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元カレ 後藤1話

バキッ!

(えっ、バキッ···?)

不穏な音が聞こえ、後藤さんの手元を見ると‥

(ボ、ボールペンが真っ二つに折れてる!?)

東雲
こわ···凄い馬鹿力

黒澤
後藤さん···もしかして、怒ってます?

黒澤さんは、恐る恐る口を開く。

後藤
何がだ?

黒澤さんに、平然と返す後藤さん。

(あれ···いつもの後藤さんだよね?)
(よかった···怒ってないみたい)

後藤さんの様子に、ホッと胸を撫で下ろす。
それと同時に、少しだけ心にもやがかかるように感じた。

(あれ?安心したはずなのに‥なんでもやっとするんだろう···?)

本当は、もう少しだけ気にしてほしかったのかもしれない。

東雲
明らかに問題ありますって顔してるのにね

颯馬
フフ、後藤は素直じゃありませんから

後藤
歩、周さん···何のことですか

後藤さんは東雲教官たちをチラリと見て、小さなため息をつく。

(後藤さんって、あまり過去の彼氏のこととか気にしないのかな···?)
(ダメダメ!こんなこと考えるなんて、自分勝手だよね)

教官たちが隣で楽しそうに話してる中、私はそんな湧き上がる想いに、そっと蓋をした。

黒澤
「まあまあ、後藤さん!ここはこの黒澤にお任せください!

後藤
は?

黒澤さんは胸を反らし、自信満々に続ける。

黒澤
オレが後藤さんの癒しになります!

後藤
お前に癒されるなんてごめんだ。そもそも、何で俺が癒されなくてはいけないんだ

黒澤
またまた~。そんな強がらなくても‥

後藤
······

黒澤
ひいっ!そんなに睨まないでくださいよ!
相変わらず、オレの扱いがヒドイです···
サトコさんからも、後藤さんに言ってやってください!

サトコ
「ええっ、私がですか···!?」

黒澤
もちろんです!サトコさんは後藤さんの補佐官じゃないですか
後藤さんだって、可愛い補佐官の言うことなら聞いてくれるハズ···

颯馬
黒澤、おしゃべりは身を滅ぼす···という言葉を知っていますか?

黒澤
へ···?

石神
後藤。殺気が抑えられてないぞ

後藤
······

黒澤さんがゆっくりと振り返り、後藤さんを見る。
後藤さんから、黒いオーラが出ているように見えた。

黒澤
ひいぃぃぃぃっ!サトコさん、助けてください~!

サトコ
「わわっ!」

黒澤さんは盾にするように、私の後ろに隠れる。
それを見た後藤さんの目が、一瞬だけ揺らいだように見えた。

颯馬
フフ、さしずめサトコさんは最強の盾といったところでしょうか

東雲
確かに彼女、頑丈そうですもんね‥
それじゃあ、最強の矛で貫いても大丈夫だね

サトコ
「し、東雲教官!物騒なこと言わないでください!」

黒澤
最強の盾···つまり、サトコさんがいればオレは勝ったも同然ってことですね!

黒澤さんは私の後ろから、ひょっこり顔を出す。

黒澤
後藤さん、今日の飲み会は絶対に来てくださいね!

後藤
またその話か···

後藤さんは嫌そうに黒澤さんを見る。

後藤
俺は行かないと言って···

黒澤
サトコさんも参加するのに、ですか?

サトコ
「えっ!?」

後藤
······

黒澤さんの言葉に、後藤さんがピクリと反応する。

サトコ
「ちょ、ちょっと待ってください。そもそも、飲み会ってなんですか?」

黒澤
今夜はオレ主催の飲み会があるんですよ~
なのに、後藤さんったら『来ない』の一点張りで···

颯馬
飲み会···そんなのもありましたね

加賀
くだらねぇ。俺は行かねぇぞ

黒澤
ええ~、そんなこと言わないでくださいよ!石神さんは来てくれますよね?

石神
仕事だ。お前みたいに暇ではないんだ

東雲
これ、誰も集まらないんじゃない?

黒澤
そんなことないです!サトコさんでしょ、後藤さんでしょ、あとは···

(しれっと私も頭数に含まれてる···!)

後藤
黒澤。氷川を巻き込むな

黒澤
サトコさんを巻き込まなきゃ、後藤さん来てくれないじゃないですか!
それに、飲み会は大人数の方が楽しいに決まってますし···ね、サトコさん?

サトコ
「え、えっと···確かに、飲み会は大人数の方が盛り上がるとは思います」

加賀
チッ、余計なこと言ってんじゃねぇクズ

石神
あまり黒澤をつけあがらせるな

黒澤
ここまで言ってもダメとは···!

黒澤さんはがくりと肩を落として、呟く。

黒澤
···難波さんも来るのになぁ

サトコ
「難波室長もですか?」

黒澤
はい。実は今回の飲み会、難波さんも主催のひとりなんです!
難波さんが久しぶりにみんなで飲むのもいいかって言っていたので
オレセッティングさせてもらいました

東雲
···透、なんでそれを先に言わないの?

黒澤
難波さん、みなさんが来ないと知ったらどうするんでしょうかね···

石神
はぁ···

加賀
チッ

後藤
······

東雲
サイアク···

颯馬
難波さんが来るなら、行かないわけにはいきませんね

黒澤
そうですよね!皆さん、参加してくれるってことでよろしいですね!?

黒澤さんは、パッと顔を輝かせる。

黒澤
さすが難波さんパワーです!やりましたね、サトコさん!

サトコ
「は、はい···?」

黒澤さんが私に向かって手を上げ、一緒にハイタッチをする。

後藤
はぁ···

後藤さんはそんな私たちを横目にため息をつき、立ち上がる。

黒澤
あれ?後藤さん、どこ行くんですか?

後藤
······

後藤さんは黒澤さんの言葉には答えず、教官室を出ていこうとする。

サトコ
「後藤教官···」

後藤
······

一瞬だけ目が合うも、すぐに逸らされてしまった。

(後藤さん···)

いつもと違う空気を感じ、胸が微かにざわめく。

サトコ
「すみません、私はこれで失礼します!」

私は教官に頭を下げ、後藤さんの後をすぐに追いかけた。

【廊下】

サトコ
「後藤さ···教官!」

慌てて教官室を出るも、後藤さんの姿は見当たらない。

サトコ
「あれっ、いない!?」

(どこに行ったんだろう?)

そのまま後藤さんを捜そうとするも、思いとどまる。

(何かひとりで考えたいことがあるのかもしれないし···)
(急がなくてもこの後に飲み会だってあるし、話す機会なんていくらでもあるよね)

私はそう自分に言い聞かせ、踵を返した。

【居酒屋】

飲み会が始まるも、後藤さんとはまだひと言も話せていなかった···

(飲み会の前に話せたらって、思ったんだけどな···)

私と後藤さんの席は、離れていた。

(これじゃあ、いつ話せるか分からないよ···)

東雲
その顔は何?そんなにオレの隣が不服なわけ?

サトコ
「不服だなんて、そんなわけないじゃないですか」

東雲
ふーん···

東雲教官は目を細め、ニヤリと笑みを浮かべる。

東雲
本当は、誰かの隣に座りたかったとか?たとえば···

そういって、後藤さんに視線を向ける東雲教官。

<選択してください>

A: 東雲教官の隣がいいです

サトコ
「わ、私!東雲教官の隣でいいです!」

東雲
はぁ?隣でってなに?
上から目線とか、生意気なんだけど

サトコ
「す、すみません!東雲教官の隣がいいです」

東雲
あっそう···そんなにオレの隣がいいんだ?

サトコ
「はい!」

東雲
後藤さん、サトコちゃんはこう言ってますよ

サトコ
「へっ···?」

東雲教官に言われ、後藤さんに視線を向けると‥

後藤
······

(ご、後藤さんがこっち見てる!)

後藤
なんで、そこで俺に話を振るんだ?

東雲
別に···さっきから、オレたちのやりとり気にしてるように見えたので

東雲教官は、楽しそうにニヤリと口角を上げる。

後藤
···そんなことはない

後藤さんは素っ気なく言って、私たちから視線を逸らした。

(し、東雲教官···!なんてことを···!)

B: 慌てて否定する

サトコ
「そ、そんな···!別に誰の隣でも···!」

東雲
へぇ···後藤さんの隣に座らなくていいの?

サトコ
「なっ、何で後藤教官なんですか···!」

(マズイ···東雲教官にバレてる···!?)

東雲
べつに、教官の隣に専任補佐官が座ることなんて普通のことだと思うけど
それともなに?そんなムキになるような理由が他にあるの?

サトコ
「うぅ···」

(ハ、ハメられた‥···!)
(東雲教官は本当に意地悪だ···)

東雲
今、オレのこと意地悪って思ったでしょ?

サトコ
「なぜ、それを···!?」

東雲
顔に書いてあるよ。サトコちゃんって本当に、考えていることがだだ漏れだよね
そんなんで、本当に公安刑事になれると思ってるわけ?

C: 後藤教官の隣が良かったです

サトコ
「後藤教官の隣が良かったです···」

東雲
へぇ、ずいぶん素直だね

サトコ
「後藤教官は東雲教官と違って、意地悪なことを言わないからです」
「それに私は、後藤教官の補佐官ですから、いろいろ積もる話もあるんです」

東雲
へぇ、そう返してくるか
サトコちゃんも成長したね

東雲教官はニッコリと笑顔で私を褒める。

(バ、バカにされてるっ···!?)

サトコ
「ん···?」

視線を感じ振り返ると、後藤さんと目が合った。

後藤
······

一瞬だけ目が合うものの、後藤さんはすぐに視線を逸らしてしまう。

東雲
はぁ···後藤さんも分かりやすいよね

サトコ
「え···?」

東雲
いや、何でもない

東雲教官は呆れた顔をして、やれやれとため息をついた。

(これ以上話していたら、東雲教官のペースに巻き込まれちゃう)

サトコ
「ちょっと、お手洗いに行ってきますね」

私はその場から逃げるように、席を立った。

【通路】

サトコ
「はぁぁ···」

(後藤さんと話せないし、東雲教官にはからかわれるし···散々だな)
(だけど、いつまでもやられっぱなしにはいかないよね)

いつか東雲教官を超えて見せると、意気込んでいると‥

???
「サトコ?」

サトコ
「え···?」

名前を呼ばれ振り返ると、そこには見知った顔があった。

サトコ
「ハジメ!」

ハジメ
「偶然だな。サトコも飲み会か?」

サトコ
「うん、今日は上司たちと飲み会なの。ハジメは?」

ハジメ
「俺は職場の歓迎会だよ。早くから始めたから、もうお開きになるけどね」

サトコ
「そうなんだ。それにしても、この前といい偶然だね」

ハジメ
「ハハッ、そうだな」

難波
ん?氷川、こんなところで何してんだ?

ハジメと話していると、個室から難波室長がひょっこり顔を出した。

サトコ
「あ、難波室長···」

ハジメ
「もしかして、サトコの上司か?」

(公安学校のことは、周囲には秘密だから···)

サトコ
「う、うん!そうなの」

難波
へぇ、氷川の知り合いか?

サトコ
「はい。たまたま同じ場所で飲み会をしていたみたいで···」

ハジメ
「俺のところは、もう解散になりますけどね」

難波
じゃあ、一緒にこっちで飲んだらどうだ?

サトコ
「えっ!?」

難波
氷川の知り合いなら問題ないだろ

サトコ
「そ、そんな、申し訳···!」

難波
大丈夫だ。文句を言う奴なんかないだろうしな

サトコ
「ちょ、ちょっと!室長···!」

ハジメを連れていく難波室長の後を、私は急いで追いかける。

新しくビールが運ばれ、ごくりと音を立てて飲む。

サトコ
「ごめんね、ハジメ···こんなことになっちゃって」

ハジメ
「気にしなくていいよ。この後の予定はないし···」

サトコ
「そっか···」

表面上は冷静を保ちつつも、内心はヒヤヒヤしていた。

(もし黒澤さんや東雲教官に元カレだって知られたら···)

考えるだけでも、恐ろしい。

(絶対にバレないようにしなきゃ!)

黒澤
初めまして。黒澤透です☆」

ハジメ
「初めまして、狭霧一です。俺はサトコの···」

サトコ
「地元の友達なんです!!」
「それで、久しぶりに会って、難波室長が一緒にどうかって言ってくださったんです」

黒澤
地元の友達ってことは‥昔のサトコさんを知っているんですね
サトコさんって、どんな感じだったんですか?

ハジメ
「今と変わらないですよ?真面目で、何事にも一生懸命で‥」
「いつもキラキラした顔で。警察官になるという夢を語ってました」

黒澤
その頃からサトコさんは、警察官を目指していたんですね

ハジメ
「そうですね。だからサトコが夢を叶えられて本当に良かったと思っています」

サトコ
「ハジメ···」

(そんな風に思ってくれてたんだ‥なんだか、嬉しいな‥)

東雲
へー、ハジメ···ねぇ?

東雲教官の目が、キラリと光る。

東雲
サトコちゃん、カレのこと名前で呼んでいるんだ

ハジメ
「はい。付き合いが長いですから、昔からお互い名前で呼んでいます」

黒澤
付き合いが長いって···

黒澤さんは、ハッとした表情をする。

黒澤
もしかして···サトコさんの幼馴染ですか!?

ハジメ
「そうですけど···」

黒澤
ってことは、つまり···

東雲
キミ、彼女の元カレでしょ?

サトコ
「えっ!?」

東雲教官は面白いものを見つけたと言わんばかりに、私たちを交互に見る。

ハジメ
「ええ、まあ···」

サトコ
「ちょ、ちょっと。ハジメ···」

颯馬
やはり、そうでしたか

サトコ
「そ、颯馬教官!?いつの間に···!」

颯馬
フフ、私だけじゃありませんよ?

サトコ
「あっ···」

颯馬教官だけじゃない。
石神教官に加賀教官、それに難波室長や後藤さんまで私たちを見ている。

加賀
こんなクズと付き合うなんて、物好きな奴もいたもんだな

石神
人にはそれぞれ、好みというものがある

サトコ
「フォローになってません!」

ハジメ
「ハハッ、面白い上司たちだな?」

サトコ
「そ、そうかな···」

(まさか、こんなにあっさりバレちゃうなんて···)

私はおずおずと、後藤さんの様子を窺う。

後藤
······

後藤さんはいつものように、無表情を貫いていた。

(絶対に後藤さんにも、私たちの話が聞こえていたよね···?)

東雲
ってことは、キミがサトコちゃんの初めての人か···

東雲教官はニヤリと笑みを浮かべる。

(なんだか、嫌な予感しかしない···)

東雲
質問していい?思い出の場所とかあったりするの?

ハジメ
「思い出、ですか···」
「よく言っていたカフェ、ですね」
「お互い目指すものがあったので、しょっちゅうデートに行けるわけではなかったので···」

黒澤
なるほど。学生の頃だと、そんなにお金をかけれるわけじゃないですしね

ハジメ
「そうなんです」
「カフェで待ち合わせをしてショッピングモールを回ったり、よく駅前広場で話をしていたよな?」

サトコ
「う、うん···」

私は後藤さんの様子を窺いつつ、答える。

ハジメ
「初めてデートしたのも、近くの公園でしたし···」

黒澤
公園デート!微笑ましくて素敵じゃないですか
もしかして、初デートで初キスとかしちゃったり···?

サトコ
「ちょ、ちょっと!黒澤さん!」

東雲
それとも‥言えないような場所で初キスをしたとか?

サトコ
「そ、そんなわけないじゃないですか!図書館ですよ!」

「あっ···」

(し、しまった···!)

気付いた時には、もう手遅れだった。

(いくら東雲教官に乗せられたとはいえ、自分でバラしちゃうなんて···!)

東雲
へぇ、図書館ね···

黒澤
図書館で初キスですか!
いいじゃないですか、初々しい感じが素敵です!

サトコ
「うぅ···」

私はがくりとうなだれる。

ハジメ
「おい、サトコ?大丈夫か?」

サトコ
「だ、大丈夫···」

ハジメ
「明らかに大丈夫じゃなさそうだけど···」

東雲
キミ、今彼女いるの?
あ、もしかして···今もサトコちゃんのことが好きとか?

<選択してください>

A: もういいじゃないですか!

サトコ
「もういいじゃないですか!この話はこれで終わり!」

東雲
なに、焦ってるの?何かマズイことでもあるの?

サトコ
「あ、焦ってなんていません!」
「それに、そんなデリケートなこと聞くなんてひどいですよ」

東雲
デリケート···?
まさか、サトコちゃんの口からそんな言葉が出てくるなんて···

サトコ
「···東雲教官のその反応に、慣れつつある自分が怖いです」

B: 後藤の様子を窺う

私は後藤さんの様子を窺った。

後藤
······

後藤さんは特にこちらの様子を気にするでもなく、グラスを煽っている。

(後藤さん、さっきから何も反応してくれない···)

そもそも、私たちが付き合っていることを考えれば、それが当然の反応なのかもしれない。

(···後藤さんはそれを分かった上で、何も言わないのかな?)
(うん、きっとそうだよね)

C: ハジメの口を塞ぐ

ハジメ
「それは···むぐっ」

サトコ
「ちょっと、そんなこと聞かないでください!」

私は慌ててハジメの口を塞いだ。

サトコ
「そもそも、私たちは円満に分かれたんです!」
「昔のことを掘り返すようなことを言わないでください‥!」

颯馬
サトコさん、彼の口だけじゃなくて、鼻まで塞いじゃってますよ

サトコ
「へ···?」

ハジメを見ると、苦しそうに唸っていた。

サトコ
「ご、ごめん!」

ハジメ
「ぶはっ!はぁ、はぁ···だ、大丈夫···」

東雲
元カレの息を止めるつもり?

サトコ
「誰のせいだと思っているんですか!」

サトコ
「とくかく、この話はもう終わりです!」

私はテーブルに手をつき、強制的に話を終らせる。

後藤
······

すると、しばらく無言でいた後藤さんが立ちあがった。

後藤
すみません、室長···

難波
ん?どうかしたか、後藤?

後藤
まだ仕事が残ってますので、お先に失礼します

難波
おお、わかった。相変わらず後藤は真面目だな

後藤さんは難波室長に軽く頭を下げ、居酒屋から出ていく。

(後藤さん···)

ここで後藤さんを追いかけたら、勘づかれてしまうかもしれない。
だからといって、ここに留まることはできなかった。

サトコ
「すみません、私もお先に失礼します!」

ハジメ
「サトコ?」

サトコ
「ごめん、ハジメ!またね」

私は荷物を持ち、慌てて後藤さんを追いかけた。

to be continued

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