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温泉 颯馬 1話

颯馬

‥‥‥

サトコ

「颯馬教官!」

私の手を取ったのは颯馬さんだった。

ギュッ‥と、きつく握りしめられる。

(嬉しいけど‥)

サトコ

「ダメです。誰かに見られちゃいますよ?」

颯馬

みんな酔っ払っているので大丈夫です

‥特に歩は

(確かに、みんなかなりお酒飲んでたよね)

(東雲教官は颯馬さんに飲まされたけど‥)

颯馬

だから、私たちがいなくなっても誰も気にしませんよ

サトコ

「いなくなるって‥あっ!」

颯馬さんが指を絡めて来て、背後から宴会場のふすまに身体を押し付けてくる。

サトコ

「そ、颯馬さん‥」

(この先には、教官たちがいるのに‥!)

颯馬

‥ん?

しかし、ふいに颯馬さんの動きが止まった。

ジッ‥と私を見つめてくる。

サトコ

「あの‥?」

颯馬

まったく貴女は‥仕方のない人ですね

そう言うと、颯馬さんは私をひとけのない場所へ連れて行った。

そのまま、今度は正面から壁に押し付けてくる。

サトコ

「わっ‥!」

颯馬

‥胸元、はだけています

ちゃんと着付けができていませんね

サトコ

「えっ、き、着付け?」

颯馬さんはその場に両膝をつき、手際よく私の浴衣を直していく。

襟元を整え、足の間から中にも手を入れて‥

サトコ

「は、恥ずかしいです!」

颯馬

シッ、動かないで

サトコ

「っ‥!」

そう、命令されれば嫌とは言えない。

中からも浴衣を引っ張り、帯を締め直して‥

颯馬

‥はい。できました

サトコ

「わあ‥すごい!」

あっという間に浴衣の着崩れが直されていた。

少し動いただけでは崩れそうにもない。

サトコ

「すごいです!颯馬さん、着付けできるんですね!」

颯馬

これくらい当たり前のことです

いいですか?ここには貴女を女扱いしない人たちしかいないからといって

くれぐれも油断はしないでくださいね?

サトコ

「油断?」

颯馬

こんなふうに‥

颯馬さんが立ちあがり、私の両手を掴んで動きを封じる。

グッ、と身体を屈めてきて‥

チュッ‥

サトコ

「ひゃっ‥!」

(さ、鎖骨にキス!?)

(まさか‥!)

慌てて颯馬さんから離れ、近くの窓に自分を映す。

(よかった。痕はついてないみたい‥)

颯馬

フフ、焦りましたか?

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サトコ

「なっ、なにするんですか!」

「もし誰かに見つかって、バレちゃったら‥」

颯馬

照れて怒ってる顔も可愛いですよ?

大丈夫です。先ほども言った通り、みんな酔っていますし‥

それに、私がそんなヘマをすると思ってますか?

(‥思わない)

私の反応をからかうように、ポンポンと颯馬さんは私の頭を優しく叩いてくる。

そうして耳元へ唇を寄せ、あの低い声で‥

颯馬

‥では、今からもっと2人きりの時間を楽しみましょうか?

サトコ

「えっ‥?」

(『2人きりの』って‥)

チュッ‥

サトコ

「‥!」

(今度は耳に‥!)

サトコ

「そ、颯馬さん!」

颯馬

フフ

さ、行きましょう。私の部屋はこちらです

私の手を握り、颯馬さんが歩き出す。

ドキドキと高鳴る鼓動を押さえながら、私もついて行くと‥

黒澤

あっ、いたいた!

周介さーん!サトコさーん!

颯馬・サトコ

「!」

(く‥黒澤さん!?)

廊下の向こうから黒澤さんが歩いてきた。

後藤

‥‥‥

その後ろから後藤教官もやってくる。

(マズイ‥!)

2人が近づいてくる前に、サッと2人共手を離す。

黒澤

よかった~、ここにいたんですね

もう、2人とも迷子になっちゃったかと思いましたよ~

どこに行ってたんですか?

サトコ

「わ、私はトイレに‥」

颯馬

私はちょっと外に涼みに

そうしたら、ちょうど帰りにサトコさんと会ったんです

黒澤

なるほど、そうだったんですね!

(さすがは颯馬さん、誤魔化し方もカンペキだ‥)

黒澤

よかったですね、後藤さん。2人が見つかって

後藤

‥俺は探す必要はないと言ったのに

颯馬

おや、どうしてです?後藤

後藤

‥いえ、なんでもないです

(確かに、このまま見つからなかったら颯馬さんと2人きりになれたけど‥)

(せっかく、みんなで温泉に来れたんだし‥)

黒澤

さ、戻りますよ~!みなさん、お待ちかねです!

黒澤さんと後藤さんが先に歩いていく。

その後ろを、私と颯馬さんがついて行った。

(今回の旅はみんなとだし‥)

(もう颯馬さんと2人きりになれる時間は、ないだろうな‥)

颯馬

‥‥‥

(‥えっ?)

すると、ふと、手が何かに包まれる。

颯馬さんがまた握ってくれていた‥

颯馬

‥‥‥

(颯馬さん‥)

<選択してください>

A: そのままにしておく

(私が寂しがってることに気付いてくれたのかな‥)

こういう時、颯馬さんは大人だと感じる。

(でも、黒澤さんたちに見つかったら‥)

颯馬

‥‥‥

固まってしまった私を、颯馬さんは優しく見つめていた。

B: 握り返す

(私が寂しがってることに気付いてくれたんだ‥)

嬉しくなり、私も握り返す。

颯馬

‥‥‥

すると、颯馬さんが指を絡めてきた。

ゆっくりと撫でられ、ドキドキと心拍数が上がっていく。

(なんか、秘密の恋みたいで楽しいかも‥)

C: 離そうとする

(そんな、今、黒澤さんたちがいるのに‥)

そう思い、慌てて離そうとする。

しかし、颯馬さんは話してはくれなかった。

むしろ、より強く握りしめられる。

(颯馬さん‥!)

非難の意味を込めて見上げると、颯馬さんはいつもの笑顔を浮かべていた。

颯馬

‥‥‥

黒澤

で、そこで難波さんが~‥

って、聞いてます?周介さんたち

サトコ

「!」

その時、突然黒澤さんが後ろを向いてきた。

颯馬

ええ、聞いていますよ

ニッコリと笑って、颯馬さんは答える。

手はすでに離していた。

(‥素早い)

黒澤

サトコさんは聞いてました?

サトコ

「え、ええと‥」

颯馬

黒澤、だいぶ飲んでいるようですね

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颯馬さんが前へ行き、黒澤さんの肩を抱く。

後藤

そうなんですよ。黒澤、室長のペースに合わせて飲んで‥

颯馬

それは‥勇者ですね

黒澤

だって~‥

(颯馬さん、ごまかしてくれた‥?)

すると、不意に颯馬さんが振り返った。

颯馬

‥‥‥

(えっ‥なんか言ってる?)

(「あ・と・で」‥?)

(それって‥!)

それはどういう意味なのだろう。

分からなかったが、ドキドキと私の鼓動は鳴りやまなかった‥

【宴会場】

黒澤

周介さんとサトコさんを連れ戻してきました~!

颯馬

遅くなってすみません

サトコ

「ただいま帰りました‥」

(って‥えっ!?)

宴会場へ戻り、私は目を丸くする。

そこには、先ほどいなかった仲居さんたちがたくさんいた。

仲居A

「はい、難波さん。もう一杯」

難波

どうも

仲居B

「そちらの方もどうぞ」

石神

すみません‥

(え、えーと、これは‥酒池肉林?)

難波

おう、やっと戻ったか。颯馬、氷川

いいだろ~?大勢いると賑やかで

ほら、お前らも飲め飲め

黒澤

はぁ~い!

ウキウキと黒澤さんが仲居さんの元へと行く。

仲居C

「あら、後藤さんが戻ってきましたよ」

仲居D

「後藤さん、私のお酒、飲んでくださいな」

後藤

いや、俺は‥

仲居さんたちが後藤教官を無理やり連れて行く。

颯馬

フフ、確かに賑やかですね

加賀

チッ‥くだらねぇ

仲居さんを断り、颯馬さんと加賀教官は2人で静かに飲んでいる。

東雲

はぁ‥怠

東雲教官はすでに飽きてしまったようだ。

(みんな、自由だな‥)

(私はどうしよう?お酒、好きだけど弱いし‥)

難波

なんだ、氷川。そんなとこでポツンとして

ほら、お前もこっちに来い

サトコ

「えっ?」

すると、室長に呼ばれてしまった。

(颯馬さんは‥)

颯馬

‥‥‥

チラリと横目で見るも、颯馬さんは我関せずと言った様子だ。

(‥止めてくれるわけないか。今は、「教官と補佐官」の関係なんだから)

呼ばれるがまま、室長の元へ行く。

サトコ

「なんでしょう?」

難波

お前、全然飲んでないじゃないか。好きなものを飲め

サトコ

「でも私、お酒は‥」

仲居A

「こちら、女性に飲みやすいカクテルとなっております。よろしかったらどうぞ」

サトコ

「そうなんですか?」

仲居さんがすすめてくれたのは、可愛い桃色のカクテル。

(これくらいなら‥)

受け取り、ひと口飲んでみる。

サトコ

「‥ん、美味しい!」

仲居A

「でしょう?」

サトコ

「はい。ジュースみたいで美味しいです!」

難波

よーし、飲め飲め!

室長に促されるまま、グビグビと何杯も飲んでいく。

難波

お、いい飲みっぷりだな~

サトコ

「ふふっ、そうですか?」

(なんかちょっといい気分になってきたかも‥)

(そうだ、私も教官たちにお酌しなきゃ!)

サトコ

「室長、ビールどうぞ!」

難波

おっ、いいのか?

サトコ

「はい!」

ニコニコと笑顔で室長のコップへビールを注いでいく。

難波

へぇ、案外上手だな。いつの間にそんなこと覚えたんだ?

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サトコ

「わっ!」

ガシガシッ!と室長が私の頭をかき回す。

難波

よーしよし、えらいぞ~!

サトコ

「ちょ、ちょっと、止めてください!」

難波

はははっ!

(室長、完全に子ども扱いしてる‥!)

室長から離れ、瓶ビールを片手に皆さんへお酌をしに行く。

サトコ

「加賀教官、どうぞ」

加賀

遅ぇ‥さっさと注ぎやがれ

サトコ

「うっ‥す、すみません」

「石神教官も、いかがです?」

石神

‥ああ

サトコ

「はい、後藤教官」

後藤

すまない‥

サトコ

「はい、黒澤さん」

黒澤

いや~、悪いですね~

(よしっ、順調順調!)

(この前、授業でハニートラップを学んだからね)

(最後は‥)

サトコ

「颯馬教官」

颯馬さんの隣へひざをつき、小声で話していく。

サトコ

「やっと颯馬さんのところへ来れました」

「さ、ビールをどうぞ」

颯馬

サトコさん‥ちょっと飲み過ぎではないですか?

サトコ

「そうですか?」

颯馬

‥‥‥

呆れたような様子の颯馬さんを気にせず、お酌をしていく。

サトコ

「これくらいでいいですか?」

颯馬

ええ

(こうやって好きな人にお酌できるのっていいな‥)

<選択してください>

A: どんどん飲んでくださいね

サトコ

「どんどん飲んでくださいね」

颯馬

‥私を酔わせてどうするつもりですか?

サトコ

「えっ!」

颯馬

フフ、冗談です

B: 嬉しいです

サトコ

「‥嬉しいです」

颯馬

嬉しい?

サトコ

「教官が、私のお酌でお酒を飲んでくれるのが‥」

颯馬

サトコさん‥

グイッと颯馬さんがビールを飲み干す。

颯馬

‥では、もう一杯いただけますか?

サトコ

「はい!」

C: 美味しいですか?

サトコ

「どうです?美味しいですか?」

颯馬

フフ、そうですね

貴女が酌をしてくれると、とても美味しくなります

サトコ

「やった!」

難波

そんじゃ、俺はそろそろ風呂入って寝るわ

みんな、あとは適当に楽しんでくれ

すると、そう言って室長が会場を出て行ってしまった。

東雲

じゃあ、オレも帰ります

黒澤

オレはまだ飲んできます~

石神

お前は飲み過ぎだ‥

後藤

加賀さん、注ぎますよ

加賀

‥ああ

みんな、おのおの移動していく。

颯馬

貴女はどうしますか?

サトコ

「私は‥」

(できれば颯馬さんと帰りたいけど‥)

(颯馬さんはどうするのかな‥)

颯馬

‥もしかして、私を待っていたり?

サトコ

「!」

突然、颯馬さんが顔を近付け、そう囁いてきた。

サトコ

「わ、私、ちょっとトイレ行ってきます!」

黒澤

いってらっしゃ~い!

【廊下】

(‥はぁ)

颯馬さんにからかわれながら廊下に出て、ため息を吐く。

(颯馬さん、私の気持ち、お見通しだったよね‥)

(さっき「あとで」って言ってたけど、それっていつのことなのかな‥)

???

「おっ、いたいた」

サトコ

「えっ?」

すると、廊下の角から誰かが現れた。

難波

姉ちゃん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど‥

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サトコ

「って‥!」

(な‥難波室長!?)

難波

なに突っ立ってんだ?

ほら、早く来てくれって

サトコ

「わっ‥!」

先ほど頭を撫でられた手で、思いきり腕を掴まれる。

サトコ

「えっ、ちょっ‥!」

(力、強い‥!)

(私、どこに連れてかれるの‥!?)

to be continued

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