キス&Kiss 【1】
「壊したいほどの衝動」
【加賀 マンション】
サトコ
「‥っ!」
呼吸すらも奪い尽くすような、激しいキス。
すべてを離さないという意思がひしひしと伝わってくるほど、荒々しいものだった。
サトコ
「どうして、こんなこと‥!」
加賀
「身に覚えがないのか?」
「それとも、分かっていてそんな態度を取っているのか?」
目の前には威圧感たっぷりの加賀さんが、私を見下ろしている。
加賀
「まさか、この俺が浮気をされるとはな」
私を壁に追い詰めながら、加賀さんの瞳が冷たく私を射抜く。
サトコ
「だから、あれは誤解なんです!」
「颯馬教官には、目についていたゴミを取ってもらっていただけで‥!」
加賀
「それだけなら、あんなに近づく必要はねぇだろ」
どうすれば誤解だと分かってもらえるか、必死に考えを巡らせるけど
加賀さんを納得させられるような言葉が思いつかない。
加賀
「‥お前がそんなことを出来るわけねぇのに‥」
「‥分かってんのに」
くしゃり、と髪を掻き上げながら、加賀さんがひとり言のように呟いた。
(もしかしてヤキモチ‥?)
いつも自信満々で、横暴なくらいなのに、今はそんな様子が欠片も見えない。
加賀
「みっともねぇ‥」
「‥けど‥サトコの前じゃ、ただの男なんだよ」
サトコ
「きゃっ!」
余裕のない表情のまま、再び加賀さんが私の唇を塞ぐ。
抵抗しようにも、壁に押さえつけられているから、身体を捩ることぐらしか出来ない。
サトコ
「待っ‥!」
私の声が聞こえてるはずなのに、加賀さんからの返事はない。
でもそのキスは‥
(私の気持ちを‥無視しないで‥!)
サトコ
「こんな‥っ」
「こんな乱暴なキス、嫌です‥!」
加賀
「!」
私の気持ちがやっと届いたのか、加賀さんが少し私から離れる。
加賀
「‥逃がさねぇ」
「あいにくだが、俺がお前を手放すわけねぇだろ」
独占欲に満ちた言葉なのに、私を抱きしめる腕はこれ以上ないくらい優しい。
加賀
「‥あんまり、俺を妬かせんな」
加賀さんは自嘲気味に呟きながら、私の頭を撫でた。
この小さな嫉妬が、私の胸をくすぐる。
(私が喜んでいるって知ったら、怒るかな‥?)
加賀さんの温もりを感じながら、私はそんなことを考えていた。
to be continued
キス&Kiss 【2】
「キスすることを許して‥」
加賀
「‥少し頭を冷やしてくる」
小さなヤキモチを妬いた加賀さん。
不意に私を抱きしめていた温もりが離れ、加賀さんはそのまま浴槽へ向かった。
(お風呂?)
すぐにシャワーの音が聞こえてきた。
(‥え!?)
【バスルーム】
サトコ
「な、何しているんですか!?」
浴室に行くと、服を着たままの加賀さんが頭からシャワーを浴びていた。
サトコ
「冷た‥っ!」
「加賀さん、やめてください!」
加賀
「‥悪かった」
サトコ
「え?」
加賀
「お前にそんな顔をさせるつもりはなかったんだ」
「‥あんな、怯えた顔‥」
サトコ
「‥‥」
加賀
「時々、自分が怖くなる」
「この俺がお前のことになると、冷静さを欠いて‥」
一度もこちらを振り向くことはない。
加賀さんが吐き出す言葉は、シャワーの水と一緒に流れて行くように、
気を付けてないと聞き逃してしまいそうだった。
加賀
「‥は、情けねぇ」
自嘲気味に呟く加賀さんの背中が、いつもよりも頼りなくて‥
(加賀さんだって‥不安になることあるんだ‥)
加賀さんの背中におでこをくっつけ、私は目を閉じながら呟いた。
私の気持ちが少しでも伝わるように、と加賀さんのシャツの裾をキュッと掴む。
加賀
「‥離れろ。風邪引きたいのか?」
サトコ
「いいんです。加賀さんの背中、凄く温かいですから」
加賀
「お前、俺を甘やかし過ぎだ」
「‥これ以上お前を縛り付けさせる気か?」
サトコ
「‥いいですよ。加賀さんなら‥」
私の言葉を聞き、加賀さんはゆっくりと振り返る。
そして、私の頬を両手で挟み、まぶたに、こめかみに、頬に、キスをした。
(さっきのとは全然違う‥)
(優しくて、温かい‥いつものキス、だ‥)
冷たいシャワーの中、触れる唇は温かい。
加賀さんの顔がゆっくりと近づき、私はそっと瞳を閉じた。
この小さな嫉妬が、私の胸をくすぐる。
(私が喜んでるって知ったら、怒るかな‥?)
加賀さんの温もりを感じながら、私はそんなことを考えていた。
to be continued
キス&Kiss 【3】
「独占したいキス、俺の腕の中だけに」
【寝室】
私はお風呂を借りて、加賀さんのシャツを身に纏っていた。
(借りちゃった‥)
(加賀さんのシャツ、大きいなぁ‥)
普段は加賀さんのシャツを着るなんて、滅多にないから、妙に気恥ずかしくなる。
加賀
「ずいぶんとソソる顔してんじゃねぇか」
サトコ
「ひゃっ‥」
1人で色々考えていると、加賀さんが背中から優しく抱きしめてきた。
加賀
「暖かいな‥」
「シャツが薄いから、お前のこと‥直に感じてるみたいだ」
耳元で囁かれ、私の心臓はバクバクと早鐘を打ち始める。
サトコ
「か、加賀さんこそ、上着を着てください‥!」
「お風呂で温まっても、それじゃ意味がないです」
加賀
「チッ‥必要ねぇだろ」
加賀さんは、私の頬に口づけながら呟く。
加賀
「どうせ、すぐ脱ぐことになる」
サトコ
「‥っ」
加賀さんの唇が首筋に移動して、ちくりと甘い痛みが走った。
私をソファに押し倒しながら、加賀さんは不敵に微笑む。
加賀
「その顔は、俺だけのものだ」
「‥他の奴と共有するつもりは、一切ないからな」
サトコ
「‥私だって」
「加賀さんにしか、見せるつもりないです‥」
加賀さんの唇が首筋から胸元へと移動していく。
その度に、私の身体が僅かに震えた。
加賀
「当たり前だ」
加賀さんの顔がゆっくりと近づく。
サトコ
「‥っ」
慈しむような優しい温もりに、身体と心が震える。
加賀さんの優しさも厳しさも、そして独占欲も‥
(このキスも、私のもの‥)
(加賀さんも、私の‥)
加賀さんの背中に腕を回しながら、甘い時間が始まるのを感じていた‥
Happy End