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石神 カレ目線 5話

「失えない存在」

【資料室】

連休が明け、氷川の自習に付き合うために資料室へやってきた。

氷川は復習の部分でかなり頭を悩ませているようだった。

サトコ

「こんなに勉強してるのに、この前の小テストがあり得ない点数だったんですよ‥」

石神

たるんでいる証拠だ

サトコ

「でも‥!」

(頑張りは認めるが‥がむしゃらにやっても逆効果なだけだろう)

氷川は目の前のことに精一杯になりすぎて、

他のことが見えなくなっているように感じられた。

石神

はぁ‥

(この調子なら、いくらやっても時間の無駄だ)

俺はため息をつきながら、席を立つ。

石神

復習箇所すら進みが悪いなら俺は戻る

サトコ

「ま、待ってください‥!」

ブサ猫

「ぶみゃー」

サトコ

「!わっ、わわ!」

ブサ猫が前を横切り、氷川は思い切り躓く。

石神

っ‥‥

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俺は氷川が倒れ込む寸前のところで、その身体を受け止めた。

サトコ

「す、すすすみません‥!」

石神

‥‥‥

氷川の顔が近くにあり、思わず視線を逸らせてしまう。

(メガネが‥視界がぼやけてよく見えない‥)

チラリと視線を戻すと、倒れる際にぶつかったのか、氷川は鼻頭を押さえていた。

石神

見せてみろ

サトコ

「へ‥」

右手を取ると、氷川は一気に顔を真っ赤にした。

視界がぼやけているものの、氷川が照れていることはハッキリと分かる。

石神

‥‥‥

(こんなに顔を赤くして‥鼻を打ったから、ではないよな‥)

(氷川は、もしかして‥)

石神

‥氷川

サトコ

「‥っ」

石神

君は‥

俺が言いかけると、氷川はパッと顔を隠すように俯いた。

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

俺たちの間に、沈黙が訪れる。

黒澤たちが資料室にやってくるまで、俺たちはお互い黙ったままだった。

【教官室】

数日後。

教官たちに、専属補佐官の異動命令を出した。

これから氷川は、後藤の専属補佐官になる。

後藤

‥石神さん。本当にいいんですか?

石神

何がだ?

後藤

いえ‥石神さんが納得しているなら、それでいいんですが

石神

‥‥‥

俺は後藤の言葉を受け、教官室を後にした。

【廊下】

(これでよかったんだ‥)

俺は補佐官の異動命令を決めた時のことを思い返す。

(氷川はただでさえ勉強や訓練‥色々なことに集中しなければならない)

(それを妨げるものは、出来るだけ排除した方がいいだろう)

鳴子

「‥でさ」

サトコ

「それは‥」

廊下の向こう側から、氷川の姿が見えた。

同期である佐々木と楽しそうに話している。

石神

‥‥‥

(補佐官が変わると知ったら、アイツはどんな顔をするんだろうか‥)

その時、水族館で楽しそうな表情をする氷川が脳裏を過った。

(これから、俺の補佐官には別の者がつく。氷川は後藤の補佐官になるんだ)

(‥俺がそう決めたんだ)

隣に氷川がいない‥そのことに、寂しさを感じた。

(‥恋愛感情など、俺にとって邪魔以外のなにものでもないんだ)

そう自分に言い聞かせていると、黒澤に声を掛けられる。

黒澤

石神さん、聞きましたよ!

石神

何をだ?

黒澤

決まってるじゃないですか。サトコさんを石神さんの補佐官から外すんですか?

石神

ああ、決定事項だ

黒澤

なんでですか!?サトコさんを外す意味が分かりません

今までいい感じにやってきたじゃないですか

石神

‥‥‥

黒澤

もしかしなくても、この前のことが原因ですか?

石神

‥お前には関係ない

黒澤

あっ、ちょっと!石神さん!

俺は黒澤に背を向け、歩き始める。

(これでいいんだ‥氷川にとっても俺にとっても‥)

それから俺は無意識に氷川を避けるようになり、話すことも全くなくなった。

【校門前】

潜入訓練当日。

氷川は後藤の班に配属になり、最終確認を行っていた。

(どうやら、気合いが入っているようだな‥)

同僚と話す氷川を見て、捜査に入る前に声を掛けようか迷う。

(氷川はもう俺の補佐官ではない‥今更、何を話すというんだ)

氷川たちは現場へ移動するため、後藤の車に呼ばれる。

(今回の潜入捜査はかなり大きなものになる。失敗は許されない‥)

石神

‥行ってこい

俺はインカムを通して、氷川にそう伝えた‥‥。

【船外】

潜入捜査のつもりが爆破事件の犯人が船に乗り込み、捜査に繋がってしまった。

インカムからは、氷川がひとりで犯人に立ち向かおうとしている声が聞こえてくる。

氷川はギリギリのところで、犯人を一人確保したようだった。

サトコ

『ガスが1階フロアに到着。これからパーティ会場へ向かいます』

後藤

もう充分だ。すぐに退避しろ

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サトコ

『後藤教官がここにいたら、退避しますか』

後藤

いいかげんに‥

石神

氷川

後藤の言葉を遮るように、氷川に話しかける。

石神

すぐに退避だ。君はそこで死ぬべき人間じゃない

サトコ

『石神教官。私、退避命令は聞けません』

石神

氷川‥!

サトコ

『もっとたくさん、石神教官から学びたかったです。でも‥』

『‥‥‥口先だけでも、刑事になりたいです』

『バカでも何でも、自分だけ助かるなんてできません』

石神

‥死ぬかもしれなくてもか

サトコ

『‥私、悪運は強い方なんです』

石神

氷川‥‥っ!

氷川はインカムのスイッチを切ったのか、連絡が途絶える。

(くそっ、こちらの制止も聞かないなんて‥アイツは死に急ぎたいのか!?)

氷川の行動に、背筋にイヤな汗が流れる。

俺の足は自然と旅客船へ向けられていた。

後藤

石神さん、どこへ行くんですか?

石神

‥‥‥

後藤

俺たちには待機命令が出ています

石神

‥分かっている

後藤

‥待機命令は本部から出ています。これがどういうことか分かっていますよね?

石神

‥ああ

後藤。この場はお前に任せた

後藤

‥‥‥

後藤は何も言わず、重々しく首を縦に振る。

俺はそれを確認すると、氷川の元へと急いだ。

【船内】

旅客船の通路で倒れている氷川を見つけた俺は、その身体を抱き起した。

石神

氷川!

サトコ

「う、ん‥」

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石神

‥‥‥

(怪我はしているが、意識はあるか‥)

あんな無線の切られ方をされた後なだけに、氷川が生きていることを確認し、ホッと息をつく。

石神

よく頑張ったな‥

俺は目を覚まさない氷川に向かって、微笑んだ。

そして氷川を抱きかかえ、旅客船から脱出するため足を進める。

(指示を無視して自分の身の安全を顧みず、ここまでするなんてな‥)

そんな無茶苦茶な生徒が、俺の中でいつのまにか大きな存在になっていた‥‥

to be continued

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