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出会い編 石神7話

【廊下】

嫌な汗が背中を伝う。

(今、何を隠したの‥?)

サトコ

「‥‥‥」

振り返ると、もうそこには丸岡さんの姿はなかった。

(ただ手を入れただけ‥?)

(でも‥)

明らかに何かを懐にしまっていた。

なんとかして難のない解釈をしようとしてみても、嫌な予感が頭を占領していく。

サトコ

「‥‥‥」

(いや、落ち着こう。思い過ごしかもしれないし‥)

(とりあえず確認しなきゃ分からない)

【武器庫】

こっそりと地下へ降り、目的のドアを軽く引く。

すると、武器庫の厳重なはずのドアは簡単に開いてしまった。

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(いつもは施錠になってるはずなのに、どうして‥?)

射撃訓練の時と、前もって申請をして許可が下りない限り、

生徒は武器庫に入ることは許されていない。

もしくは緊急時に教官長や学園長の判断で解放された時だけだ。

サトコ

「‥‥‥」

(これじゃここから何かを持ち出して隠したって考えるのが、一番自然になっちゃうよ‥)

今すぐ教官に知らせるべきだ。

そうわかっていても、足が固まってしまって動かない。

(もし、勘違いだったら‥)

(丸岡さんがここに来て、拳銃らしきものを持ち出した‥なんて証拠も何もない)

何より、いくら嫌われようとも、ここで一緒に学んでいる人のことを疑いたくはない。

(そうだよ。颯馬教官だって最初の頃に言ってたじゃん‥)

ここに居る人は、志を持った人ばかりのはずだ。

(でも、じゃあ‥あの時は?)

前にもこの近くで丸岡さんを見かけたことがある。

図書閲覧室から出てきたんだと思ったけれど、もしかしたらそうじゃなかったのかもしれない。

いつも1人で、他人と距離を置いているのも‥

サトコ

「ダメだ。根拠がないものばっかり‥」

(ひとまず守衛室に行って、鍵が開いてるって報告しよう‥)

そうすれば教官たちの耳にも入るはずだ。

(丸岡さんとも、明日ちゃんと話そう‥)

そう思い立ち、降りてきた階段へ向かおうとした瞬間ーーー

カチッ‥

サトコ

「!」

(え?)

(鍵が閉まった!?)

先ほどはいとも簡単に開いたドアも、今はビクともしないくらい固く閉ざされている。

(どういうこと?システム制御されてるだろうけど、このタイミングで鍵がかかるなんて‥)

不思議な現象に、ますます不安が募るばかりだった。

【教場】

翌日。

鳴子

「サトコは今日も資料室行くの?」

サトコ

「うん。そうするつもり」

(丸岡さん、普段通りだったな‥)

鳴子

「‥どうかした?」

サトコ

「ううん。なんでもない」

「じゃあ、また寮でね」

考えれば考えるほど不審に思えてくるものの、うまくかわされては意味がない。

(何とかしなきゃ‥)

やるしかない。

そう自分に言い聞かせながら、資料室へと向かった。

【資料室】

(職務質問と取り調べ‥)

(あとは尾行術ももう一度‥)

机にテキストを広げて、頭の中へ詰め込んでいく。

丸岡さんの出方が分からないだけに、せめてもの下準備を始めた。

(頭に入っても、体現できなければ入ってないのと同じ‥)

(前に石神教官に言われたけど、今回は本当に実践できなきゃ意味がない)

石神

やけに真剣だな

サトコ

「石神教官!」

分厚い資料を抱えた教官は、私のいる机に歩いて来る。

サトコ

「今日はお時間あるんですか?」

石神

ああ

(丸岡さんのことを相談したい‥)

(たぶん、するべきなんだろうけど‥)

石神

どうした?

(やっぱりまだ言えないよ‥)

(武器庫の施錠のことは報告が上がってるし、それ以外はまだ何の確信もないんだから‥)

甘いと言われても、やっぱり同期を疑うなんて嫌だ。

(せめて、悪いことをしてるってハッキリわかるまでは‥)

まだ黙っておこうと決めて、口を開く。

サトコ

「あの‥私、本当にちゃんとできるようになりたいんです」

「私のダメなところを具体的に教えてもらえませんか?」

石神

具体的にだと?

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サトコ

「はい」

突然なんだと言わんばかりの顔をした教官は、小さく息を吐いて口を開いた。

石神

君は俺に何時間説教させるつもりだ

サトコ

「う‥」

石神

ダメなところしかないだろう。いいところと言われれば2秒で済むが

サトコ

「‥い、一応、それも聞いてみていいですか」

石神

無駄にポジティブなところだけは評価している

サトコ

「無駄に‥」

(実際、ダメな部分が多いわけだしね‥)

(っていうかホントに2秒で言い切られた‥)

返す言葉もなくテキストを読み込んでいると、石神教官は仕方なさそうに口を開く。

石神

‥尾行術に関して言えば、氷川は意識を飛ばし過ぎだ

何かやましいことがある人間は人の視線に敏感になっている

いくら身を隠したところで、“見られている”という意識を持たせてしまっては意味をなさない

サトコ

「意識を飛ばし過ぎ‥」

(確かに、いつも見失わないように必死かも‥)

石神

あとは全体的に前のめりになりすぎだ

尾行にしろ射撃にしろ、一呼吸置くことを心掛けろ

サトコ

「はい」

石神

それから頭に知識を詰め込むことが悪いとは言わないが、知識に着られるな

現場ではいかにシンプルにものを考えられるかが大事だからな

サトコ

「‥‥‥」

思っていたよりもずっと真面目に話してくれる石神教官に、思わず見入ってしまう。

石神

‥何だ

サトコ

「いえ‥そんなにちゃんと見ていてくれたんだと思うと、嬉しいです」

石神

(あれ‥)

石神教官はバツが悪そうに咳払いする。

石神

教官なのだから当然だろう

<選択してください>

A: そうですねと笑う

サトコ

「ふふっ、そうですね」

石神

ニヤけてる暇があるならさっさと自覚して克服しろ

B: 茶化す

サトコ

「さすが石神教官ですね。出来の悪い私の事をそんな隅々まで把握してくださるなんて‥」

「鬼教官の貴重な一面‥」

石神

二度とそんな口を叩けないようにしてやってもいいんだが

サトコ

「すみません!調子に乗りました」

石神

馬鹿なことを言う暇があるなら勉強しろ

C: お礼を言う

サトコ

「ありがとうございます」

石神

礼を言われる筋合いはない

サトコ

「それでも、やっぱり嬉しいですから」

石神

‥浮かれてる暇はないはずだが

サトコ

「もちろんです!でも、あと1つだけいいですか?」

石神

何だ

サトコ

「取り調べなんですけど‥」

「こう、私にピッタリな効果絶大な必殺技なんてないものかと」

石神

‥やけに食いつくな

サトコ

「し、正念場ですからね。査定の‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

(な、何‥)

石神教官は黙ったまま、私をまっすぐに見据える。

石神

‥何か余計なことを考えているな

サトコ

「!」

石神

当たりか

何か知らんが余計なことに首を突っ込むな

サトコ

「‥何もしませんよ。ただ、前に石神教官にこっぴどく叱られたじゃないですか」

「苦手なところをどうにかしたいってだけです」

石神

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

(やっぱり、見透かされてる‥?)

けれど、丸岡さんに確認する前に万が一に備えておきたい。

石神

‥まぁいいだろう

(よかった‥)

石神教官はそれ以上は何も聞かず、私の質問にしっかりと答えてくれた。

【階段】

(ここで待ってれば、丸岡さんが来るかもしれない‥)

昨日と同じ時間、同じ場所。

武器庫へ続く階段が見える場所にそっと身を潜ませた。

(誰も来なかったらそれが一番なんだけど‥)

思い違いであってほしい。

半ば祈るように、固く拳を握る。

(もうどれくらい経つだろう‥)

しばらく待っていたものの、誰も来ない。

(来ない方が喜ばしいし‥)

(寮にいる時間に丸岡さんを呼び出せば、ちゃんと話ができるかも)

時間を確かめようと、腕時計に視線を落とす。

コツン、コツン‥

サトコ

「!」

しんとした廊下に、足音が響く。

(びっ、くりした‥誰だろう‥)

柱に隠れながら様子を窺うと、

ノートパソコンを抱えた丸岡さん地下へと降りていくところが見えた。

サトコ

「‥‥‥」

(丸岡さん‥やっぱり‥)

石神

‥尾行術に関して言えば、氷川は意識を飛ばし過ぎだ

(ここで尾行術に失敗したら終わりだ‥)

石神教官に教えてもらった通りに後を尾けることにした。

【武器庫】

武器庫は最もセキュリティが厳重で、二重扉になっている。

(やっぱり鍵が開いていた‥)

ドクン‥ドクン‥

心臓が嫌な音を立てる中、1つ目のドアを開けて中へ入る。

すると、ガラス越しに奥の方でパソコンを操作している丸岡さんの背中が見えた。

(何をしているの‥?)

(ここからじゃよく見えない‥)

丸岡さんは拳銃収納庫の前へ移動すると、滑らかな指捌きでキーボードを叩く。

ふと、丸岡さんがポケットから何かを取り出した。

サトコ

「!!」

(どうして鍵を持ってるの‥?)

カチャリ。

何の迷いもなく、丸岡さんは目の前の棚へと鍵を挿した。

そこには、制服警官が所持するリボルバー式のものから、

あまり馴染みのなかった自動式拳銃までがズラリと並び、

もちろんこれらを取り出すのにも鍵が必要になる。

サトコ

「‥‥‥」

教官の許可なく、私たちが勝手に持ち出せるわけもない。

それなのに、丸岡さんは難なく一丁の拳銃を懐に忍ばせた。

(やっぱり思い違いなんかじゃなかった‥)

(とにかく、相手は拳銃所持。石神教官に知らせなきゃ‥!)

まだ棚に向かっている丸岡さんを警戒しつつ、こっそりとその場を離れた。

【階段】

サトコ

「‥っ」

(早く、早く行かないと‥!)

音を立てるわけにはいかず、足音に気を付けながらも気持ちばかりが焦る。

(丸岡さんは何で‥)

(いや、今はそれよりも先に‥)

焦る気持ちを押さえながら階段を駆け上がった瞬間、目の前に黒い影が現れた。

サトコ

「!」

黒澤

おっと、サトコさん。こんにちは~

サトコ

「黒澤さん‥!」

1階まで上がったところで、バッタリと黒澤さんに会った。

黒澤

そんなに急いでどうしました?

(どうしよう‥もし今、丸岡さんがここへ来たら?)

(ここで話すべきじゃないかも‥)

<選択してください>

A: 黒澤さんは石神教官のところへ?

サトコ

「いえ‥黒澤さんは石神教官のところへ?」

黒澤

ええ。学校に来れば必ず会えるので助かります

(とにかく場所を変えなきゃ‥)

B: 何でもないです

サトコ

「いえ‥何でもないです」

黒澤

何でもないって様子じゃなかったですけど‥

サトコ

「その‥私も石神教官のところへ行くところなんです!」

(一刻を争うし‥黒澤さんに話しながら移動する?)

C: 助けてください

サトコ

「黒澤さん!助けてください」

黒澤

な、何かあったんですか?

食い気味に言ってしまったがために、黒澤さんは驚いた様子で私を見下ろす。

(とにかく石神教官のところへ行かないと‥)

サトコ

「あの‥」

黒澤

あ、丸岡さんだ

サトコ

「え‥」

黒澤さんの言葉に振り返ると、愛想笑いを浮かべた丸岡さんが立っていた。

丸岡

「お疲れ様です」

黒澤

どうも。丸岡さんは成績優秀だってよくお聞きしてますよ~

丸岡

「ありがとうございます。でも俺なんてまだまだですよ」

黒澤

おお、謙虚

サトコ

「ま、丸岡さんはこれから自主練とかするんですか?」

丸岡

「いや、氷川さんを探してたんだ。ちょうど良かった」

サトコ

「‥‥‥」

丸岡さんの、目が笑っていない。

(もしかして‥さっきのこと‥)

黒澤

あ、そうなんですか?引き止めちゃってすいません

丸岡

「いえ。少しばかり用があるんです。こちらこそお話し中のところすみません」

黒澤

いやいや、オレもすぐ教官室に行かないとだから

サトコ

「あ、あの黒澤さん‥」

丸岡さんが銃を持ち出しました。そう言いかけた時、一瞬鋭い目線とかち合った。

丸岡

「じゃあ、氷川さんをお借りしますね」

黒澤

2人とも査定前だけど、根詰め過ぎないようにしてくださいね

丸岡

「ありがとうございます」

何事もなかったように微笑む丸岡さんを見て、背筋が凍る。

丸岡

「じゃ、行こうか」

【教場】

逃げるわけにもいかず、丸岡さんに連れられて2階にある教場に入った。

サトコ

「‥用ってなんですか?」

丸岡

「氷川さんこそ、何か俺に用があるんじゃないかと思って」

サトコ

「‥‥‥」

(バレてる‥)

丸岡さんは教壇に立ってもたれかかりながら、のんびりとした仕草でこちらを見る。

丸岡

「聞きたいことがあるなら聞いてくれていい」

「コソコソと嗅ぎまわられるのが一番鬱陶しいからな」

サトコ

「‥っ」

丸岡

「あんな見かけ倒しの尾行術で俺を出し抜いたつもりか?笑わせるな」

サトコ

「‥バレてたんですね」

丸岡

「そりゃそうだろ」

サトコ

「‥この前も武器庫の鍵が開いていることがありました。あれは丸岡さんの仕業ですか?」

丸岡

「さぁな」

サトコ

「でも今日は、丸岡さんが武器庫に入っていくところも」

「拳銃を手に取って持ち出したところもこの目でハッキリ見ました」

丸岡

「ああ、見せてやったんだ」

サトコ

「どうしてそんなことを‥!」

丸岡

「お前が石神の犬だからだよ。だから見せてやったんだ」

サトコ

「!」

教場の入口に立つ私との距離は3mほどだろうか。

拳銃を私の額に向けて、一歩‥また一歩と近づいてくる。

サトコ

「どうして‥」

丸岡

「俺は石神が嫌いなんだ」

足が地面に張り付いたみたいに動かない。

ひんやりと固いものがピタリと額に当てられる。

丸岡

「撃ってやろうか」

サトコ

「‥丸岡さんは撃たないって信じてます」

丸岡

「は?」

サトコ

「何がしたいのか分かりませんけど、ここに在籍しているからには何か志があるんですよね?」

「警察官が発砲して警察官を殺すとなると、かなり重い罪になります」

「丸岡さんはそんな浅はかなことはしないはずです」

丸岡

「お前の甘さには反吐が出る」

サトコ

「!」

強い衝撃が頭を襲う。

丸岡さんは拳銃のグリップで思いっきり殴りつけると、パソコンを開いて何か操作し始めた。

サトコ

「っ‥!」

丸岡

「動くなよ。今度は本当に撃つからな」

サトコ

「‥‥‥」

こめかみを流れていくのが汗なのか、血なのかよく分からない。

まっすぐに向けられている銃口が私の呼吸さえ止める。

(どうしたら‥)

立ち上がることもできず、ただ丸岡さんの行動を眺めるしかできない。

(考えなきゃ‥ビビってる場合じゃない)

(こういう時、石神教官なら何て言う‥?)

丸岡

「フン、可愛げがない奴だ」

「普通、泣かないか?」

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サトコ

「泣いてほしいんですか?」

丸岡

「そうやって余裕でいられるのも今のうちだ」

丸岡さんはキーボードを指で弾くと、ニヤリと口角を上げた。

ジリリリリ‥!

サトコ

「な、何‥!?」

突如、大きな音で非常ベルが学校全体に響き渡る。

その音と不穏な空気に、ビクッと肩を震わせる。

丸岡

「ショータイムだ」

丸岡さんは嫌な笑みを浮かべながら、うずくまる私の真ん前にしゃがみこんだ。

to be continued

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