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元カレ 東雲 1話

東雲
ふーん、なるほどね

(きょ、教官···!?)

東雲
フルネームは狭霧一
年齢はキミの1コ上
出身地はキミと同じ···
ああ、出身高校もキミと一緒か
で、現在は都内の某大学病院勤務
住所は···

(な、な···)

サトコ
「なんでそんなところまで知って···」

東雲
え、余裕じゃない?

教官は、タブレット端末の画面を見せてくれる。

サトコ
「これ、トイッター···」

東雲
そう。で、これがさ
鳴子ちゃんのアカウント

サトコ
「えっ···」

東雲
で、ここ
彼女のアカウントに追加された最新のフォロワー

サトコ
「『ichi@研修中』···」

(ま、まさか···!)

東雲
これを、ひとまずキミの元カレと推定して···
さらに彼の書き込みから···
このリンク先に飛んで···次はここを辿って···
辿って···辿って···辿って···
···はい、勤務先と本名が判明

サトコ
「!」

東雲
で、ここからさらに検索をかけて···
はい、彼のSNSのページに到着
出身地と出身校が判明

サトコ
「!!」

(怖っ···)
(SNS、怖すぎなんですけど···!)

東雲
···なに後ずさってんの

サトコ
「い、いえ、その···」

<選択してください>

A: 本気で調べなくても···

サトコ
「そんな本気で調べなくても···」

東雲
は?
これのどこが本気?

サトコ
「えっ···」

東雲
序の口だから、こんなの
その気になれば交友関係も趣味嗜好も···
キミの元カレが好きなAV女優だって

サトコ
「わーわーわー!」
「いいです、そんなの!聞きたくないです!」

(怖い!本気になった公安刑事が一番怖いっ!)

東雲
···あっそう。だったらいいけど

B: ストーカーになれますね

サトコ
「教官は、ストーカーになれますね」

東雲
そうかな
素質ならキミの方が上じゃない?

サトコ
「えっ···」

東雲
オレのこと、たまに物陰からジーッと見てるし
スッポン並みにしつこいし
たまに教官室のゴミ箱を漁ってるし···

(なっ···)

サトコ
「違います!いえ、一部違わないですけど···」
「そういうのは、どれも必要に迫られてであって···」

東雲
ハイハイ
そういうことにしておくよ

サトコ
「教官···っ!」

C: さすが教官!

サトコ
「さ、さすが教官!」
「すごいです!見事です!感動です!」

東雲
なに言ってんの
このやり方、先週の講義で教えたよね

(···あ)

東雲
まさか、キミ···
もう忘れたとか···

サトコ
「覚えてます!氷川サトコ、間違いなくすべて覚えてます」

東雲
···どうだか

東雲
それにしてもさー
なかなかスペック高いよね。キミの元カレ
顔良し、頭良し、将来有望···
欠点は『女性の好み』だけ

サトコ
「···っ」

(なんか遠回しに貶されたような···)
(···ん?)

サトコ
「すみません、教官」
「そのSNSのページ、見せてもらってもいいですか?」

東雲
いいよ。ほら

教官からタブレット端末を受け取ると、画面を下にスクロールする。

(あった!やっぱり···)
(昔から全然変わってない···)

東雲
···なに見てんの

サトコ
「ここです。基本情報にある『将来の夢』···」

東雲
『へき地医療に携わり、無医地区を少しでも減らしたい』···

サトコ
「高校時代から、彼がよく言っていたことなんです」
「『将来はお医者さんのいない地域の医療に携わりたい』···」
「『1人でも多くの人の役に立ちたい』···」
「そういうところ、昔からすごいなぁって思ってて···」
「それで私、彼のことを···」

東雲
ふわぁ···

(ええっ、あくび!?)

サトコ
「ひどいです!人が話してる途中で···」

東雲
でも興味ないし
キミの『ハジメテ』なんて

(うっ···)

サトコ
「で、でも、自分からいろいろ調べてくれたじゃないですか」
「それって、少しは気になってるからで···」

東雲
そりゃ、素性くらいはね
担当教官として資料に追記しないといけないし

サトコ
「···資料?」

東雲
ああ、こっちの話
じゃ、用は済んだから

サトコ
「えっ、教官···」

(···行っちゃった)
(しかも、最後はふつうに笑顔だったんですけど···)

【カフェテラス】

翌日。

サトコ
「はぁぁ···」

(なんか···釈然としないな···)

べつに、教官に嫉妬してほしかったわけじゃない。
でも···

(本当に何も気にならないのかな)
(私が逆の立場だったら、たぶんものすごく気になるのに)
(もし、教官のハジメテの女性が現れたら、絶対寝不足にでもなって···)

鳴子
「おつかれー」

サトコ
「ああっ、鳴子!」
「もう!ハジメにバラしたでしょ。私の個人情報」

鳴子
「ハハッ。ごめんごめん」
「でも、2人ともいい雰囲気だったしさ」
「この際だから、元サヤ狙っちゃうのはどう?」

サトコ
「そういうの、求めてないから」

鳴子
「なんでよ。サトコ、いまフリーでしょ」

(うっ···)

鳴子
「誰か相手がいるならともかく、フリーならべつに問題は···」

サトコ
「わ、私のことはもういいから!」
「それより、その···質問があるんだけど···」

鳴子
「質問?なに?」

サトコ
「ええと、これは···」
「私の友達の友達のイトコの、そのまた友達の話なんだけど!」
「彼女が、最近元カレと再会したらしいんだ」

鳴子
「ああ、昨日のサトコみたいに?」

サトコ
「そう、そうなの!昨日の私みたいに」
「でも、そのことが、今の彼にバレたらしいんだ」

鳴子
「あーそりゃマズいね」

サトコ
「···やっぱり?」

鳴子
「当たり前じゃん!」
「ま、相手のレベルにもよるけど」

サトコ
「レベルって···職業とかお金持ちとか?」

鳴子
「もちろん、そういうのもあるけどさ。それ以上に···」
「関係性の深さとか?」

サトコ
「??」

鳴子
「だからさ···」
「ぶっちゃけ、何年付き合って何回したかとか···」

(しっ···!)
(いやいや、落ち着け···落ち着こう···)

サトコ
「え、ええと···その点は大丈夫だと思う」
「当時高校生だったし、そんなに多くは···」

(···って、待って)
(ハジメはともかく、教官とはキスしかしてない)
(今カレとの回数『0回』なんですけど···!)

サトコ
「え、ええと···元カレのほうが回数多いのはマズイのかな」

鳴子
「そりゃマズイでしょ」
「自分の知らない彼女を、相手の方がよく知ってるわけだから」

サトコ
「そ、そっか···」

鳴子
「さらに言っちゃうとさ」
「その元カレが『ハジメテの相手』だったりしたらサイアクだよね」

(え···)

鳴子
「ほら、よく言うじゃん」
「男って、自分の女の『最初の男』になりたがるって」
「その『最初』を、そいつに奪われたってことでしょ?」

サトコ
「ってことは···」

鳴子
「修羅場だよね、修羅場!」
「あとで、絶対大揉めするって!」

サトコ
「そ、そうだよね···やっぱりそう思うよね」

(そう考えると、普通は···)

東雲
へぇ···キミの『ハジメテ』を奪ったの、その男なんだ?

サトコ
「は、はい···でも、その···」

東雲
まさか忘れてないなんて言わないよね?

サトコ
「えっ···」

ドンッ!

東雲
忘れさせてあげるよ。今すぐ
オレのキスで···

サトコ
「教か···」
「ん···んん···っ」

(···これ!これくらいは覚悟していたのに!)
(教官、反応が薄すぎるっていうか···)
(名前と職業だけ知って『ハイ、終了』って感じだった気が···)

プルル···
(電話···)
(えっ、またハジメから!?)

鳴子
「さて···と。私は退散するとしますか」

サトコ
「ちょ···鳴子!違うってば!」

鳴子
「じゃあ、あとは頑張って」

サトコ
「···もう」

(ハジメってば、タイミングが悪すぎ···)
(ううん、これはこれでいい機会なのかも)

サトコ
「よし。今度こそ、ちゃんと言おう」

(ちょうど周りに誰もいないし、今度こそきっぱりと···)

サトコ
「もしもし」

ハジメ
『サトコ?俺だけど···』
『なぁ、しつこいようだけどさ。食事の件、どうしてもダメか?』

サトコ
「ごめん。さっきも言ったけど、今、学校とか仕事で忙しいし」
「それに私···」

ハジメ
『実は俺、こっちにいられるの、3月までなんだ』

(え···)

ハジメ
『大学病院での臨床研修も今年度でいっぱいだしさ』
『その後は、地方勤務を希望してるから···』

サトコ
「じゃあ、研修が終わったらすぐにへき地に?」

ハジメ
『それは、さすがにもう少し後だけど』
『まずは東京を離れようと思って』

サトコ
「······」

ハジメ
『で、配属先の関係で、来週からはまた忙しくなりそうだし』
『サトコと食事に行けるとしたら、たぶん今しかないんだ』
『だから···な?』
『忙しいのは分かるけど、せっかくだし時間作れないか?』

(ハジメ···)

確かに、ハジメといろいろ話したい気持ちはある。
恋愛感情がなくなっても、彼が大事な幼馴染であることに変わりはないのだ。

(でも、やっぱり2人きりで会うのは···)

サトコ
「···ごめん」
「一緒に食事に行きたいのはやまやまなんだけど···」
「私、今付き合ってる人がいるんだ」

ハジメ
『えっ、そうなのか?』

サトコ
「うん。だから、ハジメと2人きりで会うのはちょっと···」

ところが、意外にも朗らかな声が返ってきた。

ハジメ
『だったら彼氏も連れて来いよ』

サトコ
「えっ···」

ハジメ
『彼氏同伴なら問題ないだろ』
『俺としては、べつに2人きりじゃなくてもいいし』
『久しぶりにお前と楽しく話したいだけだしさ』

サトコ
「で、でも···」

ハジメ
『あ、やべ‥呼び出しだ』
『悪い!じゃあ、検討しといてくれよな』

サトコ
「ちょ···」
「待ってよ、ハジメ!もしもし?もしもし···」

(···切れちゃった)
(それにしても、教官とハジメと3人で食事って···)
(そりゃ、確かに2人きりよりはマシな気もするけど···)

【個別教官室】

東雲
え、無理
興味ない

(···そうだよね。そう言うよね、東雲教官なら)

サトコ
「分かりました。食事会の件は断ります」

(ハジメといろいろ話するのは、次の機会でいいや)
(地元仲間との飲み会で、会うことがあるかもしれないし···)

すると、東雲教官は、不思議そうに首を傾げた。

東雲
なんで断るの?

サトコ
「え···」

東雲
もともと誘われたの、キミだけだよね
だったら行けば?
キミだけでも

(ええっ‥)

サトコ
「で、でも2人ですよ!?」
「ハジメと私、2人きりで食事をするんですよ!?」

東雲
それが何?

サトコ
「なにって···」
「教官は気にならないんですか?私がハジメと食事をするの···」

東雲
べつに
ただの元カレでしょ
名前も勤務先も知ってるし
その気になれば住所も実家も分かるし

サトコ
「そういう意味じゃなくて···」

東雲
ああ、でも1点あるかな
元カレの気になってる点

サトコ
「···なんですか」

東雲
性癖

(せ···っ)

東雲
相手に移るって言うじゃない。ああいうの
で、卒業後にさ、キミのへんな性癖が発覚した場合···
キミ独自のものか、元カレ発祥のものか···
ま、興味はあるよね

頬杖をついて意味ありげに笑う教官に、私は···
<選択してください>

A: へんなこと言わないで

サトコ
「へ、へんなこと言わないでください!」
「私はいたって普通ですから!···たぶん」

東雲
たぶん?

サトコ
「だ、だって、そんな経験豊富なわけじゃないですし」
「だから比較対象があまりないっていうか···」

東雲
···ふーん
ま、信じてもいいか
その『経験豊富じゃない』ってとこ

(そこだけ!?性癖については?)

B: キスは教官仕込みですよ

サトコ
「でも、キスは教官仕込みですよ」

東雲
!?

サトコ
「性癖については何とも言えないですけど···」
「キスについてはけっこう自信あります!」
「私、絶対、教官の影響を受けて···」

東雲
受けてない!
キミ、下手くそだし!

サトコ
「ええっ、受けてますよ!教官の手順、覚えてますから」
「前にも言いましたけど、まず最初は軽くチュッ···で、そのあと‥」

東雲
だから解説しなくていいから!

C: たぶん、教官ほどでは···

サトコ
「たぶん、教官ほどでは···」

東雲
···は?

サトコ
「前に話題になったんですよね」
「東雲教官って、マニアックな性癖を持ってそうって」

東雲
···へぇ、どんな?

サトコ
「たとえば、『相手に必ずメガネをかけさせそう』とか···」
「『靴下だけ履かせたまま』とか···」

東雲
······へぇ
誰が言い出したの、それ

サトコ
「えっと···確か黒澤さ···」
「!?」

(し、しまった···つい余計なことを···)

サトコ
「あ、あのですね···今のはもちろん冗談で···」

東雲
気にしないで
詳細は透の身体に聞くから

(か、身体!?それって、いったいなにを···)

東雲
とにかくさ
2人で行ってくれば
別に反対しないし

(そう言われても···)

サトコ
「···いいんですか、本当に」

東雲
しつこい
むしろ何で行かないの?
まだ元カレに気でも···

サトコ
「ありません!」
「これっぽっちもないです!」

東雲
······

サトコ
「本当に私、今は教官のことだけが···」

東雲
知ってる
だから行っておいで
へんに疑ったりしないから

(教官···)

サトコ
「···わかりました」
「それじゃ、失礼します」

教官の後ろ姿に頭を下げて、私はドアノブに手を掛けた。

(いちおう信頼してくれてるんだよね)
(だから「いい」って言ってくれたんだよね)
(···よし、今日中にハジメに連絡しよう)
(それで食事会の日付が決まったら、いちおう教官にも報告して···)

東雲
······

そんなわけで週末。
私は、ハジメと食事に行くことになった。

to be continued

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