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ホワイトデー 颯馬2話

車から降り、目にした場所は‥

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サトコ
「ご、呉服屋さん?」

颯馬さんが連れて来てくれたのは、老舗と名高い呉服屋さんだった。
少し前にテレビで日本有数と紹介されていたのを覚えている。

サトコ
「あの、颯馬さん‥?」

颯馬
「さぁ、店の中に入りましょうか」

店員
「颯馬様、お待ちしておりました」

颯馬
それでは、お願いします

サトコ
「え?え?」

颯馬さんと店員さんは、なにやら話を進めていく。
私が戸惑っていると、いつの間にか話が終わったのか店員さんがやってくる。

店員
「それでは、こちらへどうぞ」

サトコ
「あ、はい‥」

私は店員さんに促されて、奥の部屋に連れて行かれた。

店員
「ご用意させていただいたのは、こちらの着物でございます」

サトコ
「うわぁ、綺麗な着物‥!」

店員
「お気に召して頂けたようで良かったです」
「それでは、これから着付けをさせて頂きますね」

サトコ
「えっ、今から着るんですか!?」

店員
「はい、そのように予め指示をされておりますので」

店員さんはニコニコと満面の笑みを浮かべながら、私の上着を脱がせてきた。

(ど、どういうこと‥!?)

颯馬
お帰りなさい。着物はどうでした‥

私が車に乗り込むと、颯馬さんはピタリと言葉を止めてしまった。

(綺麗な着物を着られて嬉しいけど、やっぱりちょっと恥ずかしいかも‥)
(颯馬さんはどう思ってるんだろう?)

颯馬さんからの反応を考えるとドキドキし、膝の上に乗せた手をギュッと握りしめる。
すると、颯馬さんの大きな手が私の手に重ねられた。

サトコ
「颯馬さん‥?」

颯馬
とても似合っていますよ
そんなに不安そうな顔をしないで顔を上げて、俺にもっとよく見せて?

指先で顎をあげられ、至近距離でお互いの視線が絡み合う。

颯馬
綺麗ですよ
だから、その可愛い顔を隠してしまうのはもったいないです‥

ニッコリと微笑まれて、私は少し頬に熱が集まってくるのを感じながら頷いた。

サトコ
「あの、それで一体これは‥」

颯馬
それでは、次に行きましょうか

サトコ
「‥やっぱり教えてくれないんですね」

颯馬
フフ‥

褒めてはくれたけど、肝心なことを教えてもらえず、私はがっくりとうなだれる。

次に連れて来られたのは、半年先まで予約がいっぱいということで有名な美容院だった。

颯馬
次はヘアメイクですね

サトコ
「ヘアメイク‥!?」

颯馬
はい、ここは気に入りませんでしたか‥?

サトコ
「いえっ!そうじゃなくて、ここって凄く有名な美容院ですよね!?」
「そんなところでヘアメイクなんて、驚いてしまって‥」

颯馬
さぁ、とびっきり綺麗にしてもらって来てください
私はここで待っていますので

サトコ
「は、はい‥」

そう言って、颯馬さんはソファに腰を掛け、雑誌を読み始めた。

案内された席に着くと、優しそうな女性の美容師さんがやってくる。

美容師
「初めまして。本日は私がヘアメイクを担当させて頂きます」
「お着物、とてもきれいですね!」

サトコ
「あ、ありがとうございます」

美容師
「もしかして、少し緊張されていますか?」

サトコ
「‥はい。ここの美容室、前から憧れていたんです」

美容師
「ありがとうございます。そんなに緊張なさらず、リラックスしてくださいね」

ヘアメイク中、颯馬さんの様子が気になり、チラチラと鏡越しに見てしまう。
すると、美容師さんからフフッと声が聞こえた。

美容師
「ソファにいる方って、彼氏さんですか?」

サトコ
「は、はい‥」

改めて『彼氏』と表現されると、少しだけ照れてしまう。

美容師
「すごく愛されてますね!」

サトコ
「え‥?」

美容師
「事前にどういうヘアメイクをするかなど、細かな指示を頂いているんですよ」
「でも確かにその着物姿なら、事前に言われたヘアメイクが一番似合うでしょうね」

(そ、そうだったんだ‥!)
(前から準備してくれいたなんて、全然知らなかった‥)

美容師
「あなたのことをよく知っていなければ出来ない指示でしょうし‥」
「とても素敵な彼氏さんですね‥!」

サトコ
「‥はい」

美容師の言葉が恥ずかしくて、俯こうとしていると‥

颯馬
フフッ

サトコ
「‥!」

鏡越しに颯馬さんと目が合う。

(ど、どうしよう‥!?)
(逸らすのも失礼だし、でもだからと言ってジッと見つめ合うっていうのも‥)

ひとりでオロオロしていると、颯馬さんは面白そうに笑う。
それがまた恥ずかしくて、私はギュッと目を閉じた。

美容師
「終わりましたよ!鏡で見てみてください」

美容師に促され、ドキドキしながらも鏡の前に立ってみる‥

(うわぁ、いつもと雰囲気が全然違う‥!)
(髪型や服装で、こんなに雰囲気って変わるものなの!?)

いつもと違う、自分の姿に驚いてしまう。

美容師
「やっぱり、このお着物に引き立ちますね!」

(美容師さんの言う通りかも‥)
(颯馬さん、こんなにも私の事を考えてくれてたんだ‥)

ドキドキ、と胸の高鳴りが増していく。

颯馬
とても綺麗ですね

サトコ
「っ‥!?」

颯馬さんが私の肩に触れ、耳元で囁く‥
自分でも聞こえるくらいに、ドキンと胸が跳ねる。

<選択してください>

A: 「ありがとうございます」

サトコ
「あ、ありがとうございます‥」

(は、恥ずかしくて、颯馬さんの顔がまともに見れない‥)

颯馬
フフ、お顔が真っ赤ですよ

B: 俯いてしまう

(は、恥ずかしい‥)

恥ずかしさのあまり、颯馬さんから目を逸らす。

颯馬
フフ、そんな反応されても煽っているようにしか見えませんよ?

サトコ
「ち、違います!」

颯馬さんが意地悪に笑い、私の毛先に触れた。

颯馬
もっと楽しんでたいですけど‥そろそろ時間ですね

C: 「似合ってますか?」

サトコ
「私、似合ってますか‥?」

恥ずかしくて、颯馬さんの顔がまともに見れずに聞く。
クスリと上から笑い声が降ってきたと思ったら、耳元に近づき‥

颯馬
似合いすぎていて、私もドキドキしてます
今にも襲ってしまいそうですよ

サトコ
「おっ、おそ!?」

颯馬
それはまだ、お預けですね

サトコ
「っ‥‥」

そう言ってニヤリと颯馬さんが笑った。

(颯馬さんにはやっぱり敵わない‥)

颯馬
さて、次の目的地へと向かいましょうか

サトコ
「えっ、ま、まだあるんですか!?」

颯馬
ええ。例えるなら今までは前菜、次がメインってところでしょうか?

サトコ
「随分豪華な前菜ですね‥もう、ドキドキでどうにかなっちゃいそうです」

颯馬
それは困りましたね
それでは、どうにかなってしまう前に私が頂かなくてはいけませんね?クスッ

サトコ
「い、頂くって‥!」

クスクス、と颯馬さんはつぶやく。
たったそれだけの仕草が妙に色っぽくて、私のドキドキは増していくばかりだった‥

それから1時間ほど車に揺られて着いたのは、いかにも高級といった感じの料亭だった。
しかも、案内されたのはその中でも高級そうな離れの個室。

(こんなとこ来たことない‥)
(どうしよう!緊張する‥)

颯馬
そんなに緊張しなくてもいいんですよ?

サトコ
「そ、それはそうなんですけど‥」

その時、女将さんらしき女性と仲居さんたちが料理を次々に運んできてくれる。

サトコ
「うわぁ、おいしそう‥!」

颯馬
フフッ

サトコ
「ハッ‥!」

目の前に美味しそうなお肉や新鮮な野菜を並べられ、思わず私ははしゃいでしまった。

(そ、颯馬さんの前で‥っ!)
(これじゃ色気よりも食い気の女だって思われちゃう‥!)

フォローを入れようと思ったけど、焦っているときに良い案なんて出てくるはずもない。

颯馬
喜んでもらえたなら何よりです
サトコさんはしゃぶしゃぶは好きですか?

サトコ
「はい!大好きです!」

颯馬
せっかくですし、日本酒で乾杯をしましょうか

サトコ
「‥はい!」

(た、食べ過ぎた‥)

出てきた料理が全て美味しくて、つい食べ過ぎてしまった。

(お、帯が苦しい‥)

颯馬
フフッ

颯馬さんは意味深に微笑んだ後、私の隣に腰かけた。

サトコ
「颯馬さん?」

颯馬
少し食べ過ぎてしまいましたね‥

サトコ
「はい‥」

颯馬
‥帯が苦しいなら、脱がして差し上げましょうか?

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耳元で囁かれてしまい、私はドキッとする。

颯馬
フフッ、冗談ですよ

サトコ
「そ、颯馬さん!?」

颯馬さんは意地悪にフフッと笑う。

颯馬
少し、夜風に当たりに庭園を散歩しませんか?
ここの庭園は綺麗ですから、おすすめなんです

サトコ
「はい、行きたいです‥!」

颯馬さんに手を引かれ、庭園へと向かう。

サトコ
「風が気持ちいいですね」

ほろ酔いのせいか、少し冷たいくらいの風がちょうどいい。

サトコ
「わ、あの灯篭、すごく素敵ですね」

颯馬
足場が悪いので、気を付けてくださいね

サトコ
「はい‥あっ!」

颯馬
‥っと、大丈夫ですか?私に掴まってください

サトコ
「すみません‥ありがとうございます」

(下駄にはまだ慣れないな‥)

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颯馬
あそこで少し休みましょうか

颯馬さんは景色を楽しめるようにと配置されたベンチを見ながら呟き、私も頷く。

颯馬
今日のおもてなしは気に入って頂けましたか?

サトコ
「こんなに素敵なおもてなしをして頂いて‥」
「本当に大満足です!」
「こんな素敵なお着物まで‥ありがとうございます」

颯馬
それはよかったです。ヘアメイクもとても似合っていますよ

サトコ
「あ、ありがとうございます‥」

颯馬
ですが、ひとつだけよろしいでしょうか?

サトコ
「はい‥?」

颯馬さんの笑みを見ると、ドキンと胸が高鳴る。

(何を言われるんだろう‥?)
(‥ドキドキして、颯馬さんを直視できない)

颯馬
満足して頂けたのなら、そのお礼に貴女からのキスをください

サトコ
「‥っ!?」

颯馬さんは、私の手を取り、自分の頬へと触れさせる。
ニッコリと微笑みながら言われてしまい、私はすぐに言葉を返せなかった。

颯馬
‥‥‥

(ど、どうしよう‥!?)

<選択してください>

A: キスをする

(でも、お礼はしたいし‥これで、お礼になるなら‥)

サトコ
「っ‥‥」

私は心の中で呟き、
恥ずかしさを堪えながらそっと颯馬さんの唇に、自分の唇を重ねた。

B: 頬にキスする

(唇に自分からって緊張するし‥)
(頬にならできるかも)

私は思い切って、颯馬さんの頬にチュッとキスをする。
すると、颯馬さんがニコリと笑う。

颯馬
フフ‥それはダメですよ?もう一回やり直しですね

サトコ
「えっ‥!」

颯馬
次はちゃんと、口にお願いします

(うぅ‥)

颯馬さんは楽しむかのようにニコリと笑い、目を閉じる。
そして、恥ずかしさを堪えながら、そっと颯馬さんの唇に自分の唇を重ねた。

C: したフリをする

(自分からなんて、恥ずかしすぎるよ‥)
(あ、そうだ‥!)

私は自分の人差し指と中指をくっつけ、颯馬さんの唇に押し当てる。
すると、颯馬さんがフフッと笑い、目を開けた。

颯馬
バレバレですよ?サトコ

サトコ
「!?」

颯馬さんが私の唇に触れる。

颯馬
何度もキスしているんだから、唇の感触くらいわかりますよ?

サトコ
「っ‥ご、ごめんなさい」

颯馬
もう一度やり直しですね

サトコ
「え!?そんな‥」

颯馬さんは再び目を閉じる。
そして、恥ずかしさを堪えながら、そっと颯馬さんの唇に自分の唇を重ねた。

サトコ
「こ、これでいいですか?」

颯馬
いいえ、まだです‥

サトコ
「え‥?」

颯馬
今度は俺からサトコへのお礼を受け取って?

サトコ
「お礼って‥」

颯馬
‥まぁ、拒否なんてさせないけど

颯馬さんは意地悪な笑みを浮かべた後、私にキスをしてきた。
ついばむようなキスから、どんどん激しさを増していき、思考が溶けてしまいそうになる。

庭園を2人並んで歩きながら話す。

颯馬
今日は私にとっても楽しい日になりました
貴女を驚かせたり、喜ばせたりできましたし‥

サトコ
「あの手紙、本当に驚きましたよ!」

最初に相談した時、『行かないという方法』もあるって言ってたのに‥
まさかそれを言った本人が差出人だったなんて夢にも思わなかった!

颯馬
手紙を読んだ後からのサトコが可愛くて楽しませてもらいましたよ

サトコ
「もし、私が行かないって言ったらどうするつもりだったんですか?」

颯馬
そうですね、貴女が行きたくなるように誘導するつもりでした
それに、貴女のとる行動は全てお見通しですから‥フフ

サトコ
「えっ!?」

(私って、そんなにわかりやすいのかな‥?)

サトコ
「私、本当に知らない人からかと思いました‥」

颯馬
私以外の方からでしたら、行かせませんよ

(颯馬さん‥!笑顔が怖いです‥!)

サトコ
「でも、どうして今回はこんなことを?」

颯馬
今日が何の日か忘れているんですか?
バレンタインに貴女から幸せな時間をもらったので、お礼がしたかったんです

サトコ
「‥颯馬さん」

(バレンタイン、喜んでもらえてたんだ‥良かった)

サトコ
「私の方こそ、ありがとうございます」
「こんなに楽しくて幸せなホワイトデーは初めてです‥!」

颯馬
そうですか、それなら良かった‥

颯馬さんが呟いた後、私たちはもう一度キスをした。

翌日。

鳴子
「サトコ、あの手紙はどうだったの!?」

千葉
「詐欺か事件か、或いは告白か‥どれだったんだ?」

私は鳴子と千葉さんに手紙の件で問い詰められていた。

颯馬
差出人は、サトコさんをとても大切に想ってる方からだったみたいですよ?

サトコ
「颯馬教官!」

颯馬
そうですよね、サトコさん?

サトコ
「‥は、はい!」

鳴子
「えーっ!つまりそれって告白か何かだったってこと!?」

千葉
「ホワイトデーに告白か。相手が誰だか知らないけど、なかなかやるもんだね」

(そ、颯馬さんだなんて言えないよね‥)

後藤
氷川

サトコ
「あ、後藤教官!おはようございます」

後藤
あれからずっと考えていたんだが‥

後藤教官が神妙な面持ちでやってきた。

サトコ
「はい?何のことですか?」

後藤
手紙だ。やはり、あれはおかしな取引か何かじゃないかと思うんだが‥

サトコ
「えっ!?」

(後藤教官、まだ考えてくれてたのっ!?)

颯馬
後藤、その件はもう片付きましたよ?

後藤
‥それは、本当ですか?周さん

颯馬
連絡が遅れてすみません、ですが心配するようなことはありませんでしたよ

後藤
そうだったんですか‥
まぁ、何事もなかったのならそれに越したことはないな

(後藤教官に本当のことなんて言えないよね‥)
(‥なんか、ごめんなさい。後藤教官)

颯馬さんと後藤教官のやり取りを見て、私は心の中でこっそり謝った。

Happy  End

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