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石神 恋の行方編 GE

【教場】

数日後。

(加賀教官、いるかな‥)

代理で書類提出を頼まれて、少しビクつきながら教官室のドアを開ける。

サトコ

「失礼します。加賀教官は‥」

いますか、という言葉は不要だった。

加賀教官は、ドアから一番近いデスクに着いている。

加賀

なんだ

サトコ

「佐々木さんが寝込んでいるので、代理でこれを‥」

「あの、どうかしたんですか?」

(いつもの席じゃない‥)

颯馬

フフ‥お客さんが来てるんですよ

加賀

あれは客じゃねぇ

東雲

サトコちゃんも行って来たら?

後藤

加賀さん、班長印お願いします

加賀

クソメガネに言え

後藤

今入ると長くなりそうなので

加賀

チッ

サトコ

「?」

(誰が来てるんだろう‥)

(でも、石神教官にもレポート出さなきゃいけないんだよね‥)

東雲

いってらっしゃい

サトコ

「は、はい‥」

【個別教官室】

コンコン。

ノックをして石神教官の個室のドアを開ける。

莉子

「サトコちゃん!」

サトコ

「わわわ‥っ!」

「り、莉子さん!?」

入るなり抱きつかれ、後ろに倒れそうなところを何とか踏みとどまる。

莉子

「聞いたわよ!おめでとう!」

「もう、2人がホントに恋人同士になるなんて!」

石神

うるさい‥

サトコ

「えーと‥」

(石神教官、私の事なんて言ったんだろう‥)

莉子

「すっごく嬉しいわ!良かったわね、サトコちゃん」

サトコ

「莉子さんにそう言ってもらえると、また色々と込み上げちゃうんですけど‥」

「ありがとうございます!」

莉子

「この冷徹で根暗な秀っちに、年下の可愛い彼女なんて最高じゃない」

石神

いい年してそんなことではしゃぐな

莉子

「歳は関係ないでしょ!」

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莉子さんは顔だけで振り返ると、教官をキッと見る。

莉子

「だいたい、今まで仕事が恋人で、誰かと添い遂げようとか考えてなかったのは秀っちでしょう」

「これが喜ばずにいられますか」

石神

はぁ‥

莉子

「あ」

莉子さんは何か思い出したように、コソコソと私にだけ聞こえるように言葉を続ける。

莉子

「さすがに30過ぎてるし、男としての経験はあるだろうけどね?」

「夜の事までは私もどんなのか知らないけど」

サトコ

「な‥!」

(よ、夜って‥!?)

真っ赤になって口をパクパクする私をよそに、

莉子さんは涼しい顔でソファに腰を下ろす。

(あれ?ドアの向こうから何か‥)

加賀

あのクソメガネ、人には候補生に手ぇ出すなっつーくせに自分は棚上げかよ

今度からムッツリメガネに昇格するか

東雲

ハハ、いいじゃないですか。ネタにできるし

颯馬

フフ‥楽しみが増えましたね

後藤

アイツが煩くなるのが目に見えるのだけが‥

(思いっきりバレてるし‥)

聞こえてるはずなのに、石神教官は咳払いひとつだけで自分のデスクに着いた。

サトコ

「?」

(いつもなら怒りに行きそうなところなのに‥)

石神

‥アイツらに構うと面倒だからな

莉子

「“サトコは俺のものだ!手を出すな!”くらい言ってやりなさいよ」

石神

‥‥‥

サトコ

「莉子さん‥残念ながら頼んでも手は出されないかと」

向こうの部屋のドアが大きく開く音がして、教官室から声が聞こえてくる。

黒澤

歩さん!本当なんですか!?

東雲

早かったね。透

黒澤

こんな一大事に駆けつけないわけにはいかないですよ!

ああ、ついに石神さんにも春が‥

この黒澤、感激であります!

後藤

うるさい

石神

‥‥‥

(あ、さすがに今度は言いに行くんだ)

石神教官は席を立つと、おもむろにドアを開ける。

黒澤

石神さん!オレ、とても嬉しいです!」

石神

黙れ

黒澤

なんでオレだけそんな態度‥!

助けてください。サトコさん!

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サトコ

「ふふっ。頑張ってください」

黒澤

ええ~!?

(石神教官、意外と表情豊かだよね)

怒ったり、かと思えば柔らかく微笑んだり。

いつの間にか、石神教官はいろんな表情を見せてくれるようになった。

莉子

「兵吾ちゃん。今夜は祝杯よ!」

加賀

俺を巻き込むな

そしてその呼び方やめろ

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莉子

「決定事項だから。いいわね?」

加賀

‥チッ

黒澤

莉子さん!オレは喜んで参戦します!

東雲

オレも~

莉子

「いいわよ!パーッとやりましょ」

石神

‥勝手にしろ

(すっごく迷惑そう‥)

颯馬

よかったですね。サトコさん

サトコ

「はい!」

いつもより賑やかな教官室を、笑いながら見つめた。

【廊下】

講義後。

大急ぎで資料室へ走る。

(せっかく時間あるって言ってくれたのに‥!)

(訓練の片付けまで任されちゃったし‥!)

【資料室】

ガチャ。

(やっぱり‥)

ドアを開けると、石神教官は先に来ていて、棚の前で何か資料を見ている。

石神

遅い

サトコ

「すみません‥」

息を整えながらいつもの席に座ると、石神教官も正面に腰を下ろした。

石神

後藤から聞いたが、尾行訓練は散々だったそうだな

サトコ

「は、はい‥」

石神

刑事警察と公安警察では追尾する目的が違う

尾行下手は命取りだ

サトコ

「本当にその通りで‥」

(初っ端からお説教‥)

言われた通り、4人グループでの循環式尾行訓練は散々なものだった。

石神

‥目的の違いを即答しろ

サトコ

「はい!刑事警察は特定の事件解決のために追尾・張り込みをします」

「公安警察は追尾の主目的は情報収集です!」

石神

‥‥‥

サトコ

「あれ‥合ってますよね」

「一度でも相手にバレたら作業の全てが水の泡に‥」

石神

分かっているのに何故上達しない‥

サトコ

「グループ全体に迷惑かけちゃって凹んでるんです。これでも」

石神

凹む暇があるなら‥‥

サトコ

「はい、ご指導のほどよろしくお願いします!」

石神

‥‥‥

教官の眉間にシワが寄る。

サトコ

「う‥そんな怖い顔しないでください」

石神

こうなったからといって、俺は甘やかす気はない

サトコ

「それは助かります‥」

(それにしたってやっぱり鬼教官だけど‥)

サトコ

「‥私、根本的に間違ってたんですね。スッキリしました」

石神

俺は呆れかえっている

サトコ

「ハハ‥」

複数で行う複雑な形態の追尾について、基礎の基礎から指導してもらい、一息つく。

石神

一週間の最後がこれか

たまには褒めて終わらせてほしいところだ

サトコ

「あ‥明日お休みですよね。何するんですか?」

軽い嫌味をスルーして言ってみると、表情を変えないままで目が合った。

石神

仕事だ

サトコ

「ですよね‥」

(ホントに一体いつ休んでるんだろう‥)

(せっかく付き合えるようになっても、一緒に出掛けるなんて夢のまた夢かも‥)

がっくり項垂れると、仕方なさそうに息を吐かれる気配を感じる。

石神

事件が舞い込まなければ、だが‥

サトコ

「‥?」

石神

来週の土日は空く

(え‥)

(じゃ、じゃあ‥)

サトコ

「水族館に行きましょう!」

石神

フッ‥食いつきすぎだろう

サトコ

「ふふっ。つい‥」

「あ、でも水族館はこの間行ったばかりですもんね」

石神

遠出して別のところにでも行くか

サトコ

「え‥」

(遠出してくれるんだ‥)

石神

お前が週明けのテストで満点取れれば、の話だがな

サトコ

「!」

教官がニヤッと笑う。

サトコ

「反応見て楽しまないでください!」

石神

冗談ではない。本気だ

サトコ

「満点なんて無理だって分かってますよね‥」

石神

一緒に行けるといいが、どうなるだろうな

サトコ

「‥‥‥」

(ズルい‥)

ふとした時に見せてくれる微笑みに、キュンと反応してしまう。

(いつまでも敵わないんだろうなぁ‥)

石神

‥続き、やるか

サトコ

「はい」

1つのテキストを、一緒に覗き込む。

厳しさの中にある優しさがくすぐったくて目を細めると、石神教官も同じように微笑んだーー

End

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