カテゴリー

元カレ 颯馬 2話

ハジメ
「サトコ」

サトコ
「あ···ハジメ」

悩んでいる間に、ハジメが来てしまった。

ハジメ
「···どうかしたのか?」

サトコ
「え?」

ハジメ
「いや、何かため息ついてたから···」
「俺の気のせいならいいんだけどさ」

どうやら、颯馬さんのことで不安に思っていたところが顔に出てしまっていたらしい。

サトコ
「なんでもないよ」

ハジメ
「そうか?」

ハジメ
「ここで立ち話もなんだし、そこの喫茶店にでも入るか」

サトコ
「うん」

私たちは近くの喫茶店に入ることにした。

【喫茶店】

サトコ
「最近、仕事はどう?」

飲み物を注文した後、私からハジメに問いかける。

ハジメ
「そうだな···大変だけど、毎日充実してるよ」
「やりがいのある仕事だし、まだまだやりたいことがある」
「サトコだって、そうだろ?」

サトコ
「···うん。私もちゃんと目標があるよ!まだスタート地点に立ったばかりだけどね」

自分の考えを言うと、ハジメがジッと見つめてきた。

サトコ
「ハジメ?」

ハジメ
「あぁ。ごめん。相変わらず夢のことを語る時は目を輝かせるんだなーと思って」

サトコ
「そ、そうかな?」

ハジメは昔と変わらない笑顔を見せながら言う。

サトコ
「そういえば、電話で言ってた『話したいこと』ってなんなの?」

ハジメ
「あー···それは、なんていうか···」

ハジメは視線を泳がせ、頬を赤らめながら口ごもる。

(どうしたんだろう?)
(そんなに言い辛いことなのかな···)

そんなこと考えた時···

ハジメ
「実は···俺、結婚することになったんだ」

サトコ
「え?」

予想していなかった言葉に、私は間の抜けた声を出してしまう。

サトコ
「け、結婚!?」

ハジメ
「ああ、お前にはちゃんと俺の口から伝えておきたいと思ってる」

サトコ

「そっか、そうだったんだ···!おめでとう、ハジメ!」

ハジメ
「ありがとう···あー、なんかそういう報告って照れるな」

いらない心配をしていた私は一気に力が抜けて、ホッとするとともに猛烈に恥ずかしくなる。

サトコ
「でも、どうして?」
「結婚の報告なら、別に電話でも良かったんじゃ···」

ハジメ
「サトコは俺にとって初恋の相手だったし、今も昔も大切な存在に変わりはないから」
「···だからこそ、ちゃんと直接報告したかったんだよ」

(ふふ、変わってないな···)

彼は昔から、こういうことに真面目な人だった。
昔の私は、ハジメのこういう真面目なところに惹かれて好きになったんだ。

ハジメ
「サトコは?今、どんな人と付き合ってるんだ?」

サトコ
「えっ、どんな人って···」

<選択してください>

A: 優しい人

サトコ
「優しい人だよ」

ハジメ
「そうなんだ···」
「···お前、いい笑顔で笑うな」

サトコ
「え?」

ハジメ
「その人のことを、本気で好きだった分かる笑顔」

B: かっこいい人

サトコ
「かっこいい人だよ」

ハジメ
「いや、俺が聞きたいのは、そういうことじゃなくて」
「お前を幸せに出来る人かどうかってこと」

サトコ
「そ、そういう意味か···!」
「うん、私は颯馬さんといれて···凄く幸せだよ」

ハジメ
「そっか、それなら良かった」

C: 頼れる人

サトコ
「頼れる人だよ」

ハジメ
「···頼れる人、か。お前にぴったりだな」

サトコ
「え?」

ハジメ
「お前って、昔からひとりで頑張りすぎるところがあるから」
「···そんなお前が、誰かを頼れるなんて‥凄い事だろ?」

ハジメ
「···なんか、安心した」

サトコ
「安心って、どういうこと?」

ハジメ
「サトコをちゃんと好きでいてくれる人と付き合ってるんだなって」
「ほら、幼馴染としては適当な男にサトコをやれないっていうか···」

サトコ
「なにそれ、なんか父親みたいだね」

私が笑うと、ハジメも気恥ずかしそうに笑った。

サトコ
「でも、学生時代よりも今はずっと充実してるって思う」
「大人になった分、夢も曖昧なものじゃなくて明確になってきたからかな」

ハジメ
「そっか···」
「···サトコ、やっぱりいい女になったな」
「夢に向かって頑張るサトコを見ると、俺も頑張ろうって思えるよ」

サトコ
「そ、そうかな?」

ハジメ
「それに、悔しいけどさ、本当に良い顔で笑うよ」
「俺と付き合ってた時は、そんな笑顔なんて見せたことなかったから···」

サトコ
「えっ?」

ハジメ
「···っと、そろそろ行かなきゃ」
「今日は忙しいのに付き合わせちゃってごめんな」

ハジメはコーヒーを飲み干すと、喫茶店から出る支度をする。

サトコ
「ハジメ···」

ハジメ
「ん?」

サトコ
「結婚、おめでとう!幸せになってね!」

ハジメ
「···ありがとう。サトコもな」

ハジメはそう言うと、手を大きく振って喫茶店から出ていった。

(ハジメと付き合っていた時は、そんな笑顔をみせなかった···か)

その言葉を聞いて、私は今すぐ颯馬さんに会いたい気持ちに駆られた。

(元カレに嫉妬なんてしてもらえなくてもいい)
(ただ、颯馬さんが大好きだってことは伝えたい···)

私は考えるより先に、颯馬さんの自宅に向かって走り出していた。

【マンション】

突然、自宅を訪ねるなんて失礼かとも思ったけど、どうしても気持ちを伝えたかった。
逸る気持ちを堪えながら、私はマンションのインターホンに手を伸ばす。
すると···

???
「そんなに焦ってどうしたんですか?」

サトコ
「え!?」

インターホンを鳴らす前に、前から声を掛けられる

サトコ
「···颯馬さん」

颯馬
ちょうど料理をしていたら、窓からサトコさんの姿が見えたんですよ
それより、走ってきたんですか?髪の毛が乱れてます

颯馬さんは苦笑いしながら、私の髪を直してくれる。
頭を撫でられる感覚に心地よさを覚えながら、私はキュッと手を強く握りしめる。

サトコ
「やっぱり···私、颯馬さんが大好きです!」

颯馬
······

サトコ
「ひとりで勝手に拗ねて、あんな行動を取ってしまいましたけど···」
「ごめんなさい。やっぱり、私には颯馬さ···」

私の言葉の途中で、颯馬さんに強く抱きしめられる。

颯馬
フフ···わざわざそんなことを言わなくても、分かっていますよ
今のサトコを誰よりも知っているのは···俺なんだから

サトコ
「···っ、颯馬さん」

耳元で囁かれる言葉に、ドキドキと胸が高鳴る。

颯馬
食事の準備、ちょうど終わったところなんです
サトコさんも一緒に食べませんか?

サトコ
「え?でも、急にお邪魔しちゃいましたし···」

颯馬
大丈夫です。最初から貴女を呼ぶつもりでいましたから
電話をしようと思っていたところに、ちょうど貴女が来てくれたんです

サトコ
「そ、そうだったんですか!?」

颯馬
ええ、さあ料理が冷めないうちに上に上がりましょう

颯馬さんに促され、私は颯馬さんの家に上がらせてもらった。

【颯馬 マンション リビング】

テーブルの上には美味しそうな料理が、たくさん並べられていた。

サトコ
「すごいご馳走ですね」

颯馬
実は作り過ぎてしまって、ひとりでどうやって食べようか悩んでいたんですよ
だからサトコさんが来てくれて、助かりました

そう言い、颯馬さんは優しく微笑む。

颯馬
食事をしながら、今日のことを聞かせてください

サトコ
「え?」

颯馬
久しぶりに会った元カレはどうでしたか?
医者をしているんでしたよね?

席に着きながら、颯馬さんが問いかけてくる。

(どうしよう···)

最初はどう答えるべきか悩んだけど、やましいことは何ひとつない。
だから、私は正直に話すことにした。

サトコ
「結婚の報告を受けただけで···なにもありませんでした」

颯馬
えっ?

サトコ
「え?」

颯馬
サトコさんは何かあると期待していたんですか?

サトコ
「そ、そんなことは···!」

颯馬
なかった、と?

サトコ
「···いえ、何故呼びだされたのか分からなかったので」
「もしそんなことがあったらどうしようって一瞬思っただけで!」

颯馬
元カレに口説かれていたら、どうしましたか?
なにせ、過去に結婚の約束までしていた人なんでしょう?

<選択してください>

A: 私を試しているんですか?

サトコ
「颯馬さん、意地悪です」
「私を試しているんですか···?」

颯馬
すみません。そんなつもりはなかったんですが
たしかに、意地の悪い質問だったかもしれませんね

B: 絶対に断りました

サトコ
「絶対に断りましたよ」

颯馬
そうですか?過去に好きな人だったんでしょう?

サトコ
「はい。でも、今は颯馬さんだけを好きですから」

颯馬
···そう、ですか

C: 颯馬さん以外考えられない

サトコ
「颯馬さん以外考えられないです」

颯馬
······

すると、颯馬さんは少し驚いた表情の後に、少し照れたような笑みを浮かべた。

颯馬
フフ···そう言ってもらえると、私も安心できますね

サトコ
「安心?颯馬さんは不安なんてなかったんじゃ···」

颯馬
私が一言でも『不安じゃない』と言いましたか?
貴女に関することでしたら、私は誰よりも貪欲な男になるんですよ

颯馬
確か、貴女は元カレからプロポーズをされていたんですよね?

サトコ
「プ、プロポーズと言っても···高校時代の時ですし、冗談みたいなもので‥」

颯馬
それでも、彼がプロポーズしたことに変わりはないでしょう?
···次に、貴女にプロポーズする権利は譲れませんからね
俺以外からプロポーズなんて受けないように

サトコ
「···っ」

突然、口調が変わりドキッとする。

サトコ
「あの、それってどういう意味ですか···!?」

颯馬
フフ···

サトコ

「あ、あの···」

颯馬
早く食べないと、料理が冷めちゃいますよ?
はい、どうぞ

颯馬さんの言葉の続きを待っていると、料理を口に運ばれる。
私は口の中のジャガイモを食べながら頷く。

サトコ
「···美味しい!颯馬さん、この肉じゃが、凄く美味しいです!」

颯馬
そうですか、サトコさんに気に入って頂けたなら良かった
おかわりもありますから、たくさん食べてくださいね
あぁ、それともひとつずつ全部私が食べさせてあげましょうか

サトコ
「えっ!そ、それはちょっと恥ずかしいです···」

颯馬
恥ずかしい、ですか···
それなら、やっぱり私が食べさせてあげなくてはいけなくなりました

サトコ
「ええっ!?」

颯馬
元カレには、食べさせてもらったことあるんですか?

サトコ
「いや、それは···」

颯馬
フフ···では私たちは、元カレに嫉妬させるほど、素敵なこれからを作っていきましょうね

サトコ
「はい···!」
「あ···そういえば、ハジメ···元カレが言っていたことがあるんです」

颯馬
···何でしょう?

サトコ
「私が元カレと付き合っている時、今みたいな笑顔はなかったって言われました」
「元カレと付き合っていた時より、私が幸せそうだって···」
「きっと、颯馬さんとのお付き合いが充実してるからなんでしょうね」

颯馬
······

私の言葉を聞き、颯馬さんは黙り込んでしまう。

(あ、あれ?もしかして、言っちゃいけないことだったかな···)

昔よりも、今の方が幸せだという意味を込めて言ったつもりだったけど、
颯馬さんを傷つけてしまう言葉だったのかもしれない。

(考えてみれば、元カレと比べること自体が颯馬さんに対して失礼なんだよね···)
(···もう少し、ちゃんと考えてから言えば良かった)

ひとりで悶々と考え込んでいると、颯馬さんがクスッと笑う声が聞こえた。

サトコ
「颯馬さん?」

颯馬
そんなに青ざめなくても、別に私は怒ってなどいませんよ
···むしろ、逆です。そう言ってもらえて、凄く嬉しいんですよ、私は
まったく、突然何を言い出すかと···

颯馬さんにしては珍しい曖昧な言い方に、私は首を傾げる。
すると、彼は席から立ち上がり、テーブルから身を乗り出すと···

チュッ

サトコ
「···そ、颯馬さん!?」

突然、キスされて、私はうわずった声を出してしまう。

颯馬
サトコさんが悪いんですよ
私がせっかく我慢しているというのに、そうやって煽ってくるんですから

サトコ
「わ、私は別に煽ってなんか···」

颯馬
それならば、無自覚ということになりますね
···ですが、自覚があろうとなかろうと、責任は取ってもらいますよ?」

(せ、責任って···!?)
(一体、どうなっちゃうの、私···)

ひとりで慌てていると、颯馬さんは席について食事を再開する。
もちろん、食事が終わった後に、甘い夜が待っていたのは言うまでもなかった···

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする