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難波 恋の行方編 シークレット2

Episode 5.5

「神社で始まるトライアングル・ラブ」

【学校 廊下】

鳴子

「でさ、その時にね‥」

「って、サトコ、聞いてる?」

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サトコ

「ん?あ、ごめん‥」

「今ちょっと、ボーっとしてたかも」

鳴子

「だと思ったー。私がせっかく近年合コン事情を話してあげてるっていうのに!」

サトコ

「ごめん、ごめん」

千葉

「大丈夫?」

並んで歩いていた鳴子と千葉さんが、一斉に私の顔を覗き込む。

千葉

「ここんとこずっと、疲れた顔してるよね」

鳴子

「根詰め過ぎなんじゃない?なんだか調べものしてるうえに、毎日射撃の自主練もしてるんでしょ?」

サトコ

「うん、まあ‥」

鳴子

「そんな顔してると、あっという間にお肌が角を曲がっちゃうから」

千葉

「まあ、お肌はともかく‥疲れてるときは、やっぱり糖分じゃないか?」

「脳の働きもよくなるっていうし、きっち調べものの作業効率も上がるよ」

サトコ

「そっか、確かに‥」

鳴子

「じゃさ、あんこなんかどう?」

サトコ

「あんこ!?」

(ケーキとかって言うのかと思ったら‥鳴子って、意外と渋いな~)

鳴子

「うん、なんかあんまん食べたくなってきた!」

サトコ

「ああ、あんまんね‥」

(私、あんまんってあんまり得意じゃないんだよね)

(同じあんこなら、おまんじゅうとかの方が‥)

【教官室】

サトコ

「失礼します」

後藤

ああ、アンタか‥

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サトコ

「これ、今日の課題です」

後藤

ご苦労さま。氷川補佐官

思わず敬礼した私を、後藤教官はじっと見た。

後藤

‥‥

サトコ

「な、何か、顔についてますか?」

後藤

ついちゃいないが‥ずいぶんと疲れた顔してるな

サトコ

「あ‥」

(また言われちゃった‥これって、相当だよね‥)

後藤

射撃の自主練を頑張っているのは知っていたが、さすがに根を詰め過ぎだな

過ぎたるは尚及ばざるがごとしって言うだろ

サトコ

「はい、気を付けます」

後藤

頑張るなとは言わないが、ちゃんと気分転換もしろよ?

サトコ

「気分転換、ですか‥」

(そういえば最近、あんまりしてないかも‥)

後藤

アンタ、趣味は?

サトコ

「趣味‥というほどのことは、何も‥」

後藤

そうか‥じゃあ、一緒に来い

サトコ

「?」

【神社】

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パンッパンッ!

後藤教官はよく響く柏手を打ち、そのまま手を合わせた。

私も慌てて手を合わせる。

(お願いごとだよね‥)

(じゃあ、早く山田警備局長の事件を解決して、室長を笑顔にできますように‥)

じっくり目にお願いして顔を上げると、後藤教官が微笑みながら私を見ていた。

後藤

どうだ?たまにはいいもんだろう?

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サトコ

「はい。後藤教官は、ここによく‥?」

後藤

こういう所は心が落ち着くからな

(へえ‥後藤教官は神社とか好きなんだ‥)

後藤

滝もいい

サトコ

「た、滝ですか!?」

「それはつまり‥滝打ち修行みたいなことを‥?」

後藤

いや、ただ見るだけだ

サトコ

「はあ‥」

後藤

滝というのは実に美しい

ただ水が上から下に落ちていくだけなのに、見ているとなぜか心が洗われる気持ちになる

サトコ

「な、なるほど‥」

(ようするに後藤教官は、滝マニアなんだ)

熱心に語りながらも、鳥居の下に来るとサッと回れ右をし、本殿に頭を下げる後藤教官。

その仕草は実に自然で、後藤教官の普段の生活がしのばれる。

サトコ

「しょっちゅう来ていると、お願い事もなくなったりしませんか?」

「それとも、健康のことを毎回お願いしたりするんですか?」

後藤

俺の場合は、その都度違うな

サトコ

「それじゃ、今日は‥?」

後藤

アンタが立派な公安刑事になれますように

サトコ

「え?」

(私のこと、祈ってくれてたんだ‥)

思わずドキッとするが、後藤教官の表情は特に何の変化もない。

(後藤教官て、本当に部下想いのいい人なんだな‥)

後藤

で?アンタは何を祈った?

サトコ

「わ、私ですか‥?」

(なのに私は‥隣で室長のことをお願いしていたなんて‥)

(こんなの絶対に言えない!)

サトコ

「えっとですね、その‥」

難波

あれー?お前ら、そこで何してんだ?

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(室長!?)

突然の声に振り返ると、石段の下から室長が私たちを見上げていた。

【帰り道】

難波

いやー、偶然だな。あんな所で会うとは

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あの後、室長が参拝を終えるのを待って、私たちは3人で神社を出た。

サトコ

「室長もよく行かれるですか?」

難波

捜査は水もんだからな

お宮入りしねえように、一応願掛けくらいはな

(へえ‥室長も捜査の度にそんなことをしてたんだ‥)

難波

あー、神様に手を合わせたら腹減ったな

サトコ

「それ、神様とは関係ないような‥」

難波

ん?

サトコ

「あ、いえ‥」

難波

よし、ちょっと買ってくるから待ってろ

室長は私と後藤教官を残し、目の前のコンビニに入っていった。

サトコ

「意外でした。室長が神頼みなんて」

後藤

あの人は分かってるんだよ。人間にできることには限りがある

時には神様にだって助けてもらわないと、誰かの命を守ることなんかできない

自分たちのしていることは、それくらい大変なことだって

サトコ

「‥‥」

後藤

室長は、あんなに豪快なのに、謙虚なんだ‥

(後藤教官って、すごく上司想いでもあるんだな‥)

難波

お待たせ~

後藤は‥はい、肉まん

ひよっこは、これな

(え‥なんで私はあんまん?)

手渡されたあんまんをジッと見つめていると、室長が不思議そうに首を傾げた。

難波

どうした?なんか文句あるのかひよっこ?

サトコ

「文句と言いますか‥どうして私だけあんまんなんでしょう?」

「できれば私も肉まんの方が‥」

難波

ひよっこはあんまんって決まってんの

つべこべ言わずにしっかり食え

サトコ

「そんな‥」

(いい匂いだな、肉まん‥)

グゥ‥

匂いに誘われるように、お腹が鳴った。

それが聞こえたのか、後藤教官がクスリと笑う。

後藤

ほら、交換だ

サトコ

「え‥」

後藤教官は半分に割った肉まんを私にくれた。

サトコ

「あ、ありがとうございますっ!」

喜び勇んで私も半分にしたあんまんを差し出すと、そこに室長が思い切り食いついた。

サトコ

「!?」

後藤

難波

‥あんまん、うまいじゃねえか

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サトコ

「じゃあ、これは室長に差し上げます」

「後藤教官には、こっちを」

もう半分を後藤教官に差し出そうとした私を、室長が恨めし気に睨む。

難波

お前今日、廊下であんまん食いたいって言ってただろ?

サトコ

「え‥?」

【廊下】

鳴子

『なんかあんまん食べたくなってきた!』

サトコ

『ああ、あんまんね‥』

(もしかしてあれ、聞いてた?)

(食べたいって言ったのはビミョーに私じゃないんだけど‥)

(でも私のこと、一応気にしてくれてたってことだよね!?)

サトコ

「た、食べます!」

慌てて、差し出していたあんまんを引き戻した。

サトコ

「氷川サトコ、あんまん食べます!」

後藤

‥‥

思い切りかぶりつく私を、後藤教官は苦笑気味に見つめている。

でも室長は‥‥

難波

‥‥

口についたあんこには気づかないまま、満更でもなく嬉しそうに私を見守っててくれていた。

Secret  End

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