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元カレ 加賀 2話

ハジメとのことで、加賀さんを怒らせてしまった週明け、
避けられながらも必死に探し、帰り際、ようやく加賀さんを見つけることができた。

サトコ
「加賀さん!待ってください!」

加賀
···なんだ

サトコ
「あの、先週のことなんですけど」
「せっかく誘っていただいたのに、私、本当にすみませ···」

加賀
どうでもいい

最後まで聞かず、加賀さんが私を拒むように顔を背ける。

サトコ
「待ってください!せめて話だけでも···」

加賀
テメェを見てると、イラつく

サトコ
「え···」

加賀
そんなツラ、見せるんじゃねぇ

(それって···私の顔も見たくないってこと?)

はっきりとした拒絶の言葉に、不意に涙がこぼれた。

加賀

サトコ
「あ···す、すみません!」

顔を伏せて、逃げるようにその場を後にした。

【屋上】

屋上までやってくると、ようやく気持ちが少し落ち着き、涙も収まった。

(加賀さん、目も合わせてくれなかった)
(それくらい、怒らせちゃったんだ···)

さっきの加賀さんの言葉を思い出すと、また勝手に涙があふれてくる。

(今日はもう講義もないし、少しくらいここで時間潰してもいいよね···)
(あ···でもまだ、業務日誌書いてないんだった···)

サトコ
「これ以上、加賀さんに嫌われたら困るし···せめて仕事くらい、ちゃんとやらなきゃ」
「でも、もしかしたらもう、私のことなんて···」

(ハジメとのこと、本当に誤解されてたらどうしよう)
(私には加賀さんだけなのに···きっと、その言葉も言わせてもらえない)

その時、スマホが着信を告げる。画面には、『狭霧一』と表示されていた。

サトコ
「もしもし···ハジメ?」

ハジメ
『サトコか?ごめんな、電話して。この間のことどうしても気になって』
『彼氏とは、仲直りできたか?』

サトコ
「ううん···でも、大丈夫だよ。ちゃんと話してみるから」

ハジメ
『ああ···俺も謝ってたって伝えておいてくれないか?』
『それと···実はさ、やっと海外派遣が決まったんだ』

サトコ
「えっ?じゃあ、海外に行くの?」

ハジメ
『ああ。ずっと志願してたから、やっと実現できそうで嬉しいよ』
『これで俺もサトコみたいに、困ってる人を助けることができそうだ』

サトコ
「うん···2人でよく話したもんね。困ってる人の力になりたい、って」
「おめでとう。でも、無理しないで···」

頑張って、と言いかけた時、後ろからスマホを取られた。
そして、大好きなその腕に抱き寄せられる。

サトコ
「えっ?」

加賀
コイツは俺のもんだ

サトコ
「か、加賀さん!?」

加賀
二度と手を出すんじゃねぇ

ハジメ
『その声は、加賀さ···』

ハジメの言葉を最後まで聞かず、加賀さんは電話を切ってしまった。

サトコ
「加賀さん、どうして···」

加賀
帰るぞ

私の手を取ると、有無を言わさず、加賀さんは屋上を後にした。

【加賀 マンション】

部屋に引きずり込まれると、加賀さんがドアに私の背中を押し付ける。

サトコ
「か、加賀さん···!」

加賀
黙れ

サトコ
「やっ···」

必死にその腕の中から逃げ出そうとしても、きつく押さえつけられてままならない。

(こんなの、ダメだ···!)

いつものように強引にキスされそうになって、咄嗟に顔を背けた。

加賀

サトコ
「やめて···ください···」

加賀
······

サトコ
「加賀さん···私を見てると、イラつくって言ったじゃないですか···」
「なのに、どうしてこんな···」

加賀
······

<選択してください>

A: 何か言ってください

サトコ
「何か言ってください···じゃないと、私···」

加賀
‥アイツのところに行く···か?

サトコ
「違います···そうじゃないけど」
「でも、イラ立たせるだけなのに、そばにいても···意味ないです」

B: 加賀の言葉を待つ

私も何も言わず、黙って加賀さんの言葉を待つ。

(···何も言ってくれない)

サトコ
「加賀さん···」

C: 逃げ出して帰る

サトコ
「私···帰ります」

加賀
······

(なんで、何も言ってくれないの···?)

涙を堪えながらドアを開けようとすると、加賀さんの手がそれを止める。

加賀
······

(何で加賀さんの方が、傷ついた顔してるんだろう···?)
(イラつく、顔を見せるなって言われて、辛かったのは私なのに)

トン、と加賀さんが、私の肩に顔を埋めた。
まるですがるようなその行動に、胸が締め付けられる。

サトコ
「···離してください」

加賀
逃げるな

身を引こうとする私に、珍しく加賀さんが少し大きな声を出した。

サトコ
「どうして···」

加賀
逃げるな···
···頼むから

(そんな声···反則だよ)

サトコ
「加賀さん···私の顔なんて、見たくないって言ったじゃないですか」

加賀
······

サトコ
「私を見てると、イライラするって···」

加賀
ああ、イラつく
···テメェがあいつに、俺の知らねぇ顔を見せるからな

サトコ
「···え?」

加賀
アイツを懐かしんでるツラなんざ、見たくもねぇ
···テメェの飼い主は、誰だ?

いつもの言葉に、止まりかけた涙がこぼれた。
思わず、ギュッと加賀さんにしがみつく。

サトコ
「···加賀さんです」
「他には···いません」

加賀
···当然だ

サトコ
「私、本当に傷ついたんですからね」

加賀
ああ

サトコ
「嫌われちゃったと思って···」

加賀
···ああ

サトコ
「もう、二度と···抱きしめてもらえないかもしれないって」

涙声の私を、加賀さんはいつもより強く抱きしめた。

加賀
···んなわけねぇだろ

サトコ
「嫌ってないですか?」

加賀
テメェが、二度と他の男にじゃれつかねぇならな

サトコ
「そんなことしません···絶対に」

顎を持ち上げられると、優しいキスが落ちてくる。
何度か甘くついばまれて、いつしか身体の力が抜け、うっとりと加賀さんに身を預けた。

(やっぱり、加賀さんが好き···)
(拒絶されて寂しかったし、悲しかったけど···でも、それは嫉妬してくれてたからなんだ‥)

再び加賀さんの背中に腕を回そうとした瞬間、軽々と抱き上げられた。

サトコ
「へ?」

加賀
テメェのせいで疲れた

サトコ
「す、すみません···っていうか、あの」

どこに行くのか尋ねる前に、加賀さんがバスルームへ向かっていることを知る。

サトコ
「な、なんで!?」

加賀
テメェに拒否権はねぇ

サトコ
「ないんですか!?」

(なんで急にお風呂!?)
(っていうか今、すごくいい雰囲気だったよね···!?あれはなんだったの!?)

【バスルーム】

お風呂で、加賀さんに抱きしめられて湯船につかる頃···
私は全身の力が抜けて、加賀さんの胸に背中を預けるようにして座っていた。

加賀
どうした?

サトコ
「だって、···あ、あんな···何度も···」

加賀
足りねぇか?

サトコ
「ち、ちが···」

(入ってすぐ、あんなことになるなんて···)

さっきのことを思い出すと、自然と頬が熱を持ち始める。
私の腰を抱き寄せて、加賀さんが笑う気配がした。

(な、なんか楽しそう···?)

加賀
で?

サトコ
「え?」

加賀
あの野郎と別れた理由は?

サトコ
「······」

思いがけないことを問いかけられて、思わず目を見張る。

加賀
なんだ

サトコ
「いえ···加賀さんでも、そんなこと気にするんですか?」

加賀
···嫌なら話さなくていい

サトコ
「ま、待ってください!話しますから!」

突き放されそうになって、慌てて追いすがる。

加賀
犬が主人に褒められたからって、いい気になるな

サトコ
「褒められてないですけど···」

加賀
···別れたのは、あの野郎の浮気が原因らしいが

カフェテリアで鳴子に吐かされた時、鳴子が『浮気されたんでしょ!』と叫んだことを思い出す。

サトコ
「あれは、ちょっと誤解がありまして···」
「浮気っていうよりも、他に大事な人ができたって言われたんです」

加賀
同じことだ

サトコ
「微妙に違いますよ。ちゃんと話してくれたし、ハジメの片想いだったし」
「私への気持ちは、家族に近いんだってことに気付いたそうです」

加賀
···クズだな

サトコ
「またそうやって···」

加賀
クズは、女を見る目もクズってわけか

その言葉に、ちょっと反論したくなる。

サトコ
「それなら、加賀さんだってクズだってことになるじゃないですか」

加賀
······

(しまった···調子に乗り過ぎた!?)

<選択してください>

A: すぐさま謝る

サトコ
「すみません!加賀さんはクズじゃないです!」
「ちょっと怖くて横暴で傲慢ですけど、決してクズじゃ···」

加賀
ほう···?

(まずい、逆効果だ!)

B: 謝らない

サトコ
「あ、あ、謝りませんよ···だ、だ、だって私」
「そそそ、そういう加賀さんも、好きですから···!」

加賀
ビビりすぎだ

(そりゃ、これだけ睨まれたら···!)

C: フォローする

サトコ
「あの、違うんです!今のはちょっと、口が滑ったっていうか!」

加賀
口が滑った、か

(ああ···!フォローになってない!)

サトコ
「と、とにかくですね···その、本気で言ったわけでは」

お湯が揺らめき、加賀さんの手が私の肌をなぞる。

クッ、と耳元で笑い声が聞こえて振り返ると、加賀さんはどこか楽しそうな笑みを浮かべていた。

加賀
それでいい

サトコ
「え?」

加賀
俺もクズってことだ

サトコ
「そんな···」

否定しようとすると、口を塞ぐように優しいキスが落ちてきた。
身体の向きを変えて加賀さんの足の間で、膝立ちになる。

サトコ
「加賀···さ···」

加賀
名前で呼べ

サトコ
「え···?」

加賀
覚えてねぇのか?

(名前って···加賀さんの···?)

サトコ
「も、もちろん覚えてます···」

加賀
気持ち悪ぃ呼び方するなよ

(それって、前に『兵吾』って呼ぶのが恥ずかしくて)
(口ごもっちゃったことだよね···)

サトコ
「だって···は、恥ずかしいじゃないですか···」

加賀
あの野郎は呼べるのに、か

サトコ
「ハジメは、子どもの頃からそう呼んでましたから···」

(でも···名前で呼んでいいんだ)
(緊張するけど···)

サトコ
「ひょ···」

加賀
······

サトコ
「ひょ、ひょう···」

兵吾、と呼ぼうとすると、加賀さんが深く唇を合わせる。
舌が絡み合い、バスルームにお互いを求める音が響き渡る···

サトコ
「···呼べません」

加賀
呼べ

サトコ
「無茶な···」
「ひょう、ご、さ···」

小さく呼ぼうとしても、キスを繰り返されてままならない。

加賀
兵吾、だ

サトコ
「ん···」

(···呼ばせてくれない)
(これ、絶対楽しんでる···)

加賀
駄犬は、主人の名前も呼べねぇか

サトコ
「呼べますよ···いつか」

笑い合い、また肌を重ねる···
私たちの吐息は、立ち込める湯気と共に消えていった‥

【ベッドルーム】

お風呂から上がると、大事なことを思い出した。

サトコ
「そうだった···!ハジメ、海外に行くことになったんです!」

加賀
海外?

サトコ
「昔から、海外で医療が充実していない地域の人を救うのが夢だったんです」
「いつ出発かな···見送りにはいけないけど」

スマホを手に取りメールをしようとしたけど、ハッと加賀さんを振り返った。

サトコ
「あ、あの···」

加賀
······
···好きにしろ

サトコ
「えっ?」

加賀
連絡取りたきゃ取れ

サトコ
「お、お怒りですか?」

加賀
そう見えるか?

(見えない···笑ってる!?)
(じゃあ、さっきまでの不機嫌さはなんだったの!?)

加賀
必要最低限でとどめろ

サトコ
「はい?」

加賀
連絡だ

サトコ
「あ···は、はい」

(やっぱり、連絡を取るのは面白くないんだな···)
(でも、何があっても私には加賀さんだけだし)

海外派遣を改めてお祝いするメールを送ると、すぐに返信が来た。

(『彼氏と仲直りしたんだな!お幸せに!』)
(人の幸せを喜んであげられるって、ハジメらしいな)

約束通り必要最低限の返事をすると、スマホを置いて加賀さんの隣へと戻る。

サトコ
「『加賀さんとお幸せに!』ってメールだったので」
「『もう充分幸せだよ』って返しておきました!」

加賀
······
···クズが

(あ···笑ってくれた)

言葉とは裏腹に、頭の上に置かれた加賀さんの大きな手は、この上なく優しかった。

Happy  End

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