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後藤生誕祭 1話

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【寮 自室】

春の気配に胸を高鳴らせる季節。

私もあることに胸を膨らませていた。

(もうすぐ後藤さんのお誕生日‥どんなふうにお祝いしよう?)

(後藤さんは、いつも自分のことは二の次だし‥誕生日は思いっきり楽しませて喜んでもらいたいな)

(まずは‥なによりも後藤さんのスケジュールを抑えないと!)

サプライズも考えたけれど。

事件などが入る可能性を考えれば、予定は告げておいた方がいいと思う。

(『3月5日は空けておいてもらえませんか』‥と)

(プレゼントは何がいいだろう?後藤さんなら何でも喜んでくれそうだけど)

携帯で男性向けのプレゼントを調べるものの、あまりピンとこない。

(後藤さんが好きな物と言ったら‥滝とサボテン?)

(あ、伊豆にシャボテン公園がある。世界各地のサボテンが楽しめて‥)

サトコ

「『サボテン狩り』までできるの!?ここにしよう!」

(サボテンカレーのお土産とかもあるし、カピバラの温泉も見られるんだ)

(中庭のブサネコを可愛がる後藤さんなら、カピバラも気に入りそうだし)

サトコ

「ここなら、後藤さんにも楽しんでもらえそう!」

程なく後藤さんからOKの連絡がきて、私はシャボテン公園に行くことを決めた。

【教官室】

数日後。

レポート提出のために教官室に行くと、やけに視線を感じる。

(な、なに?なにかマズイことしちゃったかな‥?)

黒澤

いやー‥愛ですね~

颯馬

長い付き合いですが‥あんな後藤は初めて見ましたね

サトコ

「な、何の話ですか?」

東雲

へぇ、とぼけるんだ?

キミが一番よく知ってるんじゃない

石神

‥3月5日だったな

サトコ

「!」

加賀

クズが‥浮かれやがって

サトコ

「ま、待ってください!どうして、後藤さんの誕生日の話を‥」

東雲

あれ?後藤さんの誕生日なんて言ったっけ?

だれも“後藤さんの誕生日”だなんて、言ってないけど

サトコ

「あ!!!」

(しまった!引っかけられた!)

石神

最近、毎日夜遅くまで残って仕事をしている

報告書の提出も、これまでにない順調さだ

サトコ

「そ、それって‥」

颯馬

心置きなく誕生日を過ごすには、仕事は片付けておかなければいけませんからね

黒澤

いいな~、羨ましいなー

ニヤニヤとした教官たちの視線が私に向けられる。

(視線の意味はそういうことだったんだ‥)

(でも、誕生日のために仕事を頑張ってくれてるって‥後藤さんも楽しみにしてくれてるのかな)

東雲

ウザっ‥ここで幸せボケを出さないでくれる?

はやく後藤さんのとこに行きなよ

サトコ

「べ、別にニヤけてなんて‥でも、レポートの提出があるので失礼します!」

加賀

さっさと失せろ。こっちの気分まで甘ったるくなる

石神

仕事が進むという意味ではいいがな

颯馬

毎日が誕生日だといいですね

(これ以上、ここにいたら話のネタにされるだけだ!)

私は頭を下げると、後藤さんの個別教官室へと急いだ。

【個別教官室】

サトコ

「あの‥」

後藤

どうした?

サトコ

「最近、遅くまで残って仕事を片付けてると、石神教官から聞いたんですけど‥」

「身体、大丈夫ですか?」

後藤

ああ‥近頃、報告書を溜め気味だったからな

休みを取る前に片付けておきたいと思っただけだ

サトコ

「お誕生日を一緒に過ごすために‥ですよね?」

私が問うと、後藤さんは少し照れた顔を見せてからふっと笑う。

後藤

俺もアンタと一緒に過ごしたいからな

サトコ

「後藤さん‥」

後藤

誰からも文句が出ないように片付けておくから安心しろ

サトコ

「はい!」

(後藤さんが私と過ごすために、頑張ってくれてる‥)

(私も素敵な誕生日にできるように、いろいろと準備を頑張らないと!)

【後藤マンション】

3月5日、後藤さんの誕生日当日。

サトコ

「お誕生日おめでとうございます!」

後藤

ありがとう

今日は車なのか‥?

サトコ

「はい。レンタカー借りてきました。乗ってください」

当然のように運転席に乗ろうとする後藤さんに、私は助手席を指さす。

サトコ

「今日はお誕生日なので、後藤さんはこっちです」

後藤

アンタが運転するのか?

サトコ

「後藤さんにはかないませんけど、長野では毎日運転してましたから」

「たまにはどんと任せてください」

後藤

‥そうか。至れり尽くせりだな

後藤さんが助手席のドアを開けて座ってくれる。

サトコ

「まだまだ序の口ですよ。張り切って出発しましょう!」

後藤

ああ

【車内】

目的地はあらかじめカーナビに入れてあるので、私はそのまま車を発進させる。

後藤

どこに行くんだ?

サトコ

「着いてからのお楽しみです。長旅になりますから、これどうぞ」

事前にコンビニで買っておいた、お菓子と飲み物の袋を渡す。

後藤

随分買ったな。そんなに遠くまで行くのか?

明日の夜には、こっちに戻らなきゃマズイだろ

サトコ

「そ、そんなに遠くまでいくわけじゃないです」

「後藤さんがどんなお菓子が好きか考えてたら、アレもコレもと買ってしまっただけで‥」

(やっぱりちょっと買いすぎたよね)

コンビニの袋にはキャンディからおせんべいまで、多種多様に揃っていた。

後藤

アンタは用意がいいな。これなら渋滞にハマっても大丈夫だ

サトコ

「サービスエリアのグルメも調べておいたので、お腹空けておいてください!」

後藤

ああ、わかった

サトコ

「渋滞もなく順調に流れててよかったですね」

後藤

あとは下道か?

サトコ

「はい。もうそんなに時間かからないと思うんですけど‥」

高速をおりて、シャボテン公園目指して走っていく。

後藤

‥食うか?

サトコ

「あ、ポッチー!いただきます。次の赤信号で‥」

後藤

ほら

サトコ

「んっ‥」

後藤さんは私の口の中にポッチーを入れる。

サトコ

「あの、信号で止まった時に自分で‥」

後藤

そろそろ糖分を補給した方がいい

私が食べ終わるまで、後藤さんがポッチーを持っていてくれる。

(なんだか餌付けされてるみたいだけど‥ちょっと嬉しいかも)

後藤

たまにはこっち側もいいな

アンタが運手してる姿は、なかなか新鮮だ

サトコ

「助手席にいる後藤さんも新鮮ですよ」

後藤

長野では毎日運転していたと言ってたな

サトコ

「はい。車がないと向こうは移動できませんから」

後藤

なら、車に乗ってる回数自体はアンタのほうが多いかもしれない

サトコ

「そうですね。職場と家の行き来が主でしたけど‥」

「雪道は私の方が運転上手いかもしれないですね」

後藤

雪が降った時はアンタに頼む

サトコ

「任せてください!」

後藤

今日のアンタは張り切ってるな

サトコ

「後藤さんのお誕生日ですから」

「それに‥後藤さんに頼ってもらえるのって嬉しいです!」

後藤

訓練生としては頼もしい発言だ

サトコ

「今は訓練生じゃないですよ?」

後藤

そうだった。恋人としても頼もしい

赤信号で車を止めると、後藤さんと目が合って照れ臭くも嬉しい。

後藤

頼りにはしているが、そろそろ運転代わるか?

ロクに休憩なしで走ってたから、疲れただろ

サトコ

「大丈夫です!私はまだまだ元気ですよ!」

後藤

ここで元気を使い切るなよ

サトコ

「昨日は10時には布団に入ったので、今日は充電完璧です」

後藤

フッ‥アンタらしいな

(後藤さんの誕生日を祝うためには、まず私が元気じゃないといけないし)

(シャボテン公園に着いたら、しっかりガイドしないと)

【シャボテン公園】

前日までに頭に入れたことを思い出しながら運転していくと、やがて看板が見えてくる。

後藤

ここは‥

サトコ

「ここが今回の目的地です!」

後藤

‥様子がおかしくないか?

サトコ

「え?言われれば、確かに‥」

土曜日にも関わらずシャボテン公園の車は少なく、やけにシン‥としていた。

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