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合宿 後藤2話

公安学校の合宿で後藤さんとペアで山に入る演習の途中。

最後の設問の先で、私が足を滑らせ下の山道へと滑り落ちてしまった。

(後藤さんの腕の怪我、早くキチンと手当てしないと‥)

後藤
どうやら演習用のルートから外れたようだな
この先も道らしい道もない

サトコ
「どうしましょう‥ここを登るのは無理ですよね」

私たちは滑り落ちた斜面を見上げる。

後藤
何か道具でもあればともかく‥今は無理だ。山道に戻るしかない

サトコ
「木々に覆われてて周りの道なんて全然見えませんね‥」

後藤
こんな事なら詳しい山の資料を持ってくるんだったな

サトコ
「今回は下準備をしないのが演習の条件でしたから‥」

後藤
‥このまま遭難しても大変だ。携帯で石神さんに連絡するか
失格にはなるが、山をさまよい続けるよりはいい

サトコ
「はい‥」

(休憩所までは1位通過だったのに、私があの時、選択を間違わなければ‥)

悔しさと申し訳なさで唇を噛むと、ふわっと鼻先を美味しそうな匂いがかすめた。

サトコ
「ん?」

後藤
どうかしたのか?

サトコ
「何か‥いい匂いがしてきませんか?カレーみたいな‥」

後藤
まだ腹が減ってるのか?

サトコ
「ち、違います!食べ物の匂いがするってことは、もしかしたら‥」

後藤
黒澤がいた休憩ポイントからの匂いかもしれないのか
どっちから流れてきてるかわかるか?

サトコ
「なんとか‥匂いはあっちの方向から流れてきています」

後藤
わかった。その方向に向かって行こう。足元に気をつけろよ

サトコ
「はい。後藤さんこそ、腕‥大丈夫ですか?」

後藤
この程度の怪我は慣れてる。気にするな

後藤さんは私の手をつかむと、しっかりと握って歩き出した。

(これで演習のコースに戻れれば、1位じゃなくてもゴールはできるかも)
(せめてリタイアじゃなくて結果を残したい‥)

歩ける道を探しながら少しずつ進んでいくと、前方に立て看板が見えてきた。

サトコ
「あれ、演習用の看板ですよね?」

後藤
戻れたのか‥また設問か?

サトコ
「『極秘情報はこちら』って書いてありますけど‥」

後藤
極秘情報って‥あからさますぎるがコースに戻れたのは確かだな
とりあえず、こっちに行ってみるか

サトコ
「そうですね。でも、極秘情報ってなんでしょうか?」

二人で首を傾げながら進んでいくと、2つの箱が置いてある。

サトコ
「教官用と補佐官用って書いてありますね‥これは私たち専用の設問ってことでしょうか?」

後藤
そういうことになるな。黒澤あたりが考えたくだらない話だろう

サトコ
「ゴールへの手掛かりが書いてあるといいんですけど‥」

それぞれの箱に手を伸ばし、開けてみると中には1枚の紙が入っていた。

サトコ
「紙が1枚入ってました。後藤さんの方はどうですか?」

後藤
俺の方も1枚紙が入ってるだけだ

サトコ
「何が書いてあるんだろう‥」

紙を開いてみると、そこには‥。

(『キミ、後藤教官のこと好きでしょう?』‥って!な、なにこれ!)

後藤
歩だな‥

そうつぶやく後藤さんを見ると、同じく教官用の紙を見ながら渋い顔をしている。

(後藤さんの方にはなんて書いてあるんだろう)

後藤
何が書いてあった?

サトコ
「えっと、それは‥」

<選択してください>

A:素直に答える

サトコ
「後藤教官のことが好きでしょう‥って‥」

後藤
ったく‥あのキノコ頭‥

(き‥キノコ!?)

サトコ
「後藤さんの方はなんて書いてあるんですか?」

後藤
‥この先に抜け道があると書いてある

サトコ
「後藤さんの方にはちゃんとヒントが書いてあったんですね。よかった‥」

B:誤魔化す

サトコ
「え、あ‥が、頑張ってゴールして的な応援メッセージが‥」
「後藤さんの方は何が書いてありましたか?」

後藤
俺の方は、この先に抜け道があると書いてある

サトコ
「ゴールのヒントですね!よかった!」

(後藤さんの方にはちゃんと役立つ情報が書かれてたんだ‥)

C:後藤さんは?

サトコ
「私の方には大したことは‥後藤さんの方はどうですか?」

後藤
俺の方には、この先に抜け道があると書いてある

サトコ
「ゴールへのヒントですか?」

後藤
多分、そうだろうな

(後藤さんの方には普通のことが書かれてて、よかった)

後藤
この先に抜け道か‥確かに細い道が見える

サトコ
「行ってみましょう!」

奥へと続く細い道を進んでいくと‥やがてゴールと書かれた旗が見えてきた。

サトコ
「やった‥!ゴールです!」

後藤
抜け道というだけあって、すぐだったな

顔を見合わせて駆け出すと、ゴールでは颯馬教官が待っていた。

颯馬
後藤にサトコさん‥ゴールおめでとうございます。よく頑張りましたね
お二人が1着ですよ。優勝です

サトコ
「え‥!本当ですか!?」

後藤
あれだけ時間をロスしたのにな‥

サトコ
「他の道はよっぽど険しかったんでしょうか‥あ!それよりも!」
「後藤教官が怪我をしているんです!私が滑ったところを助けて腕を痛めてしまって‥」

後藤
これくらい大したことありませんよ

颯馬
パートナーのことを気遣うのは大事なことだよ
その絆があるから、君たちは1位になれたんじゃないかな

後藤
‥そうかもしれませんね

颯馬
応急手当はしてあるんだね。旅館に救護部屋が用意してあるから、あとで行って
これは優勝賞品。どうぞ

颯馬教官が私たちに封筒を渡す。

サトコ
「優勝賞品って‥」

後藤
開けるぞ。いいな?

サトコ
「はい!」

後藤さんが封を切って、中から出てきたのは手書きの温泉チケット。

颯馬
旅館の温泉で一足先にくつろいでください。優勝の組はレポート免除ですから

サトコ
「温泉でくつろげるなんて、地獄から天国みたいです‥!」

後藤
アンタが頑張ったからだな

サトコ
「後藤教官のおかげです。私ひとりだったら1着どころかゴールできたかどうか‥」

後藤
いや‥アンタがいたから1着になれたんだ

後藤さんは私の頭にポンッと手を置くと旅館の方に向かって歩き出した。

サトコ
「慰めてくれたのかな‥」

颯馬
違うと思いますよ

サトコ
「でも、私は後藤教官の足を引っ張ってばかりだったんです」
「足を滑らせてコースからも外れてしまったし‥」

颯馬
後藤が言った意味‥きっとそのうちわかりますよ

颯馬教官の笑顔に見送られ、私も旅館に向かう。

(そのうちわかるって‥どういうことだろう?)

サトコ
「ふう‥生き返る‥」

旅館の露天風呂に入ると、深いため息がこぼれる。
山を歩いたせいか、気が抜けると足がジンジンとしているのがわかった。

(今回の優勝は後藤さんの力と、偶然抜け道に辿り着けたからで、自分の力じゃない)
(演習だからよかったものの、これが本当の捜査だったら話にならないよね)

提出せずとも反省用にレポートを作ろうと思っていると、誰かがお湯に入ってきた。

(他に女性はいないはず‥)

湯煙の向こうに見えてきたのは‥。

サトコ
「ご、後藤さん!?」

後藤
サトコ!?

(ど、どうして後藤さんが‥ここってまさか混浴だったの!?)

<選択してください>

A:後藤を見つめる

後藤さんの裸が目の前に来て思わず視線が外せなくなる。

後藤
じっと見るほどのものでもないと思うんだが‥

サトコ
「すみません‥びっくりして、つい‥」

後藤
露天風呂は混浴だったんだな
俺は入り直すから、ゆっくり入っててくれ

サトコ
「いえ!もう充分入ったので私が出ます!」

後藤
いや、あとから来たのは俺なんだから‥

B:顔を背ける

私は慌てて後藤さんの裸から顔を背けた。

サトコ
「み、見てませんから安心してください!」

後藤
いや‥別に見るくらい気にしないが‥
アンタは‥その‥もう少しお湯に入ってくれると助かる‥

サトコ
「!」

(じ、自分の身体隠すの忘れてた!)

後藤
‥悪い

サトコ
「い、いえ!私の方こそすみません!私はもう上がるので、ゆっくり入ってください」

後藤
俺が入り直すから、アンタは入ってろ

サトコ
「私は充分入ったので、後藤さんが‥」

C:出ようとする

サトコ
「す、すみません!私、もう出ます!」

後藤
いや、俺が出る。悪い、混浴だとは思わなかった

サトコ
「いえ!もう充分入ったので私が‥」

後藤
俺が入り直せばいいだけの話だ

どちらが先に出るのか言い合っていると、入口の方から話し声が聞こえてくる。

後藤
しっ‥

サトコ
「!」

後藤さんは深めにお湯に浸かると、私を連れて温泉にある大きな岩の陰に隠れた。

石神
誰も入っていないようだな

颯馬
後藤とサトコさんもまだみたいですね

(石神教官と颯馬教官!)

温泉に入った2人に私たちは出るに出れなくなる。

後藤
俺はこっちを向いてるから

サトコ
「は、はい‥じゃあ私はこっちを‥」

後藤さんが私に背を向け、私も体勢を変えて背中合わせにした。

(気を使ってもらって、かえって申し訳ない‥)

チラッと後藤さんの腕を見ると、そこには痣ができていた。

サトコ
「腕‥大丈夫ですか?」

後藤
ああ。少し痛めただけだ

サトコ
「‥後藤さん、私、本当の意味でパートナーになれるように、もっと努力します」

後藤
‥サトコ

お湯が波打ったかと思うと、私の両肩に後藤さんの手が置かれた。
そのまま向かい合うように身体を反転させられる。

サトコ
「ご、後藤さん‥?」

至近距離で見つめられ、脈が早くなっていく。

(ど、どうしよう‥こんな近くで‥)

後藤
パートナーに一番大切なのはお互いを信頼し合えるかどうかだ
それ以外の足りない部分は互いに補えばいいだろ。せっかく2人でいるんだからな

サトコ
「でも、私は後藤さんに補ってもらってばかりで‥」

後藤
アンタがいたから1着になれたって言っただろ
俺ひとりだったら、演習にここまで真剣に取り組んだりしなかった
アンタの優勝したいっていう気概があったから、こうして優勝できたんだ

サトコ
「後藤さん‥」

(颯馬教官が言った、そのうちわかるって意味‥こういうことだったんだ‥)

後藤
それに‥最後の設問でパートナーの命を優先したアンタを俺は誇らしく思う
教官としても同僚としても‥恋人としても‥

優しい目で見つめられて胸がジワっと熱くなる。

石神
ほとんどの組が最後の設問でふりだしに戻っているようだな

(え?)

石神教官と颯馬教官の話し声が聞こえてきて、私たちはそちらに顔を向けた。

颯馬
訓練生は引っ掛かってしまうでしょうね。ずっと犯人確保が第一と教えられてきましたから

石神
初めからパートナーを見捨てるような姿勢では犯人確保は難しい
今回の合宿、ほとんどは難波さんのお遊びだが‥
これを勉強させるとう意味ではいい機会だったな

(それじゃあ‥私が選んだ方が正解だったってこと‥?)

後藤さんを見上げると、後藤さんも頷いてくれる。

サトコ
「よかっ‥」

後藤
静かに‥

サトコ
「!」

よかった‥そう言いかけた私の声を後藤さんが唇で止める。

(本当に‥のぼせちゃいそう‥)

湯煙と後藤さんにクラクラしていると、石神教官と颯馬教官が温泉から上がるのがわかった。

後藤
少し間を開けて、俺たちも上がるか

サトコ
「はい‥このまま入ってたら、のぼせそうです‥」

後藤
俺もだ‥

後藤さんの頬が上気してるのは温泉のせいか、それとも‥。

後藤
アンタが着替え終った頃、俺も出る

サトコ
「速攻で着替えてきます‥!」

お湯を掻き分けて、私は脱衣所へと急いだ。

お互いに着替えを済ませると、やっと落ち着いた。

後藤
こんなところに冷水まで用意されてるのか‥

サトコ
「あ、本当ですね。私、気づかないで向こうの麦茶飲んじゃいました」

ドリンクサーバーの麦茶とは別に、お盆の上に冷水のコップが置いてあった。
後藤さんはそれを一気に煽る。

後藤
!?

サトコ
「ど、どうしました!?」

後藤
これ‥

顔を真っ赤にした後藤さんがフラフラとことらに近づいてくる。

(お酒の匂い‥!)

サトコ
「もしかして‥冷水じゃなくて、お酒だったんですか!?」

(しかもこの匂い‥相当強いお酒なんじゃ‥)

後藤
そうみたいだ‥

サトコ
「わ、後藤さん!」

よろけた後藤さんを支え、休憩用の竹製のベンチに座る。
すると、後藤さんの服から1枚の紙がひらりと落ちた。

サトコ
「何か落ちましたよ」

後藤
悪いが、拾ってくれるか

サトコ
「はい‥メモみたいですけど‥」

手に取ると書かれた文字が自然と目に入る。

(極秘情報って‥あ、演習の時の‥『パートナーシップに一番大切なのは愛かもね』って‥)

後藤
その紙の通りかもな

サトコ
「す、すみません!勝手に見てしまって!」

後藤
いや、構わない

隣で座る後藤さんはアルコールのせいか、肩で息をしている。

(少し休んだ方が‥あ、そういえば!)

サトコ
「あの‥よかったら休んでください‥」

ポンッと太ももを叩くと、後藤さんが目を丸くしてこちらを振り向いた。

後藤
いや、いくらなんでもそこまでは‥

サトコ
「困った時に補い合うのがパートナーなんですよね?」
「後藤さんの枕になることくらいできますから、抱き枕より膝枕‥ですよね?」

後藤
アンタは‥そんなことばっかり覚えてるな

視線を外して頭をかいてから、後藤さんはおもむろに私の腿に頭を乗せた。
そして目を閉じた後藤さんの髪をそっと梳いてみる。

後藤
気持ちいい

サトコ
「後藤さんが1杯で酔うなんて、よっぽど強いお酒だったんですね」

後藤
あんな強い酒を飲むのは周さんくらいだ。あの人‥風呂で酒飲んでたんだな‥
アンタと一緒に風呂に入って、ただでさえ冷静じゃなくなってたところに酒じゃ倒れもするか

サトコ
「え‥後藤さんも緊張してたんですか?」

後藤
緊張じゃない‥自制だな

サトコ
「じ、自制‥」

(深くは聞かない方がいいのかも‥)

真っ赤になっていると、目を開けた後藤さんにクスッと笑われる。

後藤
アンタが思ってる以上に、俺はアンタを頼ってる
こうして傍にいてくれることで‥救われてる

サトコ
「後藤さん‥」

穏やかな声と笑顔‥私だけに見せてくれる顔なのだと思うと嬉しい。

サトコ
「それでも‥もっと力になりたいので頑張ります」

後藤
頑張り屋にはご褒美が必要だな

後藤さんが身体を起こして、私を引き寄せる。
そのまま重ねられた唇は少しお酒の匂いがして‥私まで甘く酔わせていった。

Happy  End

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