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お返し 難波 2話

【店】

室長に誘われてやってきた、北海道。

でも今、私たちは話がかみ合わないまま、海鮮丼とお刺身を挟んで向き合っている。

サトコ

「えっと‥捜査じゃないんですか?」

難波

だから、なんの話だ?

サトコ

「室長に今日空けとけと言われたので、てっきり捜査のために北海道に来たのかと」

難波

‥‥‥

ああ、なるほど。そういうことか

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ようやく、話が通じたらしい。

難波

捜査だったら、事前に資料見せたり詳細を話したりするだろ?

サトコ

「‥そういえばそうですよね」

「でも、それじゃなんで北海道まで来たんですか?」

難波

そりゃ‥新鮮な刺身が食いたかったからだ

(さ、刺身!?)

<選択してください>

A: 本当にそれだけのために?

サトコ

「ほ、本当にそれだけのために。わざわざここまで‥!?」

「お刺身だったら、築地とかでもよかったんじゃ‥」

難波

まあ、そうだけどな

でもこっちの方が新鮮だろ?

それに築地じゃ、旅行って感じもしないしな

サトコ

「旅行‥」

B: どうして私を誘ったの?

サトコ

「室長がお刺身大好きなのはよくわかりました。でも、どうして私を‥」

難波

一人で北海道旅行はさすがに寂しいだろ?

まあ、まさかお前がそれを、捜査だって誤解してるとは思わなかったけどな

(そりゃ、ちょっとは期待したけど‥)

C: 何か隠してないですか?

サトコ

「‥室長、何か私に隠してないですか?」

難波

俺が?お前に?何をだ?

純粋に首を傾げられて、言葉に詰まる。

(そうだよね。室長は思ったことをそのまま言葉にする人だった‥)

サトコ

「じゃあ、本当にお刺身目的で‥?」

難波

なかなかここまでは来れないから、せっかくだし、ちょうどいいかと思ったんだよ

(つまり、最初から捜査とか関係なく、旅行するために来たってこと‥?)

(なんでその相手が私‥?室長、どういうつもりで!?)

色々と聞きたいことはあるのに、そのどれもが言葉になって出てこない。

口をぱくぱくさせる私を微笑ましそうに見ると、室長が頭をポンポンと撫でた。

難波

今日と明日は完全なオフだ。ちゃんと言わなくて悪かったな

サトコ

「い、いえ‥」

難波

で、何飲む?お前も冷酒でいいか?

サトコ

「‥はい!」

『完全なオフ』という言葉に、一気に気持ちが盛り上がる。

(ってことは‥これ、ホワイトデーデートだって思っていいんだよね)

(室長、最初からそのつもりで誘ってくれてたんだ)

そのあとは、室長の食べ飲みに付き合わされ‥

【かまくら】

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夜になり、かまくらの中で鍋を食べられるスポットにやってきた。

観光客に人気らしく、どうやら室長は先に予約を入れてくれていたらしい。

サトコ

「かまくらの中にこたつがある、って不思議な感覚ですね」

難波

そうだなあ。それに、この‥寒いところで熱いのを食うってのは、いいもんだな

ふたりでカニ鍋をつつきながら、今度は熱燗で乾杯する。

室長は昼間からずっとご機嫌で、楽しそうだった。

(だいぶお酒も回ってるよね‥室長、お酒には強いのに)

(でも、酔った室長を見るのも新鮮だな)

難波

やっぱり、来てよかったな

サトコ

「はい、本当に楽しかったです。室長、ありがとうございました」

難波

いやあ、俺もお前と一緒にいるのは楽しいからな

サトコ

「えっ‥?」

(今の‥どういう意味?)

でもなんとなくそれを尋ねられずにいると、ふと室長が何か思い出したように私を見た。

難波

そうだった。そうだったな

サトコ

「え?」

難波

いや、ちょっと待てよ。確かここに‥

一人で何か納得しながら、ポケットを探っている。

難波

そもそも今日はチョコの礼だってことを完全に忘れてた

ほら。これ、お前にだ

室長がコタツの上に置いたのは‥ジュエリーボックスだった。

サトコ

「‥え?」

何気なく置かれたその箱を、思わず凝視してしまう。

(こ、これってまさか‥いや、だって今までそんな素振り‥)

(でもこれ、間違いなくジュエリーボックス‥じゃあ、この中身はやっぱり‥ゆゆゆ、指輪!?)

一人で焦る私を笑うと、室長が箱を手に取って開ける。

そして、その中身を私に向ける‥!

難波

ほい

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サトコ

「え‥?」

中に入っていたのは、指輪ではなく‥ブリザードフラワーだった。

サトコ

「‥花!?」

難波

なんだ?指輪でも渡されると思ったか?

サトコ

「い、いえ‥その」

(思いました‥!ものすごく期待しました‥!)

声を上げて笑う室長は、きっと私の反応などお見通しだったのだろう。

ブリザードフラワーを、箱ごと私に渡してくれた。

難波

いつもはパチンコの景品だけどな。たまにはこういうのもいいだろ

サトコ

「はい‥すごく綺麗です」

(指輪かも、って思った時には、嬉しいようなビックリしたような気持ちで混乱したけど)

(でも‥室長がくれるものなら、なんだって嬉しい‥)

黄色い花を基調とした綺麗なブリザードフラワーに、思わず見惚れてしまう。

喜ぶ私に、室長はご満悦だった。

サトコ

「まさか、室長からこんな素敵なお返しをもらえるなんて思ってもみませんでした」

難波

またパチンコの景品だと思ったか?

サトコ

「いえ‥この旅行が、お返しなんだと思ってたので」

難波

まあ確かに、そういう気持ちも込めての旅行だったけどな

普通の花はすぐダメになるけど、これは長持ちするんだろ?

サトコ

「そうみたいです。それに、ドライフラワーに比べて色が鮮やかで‥生花みたいですよね」

「これ‥大切にします!本当にありがとうございます」

難波

まあ、そんなに喜んでもらえたならよかった

嬉しそうに、室長がお酒を煽る。

空になったお猪口にお酒を注ぐと、室長がコタツの上の花に視線を落とした。

難波

その花、ちょっとお前っぽいだろ?

サトコ

「えっ?」

(もしかして‥私のイメージで選んでくれたの?)

(嬉しい‥室長の目に、こんなにかわいく映っていられるなら‥)

難波

やっぱり、ひよっこといえば黄色だからなー

サトコ

「ふふ、そうですよね‥」

「‥ひよっこ?」

(ひよっこ‥ひよこ?だ、だから黄色ってこと!?)

難波

なんだ?気に入らなかったか?

サトコ

「いえ‥」

<選択してください>

A: 室長らしいです

サトコ

「なんか‥全体的に、室長らしいです」

難波

よくわからんが、褒め言葉として受け止めておく

(お酒が入ってても入ってなくても、室長って色んな意味でポジティブだよね)

(そういうところが、また素敵なんだけど‥)

B: ひよこじゃないですよ

サトコ

「もう‥私、ひよこじゃないですよ!」

難波

俺にとってはまだまだひよっこだ

まあお前も、あと10年もすればいい女になるかもしれないな

サトコ

「10年後‥その頃、室長は」

難波

おじさん通り越して、おじいちゃんだな

サトコ

「いえいえ、最近の人は70歳でも若いですから」

難波

さすがにそこまで歳食ってないぞ

C: 納得がいきません

サトコ

「気に入らないわけじゃないんですけど、納得がいかないというか‥」

難波

まあお前も、あと20年くらいすれば赤い花が似合うようになるだろ

サトコ

「20年‥」

(そんな歳にならないと、室長に“女”として見てもらえないの‥!?)

その後、閉店時刻が近づいてきたため、室長と一緒にかまくらを出た。

【外】

かまくらを出ると、お酒で火照った頬を醒ましながらのんびりと歩く。

難波

さすが北海道、この時期だとまだ少し寒いな

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サトコ

「バッチリ雪も残ってますからね」

「でも、室長‥大丈夫ですか?なんだか、足取りが」

言いかけたちょうどその時、室長が少しふらついた。

難波

おっと‥

サトコ

「危ないですよ。つかまってください」

難波

悪いな‥いやあ、今日はよく飲んだなー

お前と飲む酒は美味くて、つい飲み過ぎるな

(またすぐそういうことを言う‥)

(室長のことだから、無意識で言ってるんだろうけど)

期待しそうになる気持ちを、慌てて押し込めた。

(室長にとって、私はまだあの花みたいに、“ひよっこ”なんだよね)

(でもいつか、“ひよっこ”を卒業できたら‥)

室長を支えながら歩いていると、暗くて見えにくくなっていたところの雪に足を取られた。

サトコ

「わっ‥」

(ダメだ。転ぶっ‥!)

でも覚悟していた痛みはなく、大きな手が私を支えるように背中に添えられている。

思わず閉じた目をそっと開けると、目の前に室長の顔があった。

サトコ

「!?」

難波

おいおい、お前が転んでどうする

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(し、室長っ‥顔、近っ‥)

私が滑ってバランスを崩した拍子に、支えてくれた室長の顔が吐息を感じられるほどまで近づく。

難波

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

(この流れって‥)

(いや、でもっ‥)

難波

‥ん?

見つめ合い、唇が近づくかと思ったその時‥

真剣な表情だった室長が、パッと私の後ろを覗き込んだ。

サトコ

「え?」

難波

ここには、温泉もあるのか‥

振り向くと、近くにある露天風呂を宣伝する看板が立っていた。

体が離れ、室長が興味深そうに看板の方へ歩いていく。

(は、離れてホッとしたような、ちょっとだけ残念なような‥)

複雑な気持ちでその背中を眺めていると、室長が何気なく振り返った。

難波

次は温泉にでも行くか?

サトコ

「‥ええ!?」

(お、温泉!?それって‥)

難波

もちろん、ふたりきりでな

サトコ

「いや、あのっ‥」

難波

なんてな

サトコ

「!?」

難波

お前はもうちょっと、感情を隠す訓練をしないとダメだなー

それじゃ、取り調べなんてできないぞ

(もう‥!またからかわれた!)

ぐしゃぐしゃと頭を撫でられて拗ねる私を、室長が笑う。

難波

まあ、そのうちにな

サトコ

「え?」

難波

今は、かまくらで鍋くらいがちょうどいいだろ

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サトコ

「‥‥‥」

(この笑顔、本当にズルい‥)

(でも、確かに‥今はこうやって、並んで歩けるだけで充分かも)

またふらつく室長を支える腕に力を込めて、幸せを噛み締めた。

Happy  End

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