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元カレ カレ目線 後藤 2話

【教官室】

後藤
···ん?もうこんな時間になるのか

余計なことを考えないように没頭していたせいか、夜も深くなっていた。

(ひと息つくか···)

大きく息をつきコーヒーを淹れると、さっきのことが過る。

後藤
···何か用か?

サトコ
『っ···』

(あんな態度を取ったのに、手伝いを申し出るとは···)

どんなに突き放しても、めげずにくらいついてくる。
それは出会った当時から、変わっていない。

(俺は無意識に、サトコに甘えているんだろうな)
(···いつまでもこんな気持ちを抱えていたら、またサトコを傷つけてしまう)
(このままじゃダメだ···)

サトコにはいつも笑顔でいて欲しい···それは、心からの願いだった。
俺は自分の気持ちを向き合うと、胸が苦しくなった場面を思い返す。

サトコ
『実は幼馴染で、小学校からの友達なんです』
『向こうの方がひとつ上です。だからお兄ちゃんみたいな感じで···』

ハジメ
『思い出、ですか···』
『よく言っていたカフェ、ですね』
『お互い目指すものがあったので、しょっちゅうデートに行けるわけではなかったので···』
『カフェで待ち合わせをしてショッピングモールを回ったり駅前広場で話をしていたよな?』

サトコ
『う、うん···』

後藤
っ···

サトコとアイツのことを思い出すだけで、胸が酷く締め付けられる。

(俺は‥アイツに嫉妬していたのか)

後藤
ヤキモチって、こんなに胸が痛いんだな···

ふと、サトコと夏月のことを話していた時のことを思い出す。

(あの時のサトコ、複雑そうな顔していたな)
(本人は隠しているつもりだろうが···)

素直な彼女に一瞬だけ頬が緩むも、再び罪悪感が芽生える。

(アイツもこんな苦しい思いを抱えていたのに···我慢していつも俺の傍で笑ってくれてたんだな)

健気なサトコに、愛しさが募っていく。

後藤
···もう一度、サトコと話そう

携帯を取り出し、サトコに電話を掛けようとした時···

後藤
···ん?

ディスプレイに、LIDEの通知が届いた。

サトコ
『明日、少しでもいいので会えませんか?』

後藤
サトコ···

こんなに真っ直ぐで頑張り屋で···俺について来ようとする女なんて、他にはいない。
絶対にサトコを手放したくない···そんな強い想いが生まれる。

(俺に夏月がいたのと同じように、アイツに元カレがいたのは大切な過去のはずだ)
(それを否定するようなことはしたくない)

後藤
だったら···

『わかった』と返信し、居酒屋での記憶を辿る。

ハジメ
『カフェで待ち合わせをしてショッピングモールを回ったり駅前広場で話をしていたよな?』
『初めてデートしたのも、近くの公園でしたし···』

(···よし!)

携帯のブラウザを立ち上げ、とある場所を調べていく。
その作業は、夜遅くにまで及んだ。

【街】

翌日。

サトコ
「······」

後藤
······

待ち合わせ場所のカフェから出ると、気まずい空気が漂っていた。
サトコはせわしなく視線を動かしている。

(緊張しているんだろうな)
(本当、分かりやすい奴···)

サトコ
「あ、あの···」

口を開きかける前に、そっと手に触れる。

サトコ
「後藤、さん···?」

思った通りの反応を示したサトコに、フッと笑みが漏れた。

サトコ
「っ···」

再び無言が続くも、サトコは嬉しそうに微笑んでいて···
少しずつ、心の霧が晴れていくのを感じた。

【雑貨屋】

サトコ
「あっ、可愛い!」

ショッピングモールの雑貨屋に入って早々、サトコはパッと顔を輝かせる。

(猫の置物か?二匹で対になっているのか···)
(いかにも女が好きそうな感じだな)

サトコ
「ふふっ、キョトンとした顔が可愛いな」

後藤
欲しいのか?

サトコ
「へ···?」

サトコは驚いたような声を上げると、「お揃いにしたい」と顔を赤くしながら言ってくる。

(そういえば、お揃いのものなんて持ってなかったな)
(正直、そこまで興味があるわけじゃないが···)

期待の眼差しで様子を窺ってくるサトコが、あまりにも可愛くて。

(サトコとお揃いのものなら、悪くない)

猫の置物を手に取ると、サトコと一緒に会計に向かった。

【駅前広場】

ショッピングモールを一通り回ると、駅前広場にやってきた。

サトコ
「あ、後藤さん!クレープ屋さんがありますよ!」

サトコは目を輝かせながら、俺の袖を引っ張る。

サトコ
「あ、ココのお店、今人気のとこだ」

後藤
食べてくか?

サトコ
「はい!」

元気よく頷き、真剣な目でメニュー表を眺める。

サトコ
「チョコバナナにしようかな···」
「あっ、いちごもすごく美味しそう···!」

いつになく真剣なサトコに、笑みが漏れる。

店員
「いらっしゃい、何にします?」

サトコ
「ちょ、ちょっと待ってください。今、決めるので···」

後藤
チョコバナナといちごをください

店員
「はいよ」

サトコ
「へ···?」

後藤
両方食べたいんだろ?だったら、半分にすればいい

サトコ
「で、でも···!」

後藤
遠慮するな

サトコ
「···ありがとうございます」

ニコニコと、サトコは満面の笑顔になる。

サトコ
「いただきます!」

大きな口を開けて、ぱくりとひと口。

サトコ
「ん~、美味しいです!」

(俺には少し、甘すぎるが···)

でも、幸せそうに頬張るサトコに、見ているだけで気持ちが伝染してくる。

後藤
こっちも食べるだろ?

サトコ
「えっ···」

いちごのクレープを差し出すと、サトコの動きが止まった。

サトコ
「あ、あのあのあの···!」

後藤
どうかしたか?

サトコ
「こ、これって···『あーん』ですよね?」

後藤
···っ!

サトコに指摘され、はたと気づく。

後藤
···嫌なら食べなくてもいい

サトコ
「い、嫌じゃないです!食べさせていただきます!」

口元にクレープを差し出すと、先ほどよりも小さな口でクレープを食べた。

後藤
どうだ?

サトコ
「美味しい、です···」

よほど照れ臭いのか、サトコの視線は不自然に泳いでいる。

(本当、コロコロ表情が変わる奴だな)

そんなサトコに、昨日までの曇っていた気持ちが嘘のように吹き飛んでいた。

【図書館】

駅前広場を後にした俺たちは、図書館にやってきた。

サトコ
「······」

サトコはキョロキョロと辺りを見回しながら、どこか不安そうな顔をしている。

(さすがにここまでくれば気が付くか···)

サトコは顔を上げると、おずおずと口を開く。

サトコ
「あの···」

言いかけた唇に指を当て、言葉を遮った。
わずかに揺らぐサトコの瞳に、意を決して口を開く。

後藤
···アイツが、アンタの初めてをいっぱい知ってて悔しかったんだ

俺の言葉に、サトコは少し驚いた顔をする。

後藤
だから、アイツとの思い出を、俺との思い出に塗り替えたかった
···そんなことしなくても、アンタはちゃんと俺のことを見ていてくれるのにな

サトコ
「後藤さん···」

指を離すと、サトコはキュッと口元を結ぶ。
それだけで、サトコが何を想っているのか痛いくらい伝わってくる。

(こんな独占欲、みっともないかもしれないが···)

サトコの中の思い出が、俺でいっぱいになってほしい······強くそう思った。

後藤
···アンタもこんな気持ちだったんだな

サトコ
「え···?」

後藤
俺と···夏月のことだ
アイツとのことで···知らない間にアンタを傷つけていた

サトコ
「······」

サトコは一度目を閉じ、キュッと拳を握る。
そしてゆっくりと瞼を開けると、強い瞳が俺を捕らえた。

サトコ
「···お互い、ハジメとの思い出も夏月さんとの思い出も、消せるものじゃないです」
「私にとっても後藤さんにとっても、大切なものだと思うから···」
「だけど、もう過去の思い出でしかないんです」

後藤
サトコ···

サトコ
「私も、これからたくさん、後藤さんと思い出を作っていきたいです!」

(サトコも、俺と同じ思いだったんだな)

衝動的にサトコを抱きしめて、彼女の額へキスを落とす。

後藤
アイツが最初なら···俺が最後の男になればいい

サトコ
「えっ···」

俺の言葉に、サトコの顔は見る見るうちに赤くなっていった。
サトコは辺りを気にするそぶりを見せていたが、
そんなささいな仕草さえも愛しいという気持ちを強めていく。

後藤
···今日は、アンタを離したくない

サトコ
「後藤さん···」

サトコはふわりと微笑むと、俺の服をキュッと握る。

サトコ
「ふふっ、これも新しい思い出ですね」

後藤
···そうだな

微笑みあうと、どちらからともなく口づけを交わす。
人目をはばからないキスは、お互いしか見えなくなりそうなほど深さを増していく。

(俺を好きになったこと、絶対に後悔させない)

そんな想いを伝えるように、たくさんの愛情をキスに込めた。

【帰り道】

サトコ
「さっきはビックリしましたね」

後藤
まぁ、な···

図書館を出た俺たちは、手を繋ぎながら帰路についていた。

後藤
ああなるのは、分かってたことなのにな···

図書館での出来事に、苦笑する。

【図書館】

サトコ
「ん···」

互いの気持ちを確かめ合い、名残惜しそうに唇が離れる。

サトコ
「ふふっ」

額を合わせながら、照れ臭さそうに微笑みあっていると‥

???
「コホン」

後藤
ん?

咳払いが聞こえ視線を向けた先には、図書館の職員がいた。

2人
「っ···」

呆れが混ざったような眼差しに、俺たちはパッと身体を離した。

後藤
い、行くか

サトコ
「そ、そうですね!」

俺たちは逃げるかのように、図書館を後にした。

【帰り道】

(あの時の衝動は、抑えられるようなものじゃなかったが···)
(もう少し、周りを気にするべきだったな)

公安たる者、目立つ行動は極力控えるべきだ。

(常々生徒たちに話しているくせに、自分があっさりと破ってしまうとは···)

少し前の自分では、考えられなかった。

サトコ
「ほんと、顔から火が出るかと思いました」
「いつから見られてたんでしょうか···」

恥ずかしそうに頬に手を当てるサトコに、笑みが零れる。

(あんなくだらないことでも、2人の思い出なんだな)

そんなことを考えていると、サトコとの分かれ道が訪れる。

後藤
······

ふと足を止めると、サトコが首を傾げながら俺を見上げた。

サトコ
「どうかしたんですか?」

後藤
···俺の家に来ないか?

サトコ
「え?」

サトコは驚きの声を上げるが、すぐに満面の笑顔になる。

サトコ
「いいんですか!?」

後藤
言っただろう?今日はアンタを離したくないって

サトコ
「っ、はい!」

照れながらも嬉しそうに笑うサトコに、精一杯の微笑みを返す。
俺たちは指を絡めるように手を繋ぎ直すと、歩みを進めた。

【後藤のマンション】

後藤
ん···

(なかなか難しいな···)

家に戻ると、サトコと一緒にキッチンに立っていた。
包丁でジャガイモを剥くも、実も一緒にそぎ落としてしまう。

(これじゃあ、食べられる分がほとんどなくなる)

サトコ
「~♪」

チラリとサトコを見ると、鼻歌を歌いながら手際よく調理を進めている。

(さすがだな···)
(いくら苦手とはいえ、俺も負けてられない)

リベンジとばかりに、新しいジャガイモに手を伸ばす。

後藤
くっ···

(何故だ···!)

頑張れば頑張るほど、先ほどよりもそぎ落とされる実が多くなっていく。

サトコ
「······」

後藤
···?

気づいたら、サトコが俺の手元をじっと見ていた。

後藤
···どうかしたか?

サトコ
「あ、すみません···」

サトコは少し迷ったように、口を開く。

サトコ
「その、いつも後藤さんのかっこいい姿しか見てないから···」
「こういうのも見れて嬉しいです」

はにかみながら言うサトコに、頬が熱くなる。

後藤
···これはアンタの思い出に入れるな

サトコ
「ふふ、もう入れちゃいましたよ」

後藤
それなら···

包丁を置くと、腰を曲げてサトコの顔を覗き込む。
目を瞬かせるサトコと視線を合わせ、顔を近付けると···

サトコ
「ん···」

触れるだけのキスをした。

後藤
これも思い出だな

サトコ
「っ···」

後藤
フッ···顔が真っ赤だ

サトコ
「ご、後藤さん!」

後藤
なんだ?

余裕の笑みで返すと、サトコは視線を落とす。

サトコ
「後藤さんはズルいです···」

(本当にズルいのは、サトコの方だ)

照れるサトコも、笑うサトコも、時には泣きそうなサトコも···すべてが愛おしい。
こんなに強い感情を抱いたのは、初めてだ。

(サトコのいろんな表情を、これから先は俺が一番近くで見ていたい···)
(俺がサトコの最後の男になればいいんだ)

サトコ
「後藤さ···んっ···」

遮るように、もう一度‥今度は先ほどよりも長い口づけをする。
お互いがお互いの熱で満たされていくような感覚に、襲われていった。

サトコ
「···はぁ」

唇が離れると、サトコはこれでもかというほど真っ赤になっている。

後藤
ほら、さっさと作るぞ

サトコ
「うぅ···」

サトコは顔を赤くしたまま、観念したように頷く。
そんなサトコに、胸がキュッとときめいたことを隠しながら···肩を並べて調理を再開した。

Happy  End

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