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体育祭 石神

教官たちによる本気の徒競走を制したのは、黒澤さんだった。

(石神さん、すごくやる気を出してたから‥きっと悔しいだろうな)

声を掛けようと思い、石神さんの元へ行く。

サトコ

「石神教官‥」

石神

氷川、どこに行っていた。早く練習をするぞ

サトコ

「はい‥って、え?」

石神さんは落ち込むどころか、更にやる気を出しているように見える。

サトコ

「あの、石神教官。さっきの徒競走なんですけど‥」

石神

徒競走がどうかしたのか?

まるで気にしていないという様子の石神さんに、キョトンとしてしまう。

(あ、あれ‥?落ち込んでるかなって思ったんだけど‥)

石神

ボーっとするな。時間は限られているんだぞ

サトコ

「わわっ!」

私は石神さんに腕を取られ、引きずられる。

サトコ

「い、石神教官!?待ってください!!」

石神さんに引きずられながらやってきたのは、裏庭だった。

石神さんの手には、一本の紐が握られている。

石神

二人三脚は、あと一時間後くらいだったか?

サトコ

「はい。休憩をはさんで、次の競技の後です」

石神

そうか‥なら、本番までかなり練習が出来そうだな。最終調整を行うぞ

氷川、足を出せ

石神さんはしゃがみこむと、私と自分の足を紐で縛る。

石神

これぐらいでいいか‥

立ち上がると、石神さんは私の腰に腕を回す。

私も石神さんの腰に手を当て、かなり密着している状況になった。

(初めは恥ずかしかったけど‥)

今ではこの状況も、慣れたものだった。

石神

絶対に負けられないからな。気合いを入れていくぞ

サトコ

「はい!」

石神

まずは、外側の足からいくぞ。‥せーの

サトコ

「いち、に、いち、に‥」

掛け声に合わせて、一歩一歩足を進めていく。

(まさか、本当に石神さんと二人三脚に出ることになるなんて‥)

私は競技が決まったときのことを、思い返す。

体育祭、一か月前。

私たち訓練生は来月に行われる体育祭に向け、競技決めを行っていた。

鳴子

「それじゃあ、二人三脚のペアはくじで決めるよ~!」

二人三脚は訓練生がペアで行うことが決まり、順々にクジを引いていく。

鳴子

「はい、サトコの番」

サトコ

「うん」

箱の中に手を入れ、一枚の紙を引く。

サトコ

「えっと、三番か‥」

キョロキョロと辺りを見回すと、ペアがいくつか出来ていた。

千葉

「氷川は何番だった?」

サトコ

「三番だったよ。千葉さんは?」

千葉

「え!?俺も三番なんだ」

「頑張ろうな、氷川!!!」

サトコ

「う、うん。よろしくね」

(千葉さん、気合い入ってるなぁ‥)

爽やかな笑顔を見せる千葉さんに、笑顔で返す。

(千葉さんとペアか‥)

気心が知れている分、ペアが千葉さんでよかったと安堵する。

千葉

「この後は自由らしいし、早速練習しようか」

サトコ

「うん!場所は、裏庭でいいかな?」

千葉

「そうだね」

私と千葉さんは、練習をするために裏庭にやってきた。

千葉さんは紐で、私たちの足をつなげる。

千葉

「大丈夫?痛くない?」

サトコ

「うん。大丈夫だよ」

千葉さんは立ち上がると、僅かに距離を取りながら遠慮がちに私の腰に腕を回す。

サトコ

「千葉さん?もっとくっつかないと、走りにくいと思うけど‥」

千葉

「あ、ああ。そうだね‥」

そう言って身を寄せると、千葉さんの頬はほんのり赤く染まった。

サトコ

「なんだか顔が赤いけど‥大丈夫?もしかして、風邪?」

千葉

「こ、これは、その‥なんでもない」

「さあ、練習を始めよう!」

千葉さんは何かを誤魔化すように、声を上げた。

千葉

「せーので行くぞ。せーの‥」

サトコ

「いち、に、いち、に‥」

それから私たちは、日が暮れるまで練習を続けた。

数日後‥

私はレポートを提出に、石神さんの個別教官室にやってきた。

サトコ

「失礼します。レポートを持って来ました」

石神

そこに置いておいてくれ

サトコ

「はい」

いつもの場所にレポートを置いていると、石神さんが口を開く。

石神

‥サトコ。今週末だが、休みが取れそうなんだ

サトコ

「えっ、本当ですか!?」

石神

ああ。良かったら、どこかに出かけないか?

(これはもしかしなくても‥デートのお誘い!?)

石神さんからのお誘いに、胸が躍る。

サトコ

「あっ‥」

(そういえば、今週末は‥)

石神

どうした?

サトコ

「今週末は予定が入っていて‥千葉さんと二人三脚の練習をするんです」

石神

二人三脚‥ああ、来月は体育祭だったな

サトコ

「はい。せっかくお誘いしてくれたのに、すみません!」

(久しぶりのデートだったんだけど‥)

(でも、練習をサボるのは千葉さんに申し訳ないし‥)

石神

千葉、か‥

石神さんは、ぼそりと呟く。

<選択してください>

A: 千葉さんがどうかしましたか?

サトコ

「千葉さんがどうかしましたか?」

石神

いや‥

石神さんは一瞬視線を逸らしたかと思うと、真っ直ぐ私を見つめる。

石神

無理をしない程度に、頑張れよ

いつもの講義や補佐官の仕事や自主練をする上に、いまは体育祭の練習もしている。

自分でも、かなり予定を詰め過ぎているのに自覚があった。

(石神さん、心配してくれてるんだ‥)

石神さんの優しさに、きゅっと胸が締め付けられる。

サトコ

「はい‥ありがとうございます!」

B: 今度、埋め合わせしますね!

(今、千葉さんの名前が聞こえた気がしたけど‥)

サトコ

「あの‥今度、埋め合わせをしますね!」

石神

「埋め合わせ

サトコ

「はい!石神さんがビックリするような、サプライズデートを!」

石神

予告したら、サプライズにならないだろう

石神さんはフッと笑みを浮かべる。

サトコ

「あっ‥そ、そうでした‥」

石神

だが‥サトコからのサプライズデート、楽しみにしている

サトコ

「っ、はい!期待していてくださいね!」

C: 石神さんも一緒に練習しますか?

サトコ

「あっ、そうだ!石神さんも一緒に練習しますか?」

石神

練習だと‥?

サトコ

「はい!教官たちも、いろいろ競技に出ますよね?」

「お互いの練習を見て、指摘し合うのもいいと思うんです」

石神

俺はいい。仕事もあるからな

サトコ

「そう、ですよね‥」

(少しでも一緒にいたかったんだけどなぁ‥)

(でも、お仕事の方が大事だよね!)

サトコ

「分かりました。お仕事、頑張ってください」

石神

ああ。お前も、無理をしない程度に頑張れよ

石神

しかし、休みの日も練習とは‥気合いが入っているんだな

サトコ

「はい。千葉さんと、絶対一位になろうねって話してるんです」

石神

‥‥‥

石神さんは、何かを考え込むかのように口を閉ざす。

サトコ

「あの‥?」

石神

いや‥なんでもない。今日もこの後は、練習なんだろう?

サトコ

「はい!‥あっ、そろそろ行かなきゃ」

「それでは、失礼します」

私は頭を下げ、個別教官室を後にした。

数日後。

石神さんの講義が終わり、私は鳴子と千葉さんと話をしていた。

鳴子

「この前、サトコたちの練習をチラッと覗いたんだけど、息ピッタリだったね」

サトコ

「え、本当に?」

鳴子

「うん。いいペアだったよ!」

鳴子から褒められ、上機嫌になる。

(もっともっと頑張って、石神さんにいいところを見せたいな)

石神さんのことを考えるだけで、より一層気合いが入った。

鳴子

「二人ともお似合いだったよ」

千葉

「お似合いって‥そうかな?」

千葉さんは、照れ笑いを浮かべる。

鳴子

「あれ?千葉さん‥なんだか、嬉しそうだね?」

千葉

「そ、そんなことないよ‥!」

千葉さんが照れ臭そうに私を見ると、不意に声を掛けられる。

石神

氷川、後で全員のノートを集めておけ

サトコ

「はい」

石神

‥お前たち、今日も練習をするのか?

千葉

「はい。本番まで気を抜かず頑張ろうと思います!な、氷川?」

サトコ

「うん!」

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石神

そうか‥あまり頑張りすぎるなよ

石神さんはそう言って、私の頭にポンッと手を乗せる。

サトコ

「っ!?」

石神

ノートは放課後までに集めておくように

サトコ

「は、はい!」

石神さんはいつもの様子で、教場から去って行った。

鳴子

「ビックリした‥石神教官があんなことするなんて‥」

千葉

「な、なあ‥」

鳴子と千葉さんは、驚いた様子で目をぱちくりさせている。

鳴子

「でも‥うらやましい!私も石神教官に頭ポンってされたい!」

「後藤教官や颯馬教官でもいいかも!」

サトコ

「な、鳴子‥それって誰でもいいんじゃ‥」

鳴子

「だって、教官たちみんなかっこいいんだもん♪」

いつもの鳴子の調子に救われたけど‥

石神さんの突然の行動に、私の心臓は大きな音を立てて鳴り続けていた。

体育祭一週間前。

千葉さんは肩を落としながら、私に頭を下げる。

千葉

「せっかく練習頑張ったのに‥ごめんな」

千葉さんの足には、包帯が巻かれていた。

サトコ

「実技中に捻挫しちゃったんだもん。仕方ないよ」

「私なら大丈夫だから!気にしないで」

千葉

「氷川‥本当に、ごめん」

(千葉さんが出られないなら、辞退か‥無理は出来ないし、しょうがないよね)

(その分、他の競技を頑張らなきゃ!)

難波

ん?氷川に‥千葉か?どうした?深刻な顔して

そこに、難波室長と石神さんが通りかかる。

サトコ

「難波室長‥実は‥」

私は二人三脚を辞退することになったと伝える。

難波

別に辞退する必要はないだろ

サトコ

「え?」

難波

石神と出ればいいんじゃないか?

石神

は?

難波

いいじゃないか、出てやれば。可愛い補佐官が困ってんだろ?

サトコ

「でも‥」

(石神さんは忙しいから、あまり負担はかけたくないし‥)

断るため、口を開こうとすると‥

石神

‥分かりました。氷川とペアになります

サトコ

「えっ!?いいんですか?」

石神

あぁ‥頑張って練習してたんだろ?

サトコ

「そうですけど‥」

難波

堅苦しく考えるな

教官と補佐官でちょうどいいじゃないか

サトコ

「きゃっ!」

難波室長が、私の背中を勢いよく叩く。

難波

石神がいいって言ってるんだ。それに、体育祭はお祭りみたいなもんだろ?

楽しまなきゃ損だぞ

サトコ

「は、はい‥」

(背中がヒリヒリする‥)

石神さんと二人三脚ができることになり、心の中でガッツポーズをした。

私たちはキリのいいところで練習を切り上げ、休憩を取る。

サトコ

「あっ、そういえば‥」

私はお弁当を取り出し、石神さんに差し出す。

サトコ

「実は‥石神さんのために、作っておいたんです」

「塩むすびとゆで卵だけだとお腹が空いているだろうし‥よかった、食べてもらえますか?」

石神

サトコ‥

石神さんは驚いたように目を丸くする。

(いきなりお弁当を渡すなんて、迷惑だったかな?)

ドキドキしながら返事を待つと、石神さんはフッと笑みを浮かべる。

石神

ありがとう

サトコ

「っ‥」

そして、私の頬に手を添えて‥‥

石神

‥誰かに見られたら、マズイな

そう言って、スッと私から離れた。

(ちょっと残念だけど、バレたら大変だもんね)

サトコ

「お弁当、自信作なんですよ」

石神

それは楽しみだな

石神さんはお弁当を開き、美味しそうに食べる。

そして、あっという間に全部平らげてしまった。

石神

ごちそうさま。‥美味かった

サトコ

「ふふっ、頑張って作った甲斐がありました」

石神

そろそろ時間だな‥行くぞ

サトコ

「はい!」

お弁当を片付けると、私たちは決戦の地へ向かった。

二人三脚が始まり、私たちは自分たちの順番を待つ。

(うぅ‥緊張してきた‥石神さんの足を引っ張らなければいいけど‥)

石神

‥氷川。緊張しているのか?

サトコ

「い、いえ!」

石神

声が上ずっている。別に、隠す必要もないだろう

石神さんは、力強い視線を私に向ける。

石神

‥大丈夫だ。俺がついてる

サトコ

「石神教官‥はい!」

(そうだ。今まであんなに練習してきたし‥私は一人じゃない!)

私たちの番になり、スタートラインにつく。

審判

「位置について。よーい‥」

パァンッ!

石神

行くぞ!

サトコ

「はい!いち、に、いち、に‥」

私たちは息を合わせ、前へ前へと進んでいく。

鳴子

『おおっと、先頭に立ったのは石神教官&サトコペアです!』

『本当は、サトコとペアになる予定だった千葉さんも応援しております!』

千葉

『うぅ‥面目ないです‥』

鳴子

『‥なんて言ってるうちに、最終コーナーに差し掛かりました!』

他の選手たちの追随を許さず、私たちは一直線に走り抜けて‥‥

鳴子

『ゴール!見事一位を勝ち取ったのは、石神教官&サトコペアです!』

サトコ

「はぁはぁ‥」

石神

一位だぞ。氷川

サトコ

「はい!やりました!」

石神

っ!?

私は嬉しさのあまり、石神さんに抱きついた。

サトコ

「頑張って練習した甲斐が‥」

石神

ゴホンッ

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サトコ

「へ‥?」

石神さんの咳払いを聞き、我に返る。

(わ、私ったら、なんてことを‥!)

サトコ

「す、すみません!つい!」

石神

いや‥

私は慌てて、石神さんから離れた。

後藤

石神さん、お疲れ様でした

黒澤

お二人の息、ピッタリでしたね!

そこに、教官たちがやってくる。

颯馬

サトコさんも、頑張りましたね

サトコ

「ありがとうございます」

東雲

といっても、キミは引きずられてたようなもんだけどね

サトコ

「あ、はは‥」

石神

氷川、休憩するぞ

サトコ

「あ、はい‥きゃっ!」

石神

っ!

足を繋いでいることを忘れていた私たちは、バランスを崩してしまう。

黒澤

大丈夫ですか?

サトコ

「は、はい‥ありがとうございます」

颯馬

フフ、まさか石神さんまで転ぶなんて‥

石神

‥うるさい

東雲

もしかして、ずっと繋いでるつもりだったとか‥?

東雲教官が、からかうような目で私たちを見る。

サトコ

「ち、違います!ちょっと忘れてただけで‥」

黒澤

慌てるなんて、余計怪しく見えますよ?

サトコ

「だ、だから‥!」

私は慌てて紐をほどきながら、必死に弁明するのだった。

なんとか教官たちから逃れ、私と石神さんは屋上へやってきた。

サトコ

「風が気持ちいいですね」

石神

ああ‥

石神さんは口元を緩めると、私の頭をポンポンっと撫でる。

石神

よく頑張ったな

<選択してください>

A: 石神さんのおかげです

サトコ

「石神さんのおかげです」

「石神さんが一緒だったから、あんなに頑張れたんですよ?」

石神

お前は、元からやる気だったろう?

サトコ

「それは‥」

(石神さんに、いいところを見せたかったからなんだけど‥)

私は、じっと石神さんを見上げる。

(私の原動力は、いつだって石神さんなんだ‥)

石神

どうした?

サトコ

「いえ‥なんでもありません」

私はそう言って、笑みを浮かべた。

B: さっきのことを謝る

(そういえば、さっきのことまだ謝ってなかったっけ‥)

サトコ

「石神さん‥さっきはいきなり抱きついて、すみませんでした」

石神

人前で、あまりああいうことはするな

サトコ

「はい‥」

石神

‥やるなら、誰もいない時にしろ

サトコ

「え‥?」

石神

‥‥‥

そっぽを向く石神さんの頬は、僅かに染まっていて‥

サトコ

「はい!」

私は満面の笑みで、そう返した。

C: ‥もっと撫でてほしいです

(たまには、少しだけ甘えてもいいかな‥?)

サトコ

「‥もっと、頭を撫でてほしいです」

石神

‥‥‥

(あ、あれ‥?ダメ、だったかな‥)

石神

‥あまり、可愛いことを言うな

サトコ

「え?‥わわっ!」

石神さんは、私の頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。

サトコ

「い、石神さん!?」

石神

‥そういうことは、俺以外に言うなよ

そう言って石神さんは、頬を染める。

(もしかして‥照れてるのかな?)

石神さんの新たな一面を見て、頬が緩むのを感じた。

サトコ

「私、石神さんとペアになれて‥一緒に走れて、良かったです」

石神

‥俺もだ

石神さんが、私の肩に両手を添えたかと思うと‥

サトコ

「ん‥」

私の唇に、優しいキスを落とした。

サトコ

「石神、さん‥?」

私は驚きを隠せぬまま、石神さんの顔を見る。

その表情には、愛情が込められているように感じた。

石神

ここなら、誰も見ていないだろ

それに‥今日だけは、特別だ

照れながらも、優しく微笑む石神さん。

(最高のご褒美だな‥)

そう思いながら、石神さんに笑みを返す。

そして私たちはしばらくの間見つめ合い、どちらともなく唇を重ねた‥‥

Happy  End

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