カテゴリー

石神 続編エピ 2話

【教官室】

(な、何!?この意味ありげな笑みは‥!?)

サトコ

「あ、あの‥何があったんですか?」

恐る恐る口を開くも、加賀教官は眉間に深いシワを刻む。

加賀

知らねぇ。聞きたきゃテメェでクソ眼鏡に聞け

サトコ

「えっ!加賀教官が言い出したのに‥」

加賀

ああ゛?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-020

サトコ

「ひいっ!」

東雲

あ、その反応‥透っぽい

黒澤

加賀さん、サトコさんは仮にも女の子なんですから

もっと優しくしてあげないとダメですよ?

加賀

色気もクソもねぇヤツを女扱いできるわけねぇだろうが

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-021

(は、鼻で笑われた‥!)

颯馬

さて、話はこれくらいにして、そろそろ仕事に戻りますよ

サトコ

「あっ‥」

(まだ石神さんのことを、聞けていないのに‥!)

後藤

どうした?

サトコ

「あの、さっきの石神教官と莉子さんの‥‥」

東雲

さー、今日も頑張って仕事しなきゃ

黒澤

オレもこの後、任務に出なきゃですよー

ニヤニヤしながら棒読みをする教官たちに、言葉を遮られる。

後藤

氷川、他に何か用があるのか?

サトコ

「いえ‥失礼します」

私は肩を落としながら、教官室を出た。

【廊下】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-022

サトコ

「うぅ、気になる‥」

教官室を出て寮へ戻ろうとするも、先ほどの出来事が頭から消えない‥

東雲

あの2人ってさ、なーんか怪しいよね

黒澤

オレも聞いたことがあります!後藤さんも知ってますよね?

後藤

‥なんのことだ?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-023

黒澤

とぼけないでくださいよ~

ここまで言って分からないなんて言わせませんよ!

颯馬

確かに、いくら同期とはいえ、お2人は仲が良いですからね

(それに、加賀教官のあの意味ありげな笑み‥)

(加賀教官は石神さんたちと同期だから、他の教官たちより2人のことに詳しいだろうし)

サトコ

「やっぱり、2人は過去に付き合っていたとか‥?」

「石神さんの元カノって莉子さん‥!?」

(いやいや、まだ決まったわけじゃないんだし‥憶測でものを言うのはダメだよね!)

(何よりも、2人に対して失礼過ぎるし!)

サトコ

「‥余計なことを考えるのは、止めよう」

鳴子

「余計なことって?」

サトコ

「ひゃっ!?」

鳴子

「何よ。その声は‥」

サトコ

「だ、だって、いきなり話しかけるから‥」

鳴子

「ごめん、ごめん。ちょうど通りかかったら、サトコが百面相してたから気になっちゃって」

「それで、何があったの?確か、教官室に行くって言ってたよね?」

「何かあったなら、この鳴子様をどーんと頼って相談してよ!」

胸を張る鳴子に、クスリと笑みが漏れる。

(こういう時、鳴子に相談出来たらいいんだけど‥)

サトコ

「‥余計なことは考えないで、次の試験に集中しなきゃなって思っただけだよ」

鳴子

「え~、本当に?」

サトコ

「本当だって。ほら、寮に戻って勉強しよ!」

私は様々な想いを飲み込むように、鳴子に笑顔を向けた。

【教官室】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-024

数日後。

石神さんの個別教官室のドアをノックしようとすると‥

(‥ん?なんだか、中から声が聞こえるような‥)

???

『もう、秀っちの頼みだからやってあげるんだからね』

???

『すまない。助かった』

(この声は、莉子さん‥?)

親しげな会話が耳をつき、一瞬手が止まってしまう。

(‥ダメダメ!気にしないって決めたじゃない)

サトコ

「失礼します」

【個別教官室】

莉子

「あら、サトコちゃん。こんにちは」

サトコ

「こんにちは」

莉子

「サトコちゃんも秀っちの手伝い?もう、相変わらず人使い荒いんだから」

サトコ

「い、いえ!私は石神教官の補佐官ですから」

莉子

「サトコちゃんったら‥相変わらず、健気で可愛いわね!」

石神

話してる暇があるなら、手を動かしてくれ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-025

莉子

「はいはい。分かっていますよ」

石神

氷川は木下の手伝いをしてくれ

サトコ

「はい」

莉子

「サトコちゃん、よろしくね」

「それじゃあ早速、この資料をまとめてもらってもいいかしら?」

サトコ

「分かりました」

莉子さんから資料を受け取ると、黙々とまとめていく。

サトコ

「‥莉子さん、終わりました。確認してもらっていいですか?」

莉子

「もう終わったの?ちょっと待っててね」

「‥‥‥」

莉子さんは持っている万年筆を置き、資料に目を通す。

(莉子さん、万年筆使ってるんだ‥)

(万年筆を使う人ってあまり見かけないし、なんだか出来る女って感じがしてカッコイイな)

莉子

「‥うん、ちゃんとまとめられているわ」

「もっと時間がかかるかと思っていたけど‥さすが、秀っちの補佐官ね」

サトコ

「ありがとうございます」

(あっ‥)

ふと莉子さんの近くに置かれているカップを見ると、空になっていた。

サトコ

「私、お茶を淹れてきますね」

莉子

「ええ、お願いするわ」

給湯器に水を入れて沸かしている間に、お茶菓子の準備をする。

莉子

「秀っち、ここの確認をしたいんだけど‥」

石神

ああ、これは‥

莉子

「‥なるほど、さすが秀っちね。簡潔な説明で分かりやすいわ」

「そういえば‥あの時もそうだったわよね!」

石神

あの時‥?

莉子

「ええ。私たちが初めて合同で事件に当たった時よ」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-026

サトコ

「‥‥‥」

2人の会話に、ピクリと反応する。

(聞き耳を立てるのは、よくないって分かってるけど‥)

思わず、気になって耳を澄ませてしまう。

莉子

「‥ってことがあったじゃない」

石神

そうだったか‥?

莉子

「忘れちゃったの?相変わらず冷たいんだから」

「まあ、秀っちらしいといえば、らしいけど」

石神

木下。それが終わったら、こっちをお願いしていいか?

莉子

「はいはい」

莉子さんは立ち上がると、石神さんから書類を受け取ってさっと目を通す。

莉子

「ここの部分、専門的な注釈を入れておくわね」

石神

細かいところは、お前に任せる

莉子

「分かったわ」

(整理中の書類って、どれも重要なものばかりだよね)

(それを任せるなんて、莉子さんのことを信頼しているんだな)

(莉子さんも、石神さんのことをお見通しって感じだし‥)

言葉の端々から、2人が今までどれだけの時間を過ごしてきたのか感じられる。

(‥こんな些細なことでショック受けてちゃ、ダメだよね)

(私たちには私たちなりの、一緒に過ごしてきた大切な時間があるんだから)

そんなことを考えながら、お湯を注ごうとすると‥‥

サトコ

「熱っ!」

石神

氷川!?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-027

サトコ

「あっ、すみません。ちょっとお湯が跳ねちゃって‥」

「でも、これくらい大丈夫ですから!」

石神

無理をするな

サトコ

「あっ‥」

石神さんは私の元へ来ると手を取り、水で冷やしてくれる。

石神

こういうのは、早く冷やさないと跡が残ってしまうからな

サトコ

「す、すみません‥」

莉子

「へぇ‥」

珍しいものでも見たというように、莉子さんは石神さんに視線を向ける。

莉子

「‥秀っちがそんなに慌てるなんて、初めて見たわ」

<選択してください>

A: そうなんですか?

サトコ

「そうなんですか?」

莉子

「ええ。サトコちゃんが知っての通り、秀っちは基本的になにがあっても動じないじゃない?」

「そんな秀っちが、慌てるなんて本当に珍しいんだから」

石神

‥木下、少し黙ってろ

莉子

「そんなに凄んでも、私には効かないわよ?」

石神

‥‥‥

莉子

「ふふっ」

眉間にシワを寄せる石神さんに、莉子さんは楽しそうに笑みを浮かべた。

B: 嬉しい、かも‥

(それって、心配してくれたってことだよね‥?)

莉子さんがいるにもかかわらず、石神さんは私の元へ一直線に来てくれた。

(嬉しい、かも‥)

石神

‥何をニヤニヤしているんだ

サトコ

「へっ!?わ、私、ニヤついていました!?」

石神

ああ

(つ、つい‥)

石神

‥‥‥

どこか気まずそうに、石神さんは私から視線を逸らす。

だけど、石神さんに握られている手が熱を持っていくように感じた。

C: そ、そんなことないですよ!

サトコ

「そ、そんなことないですよ!」

「石神教官が慌てるところなんて、たまに見かけますし」

莉子

「そうなの?」

サトコ

「はい」

任務の最中だけでなく今みたいな些細なことでも、石神さんは時折その姿を見せていた。

莉子

「なるほど、ね‥サトコちゃんだけに見せる姿ってことか」

「‥サトコちゃんは愛されているわね」

サトコ

「え?」

莉子

「ふふっ、なんでもないわ」

石神

‥これでいいだろう

サトコ

「ありがとうございました」

お礼を言うと、カップにお茶を淹れていく。

お茶菓子と一緒に、莉子さんがいるデスクにカップを置いた。

サトコ

「どうぞ」

莉子

「ありがとう。‥ん、いい香りね」

莉子さんは万年筆を置き、カップを手に取る。

サトコ

「石神教官も、どうぞ」

石神

ああ

デスクにカップを置こうとした時‥

サトコ

「っ‥!?」

ペン立てにある“とあるモノ” に、目が釘付けになった。

(莉子さんと色違いの万年筆‥?)

石神

どうした?

サトコ

「あっ、いえ‥」

(どうして、お揃いのモノを持っているんだろう‥)

(た、たまたまってことがないとは言い切れないよね、うん!)

サトコ

「なんでもありません」

石神

‥‥‥

(うっ‥)

鋭い視線を向けられ、一歩後ずさる。

石神

なんでもないというような顔には見えないが‥

サトコ

「そ、それは、その‥」

莉子

「ダメよ、秀っち。サトコちゃんが怯えてるじゃない」

「女の子には、もっと優しく声をかけなきゃ」

石神

お前には、関係ないだろう

莉子

「あら、関係ないと口を挟んじゃいけないの?」

石神

ああ言えばこう言う‥

莉子

「その台詞、そっくりそのまま返してあげるわ」

石神

はぁ‥お前は昔からそういう奴だったな

莉子

「お互い様よ」

ニッコリ微笑む莉子段に、呆れたようにため息をつく石神さん。

(対照的な2人だけど、息がピッタリなんだな‥)

(‥って、もう!変に疑うのはいけないって分かってるのに)

一度気になってしまうと、そのことばかり考えてしまう。

サトコ

「‥すみません。用事があるのを思い出しました」

石神

氷川‥?

サトコ

「お先に上がらせてもらいますね」

私は断りを入れて、そそくさと教官室を後にした。

【廊下】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-028

(咄嗟に出て来ちゃったけど、2人に失礼だったよね‥)

(同じ万年筆を持っているからって、何かあるって決まったわけじゃないのに)

(使いやすいものを選んでいったら、同じものに行きついたってことかもしれないし)

サトコ

「‥うん、それだ!」

(たまたま、同じものを持っていただけ。たまたま、同じものを‥)

【教場】

鳴子

「あっ、サトコ」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-030

サトコ

「鳴子に千葉さん‥まだ残っていたんだね」

千葉

「今日の講義を、軽く復習していたんだ」

サトコ

「そうなんだ」

鳴子

「サトコは、どうしたの?」

サトコ

「私は‥」

2人に会った途端、先ほどの不安が顔をのぞかせる。

(ちょっとだけ、聞いてみようかな‥)

サトコ

「あのね、2人に聞きたいことがあるんだ」

「私の親戚の友だちの妹さんのさらに友だちの話なんだけど‥」

鳴子

「また、随分遠いね‥」

私は掻い摘んで、石神さんと莉子さんの話をした。

鳴子

「それって‥絶対に元カノでしょ」

千葉

「そうだな。決定打に欠けるかもしれないけど、万年筆って特別な感じがするし‥」

鳴子

「ペアで持ってたら、なおさら怪しいでしょ」

サトコ

「や、やっぱり‥そう思う?」

鳴子

「うん。サトコだって、好きな人とはお揃いのモノが欲しいって思うでしょ?」

サトコ

「うん‥」

(気にしないようにって思ってたけど‥)

(石神さんの元カノって、やっぱり莉子さんなのかな?)

莉子さんは優しくて、面倒見がよくて‥何より、美人で仕事ができる。

(それに比べて、私は莉子さんに何ひとつ敵わない‥)

勝負をするわけじゃないと分かってはいるものの、地味にショックを受けた。

鳴子

「でも、今は付き合ってるわけじゃないんでしょ?」

「だったら、その元カノを超えるくらい素敵な人になればいいじゃん!」

鳴子の言葉に、道が開ける。

サトコ

「そうだよね‥!」

「今は敵わなくても、これから先は分からないもんね!」

鳴子

「そうだよ。諦めたら、そこで終わりだからね!」

サトコ

「うん!」

鳴子

「って、その子に伝えてあげなよ」

サトコ

「そ、そうだね!ありがとう」

(‥ちょっと私、マイナス思考になりすぎてたかも)

(莉子さんを追い越す‥とは言わないけど)

(莉子さんと同じくらい魅力的な女性になれるように自分磨きを頑張ろう!)

(2人に話を聞いてもらって、よかった‥)

先ほどまで曇りかかっていた心が、青空を見せる。

千葉

「女子ってスゴイな‥」

鳴子

「男子だって、これくらい前向きじゃないと、いい男になれないよ!」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-031

千葉

「そ、そうだな‥」

石神

‥話の途中に、すまない

サトコ

「え‥?」

(っ、石神さん‥)

石神

氷川、ちょっといいか?

サトコ

「わ、私‥ですか?」

鳴子

「私たちは、失礼しますね」

サトコ

「ちょ、ちょっと‥」

鳴子

「ほら、千葉くんも行くよ!」

千葉

「‥う、うん?」

サトコ

「あっ、鳴子!」

鳴子

「それじゃあ、また明日ね?」

「石神教官、失礼します」

石神

ああ

鳴子は微笑むと、千葉さんを連れて教場を出て行った。

<選択してください>

A: 私も用事があるので‥!

(なんだか、居づらい‥!)

サトコ

「あ、あの‥私も用事があるので‥!」

石神

待て

石神さんは、踵を返そうとする私の手を掴む。

石神

なぜ逃げる?

サトコ

「っ‥」

真っ直ぐな瞳で見つめられ、私は石神さんに向き直った。

B: 莉子さんはいいんですか?

サトコ

「莉子さんはいいんですか?」

石神

木下‥?アイツなら、研究所に戻った

サトコ

「そう、ですか‥」

石神

‥氷川

石神さんは一歩一歩、私に近づいてくる。

そして、少し手を伸ばせば触れ合うという距離まで来ると、足を止めた。

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

C: もしかして、ミスをしたんじゃ‥

サトコ

「もしかして、ミスをしたんじゃ‥」

石神

は?

サトコ

「さっきの書類整理です!」

「す、すみません、すぐにやり直して‥」

石神

‥落ち着け、氷川

石神さんは苦笑しながら、私の頭にポンッと手を置く。

石神

書類なら、よくまとめられていると木下も言っていただろう?

サトコ

「は、はい‥それなら、よかったです‥」

(それじゃあ、一体なんの用なんだろう‥?)

私たちの間に、沈黙が訪れる。

それを破ったのは‥

石神

‥何かあったのか?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-032

サトコ

「え‥?」

石神さんのひと言に、私は目を丸くした。

to  be  continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする