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石神 続編エピ 3話

【教場】

(何かあったって‥)

サトコ

「どうして、ですか‥?」

石神

この前から、様子がおかしかっただろ?

さっきだってそうだ。もし何か思うことがあるのなら、ちゃんと話してくれ

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サトコ

「石神さん‥」

(気づいてたんだ‥)

前々から、よく東雲教官に『サトコちゃんって分かりやすいよね』って言われていた。

(この前も、莉子さんに『分かりやすい』って言われたっけ‥)

(こんなんじゃ、公安刑事失格だ)

サトコ

「すみません‥」

石神

いや、なんと言ったらいいか‥

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考えていることを察したのか、石神さんは一瞬照れくさそうな顔をし、真っ直ぐ私を見据える。

石神

俺が、お前の些細な変化に気づくようになったからだ

サトコ

「っ‥」

大きな手で頭を撫でられ、息を呑んだ。

柔らかい笑みを浮かべる石神さんに、温かい気持ちが広がっていく。

(そんなに気にしてくれていたなんて‥)

(私は自分の事ばかりで‥石神さんのこと、ちゃんと見てなかったんだ)

(思うだけじゃ、伝わらない。ちゃんと、言葉にしないと‥)

サトコ

「石神さん‥私ももっと、石神さんのことが知りたいです」

石神

俺のこと‥?

石神さんは不思議そうに、私を見た。

サトコ

「はい。私はまだ石神さんのことを知らないんだって、気づいたんです」

「だから、どんな小さなことでも石神さんのことを知りたいって‥」

石神

‥何かあったのか?

言葉が尻すぼみになる私に、石神さんは優しく問いかける。

サトコ

「そ、その‥‥」

「石神教官は莉子さんと付き合ってるんですか?」

石神

は‥?

サトコ

「ああっ、間違えました!『付き合っている』じゃなくて、『付き合ってた』かです!」

「それがずっと、気になっていて‥」

石神

‥‥‥

(ひいっ!黒いオーラが漂っている‥!?)

石神

‥なぜ、そうなる

サトコ

「あ、あのあの‥‥」

石神

誰が言ったんだ?

サトコ

「そ、それは、ですね‥」

石神

‥‥‥

石神さんの威圧感に耐えられなくなった私は、おずおずと口を開く。

<選択してください>

A: 莉子さんと仲が良いから

(もしかしたらって思うようになったのは、教官たちの話を聞いてからだけど‥)

(ここでヘタに名前を出したら、加賀教官に殺される‥!)

サトコ

「莉子さんと仲が良かったから、です」

石神

仲が良い?俺たちがか?

サトコ

「は、はい。ツーカーの仲といいますか、お互いのことをよく知っているようにみえるというか‥」

石神

木下とは付き合いが長いだけだ。だから、そう見えるだけだろう

それよりも‥他に理由があるしょうに見えるけどな

サトコ

「そ、それは‥!」

石神

まあ、大体の見当はつくが‥

石神さんは呆れたように、深いため息をついた。

B: 教官たちが‥

サトコ

「教官たちが‥」

石神

‥アイツらか

サトコ

「い、いえ!明確に言っていたわけではなく、それっぽいことを臭わせていたと言いますか‥」

「教官たちの話を聞いて、もしかしたらって思ってしまったんです」

「だって、あの加賀教官の笑み、すごく怪しかったし‥」

石神

ん‥?なんだ?

サトコ

「い、いえ!何でもないです‥」

石神

とにかく、アイツらはお前の反応を面白がっていただけだろう

それに俺と木下が付き合っていないことを、加賀が知らないわけがない

(で、ですよねー‥)

簡単に騙されてしまう自分の浅はかさに、肩を落とした。

C: 誰がと言うわけではない

サトコ

「誰がと言うわけではないと言いますか、いろいろなことが重なった結果と言いますか‥」

(きっかけは教官たちだとしても、暴走しちゃったのは私だし‥)

石神

歯切れが悪いな。まぁ、大方の予想はつくが‥

お前は、素直だからな

柔らかい笑みを浮かべる石神さんに、トクンと胸が跳ねた。

石神

もう少し、ずる賢さを覚えた方がいい

じゃないと、いつまで経ってもアイツらから、からかわれ続けるぞ

サトコ

「そ、それは嫌です!」

(だけど‥)

先ほどの石神さんの言葉を反芻する。

石神

俺が、お前の些細な変化に気づくようになったからだ

サトコ

「もし今度からかわれたら‥その時は、助けてくれますか?」

石神

それは‥お前次第だな

サトコ

「ええっ!?そこは、助けてやるって言うのが鉄板じゃ‥」

石神

冗談だ。ちゃんと助けてやる

どこか楽しそうに話す、石神さん。

(莉子さんとのことは、やっぱり勘違いだったんだ‥)

先ほどまでの迷いが晴れ、ホッと息をつく。

石神

‥サトコ

サトコ

「あっ‥」

石神さんはフッと微笑むと、私の身体を優しく抱きしめた。

サトコ

「石神、さん‥?」

口元に笑みを浮かべたまま、石神さんは私の耳元に唇を寄せる。

石神

アイツとはただの同期だ

お前が心配するようなことは何もない

サトコ

「石神さん‥」

石神

‥今、俺が好きなのはお前だけだ

それじゃあ、ダメか‥?

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サトコ

「っ‥」

石神さんの言葉に、胸が詰まる。

サトコ

「いえ‥充分です」

石神

そうか‥

微笑み合うと、ゆっくりと顔が近づいていく。

それと同時に、私は瞳を閉じた。

(‥‥?)

いつまで経ってもやってこない感触に、目を開ける。

石神

‥さすがに、教場ではよくないな

サトコ

「そう、ですよね‥」

(わ、私ったら、期待しちゃって‥恥ずかしい)

身体が離れると、石神さんはいたずらな笑みを浮かべる。

石神

そんなに期待してたのか?

サトコ

「っ!?そ、それは‥」

石神

この続きは‥また後でだ

サトコ

「え‥?」

石神

今日の夜、家に来ないか?

サトコ

「っ、はい!」

思わぬお誘いにパッと顔を輝かせ、勢いよく返事した。

【石神 マンション】

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一旦、寮に帰った私は、石神さんの家にやってきた。

サトコ

「石神さん‥今日は本当に、すみませんでした!」

ソファの上で正座をし、深々と頭を下げる。

石神

そのことなら、もういい

サトコ

「そうなんですが‥こう、改めて思い返すと恥ずかしいと言いますか‥」

「と、とにかく!ちゃんと謝っていなかったのもありますし」

「私の心の平穏のためにも謝罪を受け入れてください!」

石神

お前らしいというか‥相変わらず、頑固だな

サトコ

「が、頑固なのは嫌ですか‥?」

石神

そうは言っていない

頑固ということは、自分の信念を曲げないと言うことだ。それは、お前の長所の一つだからな

‥俺はお前のそういうところに、何度も救われてきた

お前は気付いていないだろうけど、な

石神さんは苦笑いしながら、ポンッと私の頭に手を置く。

そして立ち上がると、綺麗にラッピングされた箱を持ってきた。

サトコ

「これは‥?」

石神

開けてみろ

促されて、可愛いラッピングを丁寧に開けていく。

そして、箱を開けると‥

サトコ

「お揃いの、マグカップ‥?」

石神

ああ。お前は本当に分かりやすいからな

前にデートした時、お揃いのものを選んでいる大学生のカップルが羨ましいと思っていた。

(石神さん‥それも気づいてたんだ‥)

<選択してください>

A: ありがとうございます!

サトコ

「ありがとうございます!」

「子どもっぽいかもしれないですけど」

「石神さんとお揃いのものがあったらなって思ってたんです‥」

石神

‥お前が頑固というのもあるが、我慢させていたのは俺の方だったな

サトコ

「え‥?」

石神

俺がそういうの苦手だと思って、言わずにいたんだろう?

サトコ

「‥はい」

石神

そうか‥

石神さんは苦笑しながら、言葉を続ける。

石神

気づくのが遅くなって、すまなかった。これからは、何かあったら言って欲しい

それに‥

B: 嫌じゃないんですか?

(お揃いのものなんて、すごく嬉しい。けど‥)

サトコ

「嫌じゃないんですか?」

石神

まぁ‥確かに、得意ではないな

だけど、お前は欲しかったんだろう?

サトコ

「はい‥」

遠慮がちに答える私に、石神さんは優しく微笑む。

C: 石神に抱きつく

サトコ

「っ、石神さん!」

石神

っ!?

サトコ

「ありがとうございます!実はちょっと憧れてて‥」

石神

‥ずっと、我慢させていたんだな

僅かに頬を赤らめながら、石神さんは私の背中を撫でる。

石神

‥すまなかった

サトコ

「謝るのは、私の方です。石神さんはこういうの苦手なのに‥」

石神

いや‥

石神さんは私の両肩に手を置くと、そっと身体を離した。

石神

お前となら、これもアリだと思ったんだ

恥ずかしそうにしながらも、石神さんはハッキリと口にする。

サトコ

「‥そう思っていただけるだけで嬉しいです!」

「このマグカップ‥お互いの家にあるっていうのもいいですが」

「せっかくだから、一緒に使いたいです」

石神

それじゃあ、家に来た時に使えばいい

サトコ

「はい!」

テーブルに、マグカップを並べて置く。

隣り合わせに置いているだけで、顔がほころんだ。

(今だったら、聞けるかも‥)

サトコ

「あの、石神さん‥お聞きしたいことがあります」

「莉子さんとお揃いの万年筆なんですが‥」

石神

万年筆?

‥ああ、卒業記念品のことか

サトコ

「卒業、記念‥?」

「ええっ!?あれ、卒業記念品なんですか!?」

石神

まさか‥俺と木下が、わざわざペアで買ったと思ったのか?

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サトコ

「は、はい‥」

(あれだけ悩んだのに、まさかこんなオチだったなんて‥)

思いもよらぬ結末に、がくりと項垂れる。

石神

サトコ‥前に、焦るなと言ったのは覚えているか?

石神

何も焦る必要はない‥お前はちゃんと、成長している

自分の手で得た経験以上に身になるものはない。そろそろ自信を持っていいんじゃないか?

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サトコ

「はい‥」

あの日の言葉は、確かに私の胸に刻まれていた。

石神

焦るなと言ったのは、仕事だけじゃない

‥俺とのことだって、同じだ

今回の出来事で、自分がどれだけ焦っていたのかと痛感する。

(目の前のことだけじゃなくて、もっと周りのことを見ないとダメなんだ)

サトコ

「すみませんでした‥」

石神

俺は謝ってほしいわけではない。お前に勘違いしてほしくないんだ

サトコ

「っ‥」

頬に手が添えられ、熱い視線が送られてくる。

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石神

俺にとって、お前とのこれからが一番大事だ

他の誰でもない‥お前の隣が、一番落ち着く

唇が触れ合いそうなほど、近い距離。

鼓動が早鐘を打ち、石神さんに伝わってしまいそうだった。

サトコ

「石神、さん‥」

愛しげに見つめられ、射抜かれたように身体の自由が利かなくなる。

石神

もっと俺のことを‥信用しろ

サトコ

「んっ‥」

そして、優しい口づけが贈られる。

甘く、とろけそうなほど濃厚なキス。

私たちは求め合うように、何度も何度も口づけを交し合った。

【教官室】

数日後。

サトコ

「失礼します。レポートを提出しに来ました」

加賀

そこに置いておけ

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サトコ

「はい」

加賀教官のデスクに、集めたレポートを置く。

(あっ‥)

加賀教官の手には、石神さんたちと同じ万年筆が握られていた。

(加賀教官も、使ってるんだ‥)

加賀

何見てんだ、クズ

サトコ

「す、すみません」

黒澤

今日もニコニコ、黒澤透がやってきましたよ~!

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東雲

あっそ

加賀

さっさと失せろ

颯馬

相変わらず、元気だけが取り柄ですね

後藤

サボってばっかいないで、仕事しろ

黒澤

うわ~ん!サトコさん、皆さんが冷たいです!

サトコ

「そんな、私に言われても‥」

(黒澤さんの場合、自業自得というか‥)

黒澤

その顔は‥オレのことを『自業自得』だと思っていますね!?

オレを敵に回したらいけませんよ?

こっちには、石神さんと莉子さんに関する情報が‥

サトコ

「‥‥‥」

黒澤

って、無反応ですか!?もしかして、バレちゃったとか‥?

サトコ

「‥やっぱり、からかってたんですね」

黒澤

ははっ、サトコさんは面白い反応をしてくれますからね

(やられた‥)

(面白い反応どころか、真に受けちゃったじゃない!)

楽しそうに笑う黒澤さんとは裏腹に、私は小さくため息をついた。

【廊下】

莉子

「‥あら、サトコちゃんじゃない。最近、よく会うわね」

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サトコ

「り、莉子さん!こんにちは」

莉子

「ねぇ、秀っちは教官室にいる?」

サトコ

「いえ、見かけていないのでどこかに出ているんだと思います」

莉子

「そう‥」

莉子さんは、クスリと笑みを浮かべる。

莉子

「サトコちゃんも大変ね。秀っちの補佐官だなんて」

「秀っちは真面目で融通が利かないし、大変でしょ」

サトコ

「確かに大変なこともありますが‥それでも、石神教官を尊敬してます」

「学べることも多いですし」

「それに‥いつか教官の隣に立てるようになりたいって思ってますから」

莉子

「それは‥‥‥恋人として?」

サトコ

「っ!?しーっ!莉子さん、誰かに聞かれたら‥」

莉子

「大丈夫よ。誰も来ないから」

サトコ

「‥恋人としてもそうですけど」

「いつか刑事として、石神教官に頼ってもらえるパートナーになれたらって思ってます」

莉子

「ふふっ」

「そういうところが好きなんでしょうね‥」

サトコ

「??」

莉子

「‥秀っちがあなたと話をするとき、とても愛しげに見ているって気づいてる?」

サトコ

「え‥」

莉子

「サトコちゃんのことがとても大切なんだなって思ったの」

「補佐官としてっていうのも、もちろんあるんでしょうけど‥」

「アナタの事がそれ以上に大切なのね」

サトコ

「莉子さん‥」

(石神さんが、そんな風に見ていてくれただなんて‥)

莉子

「そんなに嬉しそうな顔をしちゃって‥心配なさそうね」

サトコ

「えっ!?」

莉子

「この前も秀っちが入院しちゃったし」

「2人とも仕事ばかりしてるんじゃないかって心配してたんだけど」

「必要なかったわね‥ラブラブそうだし」

サトコ

「ラ、ラブラブなんて、そんな‥」

莉子

「あら?違うの?てっきり上手くいってるかと」

サトコ

「いや!上手くはいってます!順調です」

莉子

「それならやっぱりラブラブなのね。よかったわ」

サトコ

「は、はい‥」

莉子

「女の気持ちは、女にしかわからないんだし、いつでも相談しなさい」

「それに、心配しなくても大丈夫!私は口が堅いって、言ったでしょ?」

サトコ

「そこは疑ってませんが‥」

莉子

「ああ、ノロケ話でもいいからね!」

ウインクをする莉子さんに、カアッと頬に熱が上がる。

サトコ

「あ、ありがとうございます‥」

???

「‥こんなところで、何をしているんだ?」

サトコ・莉子

「!?」

突然現れた石神さんに、私たちは顔を見合わせた。

莉子

「なんでもないわ。女同士のナイショ話よ。ね、サトコちゃん?」

サトコ

「はい!ナイショの話です」

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石神

‥?

楽しそうに笑いあう私たちに、石神さんは首を傾げる。

(‥やっぱり莉子さんには敵わないな)

莉子さんという先輩がいて本当に良かったと、心からそう思った。

Happy  End

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