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難波 恋の行方編 6話

【ラーメン屋台】

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今日も講義後に山田警備局長の周辺調べ。

ふと気が付くとずいぶん時間が経っており、私は空腹を抱えていつもの屋台にやってきた。

(集中してたから気づかなかったけど、すごいお腹が減ってたみたいだな)

(これなら大盛りでもよかったかも‥?)

(でもそんなことしたら、「お前も一応、女の子なんだぞ?」ってまた室長に呆れられちゃうかな)

ラーメンを食べる手を止め、ふといつかの室長の姿を思い浮かべた。

難波

あの時、俺が小澤さんの言葉に従って捜査を止めていれば‥

小澤さんの命令に逆らってでも、俺が自分で現場に向かっていれば‥

小澤さんは死なずに済んだ

小澤さんを殺したのは、俺なんだ‥

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【ラーメン屋台】

(室長、今頃何を考えて、何してるんだろう?)

室長の寂しげで辛そうな表情を思い出すたび、胸が締め付けられる。

(室長の笑顔を取り戻すためにも、頑張らないと‥!)

他にお客さんがいないことをいいことに、これまで集めた資料を取出し、眺め始めた。

(情報量としては、かなり集められたと思うけど‥)

(あとはこの情報を、正しく冷静に解析しないとだよね)

講義での石神教官の言葉を思い出しながら、もう一度頭から情報を整理しようと呼吸を整えた。

その時、不意に背後から肩を叩かれて‥‥

サトコ

「!?‥鈴木さん!」

鈴木

「やあ、また会ったな」

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鈴木さんは人のよさそうな笑みを浮かべながら、私の隣に座った。

鈴木

「大将、俺にもラーメンお願いね」

「で、キミは何をしてるの?」

言うなり、鈴木さんは私の手から資料を取って眺め始めた。

サトコ

「あ、あの‥!これはっ‥!」

鈴木

「いいじゃないの。俺にも見せてよ」

サトコ

「で、でも‥!」

(どうやって手に入れたって言われたら、どう答えれば‥!)

なんとか取り返そうとするが、鈴木さんは巧みに身体を捻って返してくれようとしない。

鈴木

「ふーん、キミ、こんなこと調べてたんだ‥」

「なるほどね‥」

(特に資料の出所を追及する気はないみたい‥?)

ホッとなった瞬間、鈴木さんの顔色がわずかに変わった。

(あれ?なんかちょっと‥)

サトコ

「あの、鈴木さん?」

鈴木

「ん?」

ハッとなったように顔を上げた鈴木さんは、取り繕うように笑顔を浮かべて資料を閉じた。

鈴木

「何のためにこんなことしてるのか知らないけど、変に関わると消されるよ」

サトコ

「!」

鈴木さんはあくまで笑顔。

でもその雰囲気にはなにかしら強張りを感じさせた。

(なんだろう、この感じ‥)

【学校 資料室】

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鈴木さんと別れた後、迷った私は資料室へと戻った。

(確か、鈴木さんが見てたのは、この辺りだったよね)

私はもう一度、そのページをじっくりと読み直した。

(鈴木さんはこの内容のどこに反応したんだろう‥?)

(そういえば、あの時も‥)

【ラーメン屋台】

鈴木

『考えが違う?一体なにが、どう違う?』

難波

確かに山田さんのやり方はひどかった

でも、別に殺したわけじゃない

鈴木

『お前‥本気でそんな風に思ってるのか?』

『お前が一番、山田を怪しんでたはずだろ!?』

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【資料室】

(鈴木さんってあれだけ情報に通じてる風なのに、山田警備局長と直接の接点はないのかな?)

ふと頭をよぎった疑問。

よくよく考えてみれば、

山田警備局長の周辺からは鈴木さんの関する情報はなにも浮かび上がってこなかった。

(なんだかそれもちょっと不自然な気がするよね‥)

(調べてみた方がいいかも。山田警備局長と室長と鈴木さんの接点)

サトコ

「よし!それじゃ、まずは‥」

後藤

気合入ってるな

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いつの間にか、後藤教官が入って来ていた。

サトコ

「ご、後藤教官‥こんな時間に、お仕事ですか?」

後藤

その言葉、そっくりそのままアンタに返す

私の資料を取り上げると、後藤教官は呆れたようにため息をついた。

後藤

最近妙に一生懸命勉強してると思っていたら、やってたのはこんなことか‥

後藤教官はバサッと資料を机に置いた。

(お、怒られる‥!)

後藤

‥で?俺は何をすればいい

サトコ

「‥え?」

(怒らない‥の?)

後藤

調べているのは、山田警備局長が公安課室長だった頃に関与した事件だろ

俺も手を貸す

サトコ

「後藤教官‥どうして‥」

後藤

分かってないな。アンタが調べてるのは、地雷を踏んだらヤバいヤマだ

アンタのことだ、放っておけば確実に踏むだろ?

サトコ

「‥はい‥」

(私のこと、心配してくれたんだ‥)

それからは、後藤教官と手分けをして新たな資料を集めた。

(この資料は、確か向こうの棚にあったよね‥)

サトコ

「ちょっと、隣の棚に行ってきます」

後藤

ああ

薄暗い資料室に、靴の音が響く。

(もう深夜過ぎか‥)

(後藤教官も疲れてるだろうに、悪いことしちゃったな)

ようやく見つけた資料は、棚の一番上に並べられていた。

サトコ

「う~ん‥!」

思わずうなりながら、必死に手を伸ばす。

(あと少し‥!)

本の下端に指が触れたと思った瞬間、頭越しに伸びてきた手が本を引っ張り出した。

サトコ

「!?」

後藤

こんな時間に、変な唸り声を上げるな

コレか‥?

サトコ

「あ、ありがとうございます‥」

(後藤教官て、やっぱり背高いんだな‥)

思わずしみじみ見ていると、戸惑ったような後藤教官と目が合ってしまう。

後藤

なんだ‥?

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サトコ

「あ、いえ‥」

静寂の中に、私の戸惑ったような声が不釣り合いに響く。

後藤教官は、フッと笑みを浮かべた。

後藤

ボーっとして‥疲れてるんじゃないか?

サトコ

「いえ、後藤教官こそ‥」

後藤

俺は疲れていられないだろ

こんなに後輩に頑張ってる姿を見せられたら

後藤教官の温かな視線にハッとなった。

後藤

アンタは、なんでそんなに頑張れるんだろうな‥

包み込むような、ちょっと呆れたような言葉を残し、後藤教官はデスクへと戻っていく。

(なんでそんなに、か‥)

脳裏をよぎるのは、やはり室長の辛そうな表情だった。

【寮 入口】

サトコ

「こんな時間までありがとうございました」

後藤

明日、遅刻するなよ

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サトコ

「はい」

別れて部屋に戻ろうとすると、暗い廊下の奥からアクビをしながら室長が歩いてきた。

難波

お?おおお?

今のは後藤だよな?

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サトコ

「し、室長‥!」

(なんで室長がここに?)

難波

へえ‥なるほどね~

いいじゃないの

室長はニヤニヤしながら行ってしまう。

(いいじゃないって‥もしかして、何か誤解されてる!?)

【教場】

翌日は、朝から後藤教官の講義。

でも後藤教官は、一切の疲れを感じさせない。

(さすがは後藤教官‥こんな姿を見せられたら、私も疲れたなんて言ってられないよね)

思わずアクビが出そうになるのを必死にこらえ、なんとか講義を終える。

(午前中はなんとかクリア‥!)

終了のベルが鳴ると同時に、どっと疲れが出た。

訓練生が次々と席を立っていく中、なかなか立ち上がれずにいると、

通りすがった後藤教官が立ち止まった。

後藤

大丈夫か?

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サトコ

「あ、はい‥!」

カラ元気で立ち上がった私を、後藤教官は苦笑して見つめる。

後藤

まさか、また資料室に籠る気じゃないよな?

サトコ

「あ、えーっと‥」

(「はい」なんて言ったら、また後藤教官に負担掛けちゃうよね)

後藤

無理するな

今日はあとひとコマだろ。早く帰ってしっかり休め

サトコ

「はい‥」

後藤教官は私の頭にポンと手を置き、相変わらず疲れを見せずに出て行った。

それと入れ替わるように、鳴子が顔をのぞかせる。

鳴子

「なに?なに、なに、今の!」

サトコ

「あれは別に‥」

鳴子

「いいな~、サトコ。私も後藤教官にあんなことされてみたい!」

「なんかもう、見てるだけで惚れちゃいそうだったよ~イケメンだし」

「で?どうなの、後藤教官とは」

<選択してください>

A: 何もあるわけないでしょ

サトコ

「どうなのって、何もあるわけないでしょ?」

「後藤教官と私は、ただの教官と補佐官の関係だから」

鳴子

「はいはい。わかってるって~」

B: 室長みたいなこと言わないでよ

サトコ

「どうなのって、鳴子まで室長みたいなこと言わないでよ」

鳴子

「え、室長、サトコと後藤教官の仲を疑ってるの?

サトコ

「そうじゃなくて、いちいち勧められるんだ。後藤教官はどうだとか‥」

鳴子

「それって、なんか‥嫉妬みたいだね」

C: ああいう人を好きになれたら幸せかも

サトコ

「どうも何も‥ああいう人を好きになれたら幸せなんだろうけど‥」

鳴子

「サトコ‥」

鳴子が切なげな声を出した。

サトコ

「ん?どうした?」

鳴子

「なんか、大人の恋をしてるって感じ‥」

「かっこいい!」

サトコ

「もう、鳴子ったら、からかわないでよ」

鳴子

「ごめん、ごめん。でも、今のサトコいい顔してるよ?」

「私も恋がしたーい」

(恋かあ‥恋って、もっと楽しいものだと思ってたな‥)

【教官室】

今日の最後の授業では、レポートの提出があった。

補佐官として、集めたレポートを教官室へと持っていく。

サトコ

「失礼しま‥」

難波

お、来たな、ひよっこ

いや、違うか‥もう、立派な女だな

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サトコ

「え‥?」

室長は私の質問には応えず、やや大げさに笑みを浮かべた。

難波

よかったな

サトコ

「よかったって、あの‥?」

難波

言っただろ?あいつはオススメだって

(それって、後藤教官のこと!?)

(完全に誤解されてるみたい‥)

サトコ

「あの!」

難波

それはそうと、最近お前、山田警備局長のことを嗅ぎまわってるって?

サトコ

「!」

難波

くれぐれも、やりすぎんなよ

室長の瞳に気がかりが宿った。

サトコ

「大丈夫です。無茶はしませんから」

難波

そうか‥

室長はわずかに微笑むと、部屋を出て行ってしまった。

(行っちゃった‥後藤教官とのこと、ちゃんと否定したかったのに‥)

【街】

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数日後。

私と後藤教官は、再び山田警備局長の警護についていた。

前を歩く警備局長の広い背中を見つめながら、昨日の室長の言葉が蘇る。

難波

くれぐれも、やりすぎんなよ

(そういえば鈴木さんも、「変に関わると消される」なんて言ってたよね)

難波

ボーっとすんな

任務に集中しろ

サトコ

「室長‥!」

途中から合流予定だった室長が、いつの間にか私の隣を歩いていた。

難波

もっと目線を上げろ

こういう場所では、どこから狙ってくるか分からんぞ

サトコ

「はい!」

(狙われたら‥今度こそ撃たなきゃ)

(撃たなければマルタイだけじゃない)

(室長や後藤教官の命も危険に晒すことになるんだから‥!)

自分に言い聞かせながら周囲に目を配るうち、ようやく山田警備局長がビルの中に姿を消した。

(とりあえずはこれでひと安心‥)

ホッとして振り向いた、その時‥‥

(なんだろう?今の、ビルの屋上で、何か光ったよね?)

銃のホルダーに手をかけつつ、もう一度よく目を凝らした。

難波

危ないっ!

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サトコ

「!?」

ドサッ!

パンッ!

室長に突き飛ばされた後、抱きかかえられるようにして2人で一緒に地面に転がる。

私は何が起きたのかもよく分からず、室長の腕の中で呆然となった。

室長は私を守るように起き上がりながら、素早く警官たちに指示を出す。

難波

向かいのビルの屋上だ

すぐに確保に向かえ

後藤

はい!

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難波

絶対に死なせるな。生け捕りにしろよ

後藤

分かりました。行くぞ

後藤教官が警官たちを引き連れて走り去ると、室長はゆっくりと私を起き上がらせた。

難波

大丈夫か?

<選択してください>

A: はい

サトコ

「は、はい‥」

難波

怪我はないようだな

サトコ

「でもなんで‥警備局長もいないのに撃ってきたんでしょう‥?」

難波

さあな‥

B: 室長こそ

サトコ

「し、室長こそ大丈夫ですか?」

難波

人の心配してるってことは、大丈夫みたいだな

サトコ

「あ‥はい。私も、確保に向かいます」

慌てて立ち上がった私の手を、室長がつかんだ。

難波

お前はここにいろ

サトコ

「ですが‥」

C: 何があったんでしょう?

サトコ

「な、何があったんでしょう?」

私はまだ軽く混乱していた。

(撃ってきたのは、警備局長がビルに入った後だったよね?)

(それなのに、なんで‥?)

難波

落ち着け、氷川

怪我はないな?

サトコ

「‥はい、大丈夫です」

「すみません。また役に立たなくて‥」

難波

それはどうかな‥

室長は、着弾地点を見つめて黙り込んだ。

難波

‥‥‥

(あれ?ここって、突き飛ばされる前に私がいた場所じゃ‥)

(もしかして、狙われたのは私‥?)

(なんて、まさかね‥焦って手元が狂ったのかな?)

【車中】

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結局、狙撃犯を捕まえられないまま、私たちは護衛の車で帰路についた。

(警護の時は、防弾ガラス装備の車内にいる時が一番ホッとするなあ‥)

緊張が解けるなり、銃弾をよけて室長の腕の中に倒れこんだ時の感覚が蘇ってきた。

(警護についてたのに、私が守られちゃったな)

(あんな時なのに、私ちょっとドキドキしてた‥)

不謹慎だと思いつつ、室長のぬくもりを思い出して頬が緩む。

(なんだっけ、こういうの‥一緒に危機を乗り越えると、確か恋が芽生えたりするんだよね)

(でも室長には、そんな効果は期待できないか‥)

【教官室】

任務を終えて公安学校に戻ると、先に戻ったらしい室長と後藤教官が話し込んでいた。

後藤

‥‥

難波

‥‥

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(そうだ、改めてお礼を‥)

近づこうとして、そのちょっと微妙な雰囲気に立ち止まる。

(どうしたんだろう?深刻そうな顔して‥)

to be continued

7話

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