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加賀 続エピ 3話

【室長室】

難波室長に『話がある』と言われれ、室長室にやってきた。

(室長が改まって私に話があるなんて、絶対におかしい!)

(きっと、加賀さんのことが室長の耳にも入ったんだ‥)

難波

いやー、わざわざ来てもらって悪いな

サトコ

「い、いえ‥それで、お話って」

難波

お前、これ知ってるか?

室長が私に見せたのは、事件の資料だった。

サトコ

「はい。この間、加賀教官に頼まれてファイリングした時に見ました」

難波

そうか、助かった。この資料を探してたんだ

サトコ

「それだったら、確か保管庫の棚の‥」

(‥って、もしかして私を呼んだのって、このためだったの?)

サトコ

「えーと‥じゃあ、保管庫から探して持って来ますね」

難波

悪いな。頼む

サトコ

「それじゃ、失礼します」

難波

ああ

サトコ

「‥‥‥」

難波

‥‥‥

どうした?何か用か?

サトコ

「あ、いえ‥本当に帰っていいんですか?」

難波

帰りたくないのか?

サトコ

「そ、そうじゃないですけど‥本当にそれだけで呼ばれたのかなって」

難波

何だと思ったんだ?

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サトコ

「あ‥いえ、何でもないです!」

慌てて頭を下げて室長室を出ようとすると、後ろから室長の声が追いかけて来た。

難波

氷川

サトコ

「はい?」

難波

ま、ほどほどにしとけよ

サトコ

「!?」

(そ、それって‥)

サトコ

「あ、あの‥なんのことでしょうか‥」

難波

んー‥そうだな‥

‥捜査とか?

(絶対、加賀さんとのことだ‥!)

(じゃあ室長、やっぱり気付いてるってこと‥!?)

うろたえる私に室長は笑いながら言った。

難波

目立った行動はするなよ

サトコ

「は、はい‥肝に銘じておきます‥」

声を振り絞って返事をすると、今度こそ室長室を出た。

【寮 自室】

学校が終わると、その足でブレスレットを取って帰ってきた。

(早く、加賀さんに渡したいな‥)

(もう、仕事終わってる頃かな?)

思い切ってメールをすると、少しして返事が返ってくる。

(『迎えに行くから駅前で待ってろ』‥)

(よかった‥断られたらどうしようかと思った)

サトコ

「って、安心してる場合じゃない!急いで出かける用意しなきゃ!」

【車】

待ち合わせ場所で加賀さんに拾ってもらうと、すぐ助手席に乗り込む。

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(こういうところも、誰かに見られたら大変だよね‥)

加賀

‥なにキョロキョロしてやがる

サトコ

「その‥誰かに見られてないかなって」

加賀

‥‥‥

何も言わず、加賀さんが車を出した。

サトコ

「えっと‥どこに行くんですか?」

加賀

黙って乗ってろ

そのまま、加賀さんは運転を続け‥

【ホテル】

連れて来られたのは、高級そうなホテルだった。

サトコ

「‥部屋、取っておいてくれたんですか?」

加賀

喚くな

サトコ

「すみません‥でも、どうしてここに」

加賀

ここなら、誰にも会わねぇだろ

サトコ

「え?」

加賀

あんだけ挙動不審だったら、嫌でも目に付く

気にしすぎて、逆に目立ってんだテメェは

サトコ

「‥私が人目を気にしてること、気付いてたんですね」

加賀

気付かねぇ方がおかしいだろ

普段なら部屋に入るとすぐ押し倒してくるのに、今日の加賀さんは黙ってベッドに座ってる。

加賀

で?

サトコ

「え」

加賀

言いたいことがあんだろ

サトコ

「‥はい」

(最初から、今日は私の話を聞いてくれるつもりだったんだ)

(加賀さんは、全部お見通しで‥私の考えなんて、言わなくても最初から分かってたのかも)

サトコ

「教官と訓練生の交際が発覚したら、教官をクビになるって聞きました」

加賀

ああ

サトコ

「それに、刑事の階級も落とされるって」

加賀

そうだな

サトコ

「私‥加賀さんに迷惑かけたくないんです」

加賀

チッ‥くだらねぇ

この前と同じように、一蹴される。

加賀

結局、そんなくだらねぇ話か

サトコ

「くだらなくないです!加賀さんが教官を辞めるなんて、絶対に嫌です!」

「それに、刑事の階級だって‥」

加賀

それは、テメェ一人の考えか

サトコ

「え?」

加賀

誰かに相談したりしたか?

サトコ

「いえ‥誰にも、相談なんてできませんから」

加賀

できるだろ

まっすぐに見つめられて、加賀さんの言いたいことがなんとなくわかる。

サトコ

「‥加賀さんにも、相談できません」

加賀

なんでだ

サトコ

「だって、加賀さん‥ホテルの前で同期に会った時、平気そうだったじゃないですか」

「きっと加賀さんなら、『今まで通りにしてろ』って言うから」

加賀

分かってるじゃねぇか

サトコ

「加賀さんがコソコソするのを嫌うのも、わかってます」

「だから、いっそのこと噂が落ち着くまでは距離を置いた方がいいって思ったんです」

加賀

噂?

サトコ

「はい‥私と加賀さんが付き合ってるって」

「難波室長も何か気づいてるみたいだし‥東雲教官だって」

加賀

それは、テメェがひとりで決めていい理由にはならねぇ

俺にひと言の相談もなく、勝手に決めやがって

チッと、加賀さんが舌打ちする。

加賀

駄犬は、主人の言うことだけ聞いてりゃいい

サトコ

「そうはいきません!駄犬ですけど‥加賀さんの彼女ですからっ‥」

加賀さんが、軽く目を見張る。

加賀

‥俺は、どうなろうと構わねぇ

サトコ

「そんなの‥ダメです!加賀さんが教官じゃなくなっちゃうなんて嫌です!」

「私‥加賀さんの補佐官でいたいんです」

加賀

‥‥‥

サトコ

「たとえ怒られてもいじめられても、絶対にやめたくないです」

加賀

テメェは正真正銘のマゾだな

サトコ

「それは否定しませんけど‥って、そ、そうじゃなくて!」

「公安刑事として大切なことを、加賀さんのそばで、加賀さんから学びたいんです!」

加賀

駄犬のくせに、言うじゃねぇか

フン、と加賀さんが鼻で笑う。

加賀

迷惑かけたくねぇって言ってたな

サトコ

「はい‥」

加賀

迷惑かどうかは、テメェが決めることじゃねぇ。俺が決めることだ

テメェの思い込みで、勝手な行動取るんじゃねぇ

サトコ

「思い込み‥」

加賀

面倒が起きることなんざ、テメェをモノにした時からわかってた

今さら慌てる必要はねぇ

サトコ

「だけど‥」

加賀

テメェの主人は誰だ?

(何度聞かれても、答えは決まってる‥)

サトコ

「‥加賀さんです」

「何が起きても‥私が訓練生をクビになっても、加賀さんだけです」

加賀

分かってんなら、くだらねぇことごちゃごちゃ考えてんじゃねぇ

テメェは黙って、俺の傍にいりゃいい。何度言わせりゃわかる

抱き寄せられて、その胸に顔を埋めた。

加賀

俺が傍にいろって言ってんだから、テメェは黙って従ってろ

(傍にいろ‥もしかしたら、それが加賀さんの最大級の愛の言葉なのかもしれない)

(迷惑じゃない、少しでも役に立ってる‥って、思っていいのかな)

加賀

‥それに

万が一バレて階級落とされようと、実力でどうにかしてやる

手柄挙げりゃいいだけだからな

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自信満々の笑顔で、加賀さんがニヤリと笑う。

サトコ

「加賀さんなら、本当にそうしちゃいそうですね」

加賀

当然だ

わかったなら、二度と余計なことは考えるな

(そうだ‥私一人で悩んでもどうしようもないことだった)

(ふたりのことなんだから‥これからは、ちゃんと加賀さんに相談しよう)

そう決めた時、突然、ベッドに押し倒された。

加賀

話は済んだな

サトコ

「え!?」

加賀

生意気に、いつまで焦らすつもりだ?

サトコ

「じ、焦らしてたわけじゃ」

(っていうか‥相変わらず、雰囲気とかそういうの全部無視!?)

サトコ

「あのっ、わ、私たちのこれからのことは!?」

加賀

んなもん、流れに身を任せりゃいい

ほっときゃ、なるようになる

サトコ

「いや、でも‥!あ、そうだ!」

「プレゼントがあるんです!まだ渡してなかった!」

私は両手をベッドに押さえつけられながらも、必死にバッグを指した。

加賀

あ?

サトコ

「ネックレスのお礼、まだ何もしてなかったから」

起き上がってバッグからラッピングの袋を出して渡すと、

中を見た加賀さんが、訝しげな表情になった。

加賀

‥ブレスレット?

サトコ

「はい、パワーストーンで作られてるんです」

「自分で選べるので、加賀さんに合いそうな石を選んできたんですけど」

加賀

なんだそりゃ

サトコ

「これが仕事運アップで、こっちがトラブル回避の効果があるらしいです」

「加賀さんを守ってくれるように、願いを込めて選びました!」

加賀

‥呪いか

サトコ

「呪い!?」

(まぁ、似てるような似てないような‥)

サトコ

「あと、これが幸運を招き寄せる石で、こっちが‥」

加賀

‥おい

低く、加賀さんが唸るように言う。

加賀

これは?

サトコ

「あ‥それは」

加賀さんが指したのは、ひとつだけさりげなく紛れ込んでいる小さなピンクの石だった。

サトコ

「えーっと、その‥あ、愛が深まるって言われてる石です」

加賀

ほう‥?

サトコ

「気持ちを伝える時にオススメだって、鳴子が教えてくれて‥」

「お守りのつもりで作ったブレスレットなので、私の気持ちもこっそり添えておこうかと」

加賀

気色悪ぃ

サトコ

「すみません‥」

加賀

テメェの気持ちくらい、テメェで言え

サトコ

「え‥」

(‥そうだよね。石任せじゃダメだ)

深呼吸をして、加賀さんを見つめる。

サトコ

「‥加賀さんが、好きです」

加賀

サトコ

「危険な捜査の時は凄く心配だし、でも加賀さんならきっと解決してくれるって思ってます」

「加賀さんは、私の中のヒーローだから」

加賀

柄じゃねぇな

(あ、笑った‥)

サトコ

「でも、基本的にダークヒーローですけど」

加賀

そのくらいがちょうどいい

それにしても‥まだ、躾が足りねぇらしいな

サトコ

「‥へ?」

ブレスレットを腕につけると、加賀さんが再び私を押し倒した。

スマホ 053

加賀

主人の言いつけも守れねぇ、命令も聞かねぇ

テメェで勝手に決めて行動する‥いいとこなしだ

サトコ

「そ、それは‥」

加賀

テメェは誰の命令を聞かなきゃわかんねぇのか

しっかり、身体に教え込んでやる

サトコ

「そ、それはもう充分‥」

加賀

帰巣本能も足りねぇみてぇだしな

サトコ

「足りてます!何があっても加賀さんのところに帰ってきますから‥!」

懇願もむなしく、あっという間に加賀さんの手と唇に攻められて、

組み敷かれながら、ベッドの上でいいなりになるしかない。

加賀

‥当然だ

サトコ

「え‥?」

加賀

何があっても、テメェはここに帰ってこい

その前に‥首輪外してどっか行ったりでもしたら‥どうなるかわかってんだろうな

サトコ

「!!」

肌に舌を這わせながら、加賀さんが上目遣いに眺めてくる。

そして、私を押さえつけている自分の手に視線を戻した。

加賀

愛が深まる石、か‥

どれだけ深まったか、試してやる

サトコ

「っ‥‥‥」

(‥こんな顔されたら)

(たとえ私たちの関係がバレても、学校にいられなくなっても‥)

(どこまでも、加賀さんについていく‥)

加賀さんの下で、甘い痺れに身を任せ‥改めて、そう誓った。

【教官室】

翌朝。

(加賀さんと仲直りはできたけど、一番の問題はまだ解決してないんだよね‥)

(私と加賀さんの噂‥いったいどこまで知れ渡ってるんだろう‥?)

サトコ

「おはようございます‥加賀教官、昨日の報告書を持って来ました」

加賀

ああ

颯馬

サトコさん、おはようございます

東雲

ねぇ、そこのポンコツさん‥邪魔なんですけど?

あ、ポンコツだから動けないのか

サトコ

「あの、ポンコツポンコツ言い過ぎです‥」

入口から避けると、教官たちがゾロゾロと入って来た。

(そういえば、教官たちは全然態度が変わらない‥あの噂、全然聞いてないのかな)

(でも訓練生の間で広まってるくらいだし、きっと耳にしてると思うんだけど)

東雲

そういえばアレ、どうなったんですか?

石神

ああ、クビは免れたらしい。物的証拠が出なかったようだな

颯馬

訓練生との恋愛、ですか‥まあ、他の訓練生たちが流したデマの可能性もありますし

(訓練生との恋愛‥デマ?)

サトコ

「あの、それって‥」

後藤

他県の警察学校で、教官と訓練生が噂になったらしい

石神

まあ、デマだろうとは思っていたがな

サトコ

「他県の‥警察学校!?」

(そ、そういえばそういう話を聞いて、私も気を付けようと思ったんだった‥)

(あれ!?でもじゃあ、私たちの噂は!?)

【廊下】

(もしかして、今までみんなが話してたのは、他県の警察学校の話‥?)

(でもみんな態度がおかしかったし、鳴子や千葉さんだって‥)

男子訓練生

「あ、氷川。おはよう」

声をかけてきたのは、ホテル街でばったり会ってしまったあの同期の彼だった。

サトコ

「お、おはよう‥あの、この間のことなんだけど」

男子訓練生

「氷川も大変だよな‥休みの日まで、加賀教官の奴隷なんて‥」

サトコ

「‥へ?」

男子訓練生

「みんな気の毒がってたよ。加賀教官の専任補佐官は大変だって‥」

サトコ

「あの‥」

鳴子

「サトコ、おはよう。なんか『奴隷』って言葉が聞こえてきたけど」

千葉

「氷川‥やっぱりまだ、加賀教官に奴隷扱いされてるんだな」

サトコ

「ど、どういうこと?」

鳴子

「もうその噂で持ちきりだよ!休日まで捜査について行って、奴隷扱いされてるって」

サトコ

「じゃ、じゃあもしかして最近、鳴子や千葉さんの態度がおかしかったのは‥」

千葉

「いや‥氷川がそれでいいなら、俺たちは何も言わないよ」

「奴隷と言えども、学べることはいろいろある‥?だろうし」

鳴子

「そうだよね‥サトコが納得したなら‥奴隷でも、得るものはある‥?と思うし」

サトコ

「なんで疑問形‥?」

(そ、そういうことだったんだ‥!じゃあ、私がひとりで空回ってただけ!?)

向こうから加賀さんが歩いて来るのが見えて、みんなが一瞬にして静かになる。

千葉

「か、加賀教官!おはようございます!」

加賀

ああ

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鳴子

「おはようございます」

挨拶にうなずきながら、加賀さんが私の横を歩いていく。

加賀

‥クズが

サトコ

「!」

(加賀さん‥全部わかってたの!?)

(なのに、教えてくれないなんて‥!)

恥ずかしいやら情けないやらで、何も言えない私だった‥

Happy  End

Seazon2へ続く

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