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塩対応 颯馬 カレ目線


【教官室】

颯馬

「‥‥‥」

先日のテストを返却した後、俺は小さなため息をついていた。

(‥サトコ、今回はかなり点数が悪かったな)

彼女は公安として資質も育ち、知識を増やして努力すればクラスの中でもトップレベルになれる。

俺自身、彼女には期待していることもあり、つい他の訓練生よりも厳しく注意してしまった。

(あの表情は、少々心が痛むな‥)

俺から注意をされた際、サトコは明らかに落ち込んだ表情を見せた。

(いや、中途半端に甘くするのは彼女ためにもならない)

(彼女のためを思うなら、心を鬼にするべきかもしれない‥)

そうは思っていても、やはり大事な人を落ち込ませたことは俺の心に妙な引っ掛かりを残していた。

【資料室】

(彼女の性格上、きっと勉強のために資料室にでも行っているはず‥)

少しでも俺が教えてあげられたら、と思って資料室に行くと‥

サトコが千葉くんとふたりで試験の復習をしている場面に遭遇した。

(‥‥‥千葉くん、少し残念そうな表情をしていたな)

前から気づいてはいたが、彼はサトコに気がある。

颯馬

あなたたちのように勉強熱心だと、私も嬉しいです

わからないところがあったら、遠慮なく教官室まで聞きに来てくださいね

千葉

「ありがとうございます」

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颯馬

‥それにしても、千葉くんは本当に優しいですね

千葉

「別に‥誰にでも優しいってわけじゃないです」

颯馬

どういうこと、でしょうか

やっぱりサトコに気があるのか、と心がざわつく。

千葉

一生懸命な氷川を見ていると、助けたくなるっていうか‥

それに、自分も負けていられないって思うんです

千葉くんから帰ってきたのは、純粋で真っ直ぐな言葉だった。

(‥参った)

(彼を見ていると、自分の心の狭さが余計に腹立だしくなる)

自然と拳を握りしめていた。

颯馬

‥そうですね

サトコさんを、頼みましたよ

それと、先日頼んだ資料‥よろしくお願いしますね、サトコさん

サトコ

「は、はい‥!」

結局、彼の言葉に何も言い返すことができないまま、俺は資料室を後にした。

【廊下】

(自分がこんなに、余裕のない人間だったとは‥)

サトコのことになると、大人げなくムキになってしまう部分がある。

今まではこんな気持ちを抱くことがなかったせいか、驚きを隠せない。

(サトコの経験になると思って、色々な仕事を任せてしまっていたが‥)

(もしかしたら、それがサトコの負担になっていたのかもしれない)

(‥少し、仕事を別の訓練生に任せてみよう)

今までも、他の訓練生の仕事ぶりを見てみたいと思ったことはあった。

けれど、サトコに頼んだ方が彼女のためになると思って、後回しにしていた部分も否めない。

(‥まぁ、徐々に考えていくか)

【個別教官室】

翌日の放課後。

個別教官室に戻ると机の上に大量の資料が置いてあった。

颯馬

これは‥

軽く資料に目を通してみると、テスト前にサトコに頼んだものだと分かる。

颯馬

まさか、ここまでの仕事をしてくれるとは‥

過去の事件の捜査資料をまとめておいて欲しい。

これが俺の頼んだことだったが、俺の予想以上に工夫が凝らしてまとめてある。

(これは、半日やそこらで完成させたものではないだろう)

颯馬

‥だから、テストの結果が悪かったのか

テストだけに集中していれば、今回のような点数はなかっただろう。

テストをおざなりにして、俺の頼んだ仕事をしていたのかと思うと、申し訳なさが込み上げてくる。

(きっと、一生懸命資料を作ってくれたのだろう)

(‥やっぱり別の訓練生に仕事を任せること、本気で考えた方がいいかもしれない)

【廊下】

???

「あの、颯馬教官‥!」

サトコを捜しに行こうと個別教官室を出た時、佐々木さんに呼び止められた。

颯馬

佐々木さん、どうしました?

鳴子

「サトコのことなんですけど‥」

颯馬

サトコさんの‥?

彼女の名前が出てきて、俺は少し眉を顰めた。

(まさか、彼女に何かあったんだろうか‥?)

そんなことを考え、気を逸らせていると‥

鳴子

「サトコ、一生懸命頑張ってるんで、見捨てないであげてください‥!」

颯馬

見捨てる?いったい何のことですか?

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鳴子

「サトコ、今回のテスト結果が悪かったこと、凄く落ち込んでいて‥」

(‥やはり、俺の言い方がきつかったか)

鳴子

おまけに、最近は毎回好物のエビフライランチを食べ損ねていて‥

本当にツイてないことばかりみたいなんです

颯馬

そう、ですか‥

エビフライが好きなのは知っていたけど、食べ損ねているのは初耳だった。

彼女の落ち込んでいる姿が、目に浮かび自然と笑顔になる。

(食べ損ねている彼女のために、夕飯にエビフライを作ってあげようかな)

鳴子

「それで、サトコを癒してあげようって計画を立てているんです」

颯馬

サトコさんに癒し、ですか?

鳴子

「はい!千葉くんにサトコをもてなしてもらおうと思って‥」

颯馬

‥‥‥‥千葉くん?

何故そこで千葉くんの名前が出てくるのか、と佐々木さんを問い詰めたくなる。

鳴子

「はい、サトコはいつも頑張り過ぎなので‥」

「千葉くんと、たまには肩の力を抜いてもらおうって話してたんです」

颯馬

‥‥‥

サトコは良い友人を持っていると思う。

それは俺としても嬉しいし、佐々木さんと千葉くんに感謝をしなければいけない‥

(やっぱり、いつも近くにいる友達の方が気付くのか‥?)

(やはり、千葉くんはちゃんとサトコのことを見ている)

鳴子

「だから‥」

颯馬

「佐々木さん、ひとつお願いしたいことがあるんですが、よろしいですか?」

鳴子

「は、はい‥?」

きっと、佐々木さんはサトコを励ますために色々と計画をするのだろう。

(サトコを落ち込ませてしまった一因は俺にもある‥)

颯馬

ちょっと仕事を頼みたいのですが、大丈夫でしょうか?

鳴子

「えっ、私にですか?大丈夫、ですけど‥」

颯馬

それと女性は何に癒されるのか、教えてほしいのですが‥

鳴子

「何に癒されるか‥ですか?」

本当はサトコのため、と言いたいけどそれを彼女に言うわけにはいかない。

だから、さりげなく彼女を癒す方法を聞き出すことにした。

鳴子

「私だったら美味しいものを食べて、好きな人が傍にいてくれる‥でしょうか」

「‥と言っても、私は相手がいないので美味しいものを食べることしかできませんけど」

佐々木さんは笑いながら答える。

(美味しいもの、好きな人が傍にいる‥か)

(‥好きな人が落ち込ませた相手でも有効なのだろうか?)

颯馬

ありがとうございます。参考にさせて頂きますね

それでは、このメモに書かれている資料のまとめをお願いしますね

そうして、私はサトコに頼むはずだった仕事を佐々木さんに頼むことになった。

【廊下】

それから数日後。

廊下で佐々木さんと千葉くんが話している姿を見かけた。

鳴子

「あれ、千葉くんも颯馬教官から仕事を頼まれてるの?」

千葉

「俺もって‥佐々木も?」

鳴子

「うん、これが結構な量でさぁ‥ま、頑張るけどね」

千葉

「俺たちだけじゃなくて、颯馬教官‥他の訓練生にも仕事を頼んでるみたいだね」

「氷川はこれをひとりでやってたんだから、本当にスゴイよな‥」

鳴子

「ほんと、サトコは凄いよ~‥」

颯馬

おふたりとも、もうすぐ講義が始まりますよ

佐々木さんが、千葉くんとサトコを接触させようと思う前に、俺は彼らに声を掛ける。

千葉

「そ、颯馬教官‥」

鳴子

「あ、そういえばこの資料のことで聞きたいことがあったんですけど‥」

颯馬

はい、なんでしょうか

鳴子

「まとめかたについてなんですけど‥」

颯馬

あぁ、ここはですね‥

どうやら、上手く話を逸らすことができたみたいだ。

(‥我ながら、本当に心が狭いな)

(『サトコは頑張りすぎ』か‥確かに佐々木さんの言う通りだ)

(何をすべきか考えてから、サトコを誘うことにしよう)

【颯馬の部屋】

そして、おもてなしデート当日。

講義が終わった後、サトコが俺の部屋にやってきた。

サトコ

「私、洗い物をしてきますね」

食事の後、サトコはそう言いながら席を立った。

颯馬

サトコさん?

サトコ

「食器を洗ってくるだけなので、颯馬さんはゆっくりしていてください」

颯馬

今日は、私がサトコさんに尽くす日だと言ったはずですが‥?

サトコ

「いいえ、晩ご飯をご馳走になったんですから洗い物くらいはさせてください」

サトコは妙なところで頑固な部分がある。

それも彼女の美徳なのだろうけど、今日だけは素直に甘えて欲しかったという気持ちもあった。

【キッチン】

颯馬

やれやれ、サトコさんは結構強情ですね

仕方ありません。ふたりで洗い物をしましょうか

そう言って、俺はサトコを背後から抱きしめるようにする。

その途端、びくり、と身体を震わせるサトコに愛おしさが募った。

颯馬

このままでは袖が濡れてしまうでしょう?

こうして捲っておかなくては‥

それは嘘ではないけど、俺が彼女を抱きしめたいから、という理由の方が大きい。

(‥たまにはこうしてふたりで片付けをするのも悪くないな)

少し気恥ずかしいけど、サトコを窺い見ると彼女も同じことを想っている表情だった。

けれど、何かに悩んでいるように見え、俺はそれが心配で仕方ない。

(‥彼女が自分から話してくれるのを待つべきか?)

無理に聞き出しても、それはサトコが俺を頼ったことにはならない。

そんなことを考えていると、サトコが悩んでいることについて話し始めた。

颯馬

‥まさか、そんな風に考えていたなんて

サトコ

「す、すみません‥」

サトコが悩んでいたのは、補佐官交代を言い渡されるのは、ということだったらしい。

颯馬

私の補佐官は‥サトコさん、貴女だけですよ

彼女の言葉に驚いた俺は、彼女を安心させる言葉をかけた。

サトコ

「ずっと素っ気ないような気がして‥」

「呆れられちゃったのかと思っていました‥」

颯馬

‥‥‥

そう呟くサトコの表情が切なげで、愛おしさが増していくのが分かる。

颯馬

‥心配していたのは、貴女だけではないんですけどね

サトコ

「え?」

颯馬

いいえ、何でもありません

明日が休みで良かったです

私がどれだけサトコさんを想っているか、存分に分からせてあげられますからね

サトコ

「ぞ、存分に‥!?」

颯馬

当然でしょう?不安にならないよう、しっかりと教えて差し上げます

そのまま、俺はサトコを寝室に連れて行く。

【寝室】

夜中、ふと視線を感じて目を開けると、サトコが俺を見つめていた。

サトコ

「あっ‥すみません。起こしてしまいましたか?」

颯馬

いえ‥ただ熱烈な視線を感じただけですよ

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サトコ

「‥っ」

からかうように言えば、サトコは頬を赤らめて照れる。

颯馬

もし、貴女を好きだと言う人が現れたら‥どうしますか?

ふと、千葉くんのことを思い出して、そんな意地悪な質問を投げかけてしまった。

サトコ

「わ、私を好きだなんて言う人‥いませんよ」

颯馬

おや、貴女にとって私はカウントに入れてもらえないのですか?

私は、貴女をこんなにも愛しているというのに‥

囁きながら、彼女の耳を甘噛みすると、サトコの身体が甘く震える。

サトコ

「べ、別の人はありえないっていう意味だったんですけど‥」

颯馬

あり得ないと思いますか?

サトコ

「‥それに、もしいたとしても、私は颯馬さんだけですから」

颯馬

‥‥‥

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サトコならそう言ってくれるだろうと予想はしていた。

けれど‥実際に彼女の口から聞くと、安心する‥

俺は柄にもなく照れてしまい、サトコから視線を逸らした。

サトコ

「あ、あの‥」

俺の態度を見て、サトコが少し慌てたようなように顔を覗き込んでくる。

颯馬

貴女という人は、本当に‥

サトコの言葉ひとつで、俺の心に溜まっていた不安が一気に消えた。

(彼女の言葉だけで、俺はこんなにも安心できる)

(サトコにとっての俺の言葉も、そうであればいいな‥)

サトコ

「颯馬、さ‥」

サトコが俺の名前を呼び終える前に、俺はその唇を塞いだ。

すべてを絡め取るように、彼女が俺だけを感じてくれるように、熱く、激しく何度も‥

サトコ

「‥あ、あの‥」

颯馬

フフ、顔が真っ赤ですよ

サトコ

「‥颯馬さんの、せいです」

乱れた呼吸を整えながら言うサトコが愛おしくて、俺は再び彼女の身体をベッドに沈める。

サトコ

「えっ‥」

颯馬

まだ、夜は明けていませんよ

‥もっと、私を感じてください

そして、貴女を‥もっと、私に感じさせてください

俺はキスを落としながら、囁いたのだった‥‥‥

Happy  End

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