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後藤誕生祭 2話

【シャボテン公園】

今日は3月5日、後藤さんの誕生日当日。

サトコ

「ウソ‥臨時休業だなんて‥!」

後藤

サボテンメンテナンスのためか‥サボテンのためなら仕方ないな

閑散としている公園前で、私は呆然と立ち尽くす。

サトコ

「ここ、世界各地のサボテンが見られるって話しで‥」

「お土産にサボテンカレーがあったり、カピバラの温泉が見られたりで‥」

後藤

ああ、テレビで観たことがある

サトコ

「ここなら後藤さんと1日楽しめるかと思ったんですけど」

(まさか臨時休業なんて‥)

サトコ

「すみません!出発前に今日の営業について調べておけば‥」

後藤

臨時休業までは気が回らないからな

アンタがそうやって考えてくれただけで充分だ

後藤さんは私の頭にポンッと手を置く。

サトコ

「でも、行き先はここしか考えていなくて‥」

後藤

今年はアンタが俺のために選んでくれた場所に、今日来られてよかった

私を励ますように後藤さんが微笑んでくれる。

後藤

サボテンも見たいから、今度は開いてる時にまた来よう

サトコ

「後藤さん‥」

後藤

それに二人きりでいられる時間が増えたんだと思えばいい

私の前髪を払った後藤さんが軽く額に口づけてくれる。

サトコ

「こ、こんなところで‥!」

後藤

臨時休業だから誰もいない

周りを見回すと臨時休業の看板を見て引き返しているのか、公園前にいるのは私たちだけだった。

後藤

ある意味、公園を独占だ

サトコ

「私がもし一柳教官だったら‥」

後藤

ん?一柳?

サトコ

「『実は公園の中も貸し切ってるんだ』‥なんて言えるのに」

後藤

‥簡単に想像できてイヤだな

サトコ

「でも一柳教官なら言いそうですよね。すみません、一柳教官じゃなくて」

大きく頭を下げると、後藤さんがぷっと吹き出す。

後藤

まったく‥臨時休業で、アンタ混乱しすぎだ

そもそも、誕生日をアイツと過ごすなんて御免だ

後藤さんは私の肩に腕を回すと、車の方へと促す。

後藤

シャボテン公園のあとは、どうするつもりだったんだ?

サトコ

「近くに旅館をとりました。温泉もあるところで‥」

「チェックインは夕方以降って連絡してましたけど、早められないか聞いてみますね」

後藤

ああ。旅館でゆっくりできるなら、それもいい

旅館に電話で確認してみると、これから向かっても大丈夫とのことだった。

サトコ

「よかった‥近くで時間潰せる場所とか全然調べてなかったから」

後藤

ずっと運転して疲れただろう。あとは俺が運転するから、少し休め

サトコ

「でも‥」

後藤

誕生日はこれで終わりじゃないんだろう?

今のうちに気持ちを立て直しておけ

サトコ

「‥はい!」

(後藤さんの言う通り、これで終わりじゃない‥)

(シャボテン公園が休みなのは仕方ないんだから、別のことで楽しんでもらおう!)

【旅館】

後藤

旅館でくつろぐのもいいもんだな

サトコ

「そうですね。まだ夕飯まで時間もありますし‥」

(シャボテン公園に行ってたら、旅館に戻ってからが慌ただしかったから)

(これはこれで、じっくりお誕生日を祝えてよかったのかも)

私は持ってきたクーラーボックスに視線を移す。

(作ってきたケーキ、夕飯のあとに出そうかと思ってたけど‥)

(時間があるし、先に食べてもらおうかな)

サトコ

「まずは温泉に入ってきませんか?」

後藤

ああ、明るいうちから入る温泉もいいな

サトコ

「ゆっくり入って、疲れをとってきてください!」

「カラスの行水はダメですよ。じーっくり入ってくださいね」

後藤

ああ‥

(私はとりあえずパパッと入って、ケーキの準備をしよう!)

サトコ

「間に合った‥!仲居さんにお願いしてコーヒーも用意してもらったし」

旅館のテーブルの上にはサボテン型のカップケーキが並んでいる。

(ケーキのレシピを調べてたらサボテン型カップケーキっていうのを見つけて‥)

(後藤さん、喜んでくれるかな?)

カップケーキの崩れがないか確認していると、ドアが開く音が聞こえる。

(‥来た!)

サトコ

「後藤さん、お誕生日おめでとうございます!」

持ってきたクラッカーをパンッと鳴らすと、後藤さんが面食らった顔でこちらを見た。

後藤

これは‥

サトコ

「誕生日ケーキです!サボテン型の‥」

後藤

‥‥‥

後藤さんはテーブルのサボテンカップケーキをじっと見つめている。

(誕生日ケーキがサボテン型のカップケーキって‥)

(さすがに、ちょっと微妙だったかな?)

サトコ

「あの、普通のケーキがよかったら、今から近くのケーキ屋さんを探して‥」

後藤

これがいい

サトコ

「え?」

畳に膝をついた後藤さんにギュッと抱きしめられた。

サトコ

「ご、後藤さん‥?」

後藤

こんなに嬉しい誕生日ケーキは初めてだ

サトコ

「本当ですか‥?」

後藤

サボテンもこうやって見られた。今日は‥今までで一番嬉しい誕生日だ

耳元に落ちる後藤さんの声に、私の鼓動も早くなっていく。

(後藤さん、いい匂い‥)

ふわりと感じるシャンプーの匂いが同じで、やけにそれを意識してしまう。

浴衣の襟元から覗く彼の首筋に不意に目を奪われた。

(いやいや!今はケーキを食べてもらうんだから‥)

後藤

ケーキより先に‥アンタが欲しいと言ったら怒るか?

サトコ

「え?」

ゆっくりと押し倒され、後藤さんの肩越しに旅館の天井が見える。

私を見下ろす後藤さんの瞳が熱っぽく揺れて見えるのは、きっとお風呂上がりのせいだけではない。

サトコ

「私も‥」

後藤

ん?

サトコ

「私も‥今、抱きしめてほしいなって思ってて‥」

(後藤さんも同じように思ってくれたんだ)

後藤

なら、よかった‥ダメだと言われても、止められそうになかった

口づけを繰り返しながら、後藤さんの甘い声がいくつも降ってくる。

サトコ

「後藤さんの誕生日なんですから‥好きなこと、何でも言ってください‥」

後藤

いいのか?そんなこと言って

やっぱりナシだと言われても聞けないぞ?

サトコ

「そんなこと‥言いません‥」

(今日は後藤さんの特別な日‥私にできることはしたい‥)

私から後藤さんの首に腕を回す。

後藤

なら‥遠慮なくもらう。誕生日プレゼントだと思って

後藤さんの手が肌に触れ、私も同じように彼に触れる。

互いの浴衣の衣擦れがやけに大きく聞こえるような気がしたけど。

後藤

サトコ‥

後藤さんの温もりを感じていると、それもすぐに気にならなくなっていく。

後藤

アンタは‥時々ひどく大胆なことを言うから心臓に悪い

サトコ

「そうですか‥?でも、今回はサプライズの計画だったので‥」

後藤

なら、さっきの言葉もあらかじめ用意していたのか?

サトコ

「え?」

後藤

好きなこと何でもしてもいいって

サトコ

「それは‥咄嗟に出た言葉です‥」

触れ合う肌に小さく声を漏らすと、後藤さんが私の前髪を優しく払う。

サトコ

「ただ‥」

後藤

ただ‥?

キスの合間に問われ、私は唇を震わせた。

先をうながすような優しい口づけに言葉が零れ落ちる。

サトコ

「後藤さんには、いつも喜んでもらいたいと思って‥」

「どんな小さいことでもいいから‥」

私は後藤さんの背に腕を回すと、ギュッと抱きつく。

サトコ

「だから、こうすることも‥」

後藤

好きなこと‥言ってもいいか?

サトコ

「は、はい‥」

後藤

今日は止めてやれない‥

だから‥もっと強くつかまってろ

より、深く‥強く求める腕に、私はただ頷くのが精一杯だった。

お互いを求め、熱い時間を過ごした後‥

後藤

このサボテン、家にあるのと似てるな

サトコ

「わかりましたか?後藤さんの部屋にあるサボテンをイメージして作ったんです」

後藤

こんなものを作れるなんて、アンタは本当に大したもんだ

サトコ

「レシピを見ながら作ったので。バターケーキなので味も大丈夫だと思いますよ」

後藤

食べていいか?

サトコ

「もちろんです!」

後藤

本物のサボテンを食べてるようで、不思議な気分になるな

ん‥美味い。せっかくの誕生日ケーキだ。アンタも一緒に食べてくれ

サトコ

「それじゃ、この花が咲いてるのを‥自分で作っておいてなんですけど、確かに不思議ですね」

後藤

それだけアンタの腕がいいってことだな

後藤さんはあっという間にサボテンカップケーキを食べてくれた。

後藤

美味かった。ありがとう

サトコ

「喜んでもらえてよかったです」

後藤

来年も‥こうやって一緒に過ごしてくれるか?

間近で問われ、私は深く頷く。

サトコ

「もちろんです!」

(来年だけじゃなくて再来年も、その先もずっと一番近くでお祝いしたい‥)

その願いを込めるように、後藤さんに口づける。

強く抱きしめられ、先程の熱さを思い出すようなキスが繰り返されていった。

Happy End

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