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恋愛強化!鬼♡恋合宿 ~加賀班~ プロローグ

寄せては返す爽やかな波。遠くから聞こえてくるウミネコの鳴き声。

サトコ
「どこまでも続く青い空とコバルトブルーの海‥白く輝く砂浜‥」

そして‥

加賀
クズ共が、ちんたら走ってんじゃねぇ
砂に埋められるのと海に捨てられるの、どっちがいいか選ばせてやる

拡声器から聞こえる、加賀教官のドスの聞いた声。

(全然爽やかじゃないっ!)

鳴子
「はあ、はあ‥サトコ、生きてる‥?」

サトコ
「なん‥とか‥」

砂浜に足を取られながら必死に走る鳴子が、息も絶え絶えになりながら声をかけてきた。

鳴子
「体力強化合宿なのはいいけど‥もうちょっと‥こう‥」

サトコ
「わかるよ‥言いたいことはわかる‥」
「せめて休憩とか‥休みとか‥休息とか‥」

鳴子
「サトコ、それ全部同じ意味だからね‥」
「それにしても、こんな素敵な島に来てまで‥訓練って‥」

サトコ
「うん‥もしかしてバカンスも兼ねて‥なんて淡い期待を抱いた私たちがバカだったね‥」

加賀
おいコラそこのクズ

加賀教官の意識が、私たちに向けられた。

加賀
野郎どもに体力で負けんなら、“女” の使い方教えてやる

鳴子
「け、結構です!」

鳴子と一緒に慌ててスピードアップしながら、ふと千葉さんのことを思い出す。

サトコ
「千葉さん‥今頃どうしてるかな‥」

鳴子
「うん‥惜しい人を亡くしたよね‥」

サトコ
「いや、生きてるからね‥石神教官たちの方に行っちゃっただけで‥」

そもそも、それが始まりだった気がする‥‥‥

数週間前。

サトコ
「強化合宿?」

鳴子
「うん。各班に分かれて、体力・知力・精神力を鍛える合宿が月末にあるんだって」
「ここだけの話‥通称『鬼合宿』って言われてるらしいよ」

サトコ
「鬼合宿‥」

鳴子
「班別だから、やっぱり石神班と加賀班ってことになるよね」

男子訓練生A
「なあ、お前、石神教官と加賀教官、どっちに行く?」

男子訓練生B
「いや、どっちも嫌だろ!どんな厳しい訓練が待ってるか‥」

男子訓練生C
「でも、どっちかには参加しなきゃいけないんだろ?それならさ‥」

よく聞くと、学校中合宿の話で持ちきりのようだった。

(石神班か加賀班か‥それなら、私はもちろん‥)

後藤
じゃあ、レクリエーション案は千葉に任せていいか

千葉
「はい。合宿の一週間前までにはまとめてきます」

鳴子
「ありゃ。後藤教官と一緒にいるってことは、千葉さん石神班なんだね」
「なんでも石神教官の方は山合宿で、加賀教官の方は海合宿らしいよ」

サトコ
「そうなんだ‥鳴子、詳しいね」

鳴子
「そりゃねー!だって石神教官の方には優しくて素敵な颯馬教官がいるし」
「でも加賀教官の合宿には絶対、東雲教官が来るよね‥」
「どうしよう、選べない!!」

鳴子の叫びを遮るかのようにチャイムが鳴り響き、定食の食器を下げて教場へ戻った。



加賀教官の講義が終わると、緊張の糸が緩んだようにみんながホッと胸を撫で下ろす。

(ふう、今日は誰もホワイトボードのマーカーを投げられることなく終わった‥)
(ちょっとでもよそ見したりうたた寝すると、容赦ない攻撃が飛んでくるから要注意だよね‥)

次の加賀教官の指示があるまで待っていると、教場に東雲教官が現れた。
両手に、大量の小冊子を持っている。

東雲
兵吾さん、できましたよ

加賀
遅ぇ

東雲
これでも大急ぎで作ったんだから、大目に見てください
ほんと、難波室長ってああ見えて人使いが荒いんだから‥
『合宿のしおり』なんて、訓練生にでも作らせときゃいいのに

男子訓練生A
「おい、聞いたかよ‥『合宿のしおり』って言ったよな、今」

男子訓練生B
「ああ‥ってことは、東雲教官が持ってるあれって‥」

加賀
誰が無駄口叩けって言った?

低い声に全員が一瞬にして口をつぐんだ。

加賀
知っていると思うが、月末に合宿がある。これから名前を呼ばれる奴は俺の班だ
呼ばれねぇ奴はメガネの方に行け

サトコ
「メガネ‥」

加賀
なんだ?

サトコ
「い、いえ‥」

(どっちの班の合宿に行くのか、もう決められてるんだ‥)
(どうか、加賀教官と東雲教官の班でありますように!)

祈る私には構わず、加賀教官が一人ひとり、名前を呼んでいく。

加賀
「‥山崎、佐々木

鳴子
「は、はい!」

(鳴子、加賀班‥!千葉さんは石神班だし)
(私は‥!?)

ハラハラしている間に、加賀教官がしおりを配り終わってしまった。

加賀
呼ばれねぇ奴は各自しおりを取りに来い
あとでメガネか後藤か颯馬から話がある

サトコ
「あ、あの‥加賀教官、東雲教官」

恐る恐る教官たちのところへ行くと、加賀教官にジロリと睨まれた。

サトコ
「私、名前呼ばれなかったんですけど‥い、石神教官の班なんでしょうか」

加賀
あ?

(なんで怒るの!?)

東雲
サトコちゃん、石神さんたちの方に行きたいんだ?

サトコ
「そ、そうじゃないんですけど‥名前を呼ばれない人は石神班だって」

加賀
テメェは俺んとこに決まってんだろ
名前を呼ばれねぇとわかんねぇほどクズに成り下がったか?ぁあ?

サトコ
「ひぃっ」

(お母さん‥!私、ここで命が尽きるかもしれない‥!)

東雲
まあまあ。確かにさっきの言い方じゃ誤解されちゃいますよ
とりあえずそういうわけで、キミはオレたちの班だから。よろしくね

サトコ
「は、はい‥!」

(よかった‥この班なら、厳しくてもきっと楽しい合宿になるはず‥)

東雲
さてと。それじゃ、一緒に考えようか

サトコ
「何がですか?」

東雲
聞いてない?合宿でレクリエーションがあるって

サトコ
「あ‥そういえば、千葉さんが後藤教官とそんな話してました」

東雲
相当ハードな合宿の後の楽しいレクリエーションなんだから
やっぱり、このくらいやらなきゃダメだよね

東雲教官が私の前に出したのは‥見るもおぞましい『何か』が写りこんだ写真だった。

サトコ
「ぎゃっ!ななな、なんですかこれ!?人魂みたいなのがいっぱい‥!」

東雲
あれ?サトコちゃんもこういうの信じるタイプ?

サトコ
「ご、ごごご、合成なんですか‥!?」

東雲
いや、本物

サトコ

「ひええええええ!」

東雲
ほら、海ってよく出るって言うでしょ。身投げした女性のー‥

サトコ
「わー!そういう話をしたら寄ってくるんですよ!」

東雲
へえ、意外と詳しいんだね。じゃ、あとよろしく

サトコ
「へ?」

東雲
どんなレクになるか、楽しみにしてるから

サトコ
「わ、私が考えるんですか!?」
「っていうか‥この心霊写真、持って行ってください‥!」

泣きそうになる私を置いて、東雲教官も加賀教官もさっさと教場を出て行った。

鳴子
「サトコ、ご愁傷様‥」

サトコ
「この写真の前でその言葉は禁句だよ‥」
「これってレクリエーションで肝試しをやれっていう無言の威圧だよね‥」

鳴子
「だろうね‥サトコってほんと、こういうの頼まれること多いよね」

サトコ
「押し付けられてるだけな気もするけど‥」
「うーん、でも肝試しなんて、そんなにやったことないからよくわからないな‥」

難波
ん?何やってんだ?

廊下を歩いていた難波室長が、ひょいっと教場を覗く。

難波
なんだその写真。歩が持ってそうな、おどろおどろしい心霊写真だな

サトコ
「まさに、東雲教官から預かったんです」

(不本意に‥)

難波
‥ああ。合宿か

思い出したように難波室長がうなずく。

難波
今年はお前がレク担当なのか?

サトコ
「そうなっちゃいました」

難波
いつもは、頼んでもいないのに黒澤辺りが勝手に色々企画するんだけどな
まあ、大変だろうけど頑張れよ

いつものやる気のない口調で激励してくれながら、室長がぐしゃっと私の頭を撫でる。

サトコ
「‥室長、今までタバコ吸ってましたね」

難波
わかるもんか?

サトコ
「はい‥室長と加賀教官はわかりやすいです」
「っていうか、あの‥」

難波
ああ、悪い悪い

私の髪をさらにぐしゃぐしゃに撫でて、室長は教場を出て行った。



(‥ああ、あの頃はまだ平和だった‥)
(いくら『鬼合宿』とはいえ、まさかこんなに厳しいなんて思ってもみなかった‥)

ヘロヘロになりながら、砂浜を数えきれないほど往復する。
話す気力もなくなった私たちの元へ、東雲教官がにこやかな笑顔で現れた。

東雲
みんな、お疲れ様。結構キツイでしょ

男子訓練生A
「教官‥もう足が上がりません」

男子訓練生B
「み、水‥水飲んできていいですか」

東雲
そうだなあ‥

鳴子
「加賀教官ならまだまだ走らされそうだけど、東雲教官ならもう終わらせてくれるかもね!」

鳴子にこっそり耳打ちされたけど、なんとなく素直にそう思えない。

(東雲教官のことだから、何か企んでる気がする‥)
(っていうか、絶対企んでる‥)

東雲
それじゃ、ちょっと休憩しよっか。飲み物を持参してる人は飲んできていいよ

その言葉に、わっとみんなが喜ぶ。
でもすぐに、東雲教官が悪魔のような笑顔を見せた。

東雲
「休憩は5分ね。そのあと、30往復追加」

男子訓練生A
「30往復!?」

男子訓練生B
「しかも休憩5分って‥!休んだうちに入りませんよ!」

東雲
あ、もしかして加賀教官の方がよかった?呼んでこよっか?

男子訓練生C
「5分の休憩、ありがとうございます!」

男子訓練生D
「オレ、水飲んでくる!」

(ご、5分か‥)

ちらりと東雲教官を見ると、天使のようで、悪魔の笑顔を私に向けた。



なんとか最後の30往復を終らせると、フラフラしながらもみんなでカレーを作った。

鳴子
「って言っても、ほとんど私たちが作ったんだけどね」

サトコ
「仕方ないよ、女子は私たちしかいないし‥」
「みんな疲れ果てて、野菜の皮を剥かずに鍋に放り込もうとしてたし」

鳴子
「だよね‥こんな疲れたんだから、せめて食事くらいはおいしく食べたいよ」

(そういえば、カレーができたら教官たちに持って行かなきゃいけないんだっけ)
(結構おいしくできたし、このカレーは‥)

<選択してください>

A:加賀に持っていく

B:東雲に持っていく

C:自分でさっさと食べる

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