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研修 石神 1話

石神さんからの電話に、心を躍らせながら通話ボタンを押す。

石神

急にすまない。今、大丈夫か?

サトコ

「はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?」

石神

研修旅行についてだが‥サミットの警護が入ったため、俺は行けなくなった

サトコ

「えっ‥!?」

(せっかく温泉を引き当てたし、石神さんには日頃の疲れを癒してほしかったけど‥)

サトコ

「そうですか‥」

小さく肩を落とすも、すぐに気持ちを切り替える。

(残念だけど‥任務が優先だもんね)

(ここ最近は特に忙しそうだし、私にも何かできることがあればいいんだけど‥)

思考を巡らせ、自分に出来ることを探す。

(‥そうだ!)

サトコ

「石神さん、私も補佐官としてサミットに同行してもいいでしょうか?」

石神

何‥?

サトコ

「決して邪魔にならないようにしますし、何よりも勉強になると思うんです」

「だから‥お願いします!」

石神

‥‥‥

少しだけ間が空き、フッと笑みが漏れる音が聞こえた。

石神

いいだろう。お前にとって、得られるものもあるだろうからな

サトコ

「ありがとうございます!」

私は携帯を握りしめたまま、電話の向こう側にいる石神さんに向かって頭を下げる。

それからサミットの詳細を聞き、電話を切った。

(研修旅行は行けなくなったけど、石神さんと一緒にいることは出来るんだ)

(その上、サミットの警護に参加できるなんて、いろいろと成長できるチャンスだよね!)

【寮 自室】

数日後。

休日になると、私はサミットの警護計画や事例を確認して下調べをしていた。

サトコ

「今回のサミットは、三重県にある島で行われるのか‥」

(メイン会場になるホテルも、人の出入りがチェックしやすい構造になっているんだ)

自分なりに、警護計画についてまとめていく。

サトコ

「‥ん?」

笛や太鼓の賑やかな音が聞こえ、顔を上げる。

窓の外を見ると、空は綺麗な夕焼け色に染まっていた。

サトコ

「もうこんな時間になるんだ‥」

耳に届く祭囃子に、好奇心が顔を覗かせる。

(夏祭りかな‥?私も石神さんと行きたいな‥)

(でも、大事なお仕事に同行させてもらえるんだし‥!)

サトコ

「初めてのサミットだから、万全の姿勢を整えなきゃだよね!」

気合いを入れ直すと、再び資料とにらめっこを始めた。

【駅】

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サミットの日程が近づき、石神さんと一緒に開催場所である三重県のとある島に向かっていた。

新幹線に乗り換えるため、一度東京駅で降りる。

サトコ

「‥ん?」

駅構内を歩いていると、あるポスターが目に留まり、ふと足を止める。

(花火大会のポスターだ)

(熱海の花火大会か‥)

少しだけ心が揺れそうになるも、行きたいという思いをぐっと飲み込む。

石神

どうした?

石神さんは足を止め、ポスターに視線を向けた。

サトコ

「いえ、なんでもありません」

「乗車時刻も迫ってますし、行きましょう」

石神

ああ

私たちは、新幹線のホームに向かって足を進める。

(たとえ普通のカップルみたいに夏を満喫できないとしても)

(石神さんの役に立てるように頑張らなきゃ!)

【サミット会場】

サミットが開催される島に到着すると、すぐに視察を始める。

サトコ

「あの橋が、本州へ渡ることができる橋なんですね」

石神

橋は2本しかないから、チェックをしやすいという利点がある

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サトコ

「なるほど‥」

私はざっと辺りを確認すると、予めまとめておいた資料に書き込んでいく。

(やっぱり、実際見てみないと情報の抜けに気付かないな)

サトコ

「石神さん、次はサミットが開催されるホテルに行ってもいいですか?」

石神

ああ

【車】

私たちは車に乗り込むと、地図を頼りに島を一周する。

視察を終えると、資料の書き込みに目を通した。

(いろいろと変更点もあるし、後でまとめ直そう)

(サミットはテロ組織の格好の標的になるから、気合いを入れていかなきゃ!)

サミット当日のことを考えるだけで、身が引き締まる思いだった。

石神さんはしばらく車を走らせると、突然エンジンを切る。

石神

降りるぞ

(あれ、もう島は一周したと思ったけど‥)

石神さんに促され、私は首を傾げながら車を降りた。

車を降りて少しだけ歩くと、海岸に到着する。

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サトコ

「わぁ‥!」

日が傾き、水面に茜色の空の色をキラキラと反射していた。

目の前にある光景に、感嘆の声が漏れる。

石神

綺麗だな

石神さんはポツリと言うと、寄り添うように私の隣に立った。

石神

少しは、緊張はほぐれたか?

サトコ

「え‥?」

石神

ずっと、肩に力が入っているようだったからな

緊張感があるのはいいことだが、リフレッシュも必要だ

サトコ

「石神さん‥」

<選択してください>

A: そのために連れて来てくれんたんですか?

サトコ

「そのために連れて来てくれたんですか?」

石神

まあ、な‥

石神さんは私の肩をそっと抱き寄せ、海に視線を向ける。

石神

一度ここを通りかかった時に、視察が終わったらお前を連れてこようと思ったんだ

ここの夕焼けは綺麗だろうと思って‥

そして一度言葉を切ると、フッと笑みを浮かべた。

石神

‥俺がサトコと一緒に、この光景を見たかったんだ

サトコ

「ふふっ、ありがとうございます」

私はお礼を言いながら、石神さんの肩に頭を寄せる。

B: 石神の手を握る

私は石神さんの手を、そっと握る。

手のひらから、石神さんの優しさが伝わってきた。

サトコ

「ありがとうございます」

石神

‥ああ

石神さんは柔らかい笑みを浮かべると、私の手を小さく握り返す。

そして、僅かに身を屈めて‥

サトコ

「ん‥」

私の唇に、小さなキスを落とした。

C: 今は気を抜いていられない

サトコ

「‥石神さんの気持ちは嬉しいですが、今は気を抜いていられません」

ただでさえサミットは、テロの格好の標的なのだ。

その上、初めての警護になる私には気を抜く余裕がなかった。

石神

真面目なのは、お前のいいところだと思うが‥

今から緊張ばかりしてると、当日までもたないぞ

サトコ

「あっ‥」

石神さんは、ふわりと私を抱き寄せる。

石神さんのたくましい腕が、私の身体を包み込んだ。

石神

気を抜ける時は、ちゃんと気を抜け。お前なら、必ずやり遂げられる

サトコ

「石神さん‥はい、ありがとうございます」

石神

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

私たちは、夕日へ視線を送る。

それからしばらくの間、二人だけの優しい時間を過ごした。

【ホテル】

ホテルに着くと、チェックインのためロビーへ行く。

???

「遅かったな。寄り道でもしてたのか?」

サトコ

「え‥?」

聞き覚えのある声がして振り返ると、そこには一柳教官とSPの皆さんがいた。

石神

‥お前たちが、前日入りか

桂木

「珍しい、という顔をしてるな」

「平泉総理のご要望があり、全員で前日入りをすることになったんだ」

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そら

「サトコちゃん、やっほー!久しぶりだね」

サトコ

「はい、お久しぶりです」

そら

「夕食はまだだよね?よかったら、オレらと一緒に食べない?」

サトコ

「いいんですか?」

そら

「もっちろん!」

海司

「そらさん、分かってるんですか?こいつを誘うとなると‥」

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瑞貴

「もれなく、石神さん付きですね」

そら

「‥ハッ!」

末広さんは、恐る恐る石神さんに視線を向ける。

石神さんは鋭い視線を、末広さんに向けていた。

そら

「こ、怖っ!」

瑞貴

「フフ、よかったら石神さんもご一緒しませんか?」

石神

‥まあ、いいだろう

私はチラリと見ると、石神さんは渋々といった様子で了承する。

こうして私たちは、SPの皆さんと夕食をとることになった。

【レストラン】

「お前、ずいぶんと固いじゃねぇか」

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サトコ

「そ、それはそうですよ‥!」

私は小声で、一柳教官に訴える。

(SPの皆さんと一緒に夕食をとるって言ったけど‥)

平泉

「皆、明日のサミットは頼んだよ」

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(どうして、平泉総理も一緒なの‥!?)

料理を口に運ぶも、緊張のせいで味が分からない。

(一柳教官たちは総理を警護してるから)

(この状況は当たり前って言ったら当たり前なんだろうけど‥)

総理大臣と食事をするのに、緊張しないわけがなかった。

瑞貴

「フフ、サトコさん。肩の力を抜いてください」

サトコ

「ふ、藤咲さん‥そう言われましても‥」

瑞貴

「いいことを教えてあげるから、ね?」

藤咲さんはニッコリ微笑むと、口を開く。

瑞貴

「サトコさんの今週の運勢は最高だよ」

サトコ

「それは嬉しいですけど‥」

平泉

「おや、そうなのかい?良かったね」

サトコ

「!?」

突然総理が会話に加わり、ビクッと肩が跳ねる。

平泉

「運勢が最高の君が警護をしてくれるなら、私も安心してサミットに挑めるよ」

サトコ

「は、はいっ!恐縮です!」

石神

氷川‥

「くくっ‥面白いヤツ」

固くなる私に石神さんは呆れ、一柳教官は楽しそうにしていた。

【ホテル】

夕食が終わると、石神さんの部屋で偵察結果をまとめていた。

(警護の計画書と照らし合わせてみると、所々変更した方がいいかも‥)

サトコ

「石神さん、ここの警護場所について確認してもいいですか?」

石神

ああ、ここは‥

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分からないところは石神さんに確認しながら、資料を改めてまとめていく。

サトコ

「ありがとうございます」

石神

ああ。張り切るのもいいが、ほどほどにしておけよ?

サトコ

「はいっ。ありがとうございます」

私は資料に向き直り、ペンを走らせる。

(一番重要な警護場所はホテルだから、警護人数を改めて見直そう)

(あとは‥)

サトコ

「‥ふわぁ」

今日は気を張っていた時間が多いせいか、あくびが漏れてしまう。

(いけない、いけない。今日中にまとめないといけないのに‥)

あくびを噛み殺しながら、思考を巡らせる。

しかし、瞼はどんどん下がっていって‥

サトコ

「‥‥‥」

ペンを握りしめたまま、意識が遠のいていく。

石神

‥まったく、頑張り過ぎて明日倒れるなよ

微かにそんな言葉が聞こえ、頭を撫でられる感覚がする。

優しいその手つきに安心感を覚え、私は意識を手放した。

サトコ

「ん‥」

目を覚ますと、私はベッドの上に横たわっていた。

時計を見ると、針は深夜を指している。

サトコ

「私、途中で寝ちゃったんだ‥」

辺りを見回すと、私に当てられた部屋だということが分かる。

(もしかして、石神さんが運んでくれたのかな?)

彼の優しさを感じ、胸が温かくなる。

(今は、明日に備えて寝た方がいいよね)

私は心の中で「おやすみなさい」と言うと、すぐに眠りに落ちた。

【ホテル ロビー】

翌日。

身支度を整えると、ロビーに足を向ける。

サトコ

「石神教官!昨日はありがとうございました」

石神

「ああ。疲れた時は無理をしないで休め」

石神さんはそう言いながら、私に紙の束を渡してくる。

石神

警護に入る前に、一度目を通しておくように

石神さんが去り、私は紙に視線を落とす。

サトコ

「これは‥」

(昨日、私がまとめていた資料だ)

資料は添削されており、赤い文字で注意点がびっしりと書かれていた。

『ここの死角に気付いた点は評価するが、詰めが甘い。この場合は‥』

(石神さんも、忙しいのに‥)

ダメ出しばかりだったけど、石神さんの真摯さを実感する。

(石神さんの気持ちに応えるためにも、気合いを入れていかなきゃ!)

私はパンッと両頬を叩くと、サミットに向けて一歩踏み出した。

【新幹線】

サミットが無事に終わり、私たちはSPの皆さんと一緒に帰京していた。

サトコ

「無事にサミットが終わってよかったです」

そら

「本当にお疲れさま!サトコちゃん、すごく頑張ってたよね」

海司

「サミットは初めてだって言ってたけど、お前の資料よくまとめられてたぞ」

サトコ

「本当ですか?」

瑞貴

「うん。細かく書き込まれていて、役に立ったよ」

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<選択してください>

A: 石神教官の指導のおかげです

サトコ

「石神教官の指導のおかげです」

「へぇ、そうなのか?」

サトコ

「はい!石神教官の指導は厳しいですが、その分、身になります」

「石神さんの補佐官になれて、本当に良かったと思っています」

桂木

「だそうだぞ、石神?」

石神

‥何故、私に話を振るんですか

石神さんはチラリと私を見ると、すぐに視線を逸らす。

窓の外に視線を向ける石神さんの耳は、少しだけ赤く染まっているように見えて‥

(石神さん‥もしかして、照れているのかな)

私は頬が緩むのを感じた。

B: 頑張ったかいがありました

サトコ

「そう言っていただけるなんて、頑張ったかいがありました」

瑞貴

「フフ、その調子でこれからも頑張ってくださいね」

サトコ

「はい、ありがとうございます!」

現役のSPに褒められ、嬉しさが込み上げてくる。

石神

氷川。褒められたからと言って、調子に乗ってミスをするなんてことがないように

サトコ

「そ、そうですよね‥」

(無事にサミットが終わったからと言って、気を抜きすぎちゃダメだよね)

(戻ったら、次回に活かせるようにレポートにまとめよう)

そら

「うわ~、せっかく終わったんだから気を抜いてもいいじゃんね」

海司

「ですね。さすが、頭が固いというかなんというか‥」

石神

‥何か言ったか?

そら・海司

「いえ、何も言ってません!」

C: 私なんて、まだまだです

サトコ

「私なんて、まだまだです」

「いつか石神教官や他の教官たちみたいになるためにも」

「もっともっと努力しなきゃって思っています」

石神

そうか‥

石神さんは私を見て、目を細める。

瑞貴

「石神さん、心なしか嬉しそうですね」

そら

「そりゃあ、可愛い部下にここまで言われたらね。嬉しくないワケないでしょ」

石神

‥コホン

藤咲さんたちの言葉に、石神さんは照れ隠しをするように咳払いをした。

石神

‥ん?

車内アナウンスが入ると、石神さんがピクリと反応する。

石神

氷川、次で降りるぞ

サトコ

「え?」

桂木

「東京まで戻らないのか?」

石神

はい。我々は次の仕事がありますので。失礼します

サトコ

「わっ、ちょっ、ちょっと待ってください!」

(次の仕事なんて、聞いてないけど‥)

私は荷物を持つと、慌てて石神さんの後を追いかけた。

to be continued

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