馬
はい、一応写真は私が任されていたので
公安だけでなく、SPの方も撮っているのですけど」

サトコ
「すごい‥!」

雑誌の写真のように写る石神教官と末広さんの姿がそこにあった。

サトコ
「この写真の石神教官、かっこいい‥!こっちの広末さんも!」
「颯馬教官、写真撮影、お上手なんですね!」

颯馬
‥‥‥

サトコ
「颯馬教官?」

颯馬
あ‥いえ、褒めていただけるとは思っていなかったので
ありがとうございます

サトコ
「?」

(何か、間があったような気がしたんだけど‥)
(気のせいかな?)

イベント当日。
私は朝からカメラを持って色々な場所を走り回っていた。

サトコ
「ええっと次は、広場で学校長の‥」

加賀
おい

サトコ
「きゃっ!」

私の言葉を最後まで聞くことなく、加賀教官が私の腰を抱き寄せてくる。

サトコ
「加賀教官!?」
「何するんですか!離し‥」

加賀
うるせぇ、黙ってろクズ

サトコ
「お、横暴ですよ!」

婦警1
「加賀さん?あれ、こっちに来たはずなのに‥」

婦警2
「こういう時じゃないと加賀さんと話す機会なんてないよね。早く探そう!」

耳を澄ますと、確かに加賀教官の名前を呼ぶ婦警たちの声が聞こえる。

加賀
女どもに追われてんだ、少しくらい協力しろ

サトコ
「協力しろって言ったって‥」

振り返ると、婦警たちが加賀教官の姿を探している。

サトコ
「‥私で、騙されますでしょうか?」

加賀
マメでも酒の肴にあったほうがマシだろ

サトコ
「マメ‥」

(‥できればソラマメがいいな)

颯馬
‥‥‥

ちょうど颯馬教官が女性たちを案内していて、私たちの視線が絡み合った。
そのはずなのに、颯馬教官に視線を逸らされてしまう。

サトコ
「‥え?」

加賀
どうした?

サトコ
「い、いえ‥」

(颯馬教官と目があったような気がしたんだけど‥)

大勢の女性に囲まれ、笑顔を見せる姿に少しだけモヤモヤした何かが心にこみ上げてくる。

(颯馬教官に案内されていた人たち、羨ましいな‥)
(私も颯馬教官と一緒に回りたかった、たこ焼きとか一緒に食べたかったなぁ‥)

(ようやく解放された‥)

あれからしばらくの間、加賀教官に付き合わされ、私の仕事は山積みになっていた。
それを加賀教官に言ったけど、「知るか、クズが」とバッサリ切り捨てる言葉を返されてしまった。

(お昼ご飯を食べる暇もなかったし、はぁ‥楽しみにしてたイベントなんだけどなぁ‥)

颯馬
サトコさん

小さくため息を吐いていると、颯馬教官が話しかけてくる。

颯馬
忙しくてお昼も食べていないでしょう?
イベントの方も落ち着いてきましたし、一緒にたこ焼きでも食べませんか?

(あ‥)

颯馬教官の手にはホカホカと美味しそうな湯気を立ち込めさせるたこ焼きが持たれている。

サトコ
「‥どうして、私が颯馬教官とたこ焼きを食べたいって知ってるんですか?」

颯馬
え?

サトコ
「あ、いえ‥」

颯馬
そうやって思ってくださってたのなら‥以心伝心、だったんでしょうね

ポン、と優しく頭に置かれた大きな手。
偶然だけど、颯馬教官と一緒にたこ焼きが食べられる、とういうことに思わず頬が緩んだ。



サトコ
「‥美味しい!」

空腹も限界が近かったせいか、たこ焼きがいつも以上に美味しく感じてしまう

(‥もしかしたら、颯馬教官と一緒だからかもしれないけど)

颯馬
こっちのたこ焼きも美味しいですよ、どうですか?

サトコ
「いただきます‥!」

ぱくり、とたこ焼きを食べると、口の中にとろっとしたチーズの味を感じた。

サトコ
「んー!!チーズ入りですね!」

美味しさに頬を緩ませていると、ぱしゃ、とシャッター音が聞こえる。

サトコ
「え?」

颯馬
ふふ、すみません
あまりに美味しそうに食べているので、思わず写真を撮ってしまいました

サトコ
「えぇっ!」
「恥ずかしいから消してください‥!」

颯馬
ダメですよ
そうだ、たこ焼きを食べたら写真の保存をしたいので準備室に行きましょうか

(うぅ、絶対変な顔していたよね‥!?でも‥)

颯馬教官の楽しそうな顔を見ると、何も言えなくなってしまう。

(やっぱり教官の事、好きだな‥)

私は温かい気持ちになりながら、教官の後を追ったのだった。

to be continued

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