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研修 難波 1話

(携帯が鳴った‥と思ったけど)

見ると、着信もメールも入っていない。

(気のせいだったのかな。まあ、別にいいや)

(それより、研修旅行先の温泉をピックアップしとかなきゃ)

サトコ

「温泉を推したのは加賀教官と石神教官だったはず‥」

「ふたりに、どんなところがいいか聞いた方がいいかも」

ネットで調べた評判の温泉宿の情報をプリントアウトして、明日に備えた。

【教官室】

翌日、温泉の情報を持って教官室を訪れた。

サトコ

「失礼します。加賀教官、石神教官、ちょっとご相談が」

加賀

なんだ

石神

俺たちに相談とは珍しいな

サトコ

「研修旅行のことなんですけど、おふたりは温泉推しですよね」

「どんなところがいいか、伺おうと思って」

石神

食事が美味しいところがいい

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加賀

露天風呂だ

教官たちが、同時に発言する。

そして、お互いを睨みながら同時に押し黙った。

サトコ

「あの‥」

石神

温泉も大事だが、食事が美味くなければ台無しだ

加賀

テメェには、オマケにプリンが付いてりゃ充分だろ

露天風呂だけじゃねぇ、温泉の種類が豊富なところがいい

石神

勝手に決めるな。温泉だけでいいなら、銭湯にでも行ってろ

(加賀教官が銭湯‥)

加賀

サイボーグに温泉の情緒なんざわかるわけねぇか

石神

必ず野菜を避けて食べるお前に、食事の楽しみを説いたのが間違いだったな

バチバチと火花を散らすふたりから後ずさりして、他の教官たちのところへ向かった。

サトコ

「あ、あの‥みなさんはどんなところがいいですか?」

颯馬

温泉と食事以外の楽しみがあるところがいいですね

東雲

同感。温泉と食事なんて、枯れすぎでしょ

後藤

‥訓練生たちが疲れを癒せるなら、なんでもいい

(颯馬教官と東雲教官‥リゾート地から温泉になったの、根に持ってるんだろうな)

サトコ

「えーと‥後藤教官の意見だけ、採用させてもらっていいですか」

東雲

へぇ?キミにそんな権利があるわけ?

サトコ

「い、いえ!そんなつもりじゃ」

颯馬

まあまあ。確かに後藤が一番、まともなことを言ってましたからね

リゾートプール付きで、近くに遊園地がある温泉宿‥なんて、求めるのは無理でしょう

サトコ

「颯馬教官、そんな無茶なこと考えてたんですか!?」

(ダメだ、そういえば教官たちに要望を聞いてすんなりいった試がなかったかも‥)

教官室のドアが開く音がして、難波室長が入ってくるのが見えた。

難波

お疲れ~

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サトコ

「室長!ちょっと伺いたいことが!」

難波

おお、なんだ氷川。そんなに慌ててどうした

サトコ

「実は今、研修旅行先の温泉を探してるんですけど」

「室長、何か要望とかないですか?こういう温泉宿がいい、とか」

難波

そうだな‥

んー‥俺は、どこでもいい

室長の言葉に、ガックリうなだれる。

サトコ

「やっぱり‥」

難波

いや、そういう意味じゃない

いや、そういう意味か

サトコ

「何がですか‥?」

難波

実は、その日は捜査が入ってな。研修旅行には参加しないことになった

黒澤

えーっ!難波さんがいないと、盛り上がり半減じゃないですか!

サトコ

「わっ、黒澤さん、いつの間に!?」

黒澤

アナタの黒澤、いつでもおそばに☆

って、それより‥難波さん、本当に不参加なんですか?

難波

ああ。お前らだけで楽しんで来い

けど、ひとつ問題があってな‥

深刻そうな室長の言葉に、みんなが息を飲む。

サトコ

「な、何があったんですか‥?」

難波

実は‥人手が足りない

サトコ

「へ?」

難波

至急対応しなければならない案件があってな

その日はみんな、研修旅行でいなくなるだろ

俺だけでもどうにかなるが、できればもう一人欲しいところなんだ

<選択してください>

A: 私がお手伝いします

サトコ

「あ、じゃあ私がお手伝いします」

難波

氷川が?

サトコ

「はい。旅館を手配すれば、幹事の仕事はそんなにないので」

後藤

なら、現地では俺が幹事をやります」

難波

おお、助かる。持つべきものはいい部下だな

B: 刑事課の人は?

サトコ

「刑事課の人は、手伝ってくれないんですか?」

難波

今、向こうでもデカいヤマ抱えてて人手不足だからな

東雲

キミ、手伝ったら?

サトコ

「え?」

東雲

どうせ、行き先決めて予約することぐらいしか、やることないでしょ

(その通りだけど、刃のような言葉が胸に突き刺さる‥)

難波

なら氷川、悪いが頼めるか?

サトコ

「はい、わかりました」

C: 終わったら研修に来れますか?

サトコ

「捜査が終わったら、室長も研修に来れますか?」

難波

どうだろうなぁ

そんなせかせか動くのは老体にムチ打つようで

サトコ

「老体‥」

黒澤

じゃあサトコさんは旅館の予約をして、難波さんの手伝いのために残ってください!

サトコ

「え?」

黒澤

オレが現地で音頭をとりますよ!

後藤

お前‥それがやりたいだけだろ

難波

いやあ、そうしてくれるとたすかるな。いいか?氷川

サトコ

「はい、分かりました!」

(室長のお手伝いかあ‥もしかして、いい勉強になるかも!)

(研修に行けないのは残念だけど、今回は留守番として頑張ろう!)

【資料室】

研修当日、教官たちを送り出すと、早速室長のお手伝いが始まった。

難波

じゃあ、このファイルを順番にこっちに移動させてくれ

日付に注意してな

サトコ

「わかりました」

室長に言われたことを思い出しながら、書類の整理を始める。

でもふと気づくと、さっきまで他の資料を見ていた室長の姿がない。

(どこに行ったんだろう?もしかして急な捜査が入ったとか?)

【室長室】

資料のファイリングを終えて、室長室をノックする。

サトコ

「失礼します。室長、資料整理終わりました」

難波

おー、お疲れ

顔を上げた室長は、特に何かしている様子もない。

サトコ

「‥室長?」

難波

なんだ?

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サトコ

「いえ、その‥捜査は」

難波

そういえば、まだ連絡はないなー

サトコ

「そうなんですか。いなくなられたので、てっきり捜査かと‥」

難波

ああ。ちょっとタバコが恋しくなっただけだ

(確かに、部屋にタバコの匂いが充満してる‥)

難波

それより、資料整理を頑張ったご褒美だ

冷蔵庫から出したDOSSを私に手渡しながら、室長が苦笑いした。

難波

今頃、現地についてる頃か‥あいつらは災難だな

サトコ

「あいつらって‥教官たちですか?」

難波

ああ。今回の研修は、なかなかハードだからな

サトコ

「え?」

難波

お前も、研修に2日取られるよりは今日1日の手伝いの方が勉強になるだろ?

(し、室長‥もしかして、厳しい研修が嫌だったから、サボったの!?)

その時、突然電話の音が鳴り響いた。

携帯の画面を見た瞬間、室長の表情が変わる。

難波

‥来たか

(今、いきなり表情が変わった‥)

(そういえば、前にもこういうことがあったっけ)

思い出すのは、室長との潜入捜査のこと。

あの時も、仕事になると表情だけでなく雰囲気も変化した。

(研修なんてめんどくさい、なんて言ってたけど‥やっぱり、裏では仕事してるんだ)

(やっぱり室長ともなると、同僚や部下に言えない事件が多いんだな)

難波

わかった。すぐ向かう

氷川、行くぞ

サトコ

「はい」

難波

‥なんの捜査か、聞かないのか?

すぐについていこうとした私に、室長が怪訝そうな顔になる。

サトコ

「公安は、仲間にも言えない案件が多いと思うので」

「室長なら、きっとそういう事件ばっかりですよね?だから、聞かない方がいいかなって」

難波

‥へぇ

ポン、と室長の大きな手が頭の上に置かれた。

難波

ひよっこも、少しは成長したんだな

サトコ

「ひよっこ‥」

難波

じゃあ、行くぞ

サトコ

「はい!」

(ひよっこでも、ほんの少しは認められた‥って思っていいのかな)

(もっと成長できるように、今日はしっかり室長についていこう!)

【教官室】

室長が抱えている案件の捜査も無事終わり、

教官室に置かせてもらっていた荷物を取りに来た。

(あの時の囮捜査と違って、本当に少しの手伝いしかできなかったけど)

(でも、ちょっとでも室長の役に立てたならよかった)

帰り支度を整えていると、教官室のドアが開いた。

難波

お疲れさん。今日はありがとな

サトコ

「いえ、私こそ貴重な経験をさせて頂いて、ありがとうございました」

難波

お前、このあとなんか予定あるか?

サトコ

「え?いえ、寮に帰るだけです」

難波

ならちょうどよかった。付き合え

休暇中に手伝ってくれた礼に、ビール奢ってやる

サトコ

「ビール!?」

【神社】

驚きながらも室長に連れられてやってきたのは、なんと縁日だった。

サトコ

「こんなところでお祭りやってたんですね」

難波

近くに神社があるからな

腹減っただろ?何か買うか

室長と並んで歩きながら、ビール片手に縁日を見て回る。

混みあっていたせいか、トンと室長と肩がぶつかり、慌てて離れた。

サトコ

「す、すみません」

難波

気を付けないと、ビールが零れるぞ

(っていうか、ふたりきりでお祭り‥って、なんかデートみたい)

(そんなこと言ったら、室長に笑って流されるだろうな‥)

意識しないよう自分に言い聞かせながら、焦って露店に視線を移す。

すると、ちょうど通りかかったところが金魚すくいの露店だった。

サトコ

「わあ‥懐かしい!昔よくチャレンジしたんですけど、全然すくえなくて」

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難波

ちょっとやっていくか

サトコ

「え?金魚すくいですか?」

難波

ああ、大人になってからやると、意外にすくえるもんだぞ

サトコ

「そ、そうですかね‥自信ないですけど」

難波

じゃあ、どっちがたくさんすくえるか、勝負するか

どこか無邪気な表情で、室長が金魚すくいの露店に向かう。

(勝負って‥室長、ちょっと子どもっぽい‥)

(いやいや、室長に『子どもっぽい』なんて、失礼すぎるよね)

露店のおじさんからポイとお椀を受け取ると、室長との金魚すくい勝負がスタートした。

サトコ

「よーし、負けませんよ!」

難波

じゃあ俺も、久しぶりに本気出すか

サトコ

「え?」

振り向くと、室長が1匹、また1匹とポイで器用に金魚をすくっている。

サトコ

「う、うまい!」

難波

ん?なんだ氷川。全然すくえてないな

私が持っている空のお椀を見て、室長が笑い出す。

サトコ

「室長みたいに上手にはすくえないですよ」

「調子に乗ってポイを水に入れたら、すぐ紙が破れそうだし」

難波

これにはコツがあるんだよ、いいか?

こうやって、まずは金魚を端に追い詰めて

私に見本を見せながら、室長があっという間に1匹すくってしまった。

サトコ

「は、早くて見えませんでした!もう1回お願いします!」

難波

しょうがねぇな。いくぞー

得意げに、室長がもう1匹すくう。

サトコ

「プロだ‥!!」

難波

ほら、言った通りにやってみろ。端に追い込んだら、ポイの片側でこうして‥

サトコ

「あっ!す、すくえた!」

私のお椀の中には、綺麗な金魚が1匹、優雅に泳いでいる。

サトコ

「室長、やりました!人生で初めて金魚すくいに成功しました!」

難波

な?コツを掴めば簡単だろ?

サトコ

「っ‥‥」

屈託なく無邪気に笑われて、その笑顔にお椀を落としそうになった。

(い、今の笑顔‥ちょっと、反則っ‥)

難波

ん?俺の顔になにかついてるか?

サトコ

「な、なんでもないです‥私、焼きそば買ってきますね!」

逃げ出すように、別の屋台へと走り出した。

焼きそばを買って戻ると、金魚すくいの露店の前に室長がいない。

(あれ?どこに行っちゃったんだろう?)

???

「氷川。どこ見てんだ?」

声のした方を振り返ると、古風な狐のお面をした人が立っていた。

<選択してください>

A: どちら様ですか?

サトコ

「あ、あの‥どちら様ですか?」

難波

おいおい、上司にそれはないだろ

狐のお面を取ると、室長が現れた!

サトコ

「し、室長!?そのお面はどうしたんですか?」

B: 聞こえないフリをする

(なんか危険人物だ‥聞こえなかったフリをしよう)

難波

おーい。今、あからさまに無視しただろ

サトコ

「し、室長!?」

お面を外したその人は、なんと室長だった。

C: 不審者として事情を聴く

(このまま見過ごすわけにはいかない‥!私だって、これでも刑事の端くれ!)

サトコ

「あの、ちょっとお話をお伺いしてもいいですか?」

難波

いいぞ。何が知りたい?

サトコ

「え!?室長!?」

お面を取ると、なんと室長が現れた。

難波

そこで売ってたから、つい買っちゃってな

ほら、お前に似合いそうだろ

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サトコ

「そ、そうですか‥?」

よくわからないままお面を受け取り、お礼を言って頭に乗せる。

サトコ

「このお面、家に飾っておきますね」

難波

ああ、そうしろ。魔除けになりそうだしな

サトコ

「魔除け‥」

難波

それとお前、せっかくすくった金魚をもらわずにいなくなっただろ

ほら、店の人から預かったぞ

サトコ

「ありがとうございます」

片手にビール、片手に金魚を持って歩いていると、

向こうから歩いてきた人が思いっきりぶつかってきた。

サトコ

「きゃっ」

よろけた弾みで、隣の室長にぶつかる。

すると、室長が持っていたビールが私の服にかかった。

難波

っと‥悪い。大丈夫か?

サトコ

「は、はい‥なんとか」

そう答えたものの、実際は胸元に思いっきりかかってしまっている。

難波

こりゃ、シミになるとマズイな。すぐ洗濯しないと

ここからなら、寮よりうちの方が近いか‥よし、氷川

‥このまま、うちに来い

サトコ

「え‥!?」

(し‥室長の家に!?)

(いや、べつに深い意味はないだろうけど‥でも、いいの‥!?)

to be continued

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