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体育祭 颯馬

教官たちの徒競走が終わった後、負けてしまった颯馬さんが心配になり、

私は颯馬さんの後を追いかける。

颯馬

おや、どうしたんですか?

サトコ

「い、いえ‥あの」

(なんて声を掛けていいんだろう‥)

颯馬

今日は暑いですからね。貴女も水分補給はこまめにした方がいいですよ

サトコ

「そ、そうですね‥」

けれど、私の心配は杞憂だったらしく、

颯馬さんはいつもと変わらない様子で、水分補給をしていた。

(あれ‥?もしかして落ち込んでないのかな?)

颯馬

どうしたんですか?

サトコ

「い、いえ‥」

颯馬

フフ‥もしかして、私が落ち込んでいると思って心配してくださったんですか?

サトコ

「‥少しだけ」

颯馬

フフ‥ありがとうございます

ですが、今回の徒競走での結果に悔いはありません

(よかった‥私が慰める必要なんてなかったみたい)

サトコ

「それならよかったです」

そう言うと、颯馬さんは私の頭をポンポンと撫でる。

すると、今度は私の目線に合わせ真剣な表情になった‥

颯馬

サトコさん、次は‥貴女の番ですよ

サトコ

「‥はい」

そう言われて、私は1ヶ月前の出来事を思い出した‥

鳴子

「うわ、サトコってば‥アンカーになっちゃったの?」

体育祭で行われる訓練生対抗リレーの走者を決めるクジ。

よりによって、私はアンカーのクジを引いてしまい、机に突っ伏していた。

サトコ

「鳴子、代わって‥」

鳴子

「無理!」

サトコ

「うぅ、誰か代わってくれる人‥?」

ちらり、と他の人を見ると、みんなが一斉に私から視線を逸らした。

鳴子

「あー、諦めるしかないね」

サトコ

「アンカーなんて、嫌だー‥!」

再び机に突っ伏しながら、自分のクジ運のなさを恨めしく思った。

昼休み。

私は颯馬教官に呼ばれ、資料作りの手伝いに教官室に来ていた。

颯馬

‥サトコさん、なにかありましたか?

サトコ

「えっ‥」

颯馬

ホチキス、大変なことになってますよ

サトコ

「へっ‥」

自分の手元を見ると、ひとつの資料を幾つもホチキスで留めてしまっている。

サトコ

「わっ‥!」

東雲

前から抜けてるとは思ってたけど、今日はさらに酷いね

しかも、さっきから上の空みたいだし

石神

注意力散漫だな

サトコ

「す、すみません‥」

加賀

どうせくだらねぇ事で悩んでんだろ、クズが

颯馬

みなさん、あまり私の補佐官を苛めないでください

それで?何があったんですか?

落ちこんでいるときに、颯馬さんの声を聞くとホッと安心する。

そして、私は落ち込んでいる事情を説明した。

石神

リレーのアンカーか

東雲

普段の評価に関係するわけじゃないし、そこまで考えなくてもいいんじゃないの?

サトコ

「いえ、任されたからには精一杯頑張りたいんです」

加賀

うぜぇ、クソ真面目はメガネだけで充分だ

後藤

そういうことなら、周さんに教えてもらったらどうだ?

サトコ

「え?」

後藤教官の言葉に、私は目を瞬かせる。

後藤

周さんは走るのが速いんだ

警察学校時代、リレーで最下位だったのに、周さん1人の活躍で1位になったこともある

サトコ

「えっ!そうだったんですか‥!?」

今まで知らなかった颯馬さんの一面に、私は驚くばかりだった。

颯馬

昔の話ですよ。今はもうあの頃のようには走れないでしょうけどね

ですが、貴女さえよければ、私が指導して差し上げますよ

サトコ

「は、はい‥!お願いします‥!」

颯馬

フフ‥それでは、今日の放課後から特訓を始めましょうか

(アンカーで走るのは嫌だけど‥颯馬さんとふたりきりの特訓が出来るのは嬉しいな)

そんなことを考えながら、私は放課後が来るのを待ちわびていた。

そして放課後。

私の実力を見るために、体育祭と同じ距離を走ることになった。

颯馬

後半でも速度が落ちないので、体力はありますね

‥ですが、それは女性として、という意味です

今のままでは、男子訓練生には勝てないでしょう

サトコ

「‥そ、そうですよね」

ただでさえ、男性と女性では体力差がある。

(やっぱり、私じゃダメなのかな?)

颯馬

そんな顔をしないでください

勝つことは容易ではないですが‥まったく、勝ち目がないとは言っていませんよ?

サトコ

「え?」

颯馬

‥手取り足取り、指導が必要なようですね

サトコ

「‥っ!?」

颯馬さんは、私の耳元で囁いて来て、思わずドキリとしてしまう。

<選択してください>

A: それってどういう‥

サトコ

「それって、どういう‥」

颯馬

フフ‥分からないんですか?

分からないのなら、ちゃんとした指導が必要のようですね?

サトコ

「リ、リレーの指導ってこと‥ですよね?」

颯馬

さぁ‥どうでしょう?

B: お願いします!

サトコ

「お願いします‥!」

颯馬

‥‥‥

(あ、あれ?颯馬さん、なんだか驚いてる‥?)

颯馬

‥私の言う『指導』の意味、分かっていますか?

分かった上で、私はお願いされているということですよね

サトコ

「えっ‥あ‥っ」

(指導って‥そういうこと!?)

颯馬

クスッ‥やはり貴女は可愛いですね

サトコ

「っ‥」

(‥か、からかわれた?)

颯馬さんは私の頬に優しく触れながらクスクスと笑う。

C: こんなところで‥!

サトコ

「えっ!こ、こんなところで‥!?」

颯馬

こんなところ‥?あぁ、なるほど‥

‥どうやら貴女は何か勘違いをしているみたいですね

サトコ

「勘違い、ですか?」

颯馬

私は『リレーの指導』について言ったんですが

サトコ

「‥っ!?」

颯馬

‥まぁ、帰ってから指導するのもありですけどね

(え、えええっ‥!?)

颯馬

とりあえず、リレーの対策を考えなくてはいけませんね

サトコ

「は、はい‥」

(颯馬さんの声があまりにも色っぽい声だったから‥)

(思わず別の意味に勘違いしそうになっちゃった‥恥ずかしい)

颯馬

さて、どうやって対策を練るべきでしょうか‥

(颯馬さんがわざわざ時間を割いて、私に付き合ってくれてるんだから‥)

(しっかり、頑張らなきゃ!)

颯馬

フフッ‥

ペチペチ、と自分の頬を軽く叩いていると、颯馬さんが意味深な笑みを浮かべていた。

颯馬

男女の力の差を埋めるのは、限界があります

だから、短時間で勝てる可能性を高めるために、作戦を立てましょう

サトコ

「作戦、ですか?」

颯馬

そうです、たとえば‥バトンパスの練習を徹底的にやる、とかね

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サトコ

「バトンパス?あれって、普通に渡せばいいんじゃないんですか?」

颯馬

簡単に見えて、結構奥が深いのですよ

バトンパスの練習をすれば、最大で1秒ほどの時間を短縮できるんです

サトコ

「えっ‥!」

颯馬

塵も積もれば‥という言葉もありますし、これを積み重ねれば何メートルも差がつきます

(バトンパスのことなんて、今まで気にしたことなかった‥)

颯馬

明日から毎日、前のランナーとバトンパスの練習をしてください

体育祭まで1ヶ月、毎日バトンパスの練習をすれば、必ず成果は出ます

あとはテイクオーバーソーンの有効活用、コーナーの出口で一気に追い越す、などでしょうか

サトコ

「よ、よろしくお願いします‥!」

颯馬

まずはフォームから正していきましょうか

サトコ

「‥はい!」

そう言って、颯馬さんは私の背後にまわり、手の振り方などの指導をしてくる。

颯馬

腕は大きく、真っ直ぐに振りましょう

少し窮屈かもしれませんが、こうやって脇を締めることを意識してください

サトコ

「は、はい‥」

颯馬さんが、私の腕に触れて来て、ドキドキと胸が高鳴る。

(颯馬さんの顔に泥を塗らない結果にしなきゃ‥!)

(颯馬さんを信じて、1か月後の体育祭を頑張ろう!!)

その日から、私の体育祭に向けての特訓が始まった。

コンコン

サトコ

「失礼します‥」

放課後、颯馬さんに資料を届けるため、個別教官室を訪ねる。

颯馬

サトコさん、ありがとうございます

練習の方は捗ってますか?

サトコ

「はい。颯馬さんのアドバイス通り、毎日バトンパスの練習をしています!」

颯馬

順調なんですね

サトコ

「‥はい」

颯馬

クスッ、ウソはいけませんよ?

サトコ

「えっ?」

颯馬

貴女のことで、私に分からないことがあるとでも?

サトコ

「‥っ!?」

(颯馬さんには、私の不安がお見通しなんだ‥)

サトコ

「やっぱり自信が持てなくて‥みんなに迷惑をかけてしまうのが怖いんです」

颯馬

あんなに練習したのに、まだ不安なんですか?

颯馬さんの言葉に、私はゆっくり頷く。

すると、颯馬さんは小さなため息をついて、私に近づいた。

颯馬

仕方ありませんね。特別ですよ

そう言いながら、私の顔に手を添えてきた。

(あ、これって‥もしかして)

(剣道大会でしてくれた、おまじない‥?)

ドキドキしながら待っていると‥

チュッ

サトコ

「‥え?」

前にしてもらった、おでこをくっつけるおまじないではなく、

おでこに優しいキスが降ってきた。

サトコ

「え?え?」

颯馬

今日は特別です。だから弱気にならず、しっかりと頑張ってください

サトコ

「‥っ、はい!」

颯馬さんの言葉に、私は少しずつ心の中の不安が落ちかけていくのを感じた。

颯馬さんの特訓を経て、今日の日を迎えた。

そして、もうすぐ私の順番がやってくる。

私は運動場に並びながら、おまじないをしてもらった、おでこに触れる。

(大丈夫。あんなに特訓したんだし‥!)

(颯馬さんから教えてもらったこと、絶対に無駄にしないようにしなきゃ!)

男子訓練生A

「氷川!」

私の前のランナーが近づいて来ていて、私は練習通りにバトンを受け取る。

鳴子

「サトコ!がんばれー!」

鳴子の声を聞きながら、私はスタートする。

途中でフォームが崩れそうになるけど、その度に何度も正す。

今の順位は1位。

このままいけば、颯馬さんにも胸を張ってお礼を言える。

(あと少し、あと少し‥!)

サトコ

「‥っ!」

そんな時、1位争いをしていた訓練生に押されて、私は派手に転んでしまった。

慌てて立ち上がろうとするけど、足を捻ってしまったらしく、すぐ走ることができない。

膝からは血も出ていて、思わず泣きたくなる。

(‥最後まで、走らなきゃ)

足を引きずりながら、一生懸命走るけど‥他のランナーたちがどんどん追い抜いて行く。

‥結局、私は1位をとるどころか、最下位でゴールをすることになった。

(‥足も血だらけ、あんなに特訓したのに‥)

じわり、と滲んでくる涙をこらえるため、私はグッと唇を噛む。

(保健室に行かなきゃ‥)

少し足を引きずりながら、私が保健室に行こうとすると‥

颯馬

よく頑張りましたね、サトコさん

颯馬さんはそう言うと、ふわりと私を抱き上げた。

サトコ

「そ、颯馬教官‥!」

颯馬

けれど、そんな足でひとり無理をするのは感心しませんよ

サトコ

「み、みんなが見てますよ‥!お、お姫様抱っこなんて‥!」

颯馬

貴女は私の補佐官ですから、問題ないでしょう?

確かに、補佐官だから颯馬さんが助けてくれることに違和感はないけど‥

みんなの前でお姫様抱っこ、という事態が別な意味で、私の心臓をバクバクさせていた。

サトコ

「あれ?颯馬教官、保健室に行くんじゃ‥」

「保健室はこっちじゃないですよね‥?」

颯馬

行くのは保健室ではなく、私の個別教官室です

サトコ

「えっ‥」

颯馬

貴女の手当ては、私がします

少し急ぎますね

そう言って、颯馬さんは歩く速度を早めた。

颯馬

少し、傷に滲みるかもしれませんが‥

颯馬さんはそう言って、濡らしたガーゼで傷口を拭ってくれる。

<選択してください>

A: ‥すみません

サトコ

「‥せっかく、訓練してくれたのに‥あんな結果になってしまってすみません」

「颯馬さん、忙しい中、時間を割いてくれたのに‥本当にごめんなさい」

颯馬

サトコさん‥

‥今は、我慢せずに泣いてもいいんですよ?

B: ありがとうございます

サトコ

「傷の手当、ありがとうございます」

「せっかく颯馬さんに特訓してもらったのに‥ごめんなさい」

颯馬

サトコさん、私の前で無理をするのはダメですよ

つらい気持ちを隠して、無理に笑顔なんて浮かべなくてもいいんです

C: 私は、大丈夫です!

サトコ

「私は、大丈夫です‥!」

「むしろ、颯馬さんにばかり迷惑をかけて‥本当にごめんなさい」

颯馬

‥『迷惑だ』と、私が一度でも言いましたか?

サトコ

「え‥」

颯馬

言ってませんよね?貴女に関することで、私が迷惑に思う‥

それこそありえない話です

優しく消毒をしてくれる姿を見ると、さっき我慢したはずの涙が再びこみ上げてきた。

サトコ

「‥特訓もそうですし、怪我の手当てまで」

「私って、もう本当に‥」

颯馬

もう、謝るのは禁止ですよ

私の唇に、颯馬さんが優しく人差し指をくっつけてきた。

そして、そのまま優しくキスをしてくれる。

サトコ

「颯馬さん‥!?」

颯馬

今度は、元気の出るおまじないですよ

サトコ

「あ、あの‥っ」

突然の出来事に、私は恥ずかしさが募っていく。

颯馬

フフッ‥サトコさんの顔、真っ赤ですよ

サトコ

「だ、だって、颯馬さんが‥突然こんなことをするから‥」

颯馬

私のせいですか?サトコさんが勝手に赤くなっただけなのでは‥?

颯馬さんに触れられている部分に、やけに意識がいってしまう。

すると、颯馬さんは私の太ももなどにも唇を寄せてくる。

颯馬

貴女の綺麗な足に傷が残っては困りますからね

(ど、どうしよう‥!恥ずかしくて、颯馬さんの顔が見られないよ‥!)

ギュッと目を閉じて恥ずかしさを堪えていると、颯馬さんのクスクスと笑う声が聞こえてきた。

サトコ

「颯馬さん?」

颯馬

今のはお仕置きですよ

サトコ

「えっ‥」

颯馬

‥負けてしまったことにはかわりないので、まだまだ指導が必要ですね

サトコ

「っ‥」

颯馬さんが見せた意地悪な笑顔にも、ドキンと胸が高鳴る。

颯馬

明日は休みですし、私の家に来ませんか?

颯馬さんが耳元で囁くから、私の心臓は落ち着く暇がなかった‥‥

颯馬

今日は疲れたでしょうから、ゆっくりしてくださいね

サトコ

「ありがとうございます。あの‥お風呂を借りてもいいですか?」

(いきなりこんなことを言うのは失礼かもしれないけど)

(颯馬さんに汗臭いって思われたくないもんね‥)

颯馬

構いませんよ。ちょっと待っていてくださいね

サトコ

「はい」

しばらく待っていると、なぜか颯馬さんが自分の着替えを持って戻ってきた。

サトコ

「颯馬さん?」

颯馬

怪我に滲みるので、当分は一緒に入らないといけないですね

サトコ

「‥えっ!?」

あまりにも爽やかな笑顔で言われて、私は少しだけ反応が遅れてしまう。

颯馬

何か問題でもありますか?

サトコ

「い、一緒にお風呂は入れません‥!恥ずかしいです‥!」

そう言いながら、顔を俯かせていると‥

颯馬さんが私の顎に手を寄せ、半ば強引に上を向かせてきた。

サトコ

「‥っ」

颯馬

あれだけ指導したのに、負けてしまったのは誰ですか?

‥それに、教官の命令は‥絶対ですよね?

サトコ

「う、うぅ‥」

「わ、分かりました‥一緒に、お風呂に入ります‥」

颯馬

素直でいいですね。さて、それじゃ入りましょうか

サトコ

「あの、あんまり見ないでくださいね‥?」

颯馬

フフッ、それはどうでしょう?

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サトコ

「えっ!や、約束してくれないんですか!?」

颯馬

サトコが魅力的だから‥悪いんですよ?

颯馬さんは楽しそうに微笑み、ふと、私の膝に視線を落とした。

颯馬

傷が残らなければいいんですけどね

‥もし、傷が残ってしまったら‥私が責任を取ります

サトコ

「えっ、あの‥!それって‥」

颯馬

‥まぁ、傷があろうとなかろうと‥サトコは俺のものだろ?

颯馬さんは、私の反応を楽しむように言葉を投げかけてくる。

耳元で囁かれる言葉、口調の違う言葉に、もう私の思考はクラクラしっぱなしだった。

(は、早く怪我が治りますように!)

(こんなのが毎日続いたら、私の心臓が持たないよ‥!)

体育祭が終わり、いつも通りの日常が戻ってきた。

今日の1時限目は、颯馬さんの講義だ。

(いつも思うけど、颯馬さんの講義って分かりやすいなぁ‥)

颯馬さんはすらすらとホワイトボードに問題を書いていく。

颯馬

‥出席番号4番の人、この問題を解いてください

男子訓練生D

「え?あの、そこはまだ習っていない気が‥」

颯馬

フフッ、予習もしていないのですか?以前、ここは予習しておくように言ったはずですが

男子訓練生D

「す、すみません」

颯馬さんらしくない言葉に目を瞬かせていると、とあることに気づいた。

(あの人、確か体育祭の時に私にぶつかってきた人だ‥)

颯馬

‥‥‥

すると、颯馬さんが少し微笑んだ気がした。

(‥ま、まさか私をこけさせた仕返し‥とか?)

(ううん、そんなはずないよね‥颯馬さんがそんなことをするなんて、ない‥はず)

颯馬

‥‥‥

けど、颯馬さんを見ていると、どっちなのか分からなくなってしまう。

そんなことを考えながら、今日も講義に励んだのだった。

Happy   End

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