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塩対応 加賀 1話

千葉

「今日1日の出来事で、氷川が一番つらかったことって‥何?」

千葉さんに聞かれて、思い出したのは加賀さんの顔だった。

サトコ

「やっぱり‥加賀教官に、『クズ以下のクズ』って言われたことかな」

千葉

「クズ以下のクズ‥」

サトコ

「加賀教官の暴言‥じゃない、叱咤激励には慣れてるつもりだけど」

千葉

「あれを叱咤激励だと思えるその前向きさ、すごいよ」

「でも加賀教官はいつも厳しいから、そんなに気にすることないって」

サトコ

「うん‥そうだよね」

千葉

「むしろ、優しい事なんてほとんどないし‥っていうか、見たことないな」

サトコ

「そうだよね。厳しいのは普段通りだよね」

「千葉さん、ありがとう。ちょっと元気出たよ‥」

加賀

そこをどけ、クズ

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ドスの効いた低い声が背後から聞こえて、ハッと振り返った。

サトコ

「えっ!?」

加賀

邪魔だ

私の肩を押しのけて、加賀さんが不機嫌そうに歩いていく。

サトコ

「か、加賀教官‥!」

思わず呼び止めると、加賀さんが一瞬立ち止まった。

(呼び止めたのはいいけど、なんて言えば‥!)

サトコ

「お、お疲れさまです!」

千葉さんが隣にいるので言葉に迷い、結局そんなことしか言えない。

加賀

‥チッ

(え!?舌打ち!?)

加賀さんは、そのまま立ち去ってしまった。

千葉

「‥相当怒ってるみたいだね」

サトコ

「うん‥」

(書類整理でミスして、かなり迷惑かけちゃったし‥)

サトコ

「でも、加賀教官の役に立てたのは嬉しかったんだよね‥」

「あのファイルを加賀教官が使ってくれると思えば、苦労も報われるというか」

千葉

「‥氷川って、尽くすタイプっていうか‥従って感じがするね」

サトコ

「うん‥自分でも薄々気づいてた」

(でももし、加賀さんに尽くされたら‥)

【加賀の部屋】(妄想)

加賀

今日は、テメェが望むようにしてやる

言ってみろ‥何してほしい?

【校門】

サトコ

「なーんて‥きゃー!」

千葉

「え!?」

サトコ

「あ、ごめん‥ちょっとほとばしる妄想が」

千葉

「妄想‥?」

(やっぱり、たまには加賀さんから尽くされたいかも‥!)

サトコ

「‥‥‥」

「‥いや、ないな‥ない」

千葉

「氷川、大丈夫?かなり疲れてるんじゃない」

サトコ

「そうかも‥今日は大人しく帰って寝るね」

(加賀さんに限って、尽くすとかありえない‥現実を見つめよう)

普段の加賀さんからの扱いがひどいので、綺麗さっぱり諦めることができた。

【教場】

昨日の反省を活かして、翌日は朝から張り切っていた。

(もう加賀さんに呆れられるようなことは絶対にしない‥!)

(今日からは、言われる前に出来ることを考えて行動しよう)

サトコ

「加賀教官!この道具、教官室に運びますね!」

加賀

ああ

サトコ

「それと、あとで報告書のチェックをお願いします」

加賀

もうできたのか

サトコ

「はい!教官室のデスクに置いておきますので」

加賀

わかった

(加賀さん、今日は普通に話してくれてるけど‥)

(昨日のこと、きっと忘れてないよね‥まだ呆れられてるのかな)

【廊下】

サトコ

「ふぅ‥結構重いな、コレ‥」

講義で使った道具を一人で教官室まで運んでいると‥

難波

お?氷川、それ一人で持っていくのか?

サトコ

「はい。でもそんなに重くないから大丈夫ですよ」

黒澤

はーい、アナタの黒澤です☆よければお手伝いしますよ

サトコ

「ありがとうございます。でもこれは私の仕事なので」

黒澤

あれれ?サトコさん、いつもなら『いいんですか?ラッキー!』って言うのに

サトコ

「ラッキーとまでは言いませんよ‥」

「黒澤さんもお忙しいですよね。本当に大丈夫ですから」

黒澤

そうですか‥

サトコ

「それじゃ、失礼します」

2人に頭を下げて、教官室へ急いだ。

【カフェテラス】

そして、その日のお昼休み。

(はぁ‥朝から張り切り過ぎて疲れた‥)

(でも午後はここからだし、まだまだ頑張らなきゃ)

黒澤

いたいた、サトコさん

颯馬

お疲れさま

サトコ

「黒澤さん、颯馬教官、お疲れさまです。お二人ともランチですか?」

颯馬

いえ、私たちは外で済ませてきました

それよりサトコさん、今日はずいぶん張り切ってますね

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サトコ

「はい。昨日色々とやらかしてしまったので、名誉挽回と思って‥」

東雲

えっ、挽回するほどの名誉なんてあったの?

いつの間にかカフェテラスに来ていた東雲教官が、意地悪に笑う。

サトコ

「うっ‥じゃ、じゃあ汚名返上‥」

東雲

返上するためには、今の何百倍頑張らなきゃいけないんだろうね

(そんなに‥!?)

黒澤

まあまあ

後ろに立った黒澤さんが、優しく肩を揉み始める。

黒澤

そんなに肩に力が入ってたら、疲れますよ

サトコ

「いえ、そこまでじゃ‥」

黒澤

ですよね!疲れちゃいますよね!

あんなに頑張ってるんですから、当然ですよね!

(黒澤さん、相変わらず全然話聞いてない‥)

黒澤

そこで!

東雲

うわ、めんどくさいことになりそう

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黒澤

何言ってるんですか!オレの素晴らしい企画を!

サトコ

「素晴らしい企画‥?」

黒澤

サトコさん、お忘れですか?もうすぐ、公安学校創立1周年ですよ!

サトコ

「あっ」

(そっか‥もう1年も経つんだ)

黒澤

たまには息抜きも必要ですからね。みんなで飲み会をすることになったんです

東雲

聞いてないけど

黒澤

歩さん、先に言うと逃げちゃうじゃないですか

ってことで、サトコさんも強制参加です!

サトコ

「強制‥!?」

颯馬

もちろん、歩もですよ

東雲

怠‥

サトコ

「あの‥」

<選択してください>

A: どうしても出なきゃダメ?

サトコ

「それって、どうしても出なきゃダメなんでしょうか?」

黒澤

何か用でもあるんですか?

サトコ

「そうじゃないですけど‥」

(勝手に約束して、加賀さんに怒られないかな‥)

B: 他の教官も強制?

サトコ

「えっと‥他の教官も強制参加なんですか?」

黒澤

そりゃ、難波さんも参加しますからね~

室長が来て他の人が来ないなんて、許されるはずが

東雲

オレは許されなくても行きたくないんだけど

(他の教官も、かあ‥それなら、加賀さんも‥?)

C: 鳴子たちも誘っていい?

サトコ

「鳴子と千葉さんも誘っていいですか?」

黒澤

うーん、今回は教官とその補佐官だけの飲み会なんですよね

サトコ

「そうですか‥」

黒澤

でもオレ、佐々木さんはノリがいいから好きですよ

(確かに、黒澤さんのノリと合いそう‥)

サトコ

「でも本当に、私が行っていいんですか?」

黒澤

大丈夫ですよ!加賀さんも参加しますから

颯馬

ものすごく渋々でしたけどね

(加賀さんも来るのか‥それなら、大丈夫だよね)

参加すると伝えて、カフェテラスをあとにした。

【個別教官室】

数日後、加賀さんに呼ばれて個別教官室で報告書の手伝いをしていた。

サトコ

「加賀さん、できました」

加賀

貸せ

書類を差し出すと、乱暴に私から奪っていく。

(やっぱり、まだ怒ってる‥?)

(でも、いつもこんな感じだよね‥?)

サトコ

「あの‥加賀さん」

加賀

なんだ

サトコ

「こ、この間のこと‥本当にすみませんでした」

加賀

なんの話だ

サトコ

「東雲教官に言われた書類のファイリングを間違えてしまって‥」

加賀

‥ああ。別に、もういい

サトコ

「怒ってないんですか?」

加賀

あんな小せぇこと、いつまでも気にしてるほど暇じゃねぇ

(そうなんだ‥よかった。あの日からずっと気になってたから)

加賀

ほぅ‥仕置きでもしてほしいか?

サトコ

「いえ!滅相でもございません!」

加賀

テメェはとことんマゾだな

ニヤリと、加賀さんが気分よさそうに口の端を持ち上げる。

加賀

あの日から今まで、俺がいつ仕置きしてくれるか待ってたとはな

サトコ

「ち、違いますよ!」

加賀

なら、試してみるか?

テメェの身体が反応したら、その時は‥

加賀さんが、獲物を狙う獣のようにゆっくりと私を壁際に追い詰める。

(こ、こうなったら逃げられない‥!)

(でも、怒らせたと思って落ちこんでた、ここ数日間の私の立場は‥!?)

【居酒屋】

週末、黒澤さん企画の飲み会がスタートした。

難波室長を中心に、みんなが好きな場所に座る。

難波

みんな、お疲れさん。今日は楽しめよ

全員

「かんぱーい!」

グラスを合わせて、みんなで乾杯する。

でも私はなぜか、東雲教官と黒澤さんに挟まれていた。

黒澤

いやー、それにしてもあれから1年なんて、時間が経つのはあっという間ですねー

東雲

知ってる?歳を取ると、時間の流れが早くなるんだよ

透も、もう立派なおじさんだね

颯馬

おじさん‥

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難波

おじさんか‥

(なんで颯馬教官と室長、ちょっと落ち込んでるんだろう‥?)

サトコ

「そうだ!みんなにお酌を‥」

黒澤

今日はそんなの必要ないですって!無礼講ですから!

それにしてもサトコさんって、恋人にしたら素晴らしい女性ですよね

サトコ

「えっ?」

黒澤

あの加賀さんに何を言われてもへこたれないその根性!

暴言を吐かれ首根っこ掴まれアイアンクローされても頑張る女性なんて、いませんよ

東雲

ただのドMなだけでしょ

サトコ

「なっ‥」

黒澤

でも、尽くす女性は男からモテますよ

いいなー、オレもサトコさんに尽くされたい!

(私って、そんなに尽くしてるように見えるのかな)

(最近、よく『尽くす女』って言われるけど)

チラリと加賀さんを見ると、室長と一緒にマイペースに飲んでいる。

東雲

まあ、尽くすって言えば聞こえはいいけど

要するに、兵吾さんに都合よくコキ使われてるだけ

サトコ

「ぐっ‥」

東雲

さすが奴隷だよね

(奴隷‥!久しぶりに言われた‥)

サトコ

「や、やっぱりそう見えますか‥?」

東雲

面倒なことを全部押し付けられても

尻尾振って兵吾さんのところに走って行く、忠実な犬って感じ

黒澤

歩さん!オレもそう思いますけど、口にしちゃダメですよ!

サトコ

「黒澤さんもそう思ってたんですか‥!?」

黒澤

いやー、オレも犬が欲しいなって

サトコ

「私、犬じゃないですよ‥!」

(はぁ‥この間は失敗続きだったし、今日は奴隷と犬扱いか‥)

(でも自分でもそう思うから、言い返せない‥)

後藤

‥氷川は、頑張ってると思う

サトコ

「えっ?」

颯馬

ええ。普通の女性なら、とっくにリタイアしてると思いますよ

石神

まあ、根性だけは人一倍だな

サトコ

「ありがとうございます‥褒められてるのかわかりませんけど」

黒澤

でも、女性なら男性から尽くされたいとか思わないんですか?

やっぱり尽くされてナンボでしょ?

サトコ

「うーん、そうですね‥」

颯馬

確かに、女性は尽くされることを望む人が多いかもしれませんね

(やっぱりそうなのかな‥鳴子も同じこと言ってたけど)

(でも加賀さんが私に尽くしてくれるなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないだろうし)

考え込んでいると、突然後ろからグイッと腕を引っ張られた。

加賀

おい、クズ

サトコ

「ひっ!?」

いつの間にか加賀さんが後ろにいて、驚いて身を引く。

でもそれを許さないというように、加賀さんが顔を近づけてきた。

加賀

駄犬が一人前に、他の男にホイホイついて行きやがって

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<選択してください>

A: そんなことしてません

サトコ

「そんなこと、絶対にしませんよ」

加賀

その割には、ずいぶん楽しそうだったな

だらしねぇ顔しやがって

ぎゅっと、加賀さんが私の頬をつねる。

サトコ

「痛い!の、伸びる!」

B: 寂しかったんですよ

サトコ

「‥寂しかったんですよ。加賀さん、室長とばっかり話してるから」

加賀

なら、テメェから来い

サトコ

「それが、ちょっとタイミングが‥」

(黒澤さんと東雲教官の目をかいくぐれる自信はない‥)

加賀

だからテメェはいつまでも駄犬だっつってんだ

C: お酌しますか?

サトコ

「あ‥お酌しましょうか」

加賀

いらねぇ

サトコ

「でも、もうお酒ないですよね?注文しますか?」

加賀

必要ねぇって言ってるだろ

‥黒澤たちの隣でニヤけやがって

サトコ

「あれ?加賀さん、もしかしてヤキモ‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「な、なんでもないです‥」

黒澤

サトコさん、やっぱり尽くしてくれる人と付き合った方がいいですよぉー

たとえばオレとか!優良物件だと思いませんか?

サトコ

「い、いえ‥私は、その」

(黒澤さん、酔ってる‥そして加賀さんが鬼の形相で見てる)

颯馬

サトコさんは、相手に尽くすことで輝く女性な気がしますが

でもたまには、尽くされる喜びを味わうのもいいと思いますよ

サトコ

「尽くされる喜び‥」

颯馬

ええ、他の女性たちと同じように

にっこりと笑う颯馬教官も、やはり少し酔っている気がする。

石神

それに見合った努力をしているのなら、尽くされるのもいいだろう

後藤

氷川は努力してると思いますよ

東雲

尽くされてデレデレ気持ち悪い顔してたらいいんじゃない?

難波

男は、女に尽くして一人前だからなー

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みんな、加賀さんを見ながらニヤニヤと笑っている。

(みんな、絶対酔ってる‥そして加賀さんを煽ってる‥)

加賀

テメェも、その辺のクズ女と一緒か?

サトコ

「え?」

加賀

尽くされてぇなんて、くだらねぇこと考えてんのか

いつもならみんなの冷やかしなど舌打ちして無視するのに、今日の加賀さんは珍しく反応した。

でもよく見ると、加賀さんの頬もほんのり赤い気がする。

(もしかして、酔ってる‥!?か、加賀さんが!?)

(これはひょっとして、尽くしてもらうチャンスかも‥!?)

to be continued

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