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合宿 加賀2話



(ユウタ‥くん‥どうしよう‥助けられなかった‥私‥)

???
「‥サトコ‥」

(誰か‥呼んでる‥?頭がぼんやりして、目が開かない‥)

???
「‥‥サトコ!」

声に引っ張られるようにうっすら目を開けると、
びしょ濡れの加賀さんが、私の顔を覗き込んでいた。

サトコ
「加賀‥さ‥」

加賀
このっ‥クズが!

サトコ
「!」

加賀
テメェはっ‥
‥‥

苦しそうに言いよどみ、加賀さんが私から目を逸らす。

加賀

東雲
はい。了解です

東雲教官が来ると、加賀さんが立ちあがる。
東雲教官に何も指示せず、加賀さんは濡れた姿のまま苛立ちを隠さず合宿所へ戻って行った。

サトコ
「あの‥私‥」

東雲
覚えてる?あの子どもを助けようとして、自分が溺れちゃったおバカさん

サトコ
「あ‥ユウタくんは」

東雲
無事だから安心しなよ。ほら、とりあえず行くよ。立てる?

サトコ
「行くって‥」

東雲
「すぐ近くに病院があるから、念のためそこで検査しろって、兵吾さんが‥」
‥言ってはいなかったけど、たぶんそういう意味だと思うから

みんなが見守る中、東雲教官に手を貸してもらってなんとか立ち上がり‥
一度合宿所で着替えると、近くの病院へと向かった。



病院で簡単な検査をしてもらった結果、特に異状はなかった。

東雲
少し水飲んだだけだって。悪運強いね

<選択してください>

A:よく言われます

サトコ
「はあ‥よく言われます」

東雲
何言ってんの。冗談だよ

サトコ
「す、すみません」

東雲
今回はキミの悪運じゃなくて、兵吾さんの判断の早さかな

サトコ
「加賀教官の‥?」

B:加賀教官のおかげです

サトコ
「いえ‥加賀教官が助けてくれたおかげです」

東雲
まあ、そうだろうね。オレたちが気づいた時には、もう兵吾さんは海に飛び込んでたから
キミみたいな専属補佐官を持つと大変だね、兵吾さんも

サトコ
「うう‥ごもっともです」

C:まだちょっと具合悪い

サトコ
「でも、水を飲んだせいか、まだちょっと具合悪いですけど‥」

東雲
その程度で済んでよかったと思いなよ
兵吾さんが助けてくれなかったら、今頃海の底だったかもしれないんだから

サトコ
「う、海の底‥」

東雲
あとで兵吾さんに、お礼と‥謝罪、しときなよ
キミが海に飛び込んだ瞬間、佐々木さんが叫ぶより先に海に飛び込んだからね
たぶん、ずっと様子を見てたんじゃない?

サトコ
「そう‥だったんですか‥」

東雲
それに、医者にも言われたでしょ。応急処置が良かったから大事に至らなかったって

確かに、病院でそう言われたことを思い出す。

東雲
それにね‥キミが海に飛び込んだ時、兵吾さんが叫んだの聞こえなかった?

サトコ
「え?」

東雲
サトコ!‥って

(そんな‥加賀さんが、私を‥そこまで‥?)

東雲
あんなに取り乱す兵吾さん、滅多に見れないよ
まったく‥らしくないことをするなって思ったけどね

どこか切なそうに話す東雲教官の言葉に、
自分のために取り乱す加賀さんを想って、胸が締め付けられる。

(そんなに心配かけたんだ‥東雲教官が言うように、後でちゃんと謝ろう)

歩いている間に、合宿所が見えて来る。

東雲
そうだ、今日の訓練は中止になったから

サトコ
「中止?」

東雲
こんなことがあったのに、訓練どころじゃないでしょ
まぁ、部屋でゆっくり休みなよ

サトコ
「はい‥ありがとうございます」

私にヒラヒラと手を振りながら、東雲教官が軽く振り返った。

東雲
そうそう、兵吾さんがキミの名前を叫んだ時、全員、その場にいたから

サトコ
「‥え?」

東雲
みんながそのこと忘れてくれてるといいねー

サトコ
「‥え!?」

東雲
じゃあね

サトコ
「東雲教官、待っ‥」

追いすがるも、東雲教官はさっさと合宿所に入ってしまった。

(東雲教官、やっぱり私たちのことに気づいてる‥!?)

(っていうか、あの人が気づいてないわけない‥!)

(こ、これからはもっと色々気を付けないと‥!)

合宿所に戻ると、食堂から鳴子の声が聞こえてきた。

鳴子
「無事だったからよかったものの、何かあったらどうするつもりだったの!?」

ユウタ
「だって‥オレ、サトコと遊びたかったんだもん‥」

サトコ
「ユウタくん!大丈夫だった!?」

慌てて駆け寄ると、ユウタくんがみるみるうちに泣き顔になる。

ユウタ
「うわあああーん!サトコ、ごめんなさぁい!」

サトコ
「え?え?」

鳴子
「この子、サトコに構ってほしくてわざと溺れたフリしてたんだって!」

サトコ
「ええ!?」

ユウタ
「だってサトコ、ずーっと走ってばっかで全然オレと遊んでくれないからっ‥」
「溺れたフリしたら、また遊べるんじゃないかって思ったんだもん~~~」

サトコ
「ちなみに、ユウタくんって‥泳げるの?」

鳴子
「物心ついた時から英才教育で水泳習ってるらしいから、私たちより泳げるんじゃない?」

サトコ
「そ、そうだったんだ‥」
「ユウタくん、寂しかったんだね‥でも、あんな危ないことしちゃダメだよ」

ユウタ
「うん、ごめんなさい‥サトコ、大丈夫?」

サトコ
「うん、病院で検査して来たけど大丈夫だったよ」
「じゃあ、もう危ないことしないって指切りしようか」

ユウタ
「また遊んでくれる?」

サトコ
「うん。でも約束」
「あんな誘い方、もうしちゃダメだよ?」
「私がちゃんと時間が出来た時、一緒に遊ぼう?」

ユウタ
「うん!」

それからユウタくんと指切りして約束すると、家まで送って行った。

その夜、晩ごはんの時間になっても、加賀さんは姿を見せなかった。

鳴子
「サトコ、あれから加賀教官に会った?」

サトコ
「ううん‥お礼を言おうと思って部屋に行ったんだけど、いなくて」

鳴子
「今日は訓練が中止になったのに、やっぱり教官たちって忙しいんだね」
「でもさ~、加賀教官がサトコを助けた瞬間、ほんとにかっこよかったよ!」

(そういえば、加賀さんが海に飛び込むとき、私のこと名前で呼んだって言ってたけど‥)

サトコ
「鳴子‥あのね。教官が私を助けてくれた時‥」

鳴子
「ほんっとに、映画のワンシーンみたいだったよ!」
「あまりにも教官が必死だったから、恋人同士かと思っちゃった」

サトコ
「ぶっ」

鳴子
「きゃっ!?サトコ、味噌汁吹いた!」

サトコ
「ごほっ‥ご、ごめっ‥」
「な、鳴子が変なこと言うから‥!」

鳴子
「も~、冗談だって!」
「いくらかっこよくて仕事できても、あの鬼教官と‥なんて、あるわけないもんね!」
「加賀教官って、プライベートでも絶対カノジョ扱いしてくれなそうだし」

サトコ
「う、うん‥」

鳴子
「恋人になっても、容赦なく『クズ』『使えねぇ』『切り捨てるぞ』とか言いそうだもんね」

(だいたい合ってる‥)
(でもこの様子だと、私を『サトコ』って呼んだことは、みんな忘れてるかも‥?)

その日の夜中、みんなが寝静まった後。

(はあ‥全然寝れない)
(加賀さんにお礼もごめんなさいも言えてない‥)

サトコ
「部屋に行っても、すれ違ってばっかりだし‥」
「できれば今日中に言いたいんだけど‥やっぱり無理かな」

ふと慣れた香りがして顔を上げると、一人、タバコを吸っている加賀さんを見つけた。

サトコ
「加賀さん‥!」

加賀
‥こんな時間に何やってんだ

サトコ
「ね、眠れなくて‥」
「あの‥今日のことなんですけど」

加賀
場所変えるぞ

灰皿にタバコを押し付けて潰すと、私を振り返らないまま外の方へと歩き出した。

加賀さんと合宿所近くの海岸を歩く。

(星が綺麗だな‥でも加賀さん、何も話してくれない‥)
(とにかく、謝りたい‥それに、お礼を言いたいよ)

サトコ
「‥加賀さん!」

加賀
‥‥‥

サトコ
「あの、今日は本当にすみませんでした!」

頭を下げても、加賀さんは何も言ってくれない。

サトコ
「私、加賀さんにもみんなにも迷惑をかけて‥」
「それに、助けていただいて‥本当にありがとうございました」

加賀
‥‥

(やっぱり、怒ってる‥?)

そっと顔を上げると同時に、加賀さんの手が伸びてくる。

(あ、アイアンクロー!?)

身構える前に、思いっきり抱きしめられた。

加賀
‥あんまり、心配かけんな

絞り出すような声に、泣きそうになる。
思わず自分から背中に腕を回すと、そのまま軽く、触れるだけのキスが落ちてきた。

サトコ
「だ、誰かに見られるかもっ‥」

加賀
この時間にか

サトコ
「あ‥」

加賀
もうとっくに寝静まってる

腕の中で身じろぎする私をさらに抱きしめて、加賀さんがもう一度、キスをくれる。

(タバコの匂い‥)

もう数えきれないほど繰り返したキスは、いつも同じ味がする。
ちょっと苦い。
けれども、とても愛おしい‥‥‥

(加賀さんにこうされるたびに、胸が苦しくなって‥)

腕に顔を埋めると、加賀さんの苦しそうな声が降ってきた。

加賀
テメェが白い顔して息してねぇって分かった時
‥どんな気持ちだったか、わかるか

サトコ
「ごめんなさい‥」

加賀
‥心臓が止まるかと思った

<選択してください>

A:そんなに心配してくれたの?

サトコ
「そんなに、心配してくれてたんですか‥」

加賀
寝言、言ってんじゃねぇ

サトコ
「え!?」

加賀
‥心配しねぇわけがねぇだろ

B:加賀さんの処置のおかげ

サトコ
「お医者さんに言われました。応急処置がよかったって‥」
「加賀さんの処置のおかげです」

加賀
ああ‥あれか

(そういえば、応急処置ってなんだろう?もしかして、心臓マッサージ?)

C:ユウタくんを助けてくれてありがとう

サトコ
「ユウタくんを助けてくれて、ありがとうございました」

加賀
‥テメェ

サトコ
「え!?なんで怒るんですか!?」

加賀
この状況で他の男の名前を出すとは、いい度胸だな

(他の男って‥子どもなのに!?)

サトコ
「あの時は、本当に夢中で‥ユウタくんが本気で溺れてるように見えたんです」
「でも、ダメですよね‥後先考えないで行動するなんて」

加賀
‥もういい、クズ

私の言葉を止めるように、加賀さんがもう一度、唇を触れ合わせる。

加賀
‥帰ったら覚えとけ

サトコ
「!?」

加賀
泳ぎが下手な犬には、躾が必要だ

サトコ
「ちゃ、ちゃんと泳げるんですよ‥!でも、あの時は服が重くて!」

加賀
黙れ

甘くて苦いキスに、次第に夢中になっていく‥

(ずっと、こんなに大事に想ってくれてたんだ‥)
(彼女扱いしてほしい、なんて思ってたけど‥きっとずっと加賀さんは、私を‥)

サトコ
「‥ほんとに、加賀さんってわかりづらいですよね」

加賀
あ゛ぁ?

サトコ
「なんでもないです‥」

(本当に滅多に‥ごくまれに‥たまにしか、『愛されてる』って感じないけど)
(それが加賀さんらしさ‥なんだよね)




怒涛の合宿が終わり、日常が戻ってきた。

鳴子
「あーあ、結局、海で泳いだのはサトコだけか」

サトコ
「いや、私は泳いだんじゃなくて溺れただけだから‥」

千葉
「はあ、海か‥羨ましいよ」

鳴子
「千葉さんは山合宿だったんだよね?どんな感じだったの?」

千葉
「‥‥‥」
「死‥」

サトコ
「死!?」

千葉
「いや‥」
「とにかく‥地獄だった」

(いったい何があったんだろう、石神教官たちとの合宿‥)

千葉
「2人はどうだった?海合宿」

鳴子
「それがねー!実はサトコが加賀教官に‥」

男子訓練生A
「なあ、聞いたか?氷川と加賀教官の話!」

自分の名前が聞こえた気がして、耳を傾ける。

男子訓練生B
「聞いた聞いた!2人がキスしたって話だろ!?」

サトコ
「!?」

鳴子
「あーあ、もう広まっちゃってるんだ」

千葉
「え!?何、どういうことだよ!?」

サトコ
「いや、あの‥!」

(まさか、合宿所の外でキスしたの‥誰かに見られてた!?)
(どどど、どうしよう‥!大変なことに)

加賀
なんの騒ぎだ

スッと、加賀さんが私の後ろに立つ。

サトコ
「どどど、どうしましょう‥!あのことが、みんなに‥!」

加賀
あのこと‥?

男子訓練生C
「オレなんて間近で見たぜ、2人のキス!」

サトコ
「!!!???」

加賀
‥‥‥

男子訓練生A
「すごかったんだろ?加賀教官の方が!」

(もうダメだ‥!)

男子訓練生C
「ああ‥!もう必死で人工呼吸してたんだよ!」

サトコ
「‥え?」

千葉
「人工呼吸!?」

鳴子
「そうなの!サトコったら、子どもを助けようとして逆に溺れちゃって」
「加賀教官が颯爽と助けて、人工呼吸して‥ほんと、映画みたいだった!」

男子訓練生C
「すげーかっこよかったぜ、加賀教官!あっという間に氷川を助けてさ」

サトコ
「じ、じ、人工呼吸‥?」

(そんなの‥聞いてないよ!)

加賀
なんだ

サトコ
「もしかして、応急処置ってそのことだったんですか‥!?」

加賀
さあな

いつものようにニヤリと笑われ、それ以上何も言えなくなる。

(人工呼吸とはいえ、みんなの前でキスしたなんて‥!)

恥ずかしいような嬉しいような、複雑な気持ちを抱えながら‥
おたおたする私を見下ろして満足そうに笑う加賀さんを、こっそり眺めていた‥

Happy  End

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