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塩対応 颯馬 2話

【教場】

(‥やっぱり、私は補佐官として失格なのかな)

自然とため息をつく回数が多くなり、鳴子たちが心配そうに顔を覗き込んでくる。

鳴子

「あんな噂、気にすることないよ」

「急に補佐官交代なんてこと、ないだろうし」

千葉

「そうだよ!颯馬教官がそんなこと考えるはずないよ」

「きっと何か理由があるんだって、だから気にしなくても大丈夫だと思うよ」

サトコ

「‥うん、ありがとう」

ふたりからの励ましは嬉しいけど、どうしても心が晴れない。

多分、颯馬さんの口から聞かない限り、私の心が晴れることはないんだと思う。

結局、この日は悩むことばかりでお昼ご飯を食べそびれてしまった。

(今日は私の好きなエビフライランチだったんだけどな‥)

(でも今はそんな気分じゃないし‥)

何度目になるか分からないため息をついた時、

颯馬

サトコさん、ちょっといいですか?

サトコ

「そ、颯馬教官‥」

颯馬教官がやってきて、いつもの優しい笑顔を見せてくれた。

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颯馬

教官室まで来ていただきたいのですが、大丈夫でしょうか

私は頷いた後に颯馬さんの元へと向かった。

【個別教官室】

颯馬さんに言われるまま、個別教官室までやってきた‥‥

補佐官交代を言い渡されるのでは、と私は内心ビクビクしていた。

颯馬

サトコさん‥

サトコ

「は、はい‥」

(‥颯馬さん、やけに真剣な表情だ)

(何を言われるんだろう‥)

颯馬

明日は講義がないので、今晩‥うちに来ませんか?

サトコ

「え?」

予想外の誘いに、私は思わず目を丸くした。

サトコ

「そ、颯馬教官のお宅‥ですか?」

颯馬

ええ‥もちろん、サトコさんが良ければ‥ですけど

いかがでしょう?

<選択してください>

A: 喜んで

サトコ

「喜んで」

颯馬

良かったです

断られたらどうしよう、と思っていたのですよ

そんな素振りなど全く見せないまま、颯馬さんがにっこりと微笑む。

B: 良かった‥

サトコ

「良かった‥」

(てっきり、補佐官交代のことを言われるかと思った‥)

颯馬

サトコさん、良かった‥とはどういうことでしょう?

サトコ

「えっ、いえ‥なんでもありません」

「颯馬さんの家にお邪魔するのが、楽しみで‥!」

颯馬

‥そうですか

颯馬さんから訝しげな視線を向けれられ、私はつい逸らしてしまった。

C: いいんですか‥?

サトコ

「いいんですか‥?」

颯馬

よくなければ、最初から誘ったりはしませんよ

それで、私は返事を頂けないのでしょうか?

サトコ

「あっ、是非お邪魔させてもらいたいです!」

颯馬

良かった、今晩が楽しみですね

(誘ってくれたのは嬉しいけど‥)

(補佐官交代のことが気がかりで、手放しでは喜べないな‥)

もしかしたら、颯馬さんの家に行ったときに補佐官交代の話をされるかもしれない。

颯馬

浮かない顔をして、どうしました?

もし、都合が悪ければ、次回でも構いませんよ?

サトコ

「いえ‥予定は何も入ってないです‥!」

颯馬

そうですか?久しぶりにふたりで過ごせるので、私も楽しみです

颯馬さんの様子は、いつもと変わりなく、それが余計に私の不安を煽っていた。

【颯馬の部屋】

その日の夜。

私は約束通り、颯馬さんの自宅を訪れた。

サトコ

「お邪魔します」

颯馬

クスッ、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ

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(あれ‥?)

中に入った瞬間、おいしそうな料理の匂いが鼻をくすぐった。

それに刺激され、私のお腹が小さく鳴る。

サトコ

「あ‥」

颯馬

晩御飯、出来てますよ

颯馬さんは笑いを堪えながら呟き、私は居たたまれない気持ちになった。

(颯馬さんの真意が見えない‥)

(どうして颯馬さんは、私を呼んでくれたんだろう)

颯馬

サトコさん、どうしかしましたか?

サトコ

「‥颯馬さん、どうして私を招いてくれたんですか?」

とうとう耐え切れず、私は颯馬さんに言葉を投げかけた。

颯馬

どうして、とは‥?

サトコ

「‥その、突然だったので」

颯馬

あぁ、そういうことですか

いつもサトコさんは、補佐官として頑張ってくれていますからね

たまには、私も労わなくては‥と思って、今日お呼びしたのですよ

サトコ

「えっ、そうだったんですか‥?」

颯馬

ええ、他に何か理由があると思いましたか?

サトコ

「い、いえ‥」

颯馬

まぁ、話は後にしましょうか

【リビング】

颯馬さんに促され、私はリビングに通される。

サトコ

「あ‥」

テーブルに並べられていたのは、今日のお昼、食べそびれてしまったエビフライ。

もちろん、食堂のエビフライより何倍も美味しそうなものだった。

颯馬

いつも頑張っている補佐官に、今日は私が尽くさせてください

サトコ

「つ、尽くすって‥」

颯馬

言葉通りですよ、そうですね‥

さっそく、エビフライを食べさせてあげましょうか?

サトコ

「えっ!」

颯馬さんはひと口サイズに切ったエビフライをフォークに刺して、私に差し出してくる。

颯馬

どうぞ、口を開けてください

はい、あーん

颯馬さんは笑顔だけど、なぜか有無を言わさない雰囲気を感じる。

(これは、諦めて食べさせてもらうべきなのかな‥)

少しためらった後、私はおずおずと口を開いた。

颯馬

どうですか?

サトコ

「‥‥‥」

颯馬

もしかして、口に合いませんでしたか?

サトコ

「いえ‥美味しい、と思います」

颯馬

‥思う、ですか?

サトコ

「‥食べさせてもらったドキドキで、味がよく分かりません」

颯馬

‥‥‥

私の言葉を聞き、颯馬さんはパチパチと目を瞬かせた。

颯馬

フッ‥

そして、数秒の沈黙の後に堪えきれず吹き出した。

颯馬

まさか、そんな答えが返ってくるとは

さすがの私も、予想できませんでしたよ‥

サトコ

「だ、だって‥あーんだなんて」

「そんなに笑わないでくださいよ」

颯馬

フフ、すみません

それでは、今度は味が分かるようにゆっくりと味わってください

颯馬さんは笑いながら言い、私は恥ずかしがりながらもエビフライを堪能していた。

そして食事が終わった後、せめて洗い物くらいはと思い、席を立つ。

【キッチン】

しかし‥

颯馬

今日は、私がサトコさんに尽くす日だと言ったはずですが‥?

サトコ

「いいえ、晩ご飯をご馳走になったんですから洗い物くらいはさせてください」

颯馬

やれやれ、サトコさんは結構強情ですね‥

仕方ありません、ふたりで洗い物をしましょうか

颯馬さんはそう言って、私を後ろから抱きしめるような体勢を取った。

サトコ

「颯馬さん‥!?」

颯馬

このままでは袖が濡れてしまうでしょう?

こうして捲っておかなくては‥

サトコ

「‥っ」

颯馬さんが袖を捲ってくれているだけだと分かっているけど‥

この体勢でドキドキしない方が、難しい。

サトコ

「わ、私は洗い物をしますので‥颯馬さんは拭いて食器棚に入れてもらえますか?」

颯馬

分かりました

ふたりで淡々と食器を片付けていく。

私は、気になっていたことを颯馬さんに聞いてみることにした。

サトコ

「そういえば‥どうして、エビフライだったんですか?」

颯馬

え?

サトコ

「あ、いや‥実は、今日のランチがエビフライだったんです」

「でも私、それを食べそびれちゃって‥凄い偶然だなぁと思って‥」

颯馬

フフ、偶然だと思いますか?

サトコ

「えっ!?偶然じゃないってことですか?」

颯馬

最近、ランチでエビフライを食べ損ねて落ち込んでいる姿を、何回か見かけましたので

やっぱり貴女の好物はエビフライかと‥フフ

そういえば‥確かにここ数回エビフライランチを食べ損ねている。

勉強だったり、補佐官の仕事だったり、うっかりしたり‥と理由はさまざまなのだけど。

颯馬

先日、佐々木さんもサトコさんがエビフライ定食を数回逃しているとお聞きしました

その言葉だけ聞いていると、私がひどく食いしん坊に聞こえてしまう。

サトコ

「あ、あの‥」

颯馬

それに、前々から貴女を誘いたいと思っていたんです‥

サトコ

「だから今日の夕食‥エビフライにしてくれたんですか?」

颯馬

フフ、どうでしょう

颯馬さんは意味深に微笑むけど、その笑顔を見てそうなのだと確信した。

サトコ

「でも、颯馬さんと鳴子がそんな話をしてるなんて知りませんでした」

颯馬

彼女は、私がお願いした仕事でてんてこまいだったみたいですからね

仕事のことで頭がいっぱいでそれどころじゃなかったんでしょう

(やっぱり気になる‥)

サトコ

「そうだったんですか‥」

(‥って、聞きたいのはエビフライを作ってくれた理由じゃなくて!)

(どうして、急に他の訓練生に仕事を頼みだしたのか聞いてみたいけど‥)

颯馬さんの口から補佐官交代を考えている、と言われたらどうしようと怖くなる。

(‥どうするべきかな)

<選択してください>

A: 聞いてみよう

(聞いてみよう‥)

サトコ

「あの、何で仕事を他の候補生に頼んでいたんですか?」

颯馬

真っ直ぐ私を見つめながら聞いてくるんですね

そういう貴女、私は好きですよ

サトコ

「‥っ」

B: 怖くて聞けない

(どうしよう、怖くて聞けない‥)

颯馬

サトコさん

聞きたいことがあるなら、ちゃんと聞いてくださいね

サトコ

「あ‥」

颯馬

貴女の質問になら、私は何でも答えますから

サトコ

「はい‥」

「どうして、他の訓練生に仕事を頼んでいたのか‥それが聞きたくて‥」

C: 颯馬をジッと見つめる

頭の中で上手く言葉がまとまらず、私はつい颯馬さんをジッと見つめてしまう。

颯馬

どうしたんですか?

貴女に見つめられるのは悪くありませんが‥

貴女が何に心を悩ませているのか、教えて頂けませんか?

颯馬さんは優しく呟き、私はゆっくりと口を開く。

サトコ

「‥どうして、他の訓練生に仕事を頼んでいたんですか?」

颯馬

サトコさんを休ませるため、では信じて頂けませんか?

サトコ

「颯馬さんは、公私混同をしない人です」

「その言葉は嘘ではないと思いますけど、すべてでもないと思います」

颯馬

‥なるほど

貴女は私のことをよく知っていますね

他の人に仕事を頼んだのは、他の訓練生のことを知りたかったからですよ

サトコ

「え?」

颯馬

公安刑事になれば、勉強だけしていればいい、というわけにはいきません

ですから、今後はいろんな訓練生の仕事ぶりも見ていこうかと思いまして

もちろん、たまにですから

ほとんどの仕事はこれまで通り、貴女に頼むことになると思いますけどね

颯馬さんの言葉に、私は目を瞬かせる。

サトコ

「補佐官交代を考えていたわけじゃないんですか‥?」

颯馬

補佐官交代?

そんなこと、あるわけないじゃないですか

私の補佐官は‥サトコさん、貴女だけですよ

サトコ

「っ‥」

颯馬さんのひと言で、心に渦巻いていた不安がきれいさっぱり消えてしまった。

颯馬

フフ、もしかして妬いてました?

サトコ

「‥ちがっ」

意地悪な笑みを浮かべながら、颯馬さんが私の顔を覗き込んでくる。

颯馬

サトコさんは‥本当に可愛いですね

私の頬にキスを落としながら、颯馬さんは私の耳元で囁いてきた。

サトコ

「‥っ、えっと‥あ、洗い物を早く終わらせましょう!」

颯馬

そうですね。このままでは落ち着いて話もできませんし

気恥ずかしさに包まれながら、私は洗い物をする手を早めた。

【リビング】

洗い物を終え、ふたりでくつろぎながらテレビを眺める。

サトコ

「‥颯馬さん、最近素っ気なくて本当に心配しました」

颯馬

すみません

困っている貴女の反応が、とても可愛らしくてつい楽しんでしまいました

サトコ

「た、楽しむって‥」

颯馬

ですが、私の楽しみのために貴女には悲しい想いをさせてしまったようですね

サトコ

「いいえ‥って言いたいところですが、本当に不安でした」

「テストの出来も悪かったし、呆れられちゃっただろうなって‥」

颯馬

本気で呆れてるなら、私は何も言いませんよ

サトコさんのためを思って、あえて苦言を呈しただけです

サトコ

「はい‥」

私のためだと分かっていても、あの笑顔で怒られるのは結構キツかった。

颯馬

そんな顔をして‥

ダメな子ですね。私を煽っているんですか?

サトコ

「煽るなんて‥!」

颯馬

あの時の言葉や態度を間違っていたとは思いません

‥ですが、確かに少し言い過ぎたかもしれません

颯馬さんは私の肩を抱いたまま、顔を近づけてくる。

(キス、される‥?)

慌てて目を閉じるけど、唇にやってくるはずの感触はいつまで待っても来ない。

(あれ‥?)

そろりと目を開けると、意地悪な笑みを浮かべている颯馬さんが見えた。

サトコ

「からかったんですか‥?」

颯馬

からかってはいませんよ。ただ分からなかっただけです

サトコ

「え?」

颯馬

‥どうしてほしいのか、ちゃんと言ってくれないと分からないよ?

サトコ

「っ‥!」

颯馬さんの低い声が私の耳元で響き、ぞくりと背筋が粟立つ。

颯馬

ほら、どうしてほしいのか言って?

唇が触れ合いそうな距離で、颯馬さんが問いかけてくる。

どちらかが動けば、もう唇は触れ合う距離。

優しい微笑みや口調に反して、颯馬さんは意地悪だ。

(‥どうしよう、この距離がもどかしい)

サトコ

「‥颯馬さん、キス‥してほしいです‥」

颯馬

それがサトコさんの望みなら、俺は叶えるだけだ

そう言って、颯馬さんはキスを落とす。

焦らされていたせいか、いつもよりもキスが熱く激しいものに感じる。

颯馬

いつもより積極的に思えるのは、私の気のせいでしょうか?

サトコ

「積極的だなんて、そんなことは‥」

颯馬

サトコさんが積極的になってくれるなら‥

たまには、少し距離を置くのも悪くはないかもしれませんね

サトコ

「そんなの、嫌です‥」

「突然、あんな風に距離を置かれたら不安になりますし‥怖いです」

これは本心だった。

颯馬

‥すみません

少々からかいすぎてしまいましたかね

サトコ

「あっ、私こそ責めるような言い方をしてごめんなさい‥」

颯馬

いえ‥サトコさんを不安にさせたのは事実ですからね

颯馬さんはどこか含みのある言い方をして、私の頬に優しく触れる。

颯馬

‥そういえば、明日は休みでしたね

不安になる必要などないのだと、じっくりと教えてあげますよ

サトコ

「え‥」

颯馬さんの艶めいた笑顔に、ドキッと胸が高鳴る。

颯馬

さて、それではそろそろ行きましょうか

サトコ

「きゃっ‥」

突然の浮遊感に、私はビクッと身体をすくませた。

(これって、お姫様抱っこ‥!?)

サトコ

「そ、颯馬さん、降ろしてください‥!」

颯馬

怖がらないでいいですよ。寝室に行くだけですから

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サトコ

「‥っ」

寝室、という言葉を聞いて頬に熱が集まってくる。

颯馬

明日が休みで良かったです

私がどれだけサトコさんを想っているか、思い切り分からせてあげられますからね

サトコ

「お、思い切り‥!?」

颯馬

当然でしょう?不安にならないよう、しっかりと教えてあげますよ

颯馬さんは、これ以上ないくらい極上の笑みを浮かべた。

そのまま私は、颯馬さんに寝室へと連れて行かれる。

颯馬

愛してる、サトコ‥

優しいキスを合図に、甘い夜が始まりを告げた。

Happy  End

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