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本命チョコ 加賀 2話

【寮 自室】

バレンタインの夜、新しいものを作ると加賀さんに伝えたものの‥

加賀

いらねぇ

(私があまりにもドジで、きっと呆れたんだろうな)

(間違えて加賀さんに渡したチョコも、手作りには違いないけど‥)

でも、それだと特別感がなくなってしまう。

(頑張ってレシピを調べて、なんとか大福が完成したと思ったのに)

(やっぱり‥ダメだ!加賀さんへのプレゼントを石神教官に渡すのも失礼だし)

サトコ

「今からでも遅くない‥石神教官に素直に話して、チョコを取り替えてもらおう!」

決心が鈍らないうちに、寮を出た。

【教官室】

学校に戻ると、石神教官を探しに教官室を訪ねた。

サトコ

「失礼します。石神教官はいらっしゃいますか?」

颯馬

さっき、仕事の電話で出て行きましたよ

後藤

しばらくしたら戻ってくるはずだが

サトコ

「そうですか‥ありがとうございます」

(他の教官たちの前で『チョコを取り替えてください』なんて言うわけにもいかないよね‥)

教官室を出ようとすると、東雲教官の声が追いかけて来た。

東雲

もしかして、あのチョコ取り返しに来たの?

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サトコ

「えっ?」

東雲

あ、違った。チョコじゃなくて、大福か

柔らかいものが大好きな誰かさんに渡すつもりだった‥でしょ?

サトコ

「‥‥!」

(完全にバレてる‥!)

颯馬

こらこら歩、あまりサトコさを追い詰めては、かわいそうですよ

サトコ

「そ‥そんなんじゃないですから!」

慌てて否定すると、逃げるように教官室のドアを閉めた。

【廊下】

教官室から退散して、石神教官を探しながら廊下を歩く。

(いっそのこと、石神教官に電話して今どこにいるか聞いてみようかな)

(学校をやみくもに探すよりも、その方が早いし)

石神

‥氷川?

声を掛けられて顔を上げると、石神教官が向こうから歩いて来るところだった。

サトコ

「石神教官‥!探したんです!」

石神

俺をか?

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サトコ

「はい‥あの、さっきの大福のことなんですけど‥」

石神

‥‥‥

あれなら、もうないぞ

サトコ

「え!?」

石神

そのためにこんな時間まで残っていたのか?

帰って、明日の講義に備えて早く寝ろ

それだけ言うと、石神教官は廊下を歩いて教官室へ入って行った。

(もう、ない‥つまりあのミルクチョコ大福は、すでに石神教官のお腹の中に‥!)

でもそもそも、間違えて渡した私が悪い。

(それなら‥加賀さんに、潔く謝ろう)

(『いらない』って言われたけど、帰ったらもう一度大福を作り直して‥)

考えながら、学校の中をくまなく探す。

でも、加賀さんの姿を見つけ出すことはできなかった。

【個別教官室】

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他の教官たちも帰り、そっと、加賀さんの個別教官室のドアを開けた。

サトコ

「やっぱりいない‥」

もう帰ってしまったのかと思い、さっきメールを送ってみたけど‥

返事は返ってこない。

(どうしよう‥とりあえず私も帰って、大福を作り直して‥)

(‥ん?)

サトコ

「アレって‥!」

加賀さんのデスクに、見覚えのある箱が置いてあるのを発見して思わず二度見する。

それは間違いなく、私が加賀さんのために作ったミルクチョコ大福の包みだった。

(な、なんで!?だってこれは、石神教官の手に‥)

(いや、もしかして包みが同じだけで、別の人からもらったものなのかも)

半信半疑で近づいてみると、箱にはメッセージカードが添えられている。

それは間違いなく、私が加賀さんに書いたものだった。

(どうして‥この大福は今頃、石神教官のお腹の中にあるはずじゃ)

その時、私の携帯が鳴り、加賀さんからのメールを受信した。

『裏庭だ』‥としか書かれていない短文なメールを確認し、

デスクの上の大福を持って、裏庭へと急いだ。

【裏庭】

裏庭に駆け込むと、タバコを吸っている加賀さんを見つけた。

加賀さんはふと何かに気付いたようにタバコを消す。

サトコ

「加賀さん!」

加賀

声がでけぇ

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サトコ

「す、すみません‥」

(あ‥もしかして、私が来たことに気付いたからタバコを消してくれたのかな)

サトコ

「あ、あの‥これ」

自分で持っているものを思い出して、慌てて加賀さんに箱を差し出す。

すると、加賀さんはフッと余裕の笑みを浮かべた。

加賀

クソメガネには、大福はもったいねぇ

あいつはプリンプリン言ってりゃいい

サトコ

「プリンプリン‥」

「でも‥加賀さん、私の大福はいらないって」

加賀

お前の、とは言ってねぇ

わざわざ同じもんを2回も作る必要はねぇと言っただけだ

(じゃあ‥あの時にはもう、石神さんから大福を取り戻してくれるつもりだったの?)

(あんなに仲の悪い石神教官に、直接言って‥)

サトコ

「‥加賀さんのこと、怒らせちゃったかと思いました」

加賀

‥‥‥

サトコ

「2年連続、ちゃんと渡せなくて‥もう、呆れられちゃったかと」

身体の力が抜けて、立っていられず、その場に座り込む。

でもその瞬間、ガッと頭を鷲掴みにされた。

サトコ

「ちょっ、ちょっ、か、加賀さん!痛い!も、もげっ‥」

加賀

人間の頭ってのは、そう簡単にはもげねぇ

試してみるか?

サトコ

「け、結構です!」

なんとか立ち上がると、ようやく加賀さんに頭を離してもらえた。

サトコ

「痛かった‥」

加賀

大福を作ったことは褒めてやる

だが‥失態の分は、帰ってからたっぷり仕置きだ

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サトコ

「やっぱり‥」

これから訪れる恐怖の時間に、恐れおののく私だった‥

【加賀 マンション】

そのまま加賀さんの家にお邪魔すると、早速キッチンを借りてお茶を淹れる。

その間に、加賀さんは私が作ったミルクチョコ大福を頬張っていた。

サトコ

「どうですか?」

加賀

‥悪くねぇ

だが、大福の中にチョコなんざ邪道だ

サトコ

「言われると思いました。でも、バレンタインなので」

邪道、と言いつつも、加賀さんは次々に大福を平らげていく。

(きっと素直に『美味しい』とは言ってもらえないと思ってたけど)

でも無言で食べて行くその様子を見ているだけで、充分嬉しい。

知らずのうちにニヤけてしまっていたらしく、突然、加賀さんが私に口に大福をねじ込んだ。

サトコ

「もがっ」

加賀

だらしねぇ顔してんじゃねぇ

サトコ

「く、苦しっ‥」

ようやく大福を飲み込むと、息も絶え絶えに加賀さんに抗議した。

サトコ

「お、お餅系はダメです!命に関わりますよ!」

加賀

テメェのニヤけ顔がイラつく

理不尽な言葉と共に、ソファに押し倒される。

強引にキスされて、苦しいくらいに、奥を求められた。

加賀

‥甘さが足りねぇ

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サトコ

「でも、あの大福の中身‥ミルクチョコですよ」

加賀

求肥のせいで、甘さ半減だ

‥残りは、テメェの身体で補え

舌が絡まり、最後に唇を舐められる。

そのまま、加賀さんの舌が、私の首筋を濡らしていく‥

サトコ

「待っ‥ぁ‥」

加賀

ご主人にお預け喰らわせた覚悟はあんだろうな?

他の男にチョコなんざ渡しやがって‥どうなるか、じっくり教えてやる

言葉とは裏腹の、チョコよりも甘いお仕置きに身体が満たされる。

加賀さんの背中にしがみつきながら、バレンタインの夜は更けていった‥‥

【教官室】

バレンタインから数日が経過した、ある日のこと。

加賀

おいクズ、さっきの資料はまだか

サトコ

「い、今終わります!ちょっと複雑すぎて、時間がかかって」

加賀

グズが‥さっさとしろ

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舌打ちされて焦っていると、教官室のドアが開いた。

黒澤

ハーイ☆みなさん、今日も楽しく仕事してますか?

颯馬

また来たんですか

後藤

お前‥ちゃんと自分の仕事はしてるのか?

黒澤

もちろんですよ!オレは優秀ですから、自分の仕事なんてすぐ終わっちゃうんです

東雲

あ、そう。じゃあオレの分もやっといて

加賀

このクズじゃ足りねぇと思ってたところだ。残りをやってけ

黒澤

冗談です!

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仕事が遅いので、まだ自分の仕事も終わってません!

石神

ならさっさと帰れ

みんなに追い出されそうになっている黒澤さんに、なんとなく違和感を覚える。

(なんだろう‥?話し方も同じだし、安定の黒澤さんテンションだし)

(‥あれ?黒澤さん、もしかして)

後藤

黒澤‥お前、トレーニングしてないのか?

黒澤

ギクッ

石神

そういえば、なんとなく太ったな

黒澤

ドキッ

東雲

その擬音、ウザい

東雲教官の辛辣な言葉にも、黒澤さんは動じる様子がない。

黒澤

いや~、実は、チョコを食べ過ぎちゃいまして!

やっぱり、もらったものは全部食べないと悪いですし

サトコ

「黒澤さん、そんなにたくさんチョコをもらったんですか?」

黒澤

よくぞ聞いてくれました!今年も、段ボールいっぱいのチョコを食べましたよ!

(ん?今年『も』?)

サトコ

「あ!そういえば黒澤さん、去年は‥」

東雲

どうせ今年も、全部兵吾さんのでしょ

颯馬

今年は、自分宛のチョコがひとつくらいはあったんですか‥?

黒澤

周介さん!そんな気の毒そうな目で見ないでください!

オレだって、チョコのひとつやふたつ‥

後藤

ひとつは、氷川からか

颯馬

ふたつ目は‥妄想ですか?

黒澤

うわーん、歩さん!周介さんがいじめるんですぅ

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東雲

キモッ

くっつくな

サトコ

「あ、あの‥」

教官たちのやり取りを聞きながら、思わず加賀さんを振り返る。

忌々しそうな顔をしながら、加賀さんが舌打ちした。

サトコ

「もしかして、今年も段ボールいっぱいのチョコを‥?」

東雲

あーあ、兵吾さん、せっかく隠してたのに

加賀

ガキが、テメェがバラしたんだろ‥

東雲

違いますよ。透がちゃんとトレーニングして体型を維持してないせいですよ

(去年のバレンタイン‥加賀さんに、他の課の女性たちから大量にチョコが届いて)

(密かに、黒澤さんが食べて処分してるって言ってたけど)

東雲

兵吾さんも罪な人だよね~。あれだけのチョコ、『いらねぇ』のひと言で済ませるんだから

黒澤

おかげで今年もオレは、モテ気分を味わえました☆

颯馬

フフ、気分だけですけどね

後藤

気分だけな

石神

気分だけだろう

黒澤

もう!なんでそうやっていじめるんですか!

加賀

‥‥‥

どうやら加賀さんは、私には内緒にしておきたかったらしい。

不機嫌そうな加賀さんに、つい笑みが零れる私だった。

Happy  End

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