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塩対応 加賀 カレ目線

【教官室】

DOSSを持って教官室に戻ると、難波さんが笑顔で手を挙げた。

難波

いやー悪いな。お前におつかいなんて頼んじゃって

加賀

いえ‥

難波

いつもは、プリンを買いに行くついでに石神に頼むんだけどなー

加賀

その石神プリンはどこに行ったんですか

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難波

後藤と一緒に資料室に行ったはずだけどな

(チッ‥あのメガネ野郎、ただじゃおかねぇ)

難波さんにDOSSを渡すと、自分のデスクに戻る。

そこに、見覚えのないファイルが置いてあった。

(ああ‥歩にやらせておいたやつか)

だが、教官室の歩の姿はない。

難波

それ、さっき氷川が置いていったぞ

どうせ歩にうまいこと使われたんだろ

氷川はほんと、頼まれると嫌とは言えない性格だからな

(‥人のもん、勝手に使いやがって)

心の中で歩に舌打ちしながら、資料のファイルをめくる。

だがそこにあるのは、頼んだものとは違う書類だった。

(‥1年前の事件ファイルっつったのに、2年前じゃねぇか)

ちょうど、歩が教官室に戻ってきた。

東雲

お疲れさまでーす

加賀

おい

東雲

え?

加賀

資料の中身が違う

東雲

あれ?

一緒にファイルを覗き込み、歩が笑った。

東雲

ほんとですね‥。伝え忘れたかな

加賀

クズにやらせたのか

東雲

ええ。ちょうどいいところにいたので

(あのクズが‥テメェは誰の補佐官だ)

(他の男にいいように使われてんじゃねぇ)

ただでさえプリン野郎のせいでイラついていたところに、

サトコが他の男の指示に従ったという事実は、さらに俺を不機嫌にさせた。

(仕方ねぇ‥躾のし直しだな)

【カフェテラス】

教場へ向かう途中、サトコの話し声が聞こえてきた。

(佐々木たちと話してんのか?相変わらず3人でつるんでんな)

(しかし、ここまで声聞こえるってどんだけでけぇ声で話してんだ、アイツは‥)

鳴子

「サトコって‥男に尽くすタイプだよね」

サトコ

「へ?」

鳴子

「頼まれても絶対断らないし、文句も言わない」

佐々木の声が聞こえて来て、立ち止まる。

(アイツが、尽くすタイプ?)

(‥まぁ、あながち間違っちゃいねぇが)

俺の教育と躾に従順で、ベッドの中でも言いなりのサトコを思い出すと、妙に納得できた。

鳴子

「そんなんじゃダメだよ。女の子はやっぱり尽くされた方が幸せなんだから」

「サトコは、もっと男に尽くされなきゃ!」

千葉

「大丈夫だって!そこが氷川の魅力なんだから!」

サトコ

「う、うん‥千葉さん、ありがとう」

加賀

‥‥‥

必死にサトコのフォローをする千葉に、収まりかけた苛立ちが顔を出す。

(テメェに、サトコの何が分かる)

(あのクズも、相変わらず他の男に尻尾振りやがって)

資料が間違っていたことを注意するだけのつもりだったが、考えが変わった。

加賀

そこのクズ以下のクズ

サトコ

「か、加賀教官‥!?」

加賀

必要なのはあれじゃねぇ。次の年の事件の資料だ

資料室に書類を置いてやったから、さっさとファイリングしてこい

サトコ

「またですか!?」

加賀

ああ゛?

サトコ

「や、やります!」

ビクビクしながら、サトコは資料室へと走って行った。

(そうやって、俺の言うことだけ聞いてりゃいい)

(他の男になんざ尽くしたら、どうなるかわかってるだろうな)

恐らくわかっていないサトコの背中を眺めながら、苛立ちが少し消えるのを感じた。

【教官室】

教官室で時間を潰し、サトコが書類整理を終えるのを待つ。

(いくらグズなあいつでも、そろそろ終わる頃だろ)

(それにしても、少しやり過ぎたか‥)

【校門】

(しょうがねぇ、寮まで一緒に帰ってやるか)

あの膨大な資料を一人で整理させたことを少し気にしながら、学校を出る。

外で待っていると、サトコの後ろ姿が見える。

声を掛けようとしたが、その前に別の人間の声が聞こえてきた。

千葉

「氷川!お疲れ」

サトコ

「千葉さん?どうしたの?」

千葉

「そろそろ終わる頃かなって、待ってたんだ」

「手伝えなくてごめんな。余計なことしたら、氷川が加賀教官に怒られると思って」

サトコ

「ううん、平気だよ。ありがとう」

千葉に向けるその笑顔が、妙に癪に障った。

(クズが‥テメェは誰のもんだ)

寮監担当の日なので、そのまま寮へと向かう。

俺の気配に気づいたのか、サトコが振り返った。

サトコ

「あっ‥」

千葉

「え?」

2人に構わず、その間に割って入るように歩き、そのまま通りすぎた。

サトコ

「加賀教官‥!」

背中からサトコの声が追いかけてきたが、それ以上の言葉はない。

(チッ‥言いたいことがあるなら、ハッキリ言え)

(相変わらず、俺を苛立たせる天才だな)

振り返らず、寮へと戻った。

【居酒屋】

黒澤が企画した飲み会に行くと、すでにサトコの両隣を占拠されていた。

黒澤

今日は無礼講ですから、サトコさんも、ぐいっと!

サトコ

「は、はい‥ありがとうございます」

東雲

あのさ、もうこういう飲み会の企画とかやめてよね

やるなら、自由参加にしてくんない?

黒澤

そんなことしたら、歩さんは毎回欠席じゃないですか

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東雲

当たり前でしょ。なんで仕事が終わった後も拘束されなきゃなんないの

難波さんの隣に座ると、早速強い酒を勧められる。

難波

そういや、この前のヤマな。あいつらから泣きつかれたぞ

加賀

向こうが『できる』って大口叩いたんですから、助けてやる必要はないでしょう

難波

まあなあ、せっかくこっちで情報集めてやるって言ったのに

黒澤

も~難波さんも加賀さんも、仕事の話はナシですよ!

難波

おお、悪い悪い

黒澤

それにしても、サトコさんって恋人にしたら素晴らしい女性ですよね

黒澤のデカい声が聞こえて来て、一瞬グラスを持つ手が止まりそうになった。

黒澤

あの加賀さんに何を言われてもへこたれない、その根性!

サトコ

「いや‥まあ、間違ってないですけど」

黒澤

そんなことされても頑張る女性なんて、そうそういませんよ

(‥それを耐えられるように、たまにアメをやってる)

(極上の快感ってヤツをな)

東雲

ただのドMなだけでしょ

サトコ

「ぐっ‥」

東雲

あれだけ罵られても兵吾さんについていくなんて、よほどのドMじゃないと無理だし

まあ、それだけじゃないんだろうけど

チラリと、歩がこちらを見たのが分かった。

(相変わらずめんどくせぇガキだな‥)

黒澤

いいなー!オレもサトコさんに尽くされたい!

わざと俺に聞こえるように話す黒澤たちに反応してやる必要もないので、難波さんとの会話に戻る。

珍しく酔ったのか、少し頭がぼんやりしているのがわかった。

(なんだ‥?普段はこの程度じゃ酔わねぇのに‥)

手元のグラスを見ると、いつの間にか難波さんのものと入れ替わってる。

(チッ‥難波さんの酒‥確か、50度の‥)

(さすがに、難波さんと同じ酒は飲めねぇ‥)

間違えて飲んでしまったと分かると、なおさら酔いが回ってきた。

黒澤

でも実際どうなんですか?やっぱり、好きな人からは尽くされたいって思うでしょ?

サトコ

「うーん‥」

颯馬

確かに、女性は尽くされることを望む人の方が多いかもしれませんね

(フッ、あのマゾが尽くされてぇなんて思うわけねぇだろ)

サトコ

「最近、よく『尽くす女』って言われるので」

「やっぱり、尽くす方が性に合ってるんだと思います」

黒澤

性に合ってるかどうかじゃないんですよ!尽くされたいかどうかです!

東雲

透、なんでそんなに必死なの?

黒澤

だってオレ、サトコさんに尽くせる自信ありますよ!

オレって絶対、優良物件だと思うんですけど!

石神

自分アピールか

後藤

鬱陶しいな

黒澤

もちろん、後藤さんたちにも全力で尽くしますから!

石神

必要ない

後藤

気持ち悪い

黒澤

ああ、ゾクゾクする!

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東雲

キモ‥

バカげた話を聞きながら、気がつけば立ち上がっていた。

(‥女なら尽くされてぇと思う‥か)

(もしそうなら‥あいつは)

命令してばかりの自分に、不満を持っているかもしれない。

(‥くだらねぇな)

(他の奴の気持ちを考えるなんざ、俺らしくもねぇ‥)

加賀

おい、クズ

サトコ

「ひっ!?」

後ろから腕を引っ張ると、サトコは驚いて身を引こうとした。

だが、その腕を離すつもりはない。

加賀

テメェも、その辺のクズ女と一緒か?

サトコ

「え?」

加賀

尽くされてぇなんて、くだらねぇこと考えてんのか

サトコ

「それは‥」

黒澤

そりゃ尽くされたいですよ!女性の喜びですもんね!

黒澤の声に、サトコの腕を離す。

(‥やっぱり酔いが回ってるな)

(他の奴らがいる前で、くだらねぇこと聞くとは)

飲み会が終わって、居酒屋の外に出る。

加賀

‥帰り、家に来い

サトコにしか聞こえないように、そう耳打ちした。

サトコ

「へ?」

加賀

犬のくせに、聞こえなかったのか?

サトコ

「い、いえ!聞こえました、バッチリ!」

頬を染めて小さく頷くサトコに、口の端が持ち上がる。

(従順なのが、テメェらしさだ)

(だが、もし『尽くしてほしい』って思ってんなら‥その時は‥)

【加賀の部屋】

家に帰ってきても、さっきの黒澤たちの言葉が頭から離れなかった。

水を持って来たサトコを引き寄せて、後ろから抱きしめる。

サトコ

「加賀さん‥?」

加賀

正直に言え。尽くされたいと思うのか?

少し躊躇したあと、サトコが小さく頷く。

サトコ

「でも、加賀さんにだけです。尽くしたいと思うのも、尽くされたいと思うのも」

(クズが‥当然だろうが)

(他の奴に本気でそう思うようには躾けてねぇ)

加賀

チッ‥仕方ねぇ

今日は、テメェの望み通りにしてやる

サトコ

「‥え!?」

加賀

何してほしい?

サトコ

「そ、それなら‥甘える加賀さんが見たいです」

(よりにもよってそれか)

呆れと面倒くささが顔に出たらしく、サトコが身を引く。

サトコ

「あの‥無理にとは!」

加賀

膝貸せ

サトコ

「はい?」

加賀

チッ‥

(膝っつったら膝枕に決まってんだろ‥)

とは言うものの、膝枕など俺もしたことはない。

しかし、それを要求したのは、心のどこかに『してほしい』という願望があったからかもしれない。

(だが、俺もこいつと同じだ)

サトコ

『加賀さんにだけです。尽くしたいと思うのも、尽くされたいと思うのも』

(‥テメェじゃなきゃ、意味がねぇ)

(こいつは一生、気付かねぇだろうが)

隣に座らせると、寝転んでサトコの膝に頭を乗せる。

サトコが、震える手で髪を撫でてきた。

(‥初めてだな)

(女に頭を触らせるなんざ‥今までしたこともねぇ)

そこまで心を許した相手も今までいなかった。

(‥何やってんだ、俺は)

(酔ってるせいか?普段なら間違っても、こんな醜態は晒さねぇ)

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居心地が悪い気がして、サトコに見られないように膝に顔を埋める。

(だが‥この柔らかさは、相変わらず心地いい)

サトコ

「加賀さん!どこを触ってるんですか‥!?」

加賀

うるせぇ

サトコ

「いや、だって‥くすぐったいです!」

加賀

喚くな

サトコの肌を楽しみながら、その顔を眺める。

満たされたような表情で、満足げに俺の髪を撫でていた。

加賀

‥発情してんじゃねぇ

サトコ

「し、してません!」

慌てるサトコに、その姿をもっと見たい衝動に駆られた。

(やっぱり‥俺は、こっち側じゃねぇ)

サトコの腕を引っ張って起き上がると、そのままソファに押し倒す。

真っ赤になってビクビクしているサトコを見ると、満足感に満たされた。

加賀

テメェのその顔は、俺だけのもんだ

だらしねぇツラ、他の男に見せてんじゃねぇ

サトコ

「だ、だらしない‥?」

加賀

‥黙って、躾けられてろ

水が入ったコップを手に取ると、口移しで飲ませてやる。

サトコの身体から力が抜けて、口の端にこぼれた水を舐めてやった。

サトコ

「!!!」

加賀

‥テメェは、黙って俺だけに尽くしてりゃいい

他の奴がなんと言おうと、放っておけ

テメェは、『俺に』尽くす女、だからな

サトコ

「‥はい」

「尽くしたいと思うのも、いじめてほしいと思うのも‥」

加賀

‥上出来だ

(なら俺も、尽くしてやる)

(いくらテメェが、『もう無理』って言おうともな)

頬を染めて嬉しそうに笑うサトコを、ソファの上で掻き抱いた。

【個別教官室】

数日後の放課後、サトコが『差し入れ』と言って大福を持って来た。

(いい心がけじゃねぇか)

小さな大福を手に取り口に入れた途端、日本酒の香りが広がる。

(‥酒?)

サトコ

「どうですか?美味しいですか?」

加賀

‥‥‥

目を輝かせるサトコを見て、一瞬でその企みに気付いた。

(クズが‥)

大福をひとつ手に取り、それをサトコの口にねじ込んでやる。

サトコ

「むぐっ!?」

加賀

大福に余計なもんは必要ねぇ

サトコ

「い、いきなり口の中に大福をねじ込まないでください!」

加賀

テメェの望み通り、尽くしてやっただろうが

普段から望んでる、『あーん』だろ

サトコ

「!!!」

「確かに‥言われてみれば‥!」

(バカが‥今のが『あーん』なわけねぇだろ)

(ったく‥あの程度の酒で俺が酔うとでも思ってんのか)

加賀

テメェが本気で俺に尽くしてもらおうなんざ、1000年早ぇ

サトコ

「1000年‥!?せ、せめて10年とかにしませんか!?」

「私、また加賀さんが甘えてくれる姿が見たいんです」

加賀

‥気が向いたらな

無意識に、そう答えていた。

(‥これが、おれの願望か)

加賀

それまでしっかり、テメェが俺に尽くせ

サトコ

「はい!」

元気よく返事するサトコに、気付けば苦笑いしていた。

Happy  End

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