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石神 恋の行方編 シークレット2

エピソード 5.5

「それぞれの石神教官」

【教場】

千葉

「じゃあ、とりあえず作戦はこれでいいね」

サトコ

「うん!」

政治家たちが集う懇親会での潜入課題について、チームのみんなで意見をまとめた。

同期A

「よし。じゃあ後藤教官にこの計画書を持っていけばいいな」

サトコ

「あ、それなら私が預かるよ。どうせ教官室行かなきゃいかないし」

同期B

「‥俺、前から思ってたんだけどさ」

サトコ

「?」

同期B

「お前、石神教官の次に、後藤教官の専属補佐官ってどんだけ引きが強いんだ」

「羨ましすぎるだろ」

サトコ

「そ、そうかな‥?」

千葉

「そういえばそうだね。後藤教官といえば公安課のエースだし」

「補佐官に就きたい奴なんていくらでもいるだろ」

同期B

「石神教官も厳しいけど、なんてったって班長なわけだしな。厳しいけど」

(厳しいって2回言った‥)

(でも確かに恵まれてるよね)

同期A

「今の石神教官の専属補佐官は苦労してるって聞くけど」

「氷川、どうやって上手く付き合ってたんだ?」

サトコ

「どうやってって‥私は元々のデキが悪いから、それ以上落ちることもないし」

「かといって食らいついていかないと放置されそうだし、私なりに必死だったんだと思う‥」

千葉

「そうだな。頑張ってたもんな」

同期B

「氷川の根性勝ちなのか‥」

サトコ

「ああ見えて話してみると普通だったりするし、案外可愛いところも‥」

同期A

「‥は?」

同期B

「今、なんて?」

千葉

「石神教官の可愛いところなんて想像できない‥」

同期たちに困惑の色が浮かぶ。

同期A

「お、俺この間、寮に帰るの遅くなったことがあって‥」

「ちょうど寮の前に石神教官がいたんだ。今行くとヤバいと思って時間差で入ったんだけど‥」

同期B

「な、何だ‥?」

(どうして怪談話口調なんだろう‥)

同期A

「寮に入った瞬間‥背後を取られた‥」

サトコ

「そ、それは怖いかも‥」

同期B

「石神教官といえばそんな感じだよ」

千葉

「うーん、そうかな。オレはみんなが言うほど怖い人じゃないと思うけど」

同期B

「まぁな。あ、でも‥」

サトコ

「?」

同期B

「この前、石神教官がどっかのパティスリーのだと思うんだけど、ピンク色の袋を抱えててさ」

「あまりのミスマッチにびっくりした」

サトコ

「ぷっ‥」

(ピンク色の袋ってことは、確実にあの時のプリンだ‥)

ご褒美プリンの他に、差し入れとしてプリンをもらったことがある。

千葉

「捜査に必要な物だったとかじゃない?」

同期A

「石神教官がスイーツ好きって想像できない」

同期B

「だよなー」

サトコ

「そ、そうだよね」

(私も最初はそう思ったし‥)

(でも、あの時の石神教官優しかったな‥)

連日遅くまで資料室で自習していると、

見かねたのかどうなのか、石神教官が差し入れを手にやてきた。

サトコ

「ど、どうしたんですか‥」

石神

美味いと聞いたから買ってみただけだ

差し出されたピンク色の袋には、プリンが入っている。

サトコ

「このお店!スイーツもですけど、内装もすごく可愛いんですよね」

「可愛いだけじゃなくて細やかなところにまで凝ってるし、さすが教官、見る目が違います!」

石神

‥そうか

サトコ

「?」

「どうかしましたか?」

石神教官は目を横に逸らして、コホンとひとつ咳払いする。

石神

男が‥

いや、何でもない

サトコ

「言いかけてやめないでくださいよ‥」

石神

大したことではない。黙って食べろ

サトコ

「気になる‥でも、美味しそうなので早速いただきます!」

「厳しく的確な指導がある上に」

「プリンの話までできるなんて、石神教官の専属補佐官になれて幸せです」

石神

お前は‥気持ちがいいくらい現金だな

呆れながら下がる目尻が随分と優しく見えて、なんとなく目が泳ぐ。

(こんな笑い方もするんだ‥)

控えめだけど優しい微笑みにドキッとして、プリンの味が分からなくなってしまった。

(石神教官のプリン好きを知ってるのは私だけなんだ‥)

(ちょっと嬉しいかも‥)

同期A

「結局のところ、氷川は運がいいって話だな」

千葉

「そうだね」

サトコ

「そうなのかなぁ‥」

ガチャ‥

突然、教場のドアが開く。

サトコ

「!」

石神

騒がしい!

同期A・B

「すみません!」

石神

‥‥‥

サトコ

「気を付けます‥」

(‥目が合ったの、久しぶりだな)

気持ちがバレてしまってから接点がなくなったために、こうして叱られることすら貴重に思える。

石神教官はそれ以上何も言わずに、すぐにまたドアを閉めた。

サトコ

「‥じゃあ私、後藤教官のところに行ってくるね」

千葉

「うん。計画書は頼むよ」

同期A

「なんでお前らそんなに切り替えが早いんだよ‥」

「石神教官怖ぇよ」

同期B

「やっぱり石神教官、どっかで俺らのこと監視してるのかも」

サトコ

「ふふっ、そんなわけないよ」

計画書を受け取って、脱線していた会議は終了することになった。

【教官室】

サトコ

「後藤教官。計画書を‥」

後藤

‥ああ。預かる

教官室には後藤教官しかいなくて、大福片手に計画書を受け取る。

サトコ

「後藤教官も甘いものを食べるんですね」

後藤

加賀さんがイマイチだといって強制的に置いて行った

俺にしてみれば十分美味いんだが‥

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サトコ

「あ、それ!桜見大福の期間限定商品ですよ」

「数量が少ないからなかなか手に入らないって‥」

後藤

氷川も食べるか?

サトコ

「いいんですか?」

教官がひとつ差し出してくれて、ありがたく頂戴する。

(加賀教官が大福好きで、石神教官はプリンか‥)

サトコ

「甘いものが好きな男の人って、可愛いですよね」

後藤

なんだいきなり

サトコ

「同期とそういった話が出まして‥」

後藤

‥俺は加賀さんを可愛いと思ったことは一度もないな

サトコ

「あ‥それもそうですね」

後藤

‥‥‥

後藤教官は、仕方なさそうに微笑んで、包みをもうひとつ私に持たせる。

サトコ

「え‥?」

後藤

それでも食べて、元気出せ

サトコ

「‥‥‥」

暗に石神教官の話をしてくれたのだと知ってか知らずか、ストレートに励ましてくれた。

(普段は何も言わないけど、やっぱり石神教官とのこともちゃんと見てくれてるんだ‥)

サトコ

「ありがとうございます」

後藤

そういえば、石神さんを可愛いと思ったこともないな‥

氷川の感覚が俺にはよく分からない

サトコ

「‥‥‥」

(やっぱり鈍感なだけなのかも‥)

サトコ

「‥あ、これ美味しいですね」

大福の甘みが口の中に広がる。

味が分からなくなったプリンを思い出して、少し切なくなったけれど、

後藤教官が次々に大福を差し出してきて笑ってしまう。

サトコ

「まだあるんですか?」

後藤

食べきれないから貰ってくれ

目の前にできる大福の山に笑いながら、なんだか救われたような気がした。

End

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