カテゴリー

書き初め 颯馬2話

翌朝。
私と颯馬教官は竹刀を構える。

サトコ
「‥‥‥」

颯馬
‥‥‥

颯馬教官と対峙をしていると、昨日のことが脳裏を過った。

颯馬教官の顔が、ゆっくりと近づいてくる。

サトコ
「っ‥」

私は思わず、目を瞑った。

サトコ
「‥?」

だけど、いくら待っても唇に感触がない。

颯馬
髪‥

サトコ
「え‥?」

颯馬
髪の毛に糸くずがついてますよ

目を開けると、颯馬教官がにっこりと微笑んでいた。

サトコ
「あ、あの‥」

颯馬
あ、そうだ。明日は一緒に初詣に行きましょう

サトコ
「はい‥って、えっ?初詣‥?」

颯馬
はい。初詣、です

(い、今のはもしかして‥)

ニコニコ笑みを浮かべている教官に、私はからかわれていることに気づくのだった。

颯馬
やあっ!

サトコ
「っ!」

パシンッ!

意識を教官に向けるも、打ち込まれてしまう。

颯馬
集中!

サトコ
「は、はい!すみません!」

(いけない‥今は稽古中なんだから!)

私は頭を振り、目の前のことに集中した。
それから私たちは、お互いに打ち込みあう。

サトコ
「やあっ!」

パシンッ!

竹刀を教官めがけて叩き込むも、決定打にはならない。

颯馬
打ち込みが軽い!

サトコ
「っ‥‥」

パシンッ!

颯馬
一本、ですね。今日はここまでにしましょう

サトコ
「はい‥ありがとうございました」

私は姿勢を正し、教官に向かって一礼する。

(はぁ、教官から一本取るにはまだまだな‥)

颯馬
お疲れ様でした。それでは、シャワーを浴びて着替えたら、初詣に行きましょう

サトコ
「はい!」

(昨日はみんなで忘年会になっちゃったけど‥今日こそは、教官と2人きりで過ごせるんだ‥)

私はウキウキした気分で、防具を外す。
こうして、新年初めの稽古は終わった。

神社にはいろいろな出店があり、人で溢れかえっていた。

颯馬
なにか食べたいものはありますか?

サトコ
「う~ん、いろいろあって迷っちゃいます‥あ、リンゴ飴だ!」
「子どもの頃大好きでよく食べてたなぁ‥」

颯馬
ふふ、昨日大きなリンゴを食べたばかりですよ?

サトコ
「は!そうですね、たしかに‥」

颯馬
ちょっと待っていてください

颯馬教官はそう言って屋台に行くと、大きなリンゴ飴を買って来てくれる。

颯馬
どうぞ

サトコ

「あ、ありがとうございます」

私はお礼を言うと大きな口を開け、パクッとリンゴ飴を頬張る。

サトコ
「~っ、甘くておいしいです!」

颯馬
貴女のその顔を見られるなら‥なんでも買ってしまいそうですね

サトコ
「そ、そうですか‥?」

颯馬
他に何を食べます?
焼きそばとお好み焼き‥ああ、それから‥

サトコ
「ま、待ってください!そんなに食べたら、太っちゃいます!」

颯馬
お一人で食べるつもりですか?

サトコ
「!」

(またからかわれたー!!)

サトコ
「颯馬教官、昨日から意地悪です!」

颯馬
すみません
私にも好きな子を苛めたくなる子供心が未だ残っていたようです

サトコ
「‥‥‥」

(ズルい‥怒れなくなるのに‥)

颯馬
口の端に、飴ついていますよ?

教官は私に顔を近づけると、ペロリと口の端を舐めた。

サトコ
「!?」

颯馬
はい、とれた

サトコ
「子ども扱いしないでください」

颯馬
子ども扱いなんてしていませんよ
‥サトコは、私の大切な女性ですから

サトコ
「う‥」

(私、颯馬教官に一生勝てない気がする‥)

リンゴ飴を食べ終わり、再び境内を歩いていると、おみくじを見つけた。

サトコ
「教官、おみくじを引いてみませんか?」

颯馬
そうですね。行きましょう

私たちはそれぞれおみくじを引き、巫女さんから紙をもらう。

(今年の運勢はなんだろう‥大吉だといいな‥)

ドキドキしながらおみくじを見ると、そこには『吉』と書かれていた。

(吉か‥悪くはないんだけど、なんていうか‥微妙かも‥)

颯馬
‥‥‥

サトコ
「私は吉でした。颯馬教官はどうでした?」

颯馬
大凶ですね

サトコ
「えっ、大凶!?見せてもらってもいいですか?」

教官のおみくじを見ると、確かにそこには『大凶』と書かれていた。

サトコ
「わぁ、大凶ってすごいです!」
「私、初めて見ました。逆に大当たりですよ!すごい!」

颯馬
「‥大凶が大当たりとは‥サトコさんは、本当に面白い方だ
サトコさん‥
コレです

私は教官からおみくじを受けとると、運勢の欄に目を通す。

颯馬
『大切な人は目の前に』‥と、書かれていますよ

サトコ
「えっ!?」

私は教官の持つおみくじの恋愛欄に、視線を落とす。

(本当だ‥『大切な人は目の前に』って書かれてる‥)

サトコ
「ふふっ」

颯馬
うれしそうですね

サトコ
「はい!だって、その‥私の大切な人は、教官ですから‥」

颯馬
じゃあ、同じですね

教官は人差し指を唇に当て、ニッコリと微笑んだ。
私たちはおみくじを枝に括り付けた。

拝殿に移動し、お賽銭を投げて鐘を鳴らすと、手を合わせた。

(今年は颯馬教官と、もっとラブラブになりたいです‥)
(買い物をしたり、旅行に行ったりして仲を深めて‥)
(いずれは‥‥なんて、まだまだ先の話だよね)
(だけど、いつかは‥)

颯馬
‥サトコさん?どうかしましたか?

サトコ
「え‥?」

(そ、颯馬教官、もしかしてもうお願い事終わったの!?)
(ていうか、私が長々とお願い‥というか、妄想してたから‥!)

サトコ
「も、もう少し待っててください」

(いけない、もっとちゃんとしたことお願いしなきゃ)
(学校でいい成績を収め、立派な公安になれますように)
(事件が起こらず、一般の皆さんが安全に暮らせますように‥)

最後にそう締めくくると、私たちは拝殿を後にした。

颯馬
随分と長いお願いをしていましたね。何をお願いしていたんですか?

<選択してください>

A: 言う

サトコ
「平和祈願と‥あと、颯馬教官のことをお願いしていました」

颯馬
私の事を?

サトコ
「はい。もっと仲良くなれますようにって‥」

颯馬
貴女からそんな積極的なことを伺えるとは‥
期待、していてもいいですか?

(期待‥!?)

B: 言わない

サトコ
「えっと‥秘密、です」

颯馬
おや、教えてくれないのですか?

サトコ
「こういうのは言わない方が叶うって言いますよね?だから、秘密です」

颯馬
それなら仕方ありませんね
サトコさんにとっては、そこまで叶えたいお願いってことですから

C: 颯馬教官のお願いを聞く

サトコ
「颯馬教官はなにをお願いしたんですか?」

颯馬
そうですね‥それでは、私が何をお願いしたか当ててみてください

サトコ
「教官が何をお願いしたか‥」

(お仕事のことかな?それとも‥)

サトコ
「う~ん‥」

颯馬
なかなか出てこないようですね

サトコ
「‥ギブアップです」

颯馬
そうですか。それでは、答えは‥秘密、ということでお願いします

サトコ
「教えてくれないんですか?」

颯馬
こういうことは、言わない方が叶うと言いますからね

女性
「きゃあっ!わ、私のカバン‥!」

教官と話しながら境内を歩いていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

サトコ
「今の声って‥」

颯馬
あちらから聞こえてきましたね

悲鳴のする方に顔を向けると、女性物のカバンを持った男がこちらに向かって走ってきた。

(あの人、まさか‥)

女性
「だ、誰か!その人を捕まえて!」

(テレビで言ってたスリだ!)
(こうなったら、タックルで‥)

颯馬
サトコさんは下がっていてください

サトコ
「え‥?」

颯馬教官は私に笑みを浮かべ、男の前に立ちはだかる。

スリ犯
「そこをどけ!」

男は大きく腕を振りかぶると、颯馬教官めがけて振り下ろす。

サトコ
「きょ、教官!」

颯馬
‥‥‥

しかし、颯馬教官はなんなくかわすと、男の腕を取って地面にねじ伏せた。

スリ犯
「うぐっ‥」

颯馬
新年早々、スリとは感心しませんね
まぁ、新年ではなくても感心はできませんが‥

スリ犯
「は、離せ‥」

颯馬
離すわけないでしょう?

(すごい‥一瞬で、犯人を捕まえちゃった‥)

教官はそのまま男を押さえつけ、騒ぎを聞きつけた地元警察に身柄を引き渡した。

サトコ
「教官、お疲れ様です」

颯馬
ふふ、ありがとうございます
前にテレビで初詣のスリに注意を呼びかけていましたが‥
まさか、本当に遭遇するとは思いませんでした

サトコ
「そうですね。私もびっくりしました‥」

(だけど‥お参りをして早々、教官は私のお願いを叶えてくれたんだ‥)

市民の平和を守る‥教官がそのお願いを叶えてくれて、頬が緩んだ。

颯馬
おや?なんだか、うれしそうですね

サトコ
「はい!教官が、私のお願いを叶えてくれましたから」
「‥あっ、颯馬教官。あそこに絵馬が飾られてますよ」

私たちは飾られている絵馬の近くに行く。

サトコ
「入学試験や就職の時とか、書きに来たなぁ」

颯馬
やはり、そういったお願いや恋愛に関するものなどが多いですね
絵馬か‥
そうだ、サトコさん、学校に戻ったら、書き初めをしませんか?

サトコ
「書き初めですか?」

颯馬
はい。せっかくのお正月ですしね。一年の目標を書くのもいいでしょう

サトコ
「そうですね」

(一年の目標、か。何を書こうかな‥)

私たちは剣道着に着替えると道場に集まり、今年の目標を書き始める。

(筆って普段はあまり使わないから、書きにくいな‥)

サトコ
「‥よし、出来た!」

颯馬
『立派な公安になれるように、日々精進する』ですか。サトコさんらしいですね

サトコ
「ありがとうございます。颯馬教官は、なんて書いて‥」

(って、ええ!?)

颯馬教官の半紙には、『サトコさんをもっともっと深く愛する』や
『公安のトップを目指す』など、大胆なことが書かれていた。

サトコ
「こ、こんなこと書いていいんですか‥?」

颯馬
いいんですよ。書き初めは自分の目標を再確認するということも含まれているんですから

教官の含みのある笑みに、思わず頬がひくつく。

(公安のトップって‥本当にそんなこと考えてるのかな?)
(そ、それにしても、愛するって‥)

教官からの直球な言葉に、頬が熱くなった。

颯馬
サトコさんも恋人書き初めをしませんか?

サトコ
「恋人書き初め、ですか‥?」

颯馬
はい。恋人としての目標を立てる、ということですね
私ももう一度、書き直しますから

教官は新しい半紙を用意し、書き始める。

(恋人書き初め、か‥何を書こう‥)

私は少し迷ってから、筆を走らせた。

(これでいいかな‥)

颯馬
『剣道も恋も頑張る』‥
ふふ、サトコさんならきっと出来ますよ

サトコ
「はい!ありがとうございます!」
「颯馬教官は‥わぁ!さっきよりも達筆に書かれてる‥」

颯馬
恋人書き初めですからね。先ほどよりも気合いを入れてみました

(『無理せず自分たちのペースで仲を深め合う』か‥)
(私の事ちゃんと考えてくれてて‥何だかくすぐったいな‥)

サトコ
「教官って、すごく字が上手なんですね」
「こんなに達筆に書けるなんてすごいです!」

颯馬
じゃあ、一緒に練習しましょうか

颯馬教官は私の後ろに座り、2人で1つの筆を持つ。
背中が教官の身体を密着し、温もりが伝わってきた。

<選択してください>

A: 恥ずかしいです‥

サトコ
「きょ、教官‥この体勢は、さすがに恥ずかしいというか‥」
「集中しにくいんですが‥」

颯馬
そうですか?ですが、この体勢が一番教えやすいですから
ほら、ちゃんと筆を握って‥違います。筆はこうやって握るんですよ

教官の大きな手が、私の手を包み込んだ。

B: 書きにくくないですか?

サトコ
「か、書きにくくないですか?」

颯馬
私なら大丈夫です
貴女とこうして字を書くのも、いいものですね

サトコ
「そ、そうですか‥?」

颯馬
ここは、力を抜いて、私の動きに合わせてくださいね

C: こ、口頭で教えてもらえれば‥

サトコ
「こ、口頭で教えてもらえれば‥」

颯馬
こういうのは、身体で覚えた方が早いんです

(そういうものなのかな?)

颯馬
ほら、書き始めますから集中してくださいね?

颯馬
ここは、真っ直ぐ流して、最後は勢いよく跳ねさせます

サトコ
「っ、はい‥」

颯馬
次の文字は直線なので‥

教官が何か話すたび、耳元に吐息がかかり、力が抜けそうになる。

颯馬
最後は、はらって‥はい、これで完成です。わかりましたか?

サトコ
「は、はい‥ありがとうございまし‥」

お礼を言いながら振り返ると、目の前に教官の顔があった。

(あっ‥教官の顔が、こんなに近くに‥)

颯馬
‥‥‥

サトコ
「‥‥‥」

私たちはしばらくの間、見つめ合う‥
教官はニヤリと笑みを浮かべながら、私の顎に手を添えた。
そして、ゆっくりと顔が近づいてくる。

(キ、キスされる‥!)

私は目を閉じ、教官の唇を待った。

サトコ
「‥‥?」

(‥あ、あれ?何も来ない‥?)

いつまで待っても唇に感触がなく、私は不思議に思いながら目を開けた。

颯馬
‥道場は神聖な場所なので、続きはまた後で

サトコ
「あっ‥そ、そうですよね‥」

(な、なんだかすごく期待していたみたいで、恥ずかしい‥!)
(穴があったら、入りたいよ‥)

数日後。

サトコ
「な、何これ‥!?」

(この前の書き初めが廊下に貼られてるって聞いたから、見に来たんだけど‥)

東雲
へぇ、『剣道も恋も頑張る』ね

サトコ
「し、東雲教官!?」

(それに、石神教官と颯馬教官もいる‥!?)

東雲
こんなこと書くの、キミしかいないでしょ

サトコ
「ななな、なんのことでしょうか‥?」

東雲
‥キミも公安なら、もう少し上手い誤魔化し方、覚えたら?
顔に、『私が書きました』って書いてある

石神
くだらない

颯馬
フフ、羨ましいですね

サトコ
「そ、颯馬教官まで!」

(な、なんでこっちの書き初めが提出されてるの‥)

私は、ガックリと肩を落とす。
だけど、みんなの前にさらされてしまった手前、
なんとしてでもこの目標を叶えようと心に固く誓った‥‥‥

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする