カテゴリー

書き初め 加賀1話

(今日は加賀教官が監守の日だし、ちょうどよかった)

サトコ
「失礼します。教官、今お時間いいですか?」

加賀
ダメだ

サトコ
「‥出直します」

そっと開けたドアを再び閉めようとしたとき、教官がこちらに歩いて来てドアを開ける。
そして、私の腕をつかんで引っ張ると、乱暴にドアを閉めた。

サトコ
「なっ!?」

加賀
誰に用事だ

サトコ
「え?加賀教官に‥」

(っていうかここ、教官しか使ってないのに)

加賀
‥誰に、だ?

ドスの効いた声でそう尋ねられて、ハッとなる。

サトコ
「あの‥か、加賀さんに‥です」

加賀
入れ

手を離し、加賀さんがさっさと奥へと歩いていく。

(つい、いつもの癖で『教官』って呼んじゃった‥)
(クリスマスに、ふたりきりのときは『加賀さん』って呼ぶように言われたんだよね)

加賀
何の用だ

サトコ
「実は、実家からリンゴが送られてきたんです」
「加賀さん、リンゴ好きですか?」

加賀
剥け

サトコ
「えっ、いま食べるんですか?」

加賀
ちょうど甘いもんが食いたかったところだ

(『ちょうど』って‥加賀さんが甘いもの食べたくない時なんて、ほとんどないよね)

加賀
なんか言ったか?

サトコ
「な、何も言ってません!」

逃げるようにキッチンへ行くと、持ってきたリンゴを剥き始める。

サトコ
「そうだ!加賀さん、リンゴでウサギ作っていい‥」

ですか、と聞こうとした時、突然、耳たぶに加賀さんの手が触れた。

サトコ
「ひゃっ」

加賀
相変わらず、耳が弱いな

サトコ
「や、やめてください!耳、ぷにぷにしないで‥!」
「包丁持ってますし、危ないですから‥!」

加賀
そんなもん、あとにしろ

サトコ
「ええ!?」

<選択してください>

A: 自分が剥けって言ったのに

サトコ
「自分が剥けって言ったのに‥」

加賀
反抗期か?

サトコ
「普通に反抗です‥!」

加賀
いい度胸だな

(言うと思った‥!)

B: リンゴ食べないの?

サトコ
「り、リンゴ‥食べないんですか?」

加賀
お前を食ったあとだ

サトコ
「私は食べ物じゃないですよ‥」

加賀
似たようなもんだろ

(リンゴ扱い!?)

C: リンゴウサギ作りたい

サトコ
「待ってください!私、リンゴウサギ作りたいんです!」

加賀
それもあとだ

問答無用で、加賀さんが私の腰を自分の方へ引き寄せる。

サトコ
「あっ‥」

低い笑い声が、耳元で聞こえる。
ゾクリと身体が震える私を見て、加賀さんがまた笑った。

サトコ
「み、耳元で笑わないでください‥!」

加賀
感じやすくなるからか?

崩れ落ちそうになる私の腰を支えて、加賀さんが自分の方を向かせる‥

(結局いつも、加賀さんのペースに巻き込まれちゃう‥)

(もうすぐ年末か‥年越しは、加賀さんと一緒に迎えられたらいいな)

冬休みも、目の前に迫ったある日のこと。

(ほとんどの人が寮からいなくなるから、きっとすごく閑散とするだろうな)
(そんなところで一人なんて寂しいし、出来れば加賀さんと年越ししたいけど)

東雲
え?そう?そういうのが好み?

黒澤
よくないですか?あ、でも歩さんの好みってちょっと違いますよね

東雲
まぁ、普通の人と付き合ってもおもしろくないけどね

廊下の曲がり角の向こうから、東雲教官たちの声が聞こえてきた。

黒澤
でも確かに、普通の相手だと飽きちゃいますよね
長く付き合うことを考えたら、飽きない人がベストかな~

東雲
そもそも、ずっと一緒にいたいと思うような相手になんて‥
滅多に会えないんじゃない?

(長く付き合うには、飽きない人がベスト‥)
(って‥これ、完全に立ち聞きだ‥!)

慌てて引き返そうと踵を返したとき、背後に誰かが立つのを感じた。

東雲
さてと
サトコちゃん、偶然だね

サトコ
「!」

黒澤
あれ~?サトコさんじゃないですか。加賀さんお気に入りの!

(なんでそこ、強調するの!?)

サトコ
「こ、こんにちは‥」
「えーと私、そっちの資料室に用があるので‥」

東雲
へえ?それなのに、どうして資料室を通りすぎてここにいるんだろうね?

満面の笑顔の東雲教官に、冷や汗が流れる。

サトコ
「あーっ、私、加賀さんに早く戻ってこいって言われてるんでした!」

東雲
『加賀さん』?

東雲教官の言葉に、ハッとなった。

(マズイ‥つい口が滑った!)

黒澤
『加賀さん』?『加賀さん』って言いました?今!

サトコ
「いや、あの‥!」

黒澤
加賀さん?加賀教官じゃなくて!?

サトコ
「あう‥うう‥」
「わ、私‥失礼します!」

逃げるように廊下を走り出す私には、そのあとの2人の声は届かなかった。

黒澤
サトコさんって、ほんと飽きないですよねぇ

東雲
そう?ただのおバカさんなんじゃない?

(はぁ、さっきはほんとに危なかった‥)
(でも、飽きない人がいい、か‥加賀さんもそうなのかな)

サトコ
「うーん、飽きない女か‥」

鳴子
「なになに?なんの話?」

サトコ
「あのね、男の人がずっと一緒にいたいって思うのは、飽きない女性なんだって」

鳴子
「何それ、どこ情報?」

(立ち聞きだから、情報源は言えないな‥)

サトコ
「ちょっと小耳に挟んで‥」
「それで、飽きさせないためにはどうしたらいいかなって」

鳴子
「うーん、その辺はやっぱり、男の人に聞くのが一番じゃない?」
「あっ、千葉さん、千葉さーん!」

ちょうど教場に入ってきた千葉さんに、鳴子が手招きする。

千葉
「な、何?どうしたの?」

鳴子
「男の人って、飽きない女の人が好きなの?」

千葉
「え?うーん、どうかな、人それぞれだと思うけど」
「でも確かに、一緒にいていつも新鮮な気持ちになれる人っていいよね」

(いつも新鮮な気持ちになれる人、か‥確かにそれって大事だよね)
(よし!寮に帰ったら、ネットで色々調べてみよう!)

翌日、私は鳴子たちの話やネットの情報をもとに、
『飽きさせないためには、サプライズが大事』という結論に至った。

サトコ
「‥というわけで、驚いてもらうためにはどうしたらいいかなって考えたんですけど」
「年末から年明けにかけて」
「花火の打ち上げをしてる浜辺の公園があるんです!」
「好きな人を、そこに連れて行きたくて‥どう思いますか!?」

後藤
‥‥‥

石神
「‥‥‥」
‥なぜそれを、俺たちに話す?

サトコ
「すみません‥東雲教官は絶対からかってくるので」

(それに、東雲教官は絶対、私たちが付き合ってることに気づいてる感じだし‥)
(本当は颯馬教官が一番、参考になりそうな意見をくれるかと思ったんだけど)

颯馬教官は外出中だったので、教官室にいた2人に聞いてみたのだった。

サトコ
「それでですね、男性から見て、そういうのはどうかと」

後藤
どう、というのは‥
‥‥‥

何かを言いかけて、後藤教官が言いよどむ。

石神
‥‥

石神教官も、なぜか微妙な表情のまま私から目を逸らした。

サトコ
「あの‥?やっぱり好きな人とそういうところに行きたいって思うのは、女だけでしょうか」

石神
いや‥

加賀
好きな奴と、ねぇ

サトコ
「‥‥‥」
「!?」

恐る恐る振り返ると、そこには加賀さんが立っていた。

サトコ
「か、加賀さ‥加賀教官、いつからそこに‥」

加賀
てめぇのデカい声のせいで
花火がどうのこうのって辺りから、廊下の向こうまで聞こえてた

(そんな‥じゃ、全部聞かれた!それじゃサプライズにならない‥!)

加賀
で?サプライズは成功しそうか?

サトコ
「そ、それは‥」

加賀
いいんじゃねぇか、花火を見ながら年越しってのも
せいぜい頑張れよ『サプライズ』

サトコ
「う‥」

(完全にからかわれてる‥!)
(加賀さんがいないと思って油断してた‥!)

石神教官と後藤教官は、何もなかったかのように自分のデスクへ戻っていく。

サトコ
「えっと‥加賀教官は、年越しはどうするんですか?」

加賀
いつもと同じだ

サトコ
「あの、もしかして、ちょっと出かけたり‥」

加賀
てめぇ、なんのために寮に残ると思ってる?

サトコ
「ですよね‥」

(年末年始は寮生代表として残るんだから、寮を空けちゃマズイよね)

でもやっぱり、加賀さんと過ごせないのは、寂しい気がした。

公安学校の修了式も終わり、今日から冬休みに入った。

(みんな早速出て行っちゃったな‥あんなに広い寮に人がいないなんて、ちょっと怖い‥)
(部屋に引きこもってしばらく出なくていいように、色々買いだめしておこうっと)

コンビニで、カゴいっぱいのお菓子やジュースを買い込む。
すると、ちょうどお店に入ってきた東雲教官と目が合った。

(ま、まずい!こんなにお菓子を買いだめしてるのを見られたら、何を言われるか‥!)

東雲
今、まずいって思ったでしょ

サトコ
「!」

いつの間にか私の背後に立った東雲教官が、笑いながら囁いてくる。

東雲
サトコちゃんって、ほんとに考えが顔に出やすいよね

サトコ

「きょ、教官もお買い物ですか‥?」

東雲
飲み物を買いに来たんだけど、ついでに兵吾さんにタバコ頼まれてね
もしかしてそのお菓子、正月寮に引きこもる用?

(バレてる‥)

東雲
そっか、年末はサトコちゃんが寮の居残り組だっけ
成田教官も、容赦ないことするよね

サトコ
「い、いいんです‥最近はお正月でも色々、テレビとかやってますから」
「家にいても、そんなに変わらない生活だし」

東雲
あ、家にいても結局引きこもるんだ
くっらーい

(う‥)

東雲
まぁ、居残り組だって初詣くらいは行くんでしょ?

サトコ
「初詣‥」

(一人で行っても、なんか寂しい‥でも加賀さんが一緒に行ってくれるはずないし)

サトコ
「うーん、たぶんずっと部屋にいると思います」

東雲
そうなの?寂しい正月だね

サトコ
「うう‥」

東雲教官に言い返すことができないまま、すごすごとレジへ向かった。

12月31日、大晦日。

サトコ
「寮で一人ぼっちの年越しか‥」
「年が明けたら、加賀さんに電話してみようかな」

(もしかして、ちょっとくらいなら会えるかもしれないし)

じっと携帯を見つめていると、不意にメールが届いた。

(加賀さんから‥!?『今から出かけるぞ』!?)
(なんで?寮から出ちゃダメって言ってたのに)

それでも急いで支度をして、寮を飛び出した。

寮を出ると、加賀さんはすでに車で待っていてくれた。

助手席に乗り込むと、すぐに車が動き出す。

サトコ
「あの‥加賀さん」

加賀
なんだ

<選択してください>

A: どこに行くんですか?

サトコ
「これから、どこに行くんですか?」

加賀
黙って乗ってろ

サトコ
「でも寮を空けちゃダメだって‥あんまり長い時間は出かけられないんじゃ」

加賀
誰がダメだって言った

サトコ
「え?」

加賀
てめぇは、どこまでもバカ正直だな

B: 寮を空けていいの?

サトコ
「今寮に誰もいないんですけど、空けていいんですか?」

加賀
問題ねぇ

サトコ
「でも、誰かいなきゃいけないんじゃ」

加賀
バカをひとり置いてきた

(バ、バカ?)

加賀
まぁ、てめぇが他の寮生が帰ってくるまで部屋にこもっていたいなら、止めねぇが‥

サトコ
「い、いえ!それはさすがに寂しいです‥」

C: あけましておめでとうございます!

サトコ
「あ、あけましておめでとうございます!」

加賀
まだだ

時計を見ると、確かに新年までまだあと数時間ある。

サトコ
「すみません。嬉しくてフライングしました‥」
「でも、年が明ける前には寮に戻らなきゃダメですよね?」

加賀
戸締りさえしっかりしてりゃ、出かけても問題ねぇ
てめぇ一人いたところで、何も変わらねぇだろ

サトコ
「でも、そのための居残りだって」

加賀
一応、名目はな

(そうだったんだ‥じゃあ加賀さん、私が寂しいと思ってわざわざ誘いに来てくれたのかな)
(‥あれ?この先って、もしかして)

サトコ
「‥加賀さん」

加賀
黙って乗っていられねぇのか

サトコ
「だって‥もしかして、あれって」

驚く私を見て、加賀さんが満足そうに笑う。

車がついた場所‥そこは‥‥‥‥

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする