カテゴリー

熱帯夜 プロローグ

【教官室】

それは、とある昼下がりの教官室。

石神

‥‥‥

加賀

‥‥‥

後藤

‥‥‥

(こ、この緊迫したムード‥)

颯馬

‥‥‥

東雲

‥‥‥

(背中に感じるプレッシャー、突き刺さる視線‥)

黒澤

サトコさん、早く早く!

難波

おう、さっさとやっちまえ

サトコ

「おふたりだけ、全然緊張感ないですね‥」

難波

もったいぶっても結果は一緒だ。覚悟はいいか?

加賀

おいクズ、わかってんだろうな

東雲

場合によっては、お仕置きどころじゃ済まないかもよ?

颯馬

サトコさん‥期待してますよ

後藤

アンタに託した

石神

よし‥いけ

サトコ

「‥はい!」

「氷川サトコ‥いきます!」

大きく深呼吸して、目の前の箱に手を突っ込む。

箱の中に入っているふたつのボールのうち、片方を掴んだ。

サトコ

「‥これに賭ける!」

私が取り出した、ボールの色は‥

【中庭】

話は、数週間にさかのぼる。

鳴子

「うーん、たまには外で食べるお昼も美味しいね」

千葉

「陽射しが強い日はつらいけど、このくらいなら気持ちいいな」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-001

サトコ

「ピクニック気分が味わえて良いよね」

「‥たとえこのあと、加賀教官の地獄の講義が待っていようとも」

鳴子

「サトコ、現実を見ちゃダメ!つらくなるだけだよ!」

千葉

「佐々木は現実逃避するのがうまいよな」

鳴子

「まあね♪現実逃避といえば、もうすぐ夏休みだね~」

(鳴子、現実逃避してるのは否定しないんだ‥)

千葉

「今年の夏休みは1週間だっけ」

鳴子

「まさかそんなにもらえるなんて思ってなかったから、ほんとに嬉しい!」

サトコ

「うん。3日あればラッキー、ってみんな言ってたもんね」

千葉

「ふたりはもう予定は決まった?」

サトコ

「ううん、まだ何も」

鳴子

「私も~」

「でも目標は、イケメンと一緒に夏を満喫すること!」

「ひと夏の恋っていうし、せっかくの夏なんだから楽しみたいな」

サトコ

「ひ、ひと夏の恋でいいの?」

鳴子

「もしかしたら、そこから素敵な恋愛に発展するかもしれないじゃん!」

黒澤

わかります!それにやっぱり、夏はちょっと刺激的じゃないと☆

青い空、青い海、そして素敵なビキニ‥!美女とひと夏のアバンチュール‥

サトコ

「も~、黒澤さんまで‥」

「‥って、え!?黒澤さん!?」

千葉

「いつのまに‥」

「そういえば、黒澤さんも夏休みはあるんですか?」

黒澤

いや~、それがちょっと忙しくて‥

はあ‥オレも夏を楽しみたかったな

現実を思い出したのか、黒澤さんが肩を落として去っていく。

サトコ

「‥教官たちって、夏休みもらえるのかな」

鳴子

「どうだろうね?でも1日くらいはあると思うけど‥」

千葉

「公安学校が休みの間は、普通に刑事として仕事するんじゃない?」

(そっか‥教官と刑事、二足のわらじだもんね)

(夏休み中、ほんの少しでもいいから、あの人と一緒に過ごせたらいいな)

【廊下】

お昼ご飯を食べた後、教場に向かう途中で見慣れないポスターを発見した。

サトコ

「あれ、なんだろう」

鳴子

「わー、勇ましいポスターだね」

「ん?『教官と行く、夏のアバンチュール』‥?」

千葉

「へぇ、1週間の夏休み、希望者だけで研修を行うんだって」

サトコ

「研修‥」

(ってことはもしかして、カレもこれに参加するの!?)

(いやでも、教官たちだってきっと自由参加‥)

鳴子

「わー!教官は全員参加だって!」

サトコ

「‥‥‥!」

千葉

「ってことはやっぱり、教官たちには夏休みなんてないんだな」

鳴子

「さっき黒澤さんが言ってた『ちょっと忙しくて』って、これのことだったのかもね」

(カレが参加するなら、私だって行かないわけにいかない‥)

夏の恋は、研修へと消えていったのでした‥

【教官室】

(はあ‥1週間も夏休みがあるって聞いた時は、あんなに喜んだのに)

(たった1時間で、どん底に突き落とされようとは‥)

サトコ

「失礼します。みんなのノートを集めて持って来ました」

難波

おお、氷川、お疲れさん。ちょうどいいところに来たな

サトコ

「なんか、嫌な予感しかしないんですが」

難波

まあまあ、ちょっとこれを見ろ

難波室長が、大量のパンフレットを私に手渡す。

サトコ

「北海道、沖縄、京都、四国‥」

「これ、旅行のパンフレットですか?」

難波

その中から、夏休み研修の候補地を選んでおいてくれ

お前の好きなところでいいから。ついでに予約も頼むな

サトコ

「あの、私まだ参加するとは‥」

難波

頼んだぞー

(室長‥人の話、全然聞いてない)

(っていうかこれ、研修旅行の幹事をやれってことだよね)

東雲

研修ねぇ‥せっかくの夏休みに研修に行きたいなんて奇特な人、いるんですか?

颯馬

みんな、夏休みをかなり楽しみにしていたみたいですからね

黒澤

夏休みまで教官たちと研修だなんて、相当なマゾですよね~

(その奇特なマゾがここにいるんですけど‥)

(いや!幹事として研修に行けば、カレと一緒にいられるんだし!)

なんとかやる気を振り絞る私の横から、颯馬教官がパンフレットを覗き込む。

颯馬

やっぱり、せっかく行くんですから素敵な場所がいいですね

サトコ

「素敵な場所‥」

石神

温泉だったら、疲れを癒せて研修の効率も上がるんじゃないか

サトコ

「温泉‥」

加賀

奇遇だな。クソメガネに同感だ

黒澤

へー、おふたりが同じ意見なんて珍しいですね

加賀

研修とはいえ、夜は自由時間だ

うるさく騒ぐより、静かに楽しめるところの方がいい

石神

そうだな。ホテルよりも旅館の方が気持ちも落ち着く

(こ、こんなに笑顔で話してる石神教官と加賀教官、見たことない!)

(よっぽど温泉旅館に行きたいんだな‥それじゃ行き先は、温泉街の‥)

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-004

颯馬

温泉いいですが‥

訓練生たちには、プールや海が楽しめるリゾート地の方がいいのでは?

加賀

くだらねぇ

そんなチャラチャラしたところに行って、なんの研修するつもりだ

石神

ああ、あくまで研修が目的だからな。遊びは二の次だ

東雲

でも、自由時間に遊べる方が士気も高まると思いますけど

温泉で疲れを癒さなきゃならないほど、身体は疲れないでしょうし。若いから

加賀

何‥?

石神

若い‥だと‥?

颯馬

ええ、若い人は研修の後も遊ぶと思いますよ。体力がありますから

バチバチと、2組の間に火花が散る。

(えーと‥これ、研修旅行の話してるんだよね?)

後藤

氷川は?どっちがいいと思う?

サトコ

「え!?」

石神

氷川なら温泉のよさを知っているはずだ

加賀

知らねぇなんざ言わせねぇ

サトコ

「ひいぃ‥‥!」

颯馬

サトコさんは若いですから、研修後に遊べる方がいいでしょう?

東雲

だよね。若さ『だけ』は、この中で一番だもんね?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-005

サトコ

「あう‥あう‥」

(ど、どっちを選択しても命の保証はない‥!)

(ていうかなんで、こういう行事の度に命の危険を感じなきゃいけないの!?)

サトコ

「わ、私は‥無事に帰って来れるところだったらどこでも」

黒澤

分かりました!こうしましょう!

東雲

透、うるさい

颯馬

黒澤は黙ってなさい

黒澤

ああ、久しぶりに周介さんに怒られた!

ゾクゾクするぅ!

東雲

‥‥キモ

黒澤

安心してください、歩さんのそのゴミを見るような目も大好物ですから☆

東雲

うわ‥引くんだけど‥

難波

それで?候補地を選ぶいい方法でもあるのか?

黒澤

ええ!サトコさんにクジで決めてもらいましょう!

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-006

サトコ

「あ、クジなら恨みっこなしでいいですね」

後藤

今から用意するのか?

黒澤

ご安心を!ここにこんなものがありました

どこから持ってきたのか、黒澤さんが箱を取り出す。

黒澤

この中にボールがふたつ入ってます

赤のボールが出たら温泉、青のボールが出たらリゾートですよ!

(赤なら温泉、青ならリゾート‥)

(これに、私の命がかかっている‥!)

難波

‥覚悟はいいか?

加賀

おいクズ、分かってんだろうな

東雲

場合によっては、お仕置きどころじゃ済まないかもよ?

颯馬

サトコさん‥期待していますよ

後藤

アンタに託した

石神

よし‥いけ

サトコ

「はい!氷川サトコ‥いきます!」

(よし‥一投入魂!)

サトコ

「これだ!」

箱から取り出した、ボールの色は‥

<選択してください>

A: 赤

B: 青

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする