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恋の秋 東雲1



サトコ
「‥じゃあ、東雲教官で」

後藤
‥そうか、歩か‥

加賀
所詮クズはクズだな

颯馬
でも、子どもと戯れるサトコさんも悪くないんじゃないかな

石神
では、氷川‥当日は東雲と組んで行動するように

サトコ
「はい!」

東雲教官は来場した子供たちの相手をすることになっていた。

(その手の事なら交番勤務時代にもやってきたから、私でも力になれるはず)
(公安学校存続のためにも頑張らないと‥!)

東雲
じゃあ、早速だけど打ち合わせをしようか
一緒に来てくれる?

サトコ
「わかりました!」



サトコ
「当日、子どもたちってどのくらい来るんでしょうか?」

東雲
‥‥‥

サトコ
「少人数なら、学校案内なんておもしろそうですよね」

東雲
‥‥‥

サトコ
「でも、たくさんだと無理だし‥それなら‥」

東雲
はぁ‥

(えっ、ため息?)

東雲
あのさー。なんでキミ、オレを選んだの?

サトコ
「なんでって‥」
「東雲教官、『オレが一番大変だ』って言ってましたし」
「子どもたちの相手なら私でもなんとかできそうですし」
「それに教官、『オレを選ぶよね』って‥」

東雲
あんなの、その場のノリで言ったに決まってるじゃん
ほんと、空気読めないよね

サトコ
「す、すみません‥」

東雲
ま、いいや。とりあえず明日までに、感謝祭でやることを20個考えといて
それじゃ

サトコ
「えっ‥いきなり20個って、東雲教官‥!」

気づいた時には、教官の姿がなくなっていた。

サトコ
「‥行っちゃった」

(そっか、指名しちゃダメだったんだ。なんだか悪いことしちゃったな)
(でも、今更取り消せないし‥)

サトコ
「とりあえず20個考えなきゃ‥」



翌日の昼休み‥

(『みんなで鬼ごっこをする』、『小さな動物園を作る』かぁ‥)
(これで15個だよね。あと5個‥)

鳴子
「なにやってるの、サトコ」
「せっかくのエビフライが冷めちゃうよ?」

サトコ
「でも、東雲教官からの課題が終わってなくて‥」

鳴子
「課題って何の?」

サトコ
「感謝祭関係の」

鳴子
「そういえばサトコ、ボランティアで東雲教官の手伝いをするんだっけ」

サトコ
「うん、それで当日何をするのか考えないといけないんだけど‥」

???
「‥やっと見つけた」

(え?)

東雲
なに揚げ物なんて食べてるの?身体ぷにぷにのくせに

東雲教官はぼそりと言うと、私のエビフライをつまみあげる。

サトコ
「あっ‥それ一番大きいの!」

東雲
‥‥‥

サトコ
「ひどいです!返してください!」

東雲
返してほしいの?
だったら口移しになるけど

東雲教官が意地悪そうに笑う。

<選択してください>

A:えっ‥

サトコ
「えっ」

(く、口移しって‥)

東雲
くすっ。本気にしちゃった?

サトコ
「してません!ちょっと動揺しただけです!」

東雲
ふーん、どうだか‥

B:いえ、お金で

サトコ
「いえ、お金で返してください」

東雲
‥キミ、意外とがめついね
ちなみにいくら?

サトコ
「そうですね‥エビフライ定食が450円なんで‥」
「100円でいいです」

鳴子
「高っ!」

東雲
ふーん‥じゃあ、100円

サトコ
「う、嘘ですよ!いりません!」

東雲
べつに遠慮しなくてもいいけど

サトコ
「いえ、その‥今のはノリで言っただけなので」

東雲
ああ、そうなんだ?

C:それ、セクハラですよ

サトコ
「それ、セクハラですよ」

東雲
大丈夫。キミのこと、性的な目で一切見てないから

サトコ
「せっ‥!?」

東雲
それに今のところ欲求も満たされてるしね

サトコ
「!?」

東雲
ところで、昨日オレが出した課題は進んでるの?

サトコ
「今、いろいろ考えていたところです」

東雲
ふーん‥ちょっと見せて
‥なにこれ。『チーム対抗ドッヂボール大会』?

サトコ
「子どもってドッヂボールが好きじゃないですか」

東雲
そうかもね。でも怪我させたら面倒だから却下
次は‥『戦隊ショー』‥?

サトコ
「子どもたちって正義の味方が好きですよね?」
「だから戦隊ショーとか面白いかなって」

東雲
あのさぁ、ここ、警察組織だよ?
『正義の味方』を警察官にしなくてどうするわけ?
ってことで却下

サトコ
「う‥っ」

東雲
他は‥
‥どれも全然使えないね

サトコ
「‥すみません」

東雲
ま、いいけど。オレも考えてきたから
はい、このプリント、目を通しておいて

サトコ
「わかりました‥」

(へぇ‥警視庁のキャラクター『ポーピくん』を呼ぶんだ‥)

サトコ
「『ポーピくん』って人気ですよね」
「長野でも話題になってました」

東雲
へぇ、そうなんだ
じゃあ、キミもやりがいがあるよね

サトコ
「やりがい?」

東雲
着ぐるみって大変らしいけど、まぁ、がんばって

サトコ
「え‥ええっ!?」

慌ててプリントを確認すると『着ぐるみ役』に私の名前が書いてある。

サトコ
「そんな‥私がやるんですか!?」
「中の人ごとポーピくんを呼ぶんじゃないんですか!?」

東雲
呼ぶわけないでしょ。キミが被るんだよ
ま、これも訓練の一環だと思えばいいんじゃない?
今後、ポーピくんに変装する日がくるかもしれないからね

サトコ
「うっ‥」

東雲
それに体力づくりとしても悪くないと思うよ?
炎天下での着ぐるみはなかなかハードだからね
みんなが遊んでいる中、キミは身体を鍛えることができるんだよ?

(言われてみれば、確かにそうかも‥)

サトコ
「‥わかりました」
「氷川サトコ、謹んでポーピくん役を引き受けます!」

東雲
はいはい。じゃあ、よろしくね

そして、感謝祭当日がやってきた。

男の子1
「あっ、ポーピだ!」

男の子2
「ポーピ、オレと勝負しろよー!」

サトコ
「よーし、負けないぞー!かかってこ‥」

男の子2
「とうっ!」

ドカッ!

サトコ
「ぐ‥っ」

(ちょ‥ちょっと!本気で蹴られてるんですけど!)

男の子1
「次はオレだ!パーンチ!」

男の子2
「キーック!」

サトコ
「痛‥っ!痛いってば!」

東雲
すごいなぁ‥こんなにたくさんの男の子に囲まれるなんて
どうやら『モテ期』到来みたいだね

サトコ
「そんなこと言ってないで、助けてくださ‥」

男の子1
「ポーピ、馬になれよ」

サトコ
「ええっ」

男の子1
「みんな、ポーピの背中に乗ろうぜ!」

男の子たち
「おおっ!」

サトコ
「ちょっと‥無理!無理だってば‥!」

東雲
ああ‥言い忘れてたけど
この子たち、お偉いさんたちのお坊ちゃんやお孫さんたちだから

サトコ
「!?」

東雲
もしも怒らせるようなことがあったら、たぶん間違いなく‥

サトコ
「氷川サトコ、今日一日ポーピとして頑張ります」

東雲
そうそう、その調子その調子

(うう‥これも公安学校存続のためなんだから)

サトコ
「はーい、みんな、焼き芋が焼けたよー」

男の子1
「やったー!ポーピ、早くよこせよ!」

男の子2
「こっちが先だぞ、ポーピ!」

サトコ
「わかった、わかったから‥」

(うう‥汗が目にしみる‥)

着ぐるみ姿でたき火の前にいるせいで汗が垂れてくる。
先ほどから東雲教官の姿が見えなく、周りを見渡してみると、木陰で休んでいた。

東雲
‥‥‥

(‥パソコンで仕事してるのかな?)
(そりゃ、これも訓練の一環だってわかってるけど、少しくらい手伝ってくれてもいいのに‥)

東雲
‥なに?どうかした、ポーピくん

サトコ
「!?」

東雲
言いたいことがあるなら、はっきり言えば?

(うっ‥着ぐるみの中から見てたのに、まさかバレてたなんて)

サトコ
「えっと、その‥教官も焼き芋食べませんか?」

東雲

そうだね、1ついただこうかな

東雲教官は立ち上がると、私たちの方にやってくる。

東雲
どれがオススメ?

サトコ
「そうですね、これなんて大きくて‥」

男の子1
「あーっ、その芋、オレが食べたい!」

男の子2
「オレもー!」

サトコ
「だったらジャンケンしようか」
「はい、じゃーんけーん‥」

男の子1
「グー!」

男の子2
「チョキ!」

男の子1
「やったー!これ、オレの芋!」

サトコ
「はい、じゃあ持って行ってね」
「負けたキミには、こっちの甘ーいお芋をあげるからね」

男の子2
「やったー」

東雲
‥‥‥

サトコ
「あっ、すみません。教官のお芋、子どもにあげちゃって‥」

東雲
いいよ、芋なんてどれでも
それよりキミ‥ずいぶんと子どもの扱いに慣れてるね

サトコ
「そうですか?」

東雲
うん、将来いいママになれそうだ

サトコ
「え‥」

東雲
公安刑事よりPTAのほうが向いているかもね

(‥そういう意味ですか)

軽く凹んでいる私をよそに、東雲教官は笑顔で焼き芋を手に取っている。

東雲
ふーん、こういうの久しぶりに食べるけど悪くないな
ま、高い芋を仕入れたから当然なんだけど

ぐうう‥

(ああっ!)

東雲
あれ?キミ、お腹空いてるの?

サトコ
「それは、まぁ‥」

東雲
じゃあ、この焼き芋食べる?

サトコ
「いいんですか!?」

東雲
いいよ、もっとも‥
その着ぐるみ被ったままで食べられるならね

サトコ
「うっ、それは‥」

東雲
だって、そうじゃない?
これが本当の潜入捜査だったら、着ぐるみを脱いで食事なんて無理だよね?

サトコ
「‥はい」

東雲
で、どうする?

サトコ
「‥今は我慢します」

東雲
ふーん‥

東雲教官はにっこり笑うと、がぶりと焼き芋に齧り付いた。

東雲
あー、おいしいなぁ、この焼き芋

(うっ)

東雲
甘くてほくほくして、いい香りで‥

(ううっ)

東雲
こんなにおいしい焼き芋を食べられないなんて、誰かさんは本当に‥

男の子1
「あー!キノコが焼き芋を食べてるぞー」

東雲
!?

(‥キノコ?)

男の子2
「ほんとだ!キノコのくせに焼き芋食べてる!」

東雲
‥キミたち、どういうことかな
『キノコ』っていうのは、まさか‥

男の子1
「あー、キノコが喋ったー!」

男の子2
「キノコのくせに喋ったぞー!」

東雲
‥‥‥

(し、東雲教官の笑顔が引きつってる‥)

後藤
キノコか‥

加賀
クソ正直なガキ共だな

サトコ
「加賀教官‥それに後藤教官も」


なにしに来たんですか、2人揃って

加賀
ただの見回りだ

後藤
石神さんに、お前とキノ‥
いや、歩の様子を見て来いと言われ‥
‥っ

加賀
なんだ、ツボに入ったのか

後藤
い、いえ‥

(後藤教官‥否定してるわりに肩が震えてるんですけど)

東雲
こっちは順調ですよ
見ての通り、子どもたちとはうまくやっています
特にポーピが人気で‥

男の子1
「キノコー、オレたちと遊ぼうぜ」

東雲

男の子2
「遊ぼう、遊ぼう!」

加賀
「フッ‥お前もずいぶんな人気じゃねぇか」

東雲
オレは、べつに‥

男の子たち
「キノコー!キノコー!」

(よーし、ここは‥)

サトコ
「みんなー、キノコのお兄ちゃんに遊んでもらおう!」

男の子たち
「おおーっ!」

東雲
‥『キノコのお兄ちゃん』ね

サトコ
「え‥」

東雲
よく言えるね、そんな卑猥なこと

<選択してください>

A:そんなつもりじゃ‥

サトコ
「なっ‥!別にそんなつもりじゃ‥!」

東雲
そう?

サトコ
「そうです!卑猥なことなんて言ったつもりはありません!」

東雲
その割に焦ってるようだけど?

サトコ
「そ、それは‥」

東雲
本当はちょっと思ってるんでしょ。『卑猥だったかも』って‥

サトコ
「思ってません!これっぽっちも思ってませんから!」

東雲
どうだか‥

B:今のどこが卑猥?

サトコ
「今の発言の、どこが卑猥なんですか?」

東雲
えっ?

サトコ
「『キノコのお兄ちゃん』って言っただけですよね?」
「何かまずかったですか?」

私の問いかけに、東雲教官が露骨にイヤそうな顔を向けてくる。

東雲
‥それわざと?それとも天然?

C:そんなこと言う方が卑猥だ

サトコ
「そ、そんなこと言う方が卑猥ですよ!」

東雲
って言いながら、頭の中ではいろいろ想像してたりして

サトコ
「!?」

東雲
たとえば‥

サトコ
「ダメです!子どもたちの前ですよ!」

東雲
ほら、やっぱり想像して‥

男の子1
「キノコキーック!」

ドカッ!

東雲
い‥っ

男の子1
「わーい、キノコが怒ったぞー!」

男の子2
「怒った怒ったー!」

東雲
‥いい度胸してるね、キミたち

サトコ
「あ、教官‥!その子たち、お偉いさんの‥」

後藤
子どもの相手は、しばらくアイツに任せておけ
このあたりで休まないと、あとで倒れるぞ

サトコ
「後藤教官‥」

(そうだよね。もうクタクタだし、少しくらい休んでも‥)

サトコ
「‥‥‥」
「‥いえ、これも訓練の一環ですから」

後藤
‥‥‥

サトコ
「氷川、いってきます!」

後藤
‥そうか、無理するなよ

サトコ
「はい!」

(感謝祭終了まであと2時間‥頑張らなくちゃ!)

to be continued

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