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お返し 石神2話

【ホテル】

サトコ

「う~ん、どこにしよう‥」

私はソファに座り、ガイドブックを見ながら頭を捻らせていた。

(海開きはまだ先だっていうし‥)

石神

行きたいとこは決まったか?

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サトコ

「ちょっと待ってくださいね‥」

「あっ‥!」

(ここなら、この時期でもシュノーケリングできるところがあるんだ)

(珍しい魚がたくさんいるみたいだし、これなら石神さんも楽しめるかも!)

(あ、でも‥)

【合宿】

石神

‥俺は泳げない

サトコ

「え‥」

石神

だから俺は極力川や海には近づかないようにしているんだ

‥ガッカリしたか?

【ホテル】

(いけない‥そもそも石神さんは、海が苦手だったんだ‥!)

石神

どうした?

サトコ

「え、えっと‥美味しそうなものがたくさんありますし、グルメツアーでも‥」

石神

‥貸せ

石神さんは私のガイドブックを手に取り、視線を走らせる。

石神

‥ここに行ってみないか?

サトコ

「え?でも、ここは‥」

石神さんが見せてきたのは、先ほど私が見ていた百合ヶ浜のツアーだった。

石神

グルメツアーもいいが、南の島といったらやはり海だろう?

こういうときくらい、遠慮するな

サトコ

「石神さん‥」

石神さんの優しさが、胸に広がっていく。

サトコ

「はいっ。ありがとうございます!」

【浜】

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サトコ

「わぁ、綺麗‥!」

百合ヶ浜は海の中から砂浜が浮かび上がり、小さな島のように見えた。

海は綺麗なエメラルドグリーンに輝いている。

サトコ

「こんなに綺麗な海なのに、まだ泳ぐことはできないんですね」

(あれ?でも、海に入っている人がチラホラいるような‥)

ガイド

「今日は海の調子がいいので、シュノーケリングが出来ます」

「参加を希望される方は、こちらに‥」

ガイドさんの言葉に心を動かされそうになるも、ぐっと堪える。

(海に来れただけで充分だし、今回は‥)

石神

俺たちも参加するか

サトコ

「えっ‥!?」

石神

「遠慮するなと言ったはずだ‥シュノーケリング、やりたいんだろう?

サトコ

「は、はい。でも‥」

石神

ここは浅いようだし‥お前がいてくれるなら大丈夫だ

それに、お前の前ではかっこよくいたいからな

サトコ

「石神さん‥」

<選択してください>

A: いつもかっこいい

サトコ

「石神さんは、いつでもかっこいいです!」

石神

サトコ‥

サトコ

「へ‥?」

わずかに頬を染めている石神さんに、首を傾げていると‥

(ま、周りの人たちがこっち見てる!)

(ちょっと声が大きかったかも‥)

サトコ

「す、すみません!私‥」

「で、でも、石神さんがいつもかっこいいのは本当ですよ‥?」

石神

あ、ああ‥ありがとな

(石神さん、顔真っ赤だ‥)

照れ臭そうに視線を逸らす石神さんが珍しくて、頬が緩んだ。

B: 何かあったら頼ってください

サトコ

「何かあったら頼ってください。私、学生時代は‥」

石神

「『長野のカッパ』と呼ばれていたんだろう?

サトコ

「ふふ、覚えていたんですね」

石神

当たり前だろう?お前との思い出を、忘れるわけがない

石神さんの言葉が、じんわりと胸に染み込んでいく。

(あんなに厳しかった合宿も‥今となってはいい思い出、かな)

C: 一緒に楽しみましょう

サトコ

「一緒に楽しみましょう!」

石神

ああ、そうだな

石神さんはフッと微笑み、私の頭にポンッと乗せる。

石神

‥まぁ、なんとかなるだろ

サトコ

「え?」

石神

いや、なんでもない

石神さんはそう言いながら、海に入っている人たちをじっと見る。

石神

あれくらいの浅さなら、深く潜らなくても‥

真剣な様子で、シュノーケリングを観察する石神さん。

(なんだ、可愛いかも‥)

いつもの様子からは予想できない一面に、顔がほころんだ。

【水中】

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子どもA

「うわ~、すごいね!」

子どもB

「あっ、あのおさかなかわいい~!」

サトコ

「あ‥‥あれ?」

シュノーケリングに参加したものの‥周りにいるのは子供たちばかりだ。

おまけに、シュノーケリングというよりも、岩場から魚を覗いてみるようなものだった。

サトコ

「もしかしなくても、これって‥」

石神

キッズ向けのシュノーケリングみたいだな

サトコ

「や、やっぱり、そうですよね‥」

石神

お前ってやつは‥

サトコ

「すみません!!ちゃんと確認してなくて‥」

石神

まあ、これならいけるな

石神さんは小さく笑うと、海に視線を向ける。

石神

様々な種類の魚がいるな

サトコ

「あ、この魚って‥クマノミ、でしたよね」

石神

似ているが、似ている種類だな。これは何て言う魚だろうか‥

サトコ

「こっちにはディスカスがいますよ!」

「あれ?でも。少し大きいような‥」

石神

いや、こっちはディスカスで合ってる。環境が良いからここまで育ったんだろう

サトコ

「ふふ、気持ちよさそうに泳いでますね」

石神

ああ

顔を見合わせ、微笑んでいると‥

子どもA

「すごい!何でこんなに知ってるの?」

子どもB

「ねぇねぇ、この魚はなんて名前?」

石神

子どもC

「おじちゃん、こっちのおさかなさんは~?」

石神

なっ、おじ‥!?

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(い、石神さん、ショック受けてる‥)

子どもA

「ねぇねぇ、おしえて~!」

石神

‥コホン。この魚は、ニジハタだ。ハタとしては小さい部類だな

子どもC

「このてんてんがついてるおさかなさんは?」

石神

ルリホシスズメダイだ。この点々は瑠璃色をしているだろう?

子どもB

「あ~、ほんとだ~!おじさんすごいね!」

石神

‥‥‥

そして、こっちの魚は‥

石神さんは子供たちに、丁寧に説明をしていく。

(石神さんが子供たちに囲まれている光景なんて、めったに見られないかも‥)

優しく微笑みながら子どもと接する石神さんに、笑みが零れた。

【浜】

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サトコ

「‥ん?」

シュノーケリングを終えて砂浜を歩いていると、足に違和感を覚える。

(さっきから、足がチクチクするような‥)

その場で屈み、砂をよく見てみると‥

サトコ

「石神さん、砂が星の形をしてますよ!」

石神

星‥?

ああ、そういえば‥

石神さんは思い出したかのように、口を開く。

石神

星型の砂を歳の数だけ拾えば幸せになれる‥そんなジンクスがあったはずだ

サトコ

「素敵なジンクスですね」

(私も持って帰ろうかな‥)

ひと粒ひと粒拾っていると、上から声が降ってくる。

石神

女というのは、ジンクスが好きだな

サトコ

「石神さんも一緒に拾いませんか?」

石神

俺はいい

(確かに、石神さんってこういうのに興味なさそうかも)

(だけど‥)

サトコ

「2人の記念にもなりますし‥どうしてもダメですか?」

石神

‥‥‥

石神さんは小さく息をつくと、私の隣にしゃがむ。

石神

‥今日だけだからな

サトコ

「っ、はい!」

満面の笑みを浮かべて返事すると、石神さんは苦笑いしながら砂を拾い始めた。

サトコ

「そろそろホテルに戻りますか?」

日が落ち始め、手を繋ぎながら浜辺を歩く。

石神

‥いや、最後に行きたいところがある

サトコ

「行きたいところ、ですか?」

石神

ああ。一緒に来てくれないか?

サトコ

「はい‥‥?」

そして、石神さんにつれてこられた場所は‥

【洞窟】

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(うぅ、暗くて歩きづらい‥)

私たちは、ボートに乗ってしばらくしたところにある洞窟にやってきた。

石神

滑りやすいから、足元には気を付け‥

サトコ

「きゃっ!」

石神

っ‥

足を滑らせバランスを崩すも、すかさず石神さんが受け止めてくれる。

石神

ったく、言ったそばからこれとは

サトコ

「す、すみません‥」

石神

危ないから、ちゃんと掴まってろ

石神さんは私の手を強く握り、先ほどよりも歩くスピードを緩める。

(私に合わせてくれてるのかな‥?)

何気ない優しさに、心が温かくなる。

それから、しばらく進んでいくと‥

【鍾乳洞】

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サトコ

「わっ、綺麗‥!」

暗い中、所々青や緑に輝いている光景に息を飲む。

(こんなところがあったなんて知らなかった)

(ガイドブックにも載ってなかったし‥)

サトコ

「石神さん、こんな素敵なところに連れて来てくださってありがとうございます」

石神

お前はこういうところが好きだと思ったからな

石神さんは微笑み、私と向かい合う。

そして私の頭にそっと触れると‥

サトコ

「これ‥」

石神

ハイビスカスの髪飾りだ。お前に似合うと思ってな

恥ずかしそうに‥だけど、真っ直ぐ私の瞳を見つめる。

石神

赤いハイビスカスの花言葉は『勇敢』と『常に新しい美』だそうだ

サトコ

「勇敢と常に新しい美‥ですか?」

石神

ああ。自分の信念を貫き通す、いつも勇敢なサトコにピッタリだろう?

石神さんは私の頬に手を添えると‥

石神

それと‥お前は自分では気づいていないようだが、日々成長している

毎日、驚かされているからな。それは、『新しい美』だろう?

サトコ

「ん‥」

触れるだけのキスをした。

<選択してください>

A: 石神の手に自分の手を重ねる

サトコ

「石神さん‥」

頬に触れている手に、自分手を重ねる。

サトコ

「ありがとうございます。すごく‥嬉しいです」

石神

サトコ‥っ

ニッコリ微笑むと、石神さんは空いている右の手で私を抱き寄せる。

サトコ

「んっ‥」

先ほどとは違う激しいキスに、呼吸さえも奪われそうになる。

サトコ

「っ‥」

力が抜けそうになるも、石神さんの腕が私の身体を支える。

私は必死に石神さんにしがみつきながら、彼の想いに応えた。

B: もう一回してほしい

サトコ

「もう一回、してほしいです‥」

石神

もう一回とは?

石神さんは口元に笑みを浮かべ、私の唇を撫でる。

サトコ

「そ、それは‥」

石神

言わないと分からない

サトコ

「‥石神さん、意地悪です」

石神

悪い。お前が可愛くてつい、な‥

サトコ

「ん‥」

触れるだけのキスが何度か続き、やがて深く繋がる。

慈しむような甘いキスに、心が満たされていく。

C: 石神に抱きつく

サトコ

「っ‥石神さん!」

石神

勢いあまって、石神さんに抱きつくと、耳元で微かに笑い声が聞こえた。

石神

まったく、お前は‥

子どもじゃないんだから、すぐに抱きつくな

石神さんは子どもをあやすように、ポンポンっと私の背中を撫でる。

サトコ

「うっ、すみません‥」

石神

謝らなくていい

俺も‥嫌じゃないからな

フッと微笑むと、コツンと額が合わさる。

私たちはそのまま見つめ合って‥どちらからともなく、口づけを交わした。

長いキスが終わり、私たちは寄り添いながら鍾乳洞を見つめる。

サトコ

「‥そろそろ戻った方がいいですよね」

石神

ああ

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幻想的な場所で、2人きりの時間。

(もう少し、ここにいたいな‥)

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

同じ想いなのか、石神さんもこの場から動こうとしない。

私たちの間に会話らしい会話はなかったけど‥

しばらくの間、優しくて暖かい時間を過ごした。

【海】

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サトコ

「綺麗ですね、夕焼け」

洞窟を出ると、ボートに乗ってホテルに向かう。

海の半分ほど夕日が沈み、エメラルドグリーンだった海は赤く染まっていた。

石神

‥‥‥

サトコ

「石神さん‥?」

夕焼けから視線を外し、向かい側に座っている石神さんを見る。

石神

‥綺麗だな

サトコ

「っ‥」

薄く微笑む石神さんに、キュッと胸が詰まった。

サトコ

「あ、あの‥今日は本当にありがとうございました」

「石神さんと素敵な時間を過ごせて‥本当に嬉しかったです」

石神

ああ

石神さんは私の隣に移動すると、肩を抱き寄せる。

石神

また来よう‥約束だ

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ゆっくり顔が近づき、額に優しいキスが贈られる。

石神さんから受ける愛情に、もっと一緒にいたいという想いが募っていく。

(石神さんに愛されて‥石神さんを愛して、私って本当に幸せ者だな)

サトコ

「はい!約束です」

私は恥ずかしく思いながらも満面の笑みを浮かべて、石神さんの頬にキスを返した。

Happy  End

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