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合宿 東雲2話



翌日‥

加賀
クズ共が、ちんたら反復横跳びやってんじゃねぇ
テメェらはカニか?カニなら茹でて食うぞ、このカスが

鳴子
「加賀教官‥今日も怒涛の攻めっぷりだね」

サトコ
「う、うん‥」

(こんなにキツいの、剣道の合宿以来かも‥)

それでも、なんとかその日の訓練を終えて‥



東雲
2人1組になった?
それじゃ、早速肝試しを始めようか
受付係、地図配って

サトコ
「はい!」

(お化け役の人たち、もう配置場所に着いたかな)

男子訓練生A
「なあ、聞いたか?お化け役に加賀教官がいるらしいぜ」

(えっ‥)

男子訓練生B
「マジで?それ、どこ情報?」

男子訓練生A
「衛藤から聞いたんだよ」
「どうも東雲教官が頼んでたらしいぜ」

(そ、そんなの初耳なんですけど!)
(よかった。私、裏方役で‥)

東雲
‥はい、説明は以上
じゃあ、まずは1組目ね
用意‥スタート!

教官の合図とともに、みんなは5分おきに出発していく。

東雲
‥15分経過。そろそろ幽霊と遭遇?

サトコ
「そうですね、分岐点の暗号解読に失敗した場合ですけど」

(そんなに難しい暗号じゃないから、失敗なんて滅多にないはず‥)

男子訓練生
「うわあああああっ」

(‥あれ?)

男子訓練生
「出たぁぁぁっ」

男子訓練生
「ぎゃあああっ」

東雲
ハハハッ、失敗したんだ

(教官、めちゃくちゃ嬉しそう‥)
(でも、おかしいな。そんなに難しい暗号じゃなかったはずなのに)

その後も、次から次へと悲鳴が届き‥

東雲
はい。じゃあ、ラスト1組ね
用意‥スタート!

(よかった、これで全員おしまいだよね)

東雲
さて‥と
キミは10分後に出発ね

(えっ!?)

サトコ

「どうしてですか!私、今日は裏方で‥」

東雲
だからでしょ
全ルートをまわって、仕掛けた物を撤収して来て

(うっ、そうきたか)

(うわ‥1人で歩くと怖いなぁ)

ゴツッ!

サトコ
「痛っ!」

(なにこれ‥ゴミ?)
(ま、いいや。ついでに拾っておこう)
(次のチェックポイントは‥)

(ここだよね。暗号の設置場所‥)

サトコ
「ん?」

(あれ?暗号用のボードがない?かわりに細長い紙が‥)
(なんだろう、文字が書いてあるみたいだけど‥)

???
「見ーたーなー」

サトコ
「!!!」

(い、今の声‥っ!)

サトコ
「驚きません!今度こそ驚きませんから‥っ」

東雲
そんな、しゃがみこんで言われても

(うっ、悔しい‥!)

東雲
また腰抜けた?

サトコ
「い、いえ‥今回は平気です」
「それより暗号を書いたボードがないんですけど‥」

東雲
ああ、アレね
差し替えておいたから

サトコ
「えっ、なにに‥」

東雲
この細長い紙に
これ、『スキュタレー暗号』の応用版でさ
こうやって巻きつけるとメッセージが出るんだけど、さらにそこにひと手間くわえて‥

(‥どうりでみんな、解読できないわけだ)
(ほんとよかった‥私、裏方で‥)

東雲
ところで今、何時?

サトコ
「えっと‥22時30分です」

東雲
反対側のルートは?
もう行ってきた?

サトコ
「いえ、これからまわる予定ですけど」

東雲
だったら、そっちはオレが行く
キミは、ほこらに仕掛けたものを回収してきて

サトコ
「わかりました」

星空の下、私は少し離れた場所にあるほこらへと向かう。

(夜の海ってなんだか怖いな)
(すぐ近くまで波がせまってきてるみたい‥)

サトコ
「よし、ボードと赤い紐を回収‥っと」

ガツッ!

(またゴミ?って‥)
(なに、このすごいゴミの量‥)

懐中電灯で照らしてみると、ほこらの裏や脇にゴミが散らばっている。
空き缶、空きビン、花火のあと‥かなりの量だ。

(とりあえず、拾える分だけ拾っちゃおう)
(このまま放置しておくのもなんだし‥)

サトコ
「‥ふぅ」

(よし、これでだいぶきれいになったよね)
(あとは帰るだけ‥)

東雲
‥やっぱりここか

(えっ)

サトコ
「あ、おつかれさまです」

東雲
おつかれさまじゃない
今までなにしてたの

サトコ
「なにってゴミ拾いを‥」

(あれ、教官のズボン、濡れてる‥?)

東雲
周辺確認して

サトコ
「は、はい‥」

(えっ、海!?)
(あっちも‥それにこっちも‥)

いつの間にか来た道が消えて、まわりはすべて海になっている。

サトコ
「ど、どうして」

東雲
あと20分で満潮だから

サトコ
「じゃあ、浜辺に戻るのは‥」

東雲
無理に決まってるでしょ
これからどんどん水位があがるのに

サトコ
「そんな‥」

(そういえば、ここに来るとき波が迫ってくるように感じた気が‥)
(あれって、暗くて視界が悪いせいじゃなかったんだ)

サトコ
「ちなみに干潮時刻は‥」

東雲
6時間後

サトコ
「ですよね」

(こうなったら‥)

<選択してください>

A:ひたすら謝る

サトコ
「すみません!本当にすみません!」

東雲
謝って済むなら‥

サトコ
「公安はいりません!」
「わかってます!でもすみません!」

東雲
‥ま、いいけど
あとで反省文5枚提出

サトコ
「はい!5枚でも10枚でも‥」

東雲
10枚は書けないでしょ
それより‥

B:スマホを取り出す

サトコ
「とりあえず電話‥」

東雲
無理だよ。ここ、電波の入りが悪いし
ほら

教官がスマホを見せてくれる。

(ほんとだ、アンテナがゼロ‥)
(っていうか、この待受画面!)

サトコ
「私の寝顔‥!」

東雲
ああ、これね
この間、誰かさんが口を開けて爆睡してたから‥

サトコ
「消去!消去してください!」

東雲
大丈夫。覗き見防止シート貼ってあるから

サトコ
「そういう問題じゃないんです!」
「その写真自体が問題で‥」

東雲
そんな騒いでないでさ

C:準備体操をする

サトコ
「いっちにー、さんしー」

東雲
‥なんで準備体操?

サトコ
「泳いで戻ろうかと」
「私、『長野のカッパ』ですから」

東雲
え‥カッパって海水平気なの?
川の妖怪じゃないの?

サトコ
「うっ、それは‥」

(どうなんだろう、海って平気なの?)
(でも、川魚は海では生きていけないっていうし‥)

東雲
ま、くだらないこと考えてないで

東雲
キミも座れば?
時間は余ってるんだし

サトコ
「‥そうですよね」

(やっぱり干潮まで待つしかないんだ)
(でも、それって6時間後なわけで‥)

東雲
ラッキーだったね

サトコ
「えっ」

東雲
オレと2人きりになれて

サトコ
「そ、それは状況にもよるっていうか‥」
「でも、正直助かりました」
「私1人だったら今頃パニックになってたと思います」

東雲
だろうね
しかもキミのことだから、さらにバカなことをしでかし‥
‥っくしゅん!

(そうだ‥教官、服が濡れてたんだ)
(だったら、私よりもずっと身体が冷えてるはず)
(こういうときって、ドラマや映画だと2人で‥)

サトコ
「‥っ」

(ないない!雪山で遭難したわけじゃないんだし!)
(でも‥)

東雲
くしゅんっ!

サトコ
「‥‥‥」

東雲
やば‥花粉症‥

(そんなはずないよ。花粉症の季節でもないのに)
(‥よし、こうなったら)

サトコ
「教官!あ、あ‥」

東雲
なに?

サトコ
「あっためましょうか、私が!」

東雲
‥‥

サトコ
「ふ、服とか濡れてるみたいですし!」
「こういうときはよけいに身体が冷えるから、いっそ人肌で‥」

東雲
冷えてるの、下半身なんだけど

(え‥)

東雲
海に浸かったの、腰から下だし
それともなに?
キミ、分かった上で『あたためる』って言って‥

サトコ
「すみません、やっぱり今のは忘れてください!」

思わず土下座した私の頭上に、意地悪そうな声が降ってくる。

東雲
えー脱ごうか?
キミ、あたためてくれるんだよね?
それも人肌で‥

サトコ
「無理です!上半身が限界です!」
「か、下半身はさすがにちょっと‥」

(っていうか下半身をあたためるってどうやって‥)

東雲
‥バカ、なに本気にしてんの
冗談に決まってるでしょ

(うっ‥)

東雲
それに、そんなことされたら‥
‥する自信ないし

(え‥)

聞き返すかわりに、教官をまじまじと見てしまう。

(なんか‥こんなときにこんなことを考えるのもアレだけど‥)
(教官もいろいろ我慢してるのかな‥)

東雲
‥‥‥

(‥いや、でもいつも『色気ない』って言われてるし)
(で、でも、なんかときどきすごいキスされることあるし‥)
(でも、でもでも‥!)

サトコ
「‥‥‥」

(‥やめよう。なんだか恥ずかしくなってきた)
(ほんと、少し落ち着かないと‥)

ふと足元を見ると、赤い紐が1本落ちている。

(回収するときに落としたのかな)

赤い紐の右端は私の足に、左端は教官の足元に伸びている。
見方によっては、紐が2人をつないでいるように見えなくもなくて‥

(なんか、これって運命の‥)

東雲
またおたふくになってる

サトコ
「!」

東雲
今度はなんで笑ってんの

サトコ
「そ、それは‥」
「言ってもバカにしませんか?」

東雲
ましなバカレベルの話題ならね

(うっ‥)

東雲
ま、ひとまず話してみれば?
ひまつぶしにはなるかもしれないし

サトコ
「‥じゃあ、言いますけど」
「この紐、『運命の赤い糸』みたいだなぁって」

東雲
‥‥‥

サトコ
「端っこと端っこが教官と私に伸びていて」
「なんだか私たちをつないでいる赤い糸みたいで‥」

東雲
糸じゃなくて紐ね

サトコ
「そ、そうですけど!」
「それはそれで強そうじゃないですか!」

東雲
‥‥‥

サトコ
「滅多な事じゃ切れなくて‥」
「なかなかいいんじゃないかなー‥なんて」

東雲
寒‥

(うっ、やっぱり‥)
(でも、これくらいのことは慣れっこだし!むしろ想定内で‥)

東雲
こっち来て

サトコ
「え‥」

東雲
やっぱり温まりたい

(ええっ、いきなり!?っていうか、それって‥)

サトコ
「む、む、無理です。下半身をあたためるのはさすがに‥」

東雲
違う、こっち

教官は、私の背中を包み込むように抱きしめる。

(あ、そういうこと‥)
(なんだ、びっくりしたぁ)

ホッとしたせいか力が抜けて、私は教官に寄りかかる。

サトコ
「どうですか、教官」

東雲
‥‥‥

サトコ
「あったかいですか?」

東雲
‥‥‥

(あれ、反応が‥)

サトコ
「あの、教官‥聞いて‥」
「‥っ」

いきなり耳に歯をたてられて、私は思わず息を飲む。

サトコ
「教官、なにを‥」

東雲
体温あがった‥

サトコ
「上がりますよ!そんなことされたら‥」

東雲
じゃあ、これは?

サトコ
「‥っ」

(今度はうなじ!?)

東雲
さっきより熱い‥

サトコ
「だ、誰のせいだと‥」

東雲
キミのせい

(え‥)

東雲
キミが運命の赤い糸なんて言うから‥
こんなの、くだらないって思ってたのに
キミに言われると、なんか‥

(『なんか』‥なに?)

聞き返そうとしたその時、

グイッ!

サトコ
「痛ぁっ」

(な、なんでいきなり背中を押して‥っ)

???
「なにやってんだ、お前ら」

(この声‥!)

東雲
見てのとおり柔軟体操ですよ、兵吾さん

(や、やっぱり加賀教官!?)
(でも、なんで!?今は満潮だからここには来られないんじゃ‥)

東雲
それでボートは?

加賀
そこに停めてある。船頭を待たせているから早く乗れ

東雲
わかりました
さあ、行こうか、氷川さん

どうやら東雲教官は、ほこらに来る前に加賀教官に連絡していたらしい。

東雲
ほんと遅いですよ、兵吾さん
もっと早く助けに来てくれると思ってたのに

加賀
うるせぇ、仕方ねぇだろうが
肝試しでクズ共がバタバタ倒れたんだよ

東雲
どうせ兵吾さんが本気で脅かしたせいでしょ

加賀
テメェこそ、奴らが俺の待機ルートに来るように仕向けただろうが

東雲
ははっ、バレました?

(結局、教官はわかってたんだ。加賀教官が来てくれるって‥)
(そうだよね。じゃなかったら、もっと慌ててるはずだよね)
(でも、それにしたはいろいろなことがギリギリだった気が‥)

耳やうなじに、教官の唇の感触がよみがえる。
頬が熱くなったのがわかって、それとなく私は2人に背中を向けた。

(ほんと、ギリギリすぎ‥)
(はやく忘れないと、明日の訓練に支障が出そうだよ)

消灯時間を過ぎていることもあって、どこも電気が消えていた。

加賀
ったく‥テメェら、この俺の睡眠時間を削りやがって

サトコ
「申し訳ありませんでした」

東雲
この埋め合わせは近いうちにしますんで

加賀
‥チッ

東雲
さて‥と
キミも部屋に戻れば?もう眠いでしょ

サトコ
「はい。でもその前に一言だけ‥」

東雲
なに?

<選択してください>

A:痕、残ってませんよね?

サトコ
「痕、残ってませんよね」

東雲
痕?

サトコ
「その‥うなじに‥」

東雲
ああ、アレね

教官の指先が、私の後ろ髪をすくいあげる。

(うわ、くすぐったい‥)

東雲
そうだね‥今回は大丈夫じゃない?

サトコ
「そ、そうですか。よかっ‥」

東雲
ここだったよね、キスしたの

サトコ
「‥っ」

東雲
あれ、こっち?

(ゆ、指先で撫でないで‥!)

必死に声を押し殺していることに、気づいたのか気づいていないのか‥
教官はようやく指を離してくれる。

B:ご迷惑をおかけしました

サトコ
「いろいろご迷惑をおかけしました」

東雲
ほんとにね
まだズボンも下着も濡れてるし

(うっ‥)

東雲
ま、この借りは近いうちに返してもらうけど
キミの新しい弱点もわかったことだし

サトコ
「弱点?」

東雲
そう。耳以外にね

(な、なんだか嫌な予感が‥)

C:髪の毛、跳ねてます

(言うべきかどうか、ずっと迷ってたけど‥)

サトコ
「教官‥髪の毛、跳ねてます‥」

東雲

サトコ
「って言っても、ほんの少しだけ‥」

東雲
いつから!?

サトコ
「えっ、た‥たしか‥」
「ほこらに来てくれた時から‥」

東雲
ちっ

(舌打ち!?加賀教官でもないのに舌打ち!?)

東雲
‥ま、いいや

東雲
じゃあ、また明日

サトコ
「おやすみなさい」

(よし、教官を見送ったら、私も部屋に戻って‥)

東雲
‥‥‥

サトコ
「‥‥‥」

(‥あれ?)

東雲
早く戻れば

サトコ
「教官こそ、先に戻ってください」

東雲
キミが先でしょ

サトコ
「いえ、私、補佐官ですし」
「こういうときは上官を見送らないと‥」

東雲
‥生意気

(ええっ!?)

サトコ
「どこがですか!今のはごく一般的‥」

東雲
うるさい

ちゅっ!

サトコ
「な‥っ」

(なにこれ、おやすみのキス的な!?)

東雲
まわれ右

サトコ
「えっ」

東雲
まわれ右!

キスの余韻を感じる間もなく、強引に方向転換させられる。

サトコ
「教か‥」

東雲
こっち向くな

サトコ
「‥‥‥」

東雲
早く戻りなよ

サトコ
「わ、わかりました。おやすみなさい」

(どうしよう、眠気ふっとんじゃったよ)
(これって、絶対明日に支障が‥)

そんなわけで翌朝‥

コンコン!

鳴子
「サトコ、起きてる?入るよー?」
「って、どうしたの、サトコ?そんなにボーっとして」

サトコ
「うん、なんか‥寝不足気味っていうか‥」

鳴子
「ええっ、大丈夫なの?今日は一日尾行訓練だよ」

サトコ
「大丈夫‥朝食までになんとかする‥」

鳴子
「そうしなよ。じゃないと、また加賀教官にドヤされて‥」

ふいに、ドアの向こうでごとんと物音がした。

鳴子
「‥なんだろう。今の音」

ドアを開けた鳴子が「あれ」と声を上げる。

鳴子
「ねぇ、この袋差し入れかな」
「ドアノブにかかってたんだけど」

(えっ‥)

鳴子
「あ、これ、私が昨日飲んでたスポーツドリンクだ」
「あとは栄養ドリンクと‥」
「‥なにこれ」
「この赤い紐、たしか昨日肝試しで使ったやつ‥」

サトコ
「ちょっと貸して!」

私は袋を受け取ると、急いで中身を確認する。
たしかにそこには、スポーツドリンクと眠気覚まし系の栄養ドリンク‥
そして、見覚えのある「赤い紐」が入っていた。

(もしかしてこれ、昨日私が『運命の糸』って言った‥)

鳴子
「‥なにニヤけてんの」

サトコ
「そ、そんなことは‥」

鳴子
「そうかな、あやしいなぁ」
「そういえば、昨日も消灯過ぎに戻ってきたみたいだったし‥」
「もしかしてなにかあったとか‥?」

サトコ
「ほ、ほんとになにもないってば」
「さ、今日も一日がんばろう」

外は快晴。
今日も暑い一日になりそうだ。

Happy End

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