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バレンタイン 石神2話

(ふぅ、危なかった‥)

私は資料とノートを開くと、加賀教官の講義に耳を傾ける。

加賀
まずはこの前の復習だ。潜入捜査をするときに‥

講義に集中しようとするも、先ほどの光景が頭から離れない。

(さっきの女の人、いったい誰だったんだろう?)
(あまり見えなかったけど、どことなく親しそうな雰囲気だったし‥)

サトコ
「はぁ‥」

(せっかく、チョコプリンが上手くできたのになぁ‥)

何度目になるか分からないため息をつこうとしたその瞬間‥

ピシッ!!

サトコ
「いたっ!」

額に勢いよく何かが当たった。

サトコ
「誰よ、もう‥!こんな‥」

(ん?ホワイトボード用のペン?)

(ま、まさか‥!)

恐る恐る顔を上げると、そこには私を睨みつけている加賀教官がいた。

加賀
俺の授業で、その散漫な態度‥いい度胸だな、氷川

サトコ
「あ、あの‥」

加賀
ボーっとしやがって、顔面だけじゃなく頭も寝てんのか?

(顔面だけじゃなく!?ていうか、顔面も寝てないのに‥!)

加賀
グラウンド50周走ってこい!今すぐだ!

サトコ
「は、はい!」

加賀
おら、モタモタすんじゃねぇ!次のチャイムが鳴るまでに走り切れ!

サトコ
「はい!」

背筋を伸ばして返事をすると、私は慌てて教場を後にした。

加賀教官からグラウンド50周を言い渡され、私は走り続けていた。

(あ、あと1周‥そろそろチャイムが鳴るから、ペースを上げないと‥!)

最後の1周を全速力で走り、なんとか時間内に完走する。

サトコ
「はぁ、はぁ‥」

(さっきまで、いろいろ考えてたけど‥)

身体を動かしたおかげか、先ほどよりも頭がクリアになっていた。

(ごちゃごちゃ考えてても仕方ない‥か)
(いいじゃない、他の女性にモテても)

ふと、ふたりでプリンを食べたことを思い出す。

(私が石神教官を好きなんだから!)

バレンタイン当日。
どうせなら、バレンタインチョコを直接教官に渡したい。
私はその想いで、石神教官の家に向かっていた。

(教官が家に戻る頃に、ちょうど着くかな?)

教官のことを考えるだけで、足取りが軽くなる。

颯馬
おや、サトコさん

サトコ
「颯馬教官、お疲れ様です」

颯馬
今日は石神さんの手伝いはないのですか?

サトコ
「はい。教官は警察庁での会合があるので」

颯馬
石神さんなら、学校にいましたよ

サトコ
「えっ?」

颯馬
ええ。まだ仕事が残ってると言って、教官室に
それでは、私はこの後用がありますので失礼しますね

私は颯馬教官の背中を、ぼんやりと見つめる。

(石神教官は、なんで学校に‥?)

私は踵を返し、学校に足を向けた。

個別教官室に行くと、石神教官の姿があった。

石神
氷川‥どうした?

サトコ
「颯馬教官から、石神教官が学校にいると聞いたので」
「今日は警察庁で会合だったんじゃ‥?」

石神
ああ。開催者である所長が肺炎のために入院になってな、延期になったんだ
時間が空いたし、溜まっていた書類整理をしようと思ったんだ

サトコ
「そうなんですか‥」
「あの、教官!私も手伝います!」

石神
無理することはない。今日は休日だろう

サトコ
「で、でも‥」

(一緒にいたい、なんて邪な理由じゃダメだよね)

石神
‥なら、手伝ってくれるか?

サトコ
「もちろんです!任せてください!」

私は教官から指示を受け、書類整理を始める。
黙々と作業していると、ふと昨日のことを思い返してしまう。

(あのチョコ、結局誰からだったんだろう‥)

昨日は走ったおげで、スッキリしたと思っていたけど‥
心の片隅から、モヤモヤが顔を覗かせた。

サトコ
「‥‥‥」

石神
どうした?手が止まっているぞ

サトコ
「石神教官‥」

石神
もしかして‥体調でも悪いのか?

教官は私に近づくと、額に手を当ててくる。

石神
熱は特にないようだが‥

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サトコ
「あ、あの‥」

教官との距離が近くなり、思わず顔を背けてしまう。

石神
お前は真面目に講義を受け、自主練や俺の補佐官の仕事をしているからな
気持ちはうれしいが、あまり無茶ばかりしていると体調を崩すぞ?

サトコ
「教官‥」

(教官だって講義や任務があって、休む暇もないくらい忙しいのに‥)

それなのに私の事を気にかけてくれる教官に、胸が温かくなる。

<選択してください>

A: お礼を言う

サトコ
「心配してくれて、ありがとうございます」
「でも、私は全然大丈夫ですよ!元気と体力だけが取り柄なんで!」

石神
フッ‥そうか

教官はフッと微笑むと、私の頭をポンポンと撫でた。

石神
俺の恋人は頼もしいな。だが、何かあったらすぐに俺に言えよ?

サトコ
「はい!」

B: 教官に抱きつく

サトコ
「あの‥だ、抱きついてもいいですか?」

石神
は?
お、おい!

自分から聞いたくせに、返事を待たずに教官に抱きついた。

石神
‥いきなりどうした?

サトコ
「こうしてると‥元気になれるんです」
「なので、ちょっとだけ‥充電させてください」

石神
そうか‥

教官は私の背中を、優しく撫でてくれる。

サトコ
「教官も無理はしないでくださいね」

石神
そうだな‥約束する

C: ほっぺにキス!

サトコ
「教官‥」

石神
‥っ

私は少し背伸びをして教官の頬に、キスをする。

(‥ちょっと大胆すぎた、かな?)

石神
‥本当に、予想外の行動をする

教官は私を抱き寄せると、顔を近づけてくる。
そして触れるだけの、優しいキスをした。

再び仕事に戻った時は、石神教官の優しさに触れ、気持ちが前向きになっていた。

(私は私だから、ごちゃごちゃ考えていても仕方ないよね)
(仕事が終わったらチョコを渡して、改めて自分の気持ちを伝えよう)

サトコ
「‥よし!」

私は小さく意気込むと、作業に没頭した。

石神
お疲れ様。仕事はこれで終わりだ

サトコ
「はい!お疲れ様でした」

(無事に仕事も終わったし、あとは教官にチョコを渡せば‥)

石神
氷川

サトコ
「は、はい!」

石神
この後、時間が空いてるなら‥一緒に過ごさないか?

サトコ
「えっ‥」

石神
予定があるなら無理にとは言わないが‥

サトコ
「わ、私も、教官と一緒に過ごしたいです!」

フッと柔らかく笑う教官は、もうオフモードなのかもしれない。

石神
俺も‥今日はお前と一緒に過ごしたいんだ

教官からの突然のお誘いに、私の心は躍る。

石神教官の家にやってきた私は、ソファに座る。

(チョコは持ってきたけど、いつ渡せばいいかな?)

タイミングを見計らっていると、教官が可愛らしい小袋を持ってくる。

サトコ
「わぁ、可愛いですね。それ、どうしたんですか?」

石神
ああ、これは‥

サトコ
「?」

石神教官は照れ臭そうに、私の手に小袋を置く。

石神
サトコへのバレンタインプレゼントだ

サトコ
「えっ‥」

(バレンタインって‥えっ?教官から‥?)

サトコ
「あ、あの‥ありがとうございます!」
「まさか、教官からバレンタインをもらえるなんて‥うれしくて‥」

少しだけ鼻の奥がツンとして‥視界がゆるゆると歪み始める。

石神
何を泣く必要があるんだ‥大袈裟なやつだな

サトコ
「開けてみてもいいですか?」

石神
ああ

丁寧に袋を開けると、チョコフレーバーの茶葉が入っていた。

サトコ
「わぁ、チョコフレーバーの茶葉なんて初めて見ました!」

石神
サトコが好きそうだと思ってな

サトコ
「ふふっ、ありがとうございます!」
「私も教官に渡したいものがあるんです」

チョコプリンを差し出す。

サトコ
「これ、私からのバレンタインです」

石神
これは‥?

サトコ
「開けてみてください」

教官がゆっくりとラッピングを解く。

石神
プリン?

サトコ
「はい。チョコプリンです」
「本当は、ゴレィバのショコラプディングを探したんですけど、売ってなくて‥」

石神
じゃあ‥サトコが作ったのか?

サトコ
「はい。ちょっと泡がプツプツしちゃいましたけど‥」

石神
‥‥

教官は私の手を握り、姿勢を直して向き合う。

石神
ありがとう。サトコ
バレンタインにもらうなんて、何年ぶりだろう

(‥‥そういえば‥)

教官の腕に伸びた華奢な手を思い出す。

サトコ
「教官、お聞きしたいことがあるんですが‥」

石神
なんだ?

私は教官が女の人からチョコをもらっていたことについて話す。

石神
なんだ、見ていたのか

サトコ
「はい‥」

石神
そんな顔をするぐらいなら
その場で声をかければよかったものを‥

サトコ
「う‥」

石神
いや、勘違いさせて悪かった
心配するな。あれは知人からの土産だ
たとえバレンタインチョコだったとしても、お前からのチョコ以外嬉しくない

<選択してください>

A: 教官に寄りかかる

(やっぱり、思い過ごしだったんだ‥)

私はほっと息をつき、石神教官に寄りかかった。

石神
どうした?

サトコ
「少しだけ、こうしててもいいですか?」

石神
少し、なのか?

サトコ
「え‥?」

石神

いや‥

(教官の頬が、赤くなってる‥?)

B: 教官を見つめる

私は教官をじっと見つめた。

石神
当たり前のことを言ったつもりだが‥
そんな反応をされると、さすがに照れ臭くなる

教官は少し気まずそうに、視線を逸らした。

C: 安心したと伝える

石神
そうか‥

教官は短く言うと、悪戯な笑みを浮かべる。

石神
加賀からグランドを走るように言われるくらい気にしていたんだな

サトコ
「な、何故それを‥!?」

石神
加賀が悪態をついていたからな
他にもサトコの残念エピソードをいくつか聞いたことがあるが‥

サトコ
「わー!わー!そういうのは忘れてくださいっ!」

石神
フッ‥冗談だ

サトコ
「っ‥」

教官は私の頬を撫でると、唇に小さなキスを落とした。

それから私たちは、キッチンに移動し、プリンとお茶の用意をする。

サトコ
「チョコレートのいい香りがします」

石神
そうか‥気に入ったならよかった

教官はスプーンでプリンをすくい、口元に運ぶ。

(ど、どうかな‥?)

石神
‥ん、美味い

サトコ
「本当ですか!?よかったぁ‥」

石神
サトコも食べてみるか?

サトコ
「味見をしましたし‥それは教官のために作ったものですから」

石神
いいから、食べてみろ

サトコ
「あっ‥」

教官はスプーンでプリンをすくうと、頬を染めながら私に差し出してくる。

(こ、これって、もしかして‥)

石神
‥食べないのか?」

サトコ
「い、いえ!その‥いただきます」

私は恐る恐る、スプーンに口を付けた。

(なんだか恥ずかしくて、味がよく分からないよ‥)

石神
‥どうだ?

サトコ
「え、えっと‥美味しいです!」

石神
そうか‥

サトコ
「あの‥教官がこんなことするなんて、珍しいですね」

石神
‥今日はバレンタインだからな

サトコ
「え‥?」

石神
特別、だ‥

スマホ 020

教官は再びスプーンでプリンをすくうと、私の口元へ。

石神

サトコ‥

教官の頬は、さっきよりも赤くなっていて‥

石神
‥あーん

私もつられるように頬を染めながら、プリンを口にした。

月曜日。
資料を届けに教官室に行くと、教官たちと黒澤さんがチョコレートを食べていた。

黒澤
サトコさんも食べますか?莉子さんからの差し入れなんですよ~!

サトコ
「えっ、莉子さんいらしてたんですか!?」

東雲
サトコちゃんも見てたじゃん
先週末、石神さんが莉子さんからチョコを受け取るところ

サトコ
「先週末って‥」

(も、もしかして‥あの時の女性って、莉子さんだったの!?)
(なんであんな紛らわしい言い方を‥)

黒澤
いや~、そんな目で見つめられると照れちゃいますね!

サトコ
「東雲教官!」

東雲
なに?石神さんが他の女性からチョコをもらっても
サトコちゃんが困ることなんてないでしょ?

東雲教官はニヤリと笑みを浮かべる。

(うぅ‥また、からかわれた‥!)

個別教官室に行くと、話を聞いていたのか、石神教官はバツの悪そうな表情をしていた。

サトコ
「‥なんで莉子さんだって、言ってくれなかったんですか?」

石神
それは‥

サトコ
「‥‥‥」

じっと見ると、教官は観念したのか小さくため息をついた。

石神
別に、言わないつもりだったわけではない
ただ、サトコがヤキモチを妬いてる姿が可愛くて‥
言うタイミングを逃してしまったというか‥

サトコ
「えっ‥」

石神
こんな子どもじみたこと、言えるわけないだろう!

教官は照れ隠しをするように、書類に視線を落とす。

サトコ
「‥‥」

(どうして‥こんなに私の心をくすぐるのが、上手なんだろう)

プリン好きな姿だけじゃない。
こんな可愛い姿も、私だけが知っている特権にしたい。

石神
‥ほら、仕事するぞ

サトコ
「はい!」

いつもより小さな声で言う教官に、私は満面の笑みで返事をした。

Happy  End

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