カテゴリー

研修 加賀 1話

電話は、加賀さんからだった。

サトコ

「もしもし、加賀さんですか!?」

加賀

うるせぇ

サトコ

「すみません‥」

加賀

寮に戻ったか?

サトコ

「はい。そういえば加賀さん、今日は宿直でしたよね?」

加賀

ああ。知ってんなら、今すぐ来い

サトコ

「えっ?これからですか?」

(今日は、研修旅行で泊まる旅館を調べようと思ってたのに)

加賀

‥来れねぇならいい

サトコ

「い、行きます!」

慌てて返事をして電話を切ると、身支度を整えて部屋を出た。

(加賀さんからのお誘いを断る選択肢なんて、私の中にはない‥!)

(ついでに、どんな旅館がいいか加賀さんに聞いてみようかな?)

【寮監室】

部屋にお邪魔すると、加賀さんはシャワーを浴びた後のようだった。

加賀

遅ぇ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-007

サトコ

「すみません、ダッシュで来たんですけど‥」

(うう、濡れた髪に色気が漂う‥)

サトコ

「でもこれ以上早く来てたら、加賀さん、シャワー中でしたよね?」

加賀

テメェをバスルームに引きずり込む計画が台無しだ

(お、遅れて来てよかった‥!)

(‥いや、よかったのかな?ちょっと残念‥?)

サトコ

「って、いやいやいや!」

加賀

うるせぇ

サトコ

「すみません‥」

「ところで、なんで呼び出されたんでしょう?」

加賀

理由がいるか?

サトコ

「え?」

加賀

理由がなくても、飼い主が呼んだら飛んで来い

サトコ

「えーと‥」

<選択してください>

A: 私に会いたかったの?

サトコ

「それはつまり、加賀さんが私に会いたかっただけ‥」

加賀

‥‥‥

サトコ

「じょ、冗談です!調子に乗ってすみません!」

加賀

わかりゃいい

(ふぅ‥命拾いした‥)

(でも、会いたいと思ってくれたんだよね‥嬉しいな)

B: 私も呼び出していいの?

サトコ

「私も、会いたくなったら加賀さんを呼び出してもいいですか?」

加賀

それだけの覚悟があんならな

サトコ

「か、覚悟‥!?」

加賀

この俺を呼び出した見返りは、きっちりもらう

サトコ

「や、やっぱりやめます!加賀さんから呼び出されるのを待ちます!」

C: 犬扱いは止めてください

サトコ

「何度も言ってますけど、そろそろ犬扱いは止めて‥」

加賀

奴隷とグズ、どっちがいい

サトコ

「へ?」

加賀

犬が嫌だってんなら、下僕とグズとカス、どれがいいか選ばせてやる

(なんか、一番酷い『カス』っていうのが増えてる‥)

サトコ

「犬のままでいいです‥」

サトコ

「そうだ!加賀さん、研修で泊まる旅館はどんなところがいいですか?」

加賀

どこでもいい

サトコ

「でも、料理が美味しいところとか、温泉の種類がいっぱいあるところとか」

加賀

テメェで決めろ

(あれ?行き先を決める時は、あんなに温泉に行きたがってたのに)

サトコ

「じゃあ、やっぱり料理が美味しいところがいいですよね」

「あ、でも石神教官は温泉推しだから、温泉も重視しないと‥」

加賀

あのカスタードなんざ、ほっとけ

サトコ

「でも、温泉で一致団結してたじゃないですか‥」

「あ‥そういえば、研修ってなにするんですか?詳しい説明がなかったんですけど」

加賀

‥まあ、接待みたいなもんだ

サトコ

「接待‥?」

(接待の研修ってこと‥?いや、そんなわけないか)

それ以上、加賀さんは詳しいことを教えてくれなかった。

【旅館】

結局、研修は伊豆の温泉地で行われることになった。

石神

注目!では今回の研修内容を発表する

お前たちには、交番勤務の研修にあたってもらう

サトコ

「交番勤務?」

男子訓練生A

「俺、交番は経験ないんだよな」

男子訓練生B

「っていうか、訓練生の中で交番勤務経験のある奴なんているのか?」

(私、前は交番勤務だったんだけど‥)

(っていうか、なぜ今さら交番‥?)

見ると、難波室長が地元の刑事らしき人と親しげに話している。

サトコ

「もしかして、友達から頼まれて‥とか?」

加賀

んなわけねぇだろ

サトコ

「わっ、加賀さ‥加賀教官!」

加賀

県警とコネクションを作るためだ

何に役立つかわかんねぇからな

サトコ

「コネクション‥」

(なるほど‥私たちだって、いつか県警と連携を取る時がくるかもしれないんだ)

(確かに、人脈を広げておくのは悪い事じゃないよね)

【交番】

地元にいくつかある交番に、全員が点々と配属された。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-008

サトコ

「交番、久しぶりだなー。やっぱり地域密着型の仕事って素晴らしいよね」

???

「すみませーん、道に迷ったんですけどー」

サトコ

「はいはい‥」

「‥って、東雲教官!?」

東雲

キミたちのために、地元住民に扮してあげてるんだよ

それより、道に迷ったんですけど?

サトコ

「は、はい。どこに行きたいんですか?」

東雲

この近くにお墓があるはずなんですけど、行き方、調べてもらえます?

(なぜお墓に‥)

サトコ

「えっと、それでしたら」

急いで地図を持ってきて、東雲教官に丁寧に説明する。

サトコ

「‥で、あとは道なりに行けばつきますよ」

東雲

はい、15点

サトコ

「え?」

東雲

ちなみに、100点満点の15点だから

サトコ

「な、なぜ‥」

東雲

説明が長すぎ。相手がお年寄りなら覚えられないでしょ

サトコ

「うっ‥」

(確かに‥じゃあこういう時は、紙に書いてあげた方がいいのかな)

加賀

おい、クズ

サトコ

「わっ、加賀教官も迷子ですか?」

加賀

迷子はテメェの十八番だろ

サトコ

「そうそう迷子にはなってないですよ‥」

加賀

このファイルを全部、古い順にまとめとけ

持っていた紙袋を私の前に置くと、加賀さんは交番の中に入って行った。

サトコ

「え!これ全部!?」

加賀

外の車両の洗車もだ

サトコ

「は、はい!」

東雲

さて、次は誰をいびりに行こうかな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-009

(い、いびるって言った‥東雲教官、ものすごく楽しそう‥)

加賀さんに渡されたファイルを見ると、明らかにこの交番とは関係のない公安のものだった。

サトコ

「あの‥加賀さん。今日は研修ですよね?」

加賀

テメェに交番勤務の研修なんざ必要ねぇ

こんなことに時間費やすくらいなら、こっちの仕事手伝え

サトコ

「はい‥」

(やっぱり、普通の研修で終わるはずがなかった‥)

それから夜まで、休む暇もないくらいに働かされ‥

【旅館】

(や、やっと研修時間が終わった‥)

(あとはさっき整理した資料を、加賀さんに持っていくだけ‥)

ファイルが入った重い紙袋を両手に抱えて、旅館までの道を歩く。

すると、ふいにその重みが消えた。

サトコ

「えっ?」

石神

終わったのか?

サトコ

「石神教官!お疲れさまです」

石神

このファイルは‥加賀だな

サトコ

「は、はい‥研修の合間に、資料整理を」

石神

まったく‥持ち出し厳禁のファイルを持ってくるとは、何を考えているんだ

これは、俺から加賀に渡しておく

サトコ

「あ‥でも重いですから、私が持っていきます」

石神

だからなおさらだ。旅館まで、結構な距離があるだろう

(もしかして‥石神教官、そのために加賀さんに渡してくれるって言ってくれたのかな)

サトコ

「ありがとうございます。すみません」

石神

まあ、お前にはまだ仕事が残ってるからな‥

サトコ

「え?」

石神

いや、早く旅館に戻れ

サトコ

「はい」

(激務のあとだったから、石神教官の優しさが身に沁みる‥)

(ずっと立ちっぱなしで足もパンパンだし、今日は早く寝よう)

【宴会場】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-010

(せっかくの自由時間だけど、今日は温泉に入って早く寝る‥)

(‥はずだったのに)

難波

氷川、こっちにビール追加だ

サトコ

「はい!いま持っていきます!」

加賀

おい、つまみが足りねぇ

サトコ

「わかりました!」

旅館に戻るとすぐ加賀さんから連絡があり‥

来てみると、そこには県警の偉い人たちがずらりと揃っていた。

県警部長

「いやあ、今日はお疲れさま」

難波

ありがとうございます。訓練生たちにいい勉強をさせられました

県警部長

「さすが、見込みのある子ばかりでしたね」

加賀

すぐ音を上げるクズ共ばかりですよ

県警部長

「ははっ、加賀さんは相変わらず厳しいですねー」

(石神教官がさっき言ってたの、これのことだったんだ)

(それに加賀さんも『接待みたいなもん』って)

加賀

おいクズ、まだか

サトコ

「はい!いま行きます!」

(っていうか、なぜ私が店員のようなことを!?)

加賀さんに容赦なくコキ使われ、足だけでなく腰まで痛くなってきたころ‥

(はあ‥ようやく一息つける‥)

(加賀さん、人使いが荒すぎると‥絶対、私が彼女だってこと忘れてる‥)

石神

ほら

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-011

目の前に、料理が盛られた皿を差し出された。

石神

来てから何も食べてないだろ。腹に入れておけ

サトコ

「石神教官‥ありがとうございます」

加賀

‥‥‥‥

(今日は石神教官に気を遣ってもらってばかりだな)

(はあ‥加賀さんも、たまには優しくしてくれたら嬉しいのに)

【部屋】

翌日は研修が休みで、丸1日自由行動だった。

(近所の神社でお祭りやってるから、みんなで行こうって颯馬教官が誘ってくれたんだよね)

(旅館に、浴衣をレンタルしてくれるお店があってよかった)

サトコ

「デザインが好みでこの浴衣にしたけど、大丈夫かな」

「自分じゃ、似合うかどうかよくわからないけど‥とりあえず着替えてみよう」

服を脱いで浴衣に着替えてる最中、ノックもせずに部屋のドアが開いた。

サトコ

「え!?だ、誰ですか!?着替え中です!」

加賀

それがどうした

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-012

サトコ

「か、加賀さん!?」

(浴衣姿‥!に、似合う!かっこいい!)

加賀

その浴衣にしたのか

サトコ

「は、はい‥っていうか、まだ帯を締めてないので、あの‥」

加賀

‥‥‥

加賀さんの手が、浴衣の合わせに伸びてくる。

(ぬ、脱がされる‥!?)

思わずギュッと目を閉じて肩を竦めたけど、いつまでたっても何も起こらない。

加賀

バカか

サトコ

「‥え?」

目を開けると、加賀さんが別の浴衣を差し出していた。

加賀

似合ってねぇ。こっちに着替えろ

サトコ

「え‥加賀さんが選んでくれたんですか?」

加賀

ああ

それより‥今、何を期待した?

サトコ

「!」

加賀

そんなに脱がしてほしいのか?

<選択してください>

A: 自分で脱げます

サトコ

「大丈夫です!自分で脱げますから!」

加賀

ほう

(あれ!?なんか今、変な事口走ったような)

サトコ

「ま、間違えました!自分で着替えられますから!」

B: 夜まで我慢してください

サトコ

「そ、それは夜まで我慢してください‥!」

加賀

一人前におあずけ食らわせるつもりか

サトコ

「だって、これからみんなでお祭りに行くんですよね!?」

「行かなかったら、さすがに怪しまれますから‥!」

加賀

生憎だが、テメェと違ってそこまで飢えてねぇ

C: 着替えるので出て行ってください

サトコ

「着替えるので、先に行っていただけると‥」

加賀

ほう、俺に指図するつもりか

サトコ

「違います!でも目の前で着替えるのは、さすがに」

加賀

ごちゃごちゃ言ってねぇで、さっさとしろ

サトコ

「は、はい‥」

そのあと、加賀さんが選んでくれた浴衣に着替え直し‥

【旅館前】

加賀さんと一緒に、待ち合わせ場所へやってきた。

後藤

加賀さん、こっちです

石神

遅いぞ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-013

サトコ

「すみません。着替えに手間取ってしまって‥」

東雲

ふーん?誰に着替えさせてもらったんだろうね?

サトコ

「ななな、なんのことですか!?」

颯馬

サトコさん、素敵な浴衣ですね。似合ってます

黒澤

いいですね~普段以上に、女性の色気が出てます!

サトコ

「あ、ありがとうございます」

(加賀さんが持ってきてくれた‥なんて言えないけど)

(私のためにわざわざレンタルショップに行って選んでくれたんだよね‥ほんとに嬉しい‥!)

サトコ

「石神教官も浴衣をレンタルしたんですね」

石神

ああ、せっかくだからな

サトコ

「すごくお似合いです」

後藤

‥氷川。その浴衣、さっき選んだ色と違わないか?

サトコ

「え?」

(あ‥!そういえばレンタルショップの帰り、エレベーターで後藤教官に会ったんだった‥!)

(あの時、チラッと浴衣を見てもらったんだけど)

サトコ

「いえ‥その、これは‥ですね‥!」

加賀

‥‥‥

黒澤

いやぁ、他に気に入ったのがあったら取り替えちゃうのが女心ですよねっ☆

東雲

誰が気に入った浴衣なのか知らないけどねー

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-014

(ぐっ‥東雲教官と黒澤さん、もしかしてお見通し‥!?)

(へ、下手なことは言わないでおこう‥)

【神社】

みんなで並んでのんびり歩きながら、露店を見て回る。

その中のひとつに、和風のアクセサリーを売っているお店を見つけた。

サトコ

「わぁ‥かわいい!ガラス細工のかんざしなんてあるんですね」

店主

「女の人に人気なんだよ。ひとつどう?」

(欲しい‥けど、結構いいお値段‥!)

(お祭りの露店で売ってるとは思えない金額だ‥)

サトコ

「残念だけど諦めよう‥さようなら、かんざし‥」

加賀

早くしろ、クズ

サトコ

「あ‥すみません!」

慌てて加賀さんを追いかけると、その向こうの露店で教官たちが盛り上がっていた。

サトコ

「何してるんですか?」

黒澤

輪投げですよ。サトコさんもやります?

サトコ

「いえ、私はこういうの下手なので‥」

加賀

ぁあ?上等だコラ

石神

後悔するなよ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-015

石神教官と睨み合い、加賀さんが輪投げに向かう。

あっという間に、輪投げの景品をかけたふたりのバトルが始まった。

石神

ふん。大きな口を叩いておきながらその程度か

加賀

テメェより景品を落としてるだろうが

石神

お前のは、小物ばかりだな

加賀

‥いい度胸だ

(加賀さん、珍しく石神教官の挑発に乗ってるような‥)

(‥いや、普段も結構、こんな感じかな)

黒澤

いやぁ、アツイですね~

東雲

よくこんなことにアツくなれるよ‥

後藤

いい勝負だな

颯馬

輪投げは少々コツが必要ですからね

結局、勝負は五分五分で終わった。

サトコ

「いいなー‥私、輪投げで一度も景品を取れたことないんです」

颯馬

輪投げは、あまり輪を回転させないように投げるといいですよ

それと、手首は返さずに、腕を使って‥

颯馬教官に輪投げのコツを教えてもらったものの、結局景品はひとつも取れない。

サトコ

「私、才能ないのかも‥」

東雲

輪投げの才能?それ、ほんとに欲しい?

サトコ

「い、いえ‥いらないです」

(あれ?いつの間にか加賀さんがいなくなってる)

(どこ行っちゃったんだろう‥?ちょっと探して来よう)

教官たちに断りを入れ、加賀さんを探すため別行動を取る。

ふとそれらしき後ろ姿を見つけて追いかけようとした時、後ろから腕を掴まれた。

加賀

どこの男にじゃれつくつもりだ?

サトコ

「あれ!?加賀さん、ワープしました!?」

加賀

ああ゛?なに寝言言ってやがる

(じゃあさっきのは、人違いだったんだ)

サトコ

「どこに行ってたんですか?みんな心配してましたよ」

加賀

ああ。行くぞ

(え?行くぞって‥)

私の手を引き、なぜか加賀さんはみんながいるところとは反対方向へと歩き出した。

to be continued

2話へ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする