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出会い編 石神 シークレット2

シークレット 6.5

「放課後のヒメゴト♡」

【階段】

(わ‥こうこんな時間!急がなきゃ‥!)

すっかり暗くなった窓の外を見ながら、目的の場所へと向かう。

今日は石神教官が予習に付き合ってくれることになっていた。

おじさん

「お、氷川さん。おつかれさま」

サトコ

「お疲れ様です!」

守衛室から、警備員のおじさんが出てきてニッコリと声を掛けられる。

おじさん

「これからまだ勉強かい?」

サトコ

「はい」

おじさん

「この下の階の廊下の照明はもうすぐ消しちゃうから、帰りは気を付けるんだよ」

サトコ

「分かりました!」

(もう20時前だもんね。他に誰もいないし、節電の通達も来てたし‥)

3階の教場へと上がる途中、おじさんが言った通りに下の階の灯りが消えた。

【教場】

教場でテキストを読んでいると、静かにドアが開く。

石神

これは一体どういうことだ

開口一番、地を這うような低い声と、突き刺さるような鋭い視線。

その手には、今日の講義で行ったテスト用紙が印籠のように突き出されていた。

サトコ

「え!87点もあったんですか!?」

石神

喜ぶ点数じゃない。出題範囲をきっちり確認しておけば満点取れるところだろう

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サトコ

「すみません‥」

(その範囲が広すぎて、ホントは赤点だと思ってたなんて言えない‥)

石神

今日は徹底的に詰め込め

サトコ

「は、はい‥」

ドサッと目の前に積まれたのは、どれも分厚い参考書だ。

(もしかして‥)

石神

全てだ

サトコ

「え‥」

石神

何か文句あるか

サトコ

「いえ!が、頑張ります!」

(ホント鬼だ‥)

‥とは思ったものの、手に取って中を見ると、

蛍光ペンでラインが引かれていたり、重要な部分には付箋が貼られている。

サトコ

「‥‥‥」

石神

言っておくが、そんなことはここでしかないからな

サトコ

「ありがとうございます!」

(結局はこうやって助けてくれるんだよね‥)

(よーし!頑張らなきゃ!)

時折、石神教官に質問しながらカリカリとノートに書き込んでいく。

ふと顔を上げると、いつもより少し浅く腰掛けて、リラックスした様子で本を読む横顔があった。

(何を読んでるんだろ‥)

こっそり盗み見ると、タイトルも見出しも横文字だ。

(Criminology‥って“犯罪学”だよね)

(英文そのまま読めるって‥かっこいい‥)

石神

何だ

思わずじっと見てしまった私は、教官は本から目も逸らさずに言う。

サトコ

「そういえば、聞いてみたかったんですけど‥」

「石神教官も、こうやって馬車馬のように試験勉強したことあるんですか?」

詳しく聞いたことはないけれど、31歳で警視ということはキャリア組なわけで。

となると、司法試験並みに難しいとされる国家公務員Ⅰ種に合格したことになる。

石神

まぁ、それなりにな

サトコ

「なんだか想像がつかないです」

石神

警察官になった以上、ずっと試験は付きまとう

やり方は違えど、各々努力はするものだろう

サトコ

「そうですね‥」

石神

君も、出来は良くないが積み重ねればそれなりに使える知識も出てくるだろう

サトコ

「‥はい」

(いつか嫌味なく褒められるように頑張ろう‥)

誰もいない2人だけの教場に、静かな時間が流れる。

と、そこにコツコツと足音が聞こえてきた。

サトコ

「‥‥‥」

(どうしよう‥いや、どうしようってこともないんだけど)

(誰もいない校舎に教官と生徒って‥)

やましいことをしているわけでもないのに、妙にドキドキしてしまう。

ガチャ。

おじさん

「おお、まだやってたのか」

「ここの施錠頼むよ~」

サトコ

「あ、はい!」

おじさん

「こんな時間まで勉強とは、さすがエリートのタマゴだな」

サトコ

「へっ‥」

石神

‥‥‥

おじさん

「応援してるよ」

(エリートどころか、退学がかかってるんだけどね‥)

ニコニコとドアを閉めて、また足音が遠ざかる。

石神

‥手を止めてる暇はないぞ

サトコ

「はい」

改めて机に向き合い、しばらくした頃。

突然フッと室内の灯りが消えた。

サトコ

「!」

(な、何!?停電?)

石神

はぁ‥先ほど話したことも忘れて一斉消灯したな

サトコ

「あ、そういうことなんですね‥」

(びっくりした‥)

石神

直接点けられるはずだ。少し待て

サトコ

「はい‥」

入口にあるスイッチを確認しようと石神教官が席を立つ。

けれど、外の灯りも少なく、真っ暗に近い。

(大丈夫かな‥)

なんとなくつられるように自分も立ち上がったのと、

教官が何かにぶつかる音がしたのはほとんど同時だった。

サトコ

「わっ!」

石神

すかさず手を伸ばしたものの、逆に庇われるようにして一緒に倒れ込む。

軽量の金属のようなものが床に落ちる音‥

(あれ、この音、最近聞いたような‥)

サトコ

「いたた‥すみません」

石神

いや‥

そこで、思い出したかのようにパッと灯りが点いた。

サトコ

「!!」

石神

‥‥‥

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メガネがない、石神教官の顔が間近にある。

さっきの音は、メガネが外れて落ちた音だったんだ‥

石神教官は咄嗟に私を庇ってくれたんだ‥

まるで私が押し倒しているかのような体勢を確認して、時間が止まる。

サトコ

「わわわ‥っ!すみません!!」

(呆けてる場合じゃないよ!早く退かないと‥!)

石神

慌てるな

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サトコ

「む、無理ですよ。そんなの」

石神

‥‥‥

サトコ

「‥あの、石神教官って視力は‥」

石神

相当悪い

精一杯の冷静さをかき集めて身体を横に退けると、石神教官もゆっくりと立ち上がる。

なんとなく気まずい空気の中、教場のドアが開いた。

おじさん

「すまんすまん!ついクセで消してしまったんだ」

「悪かったね」

石神

ゴホン‥いえ、平気です

おじさん

「じゃ、仲良くな」

サトコ

「な‥」

(仲良くって‥!?)

メガネをかけ直しながら、石神教官はわずかに目を泳がせている。

(もしかして、教官も照れてたり‥?)

(いやいや、まさか‥ね)

口に出してしまうと怒られることは目に見えている。

テキストで顔を隠すようにして、こっそりと笑いを堪えた。

【中庭】

サトコ

「今日もありがとうございました」

石神

ああ

‥それにしても騒がしい1日だったな

サトコ

「そうですね‥」

(予習もはかどったんだけど、急接近しちゃったことの方がインパクト大で‥)

ちらりと横目で見てみると、同じようにして教官の視線とぶつかる。

石神

‥今日のことは忘れろ

サトコ

「今日のことってなんですか?」

石神

分からないならいい

サトコ

「?」

(なんだろう。やっぱり石神教官も照れてたのかな‥)

サトコ

「ふふっ」

石神

‥‥‥

サトコ

「では、これで失礼します」

石神

ああ

これからまだ本部へ戻るという石神教官と別れ際、

あまり見ることのない表情をたくさん見られた気がして、軽い足取りで寮へ向かった。

End

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