カテゴリー

サバゲー 難波 2話

目の前で、難波室長が素手で魚を捕り始めました‥

(‥ハッ!放心してる場合じゃない)

(いくら室長だって、素手でその辺を泳いでる魚を捕るなんて‥)

難波

うーん‥やっぱ、網がないと厳しいか‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-016

バシャバシャやるのをやめて、室長が川の真ん中辺りに立ち尽くした。

サトコ

「室長!無理ですよ、素手で魚なんて‥!」

その時、室長がパッと腕を動かす。

一瞬だけ川に入ったその腕には次の瞬間、見事な鮎が握られていた。

難波

なるほどな、コツを掴めばイケるってことか

サトコ

「えええ!?普通、素手で魚が捕れるんですか!?」

難波

実際にできたんだから、捕れるんだろ

ほら、お前もやってみろ

サトコ

「む、無理です!人間業じゃないですよ!」

活きのいい鮎を、室長はどこからともなく持ってきたバケツに水を入れて泳がせた。

(あのバケツは、いったい‥)

呆然とする私に、室長がニヤリと笑う。

難波

まあ、まだひよっこには無理か

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-017

サトコ

「!」

難波

捜査でどういう状況に陥るかわからんから、魚くらいは捕れねぇとな

でも、お前は無理しなくても‥

サトコ

「わ、私だって‥魚くらい、捕れます!」

室長と同じように袖とズボンの裾をまくり、意を決して川に入る。

水はそこまで冷たくないけど、魚は私をあざ笑うかのように足元を優雅に泳いでいった。

サトコ

「うっ‥絶対捕る!」

難波

おお、その調子だ

必死に魚を追いかける私から少し離れて、室長はコツをつかんだのか次々に鮎を捕まえる。

(すごすぎる‥室長って、どこに行っても生きて行けるタイプだよね‥)

(って、感心してる場合じゃない!)

私も頑張らなくきゃ‥

と思った瞬間、川の流れが急に強くなり、後ろに倒れそうになった。

サトコ

「きゃっ‥」

難波

サトコ!

遠くにいたはずの室長が、いつの間にかすぐ後ろで私を支えてくれていた。

サトコ

「あ、ありがとうございます‥」

難波

お前は相変わらず、危なっかしいな

やっぱり、黙って見てるのはちょっと心配だ

室長はそのまま、後ろから覆いかぶさるようにして私の両手を掴んだ。

サトコ

「え!?」

難波

いいか?まずはじっと待つんだ。で、魚が来たら‥

(あ‥なんだ、魚の捕り方を教えてくれてるのか)

(それにしてもこれは、ちょっと密着し過ぎじゃ‥!)

一度意識してしまうと、背中越しにいる室長の温もりが気になって仕方がない。

(室長のジャージの襟元からほのかに香る煙草の匂い‥それに、柔軟剤の香りもする)

(なんか、室長らしい‥っていうか、この体勢、は、恥ずかしい‥!)

難波

何だお前‥このくらいで緊張してんのか?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-018

後ろから顔を覗き込まれ、至近距離で目が合う。

サトコ

「!!!」

難波

この程度でドキドキしてたら、心臓がもたないぞ?

サトコ

「し、室長っ‥」

難波

おっ!?今だ、捕れ!

サトコ

「え!?は、はい!」

その後は何度も何度も、室長に魚の捕り方を教えてもらった。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-019

(室長のおかげで、素手で魚が捕れるようになったけど)

(これって普通‥せめて、網で捕るものだよね‥)

サトコ

「なんか私、だんだん女を捨てていってるような」

「‥あれ?室長がいない」

辺りを見回すと、室長はいつの間にか川岸に戻って火をおこしている。

サトコ

「室長!そんなことまでできるんですか!?」

難波

そろそろ魚は増えたか?持って来い

室長に呼ばれて、鮎が入ったバケツを持って川を出た。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-021

バケツを持っていくと、室長が何かを探していた。

サトコ

「どうしたんですか?」

難波

大変なことに気づいた。鮎を刺す串がない

サトコ

「あ‥!」

石神

何をしているんですか

静かな声に振り返ると、石神教官が呆れた様子でこちらに歩いてくる。

難波

おお、石神!いいところに

サトコ

「串持ってませんか!?」

石神

なんだと?

訳がわからない様子の石神教官だったけど、バケツの中身を見て納得したようにうなずいた。

石神

なぜこんなところで、魚を焼こうとしてるんですか

難波

いやあ、サトコが腹減ったって言うから

サトコ

「でも、半分は自力で捕ったんですよ」

石神

ふたりとも、最後まで訓練に姿を現さないと思えば‥

サトコ

「訓練‥?」

「あっ!」

(そそそ、そういえば‥今、訓練中だった!)

室長も忘れていたのか、『しまった』という顔をしている。

サトコ

「石神教官、すみません‥!ここで何人か訓練生は倒したんですけど」

石神

報告は受けている

訓練が終わっても戻ってこないから、探しに来た

サトコ

「お手数おかけしました‥あの、他のみんなは」

石神

バスで宿に帰ったが

(ってことは、私、置いて行かれた‥!?)

(もしかして、罰として帰りは宿まで歩いて帰れなんて言われるんじゃ‥)

難波

そりゃ困ったなー。せっかくだし、サバイバルでもしていくか?

石神

は?

サトコ

「サバイバル‥?」

顔を見合わせて首を傾げる私たちに、室長が草むらに隠してあった大荷物を見せる。

サトコ

「それは‥」

難波

キャンプグッズだ。鍋も飯ごうも、なんでもあるぞ

石神

どうしてそんなものを?

難波

今日は、“サバイバル訓練” って言ってたからな

(じゃあもしかして‥室長、“サバゲー” を本当のサバイバル訓練だと思ってきたってこと!?)

(そうか‥だからバケツまで用意してあったんだ)

石神

室長‥

難波

サバゲーなんて、俺みたいなおっさんが知ってるわけないだろ

どうせ加賀たちは残ってるんだろ?せっかくだし、アイツらも連れて来い

こうなったら、みんなまとめてキャンプだ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-024

サトコ

「キャンプ!?」

石神

仕方ありませんね‥

ため息をつきながら、石神教官がもと来た道を歩いて行く。

サトコ

「室長‥」

<選択してください>

A: 本当にやるの?

サトコ

「キャンプ‥本当にやるんですか?」

難波

打ち上げにちょうどいいだろ

まあ、俺たちはここで魚捕ってただけだけどな

サトコ

「確かに、サバゲーらしいことをしたのは、最初だけでしたね‥」

B: ふたりきりがよかった

(ふたりきりでいたかった‥なんて言っちゃダメだよね。一応、訓練中だったんだし)

難波

どうした?ふたりきりの時間が終わって残念か?

サトコ

「え!?そそそ、そんなことはっ‥」

難波

お前はほーんと、わかりやすいよなあ

C: サバゲー知らなかったの?

サトコ

「まさかとは思ってたんですけど‥サバゲーを知らなかったんですか?」

難波

知ってるわけないだろ。黒澤も詳しく教えてくれなかったしな

(黒澤さん、もしかしてわざとじゃ‥)

難波

お前は?サバゲーがどんなのか、知ってたのか?

サトコ

「うっ‥知りませんでした」

難波

なんだ、同じじゃねぇか

難波

でもいいもんだぞ、外で食う飯ってのも

大勢だと、なおさらな

サトコ

「‥はい!」

(室長とふたりきりの時間が終わったのは、ちょっと残念だけど‥)

(まだ一緒に過ごせるんだし、室長が楽しそうならそれでいっか)

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-025

室長が持ってきたキャンプグッズで軽い食事を作り終えたところで、教官たちがやってきた。

黒澤

難波さ~ん、持ってきましたよ☆

黒澤さんが高々と挙げているのは、一升瓶だ。

サトコ

「なぜあれを‥」

難波

実はな、こっそり石神に頼んでおいたんだ

ほら、酒がなけりゃ戦はできねぇって言うだろ?

石神

むしろ、酒があるとできないと思いますが

難波

カタイこと言うなよ~

加賀

飲んでも酔わなきゃいいだけだろうが

難波

その通りだ。さすが加賀、いいこと言うな!

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-026

(そうかな‥)

首を傾げたとき、後ろから後頭部をわしづかみにされた。

サトコ

「ギャッ!」

加賀

クズが‥どこ行ってやがった

サトコ

「な、難波室長と鮎捕ってました‥!」

東雲

そのまま一生、捕ってればよかったのに

はあ‥今日は早く帰れると思ったのに、キミのせいでサイアクなんだけど

サトコ

「わ、私のせいですか!?」

颯馬

フフ、たまにはこういう打ち上げもいいじゃないですか

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-028

(うう‥颯馬教官が神様に見える‥)

後藤

ちゃんとペアの相手が見つかってよかったな。氷川

サトコ

「後藤教官‥」

(後藤教官は、口数は少ないけどやっぱり優しい‥)

(後藤教官と颯馬教官は、心のオアシスだ‥)

難波

ほら

突然、目の前に鮎の塩焼きが現れた。

サトコ

「え!?な、な!?」

加賀

喚くな

難波

焼き立ては美味いぞ~。ちょっとだけ塩も振ったからな

お前も頑張って捕ったから、特別に一番最初に焼けたのをやる

サトコ

「あ、ありがとうございます」

(室長、嬉しそう‥こういう笑顔、子どもみたいだよね)

颯馬

サトコさんが鮎を捕ったんですか?網か何かで?

サトコ

「いえ、完全に素手で‥」

東雲

うわ‥鈍くさそう‥

後藤

いや‥素手で捕るとは、頼もしいな

黒澤

なるほど、サトコさんの愛情がたっぷりこもった鮎‥☆道理で美味しいわけですね!

難波

残念だが、それには俺の愛情をたっぷり込めて焼いといたからな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-029

たき火を囲んで、室長たちが早速、鮎の塩焼きを肴にお酒を飲み始める。

(室長も楽しそうだし、鮎も美味しいし‥)

(本当の “サバイバル” になっちゃったけど‥これはこれで、楽しいかも)

しばらく談笑していたが、そのうち、室長の姿が見えないことに気づいた。

サトコ

「颯馬教官‥室長、どこに行ったんでしょう?」

颯馬

ああ‥室長でしたらさっき、酔い醒ましにテントで休みと言ってましたよ

サトコ

「酔い醒まし?」

(室長が酔うなんて珍しいな‥ちょっと様子を見てこよう)

【テント】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-030

さっき教官たちが張ったテントは、全員が雑魚寝できる大きさなのでかなり広い。

中では室長が横になっていた。

サトコ

「室長?大丈夫ですか?」

顔を覗き込もうとした瞬間、強く腕を引っ張られた。

驚きのあまり、そのまま室長の上に倒れ込んでしまう。

サトコ

「し、しつちょっ‥」

難波

おいおい、ずいぶん大胆だな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-031

<選択してください>

A: からかったの?

サトコ

「もしかして‥からかったんですか!?」

難波

何をだ?俺はいつだって本気だぞ?

サトコ

「だ、だって‥全然酔ってないじゃないですか」

難波

ああ、さっきまではちょっと‥軽く‥なんとなく‥酔ってたような気がしたんだけどな

(絶対嘘だ‥!)

B: 誰か来ちゃうかも

サトコ

「しっ、室長!誰か来ちゃいますから‥!」

難波

みんな楽しんでるだろ?誰も来ねぇよ

お前は?黒澤が持ってきた酒、飲んだか?

サトコ

「い、いえ‥お酌したり鮎焼いたりするので忙しくて」

C: 具合は大丈夫?

サトコ

「室長‥具合、大丈夫ですか?」

難波

具合?なんのことだ?

サトコ

「え?颯馬教官が、酔ったからテントで寝てるって」

難波

あ?ああ、そうそう。酔った酔った

(嘘だな、コレ‥)

サトコ

「まだ全然酔ってないのに、どうしてテントに来たんですか?」

難波

‥お前が、ふたりきりになりたそうな顔してたから

サトコ

「え‥」

難波

おっさんを舐めるなよ?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-032

(まさか、私の気持ち、全部筒抜け!?は、恥ずかしい‥!)

(実はテントでもちょっとふたりだけになれるかもって、期待したのも、きっとバレてる‥!)

慌てて室長から身体を離して、テントの出口に向かおうとする。

でもそんな私の背中を、室長の声が追いかけてきた。

難波

なんだ?もう行っちゃうのか?

サトコ

「え‥」

難波

俺は、お前とふたりになりたかったんだけどな

サトコ

「っ‥‥‥」

(室長って、ほんとにずるい‥)

室長の方に戻ると、起き上がった室長の隣に座った。

(私とふたりで過ごせるように、早めにテントに来てくれたのかな)

(だとしたら‥室長も、私とふたりきりになりたいって思ってくれてたことだよね)

それが嬉しくて、つい口元が緩む。

でも私を見ながら、室長はどこか心配そうだった。

難波

それで‥お前は?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-034

サトコ

「え?」

難波

別にそうでもなかったか?

(それって‥)

難波

俺は、お前とふたりになりたかったんだけどな

さっきの言葉を思い出して、妙に慌ててしまう。

サトコ

「な、なんでそんなこと聞くんですか?」

難波

だって、俺一人で勘違いしてたら、かっこ悪いだろ

(『だって』って‥!)

難波

なんだ?

サトコ

「ふふ‥室長、かわいいです」

難波

お前なー、おっさんに向かって

サトコ

「私も、室長とふたりきりになりたかったですよ」

難波

‥そうか

室長のゴツゴツした手が伸びてきて、私の頭を自分の方へ引き寄せる。

そのまま、おでこをコツンと合わせた。

難波

うん、素直でいい子だ

サトコ

「ま、また子ども扱いして‥」

すぐ目の前に迫った室長の顔に、胸が一気に高鳴る。

でも、室長も同じ気持ちでいてくれているのなら、それで充分だ。

難波

‥その顔は、ずるいな

サトコ

「えっ?」

問い返す前に、室長の体重が身体にかかる。

そのまま、地面に押し倒された。

サトコ

「し、室長‥!」

難波

我慢しろって方が無理だろ?

悪いが‥たぶん、手加減できん

サトコ

「っ‥‥‥」

少し余裕のない室長の表情に、釘付けになる。

(こんな室長、初めて‥)

(私たち、本当にここで‥?)

ゆっくりと室長の手が、ジャージのファスナーに触れる。

ぎゅっと目を閉じようとした時‥ふと、室長の手が止まった。

難波

いや‥やっぱりこういうのは、ふたりきりの時にじっくり味わうもんだよな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-035

サトコ

「え?」

難波

‥うん、そうだ

一人で納得したように私から身体を離すと、近くに座って意味深に笑う。

サトコ

「室長‥?」

難波

‥おっさんだって、我慢してるんだぞ?

サトコ

「!!!」

(ま、またやられた‥)

(室長は、いつもこうやって私を振り回すっ‥)

起き上がったものの、しばらくは頬の熱が消えそうにない気がする私だった。

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする