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キスしてうつして 東雲 1話

サトコ

「あ、教官‥」

東雲

‥なにデスク漁ってんの

泥棒?

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サトコ

「違います!仕分けが終わったファイルを持ってきただけです」

「石神教官に頼まれた分の‥」

東雲

ああ、そう言えばキミ、怒られてたっけ

昼間、石神さんの仕事をボイコットして

(うっ‥)

サトコ

「あ、あれはやむを得なかったというか、なんというか‥」

東雲

‥どういうこと?

サトコ

「実は‥」

東雲

へぇ、同期を保健室に運んで‥ね

サトコ

「そうなんです」

「だからボイコットするつもりじゃなかったんです!」

「そりゃ、石神教官を待たせたのは悪かったですし‥」

「そもそも呼ばれる前にアンケートを持って行けって話ですけど‥」

東雲

ほんとにね

しかし世話ないよね。それで風邪まで貰ってんだから

サトコ

「そうなんです。どうもその同期からうつったっぽくて‥」

(‥ん?)

サトコ

「え、ええと‥もしかして気づいて‥」

東雲

目、潤んでる

顔も少し赤いし

教官の手のひらが、ぴたりとおでこに当てられた。

東雲

‥ま、微熱ってとこ?

今日は早く帰って休んだら?

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(教官‥)

<選択してください>

A: なんか感動‥

(なんか感動‥)

(さすがの教官も、こんなときは優しい‥)

東雲

‥なんて言うと思った?

サトコ

「‥え‥?」

B: ‥待てよ

(‥待てよ)

(いつも塩対応の教官が、こんなに優しいはずがないよね)

(何かある‥絶対ある‥)

(絶対このあと何かが‥)

東雲

‥へぇ、疑ってんだ?

さすが2年目。オレのこと分かってるじゃん

C: 好き!大好き!

サトコ

「好きです!大好き!」

「教官ーっ」

東雲

寄るな。ウイルス保有者

サトコ

「ふごっ」

(ひ、ひどい!ファイルでガードするとか‥」

東雲

‥なに、その恨みがましそうな目

東雲

悪いけどさ、自己管理が甘い証拠だよね

あっさり風邪うつされるとか

(うっ‥)

東雲

あと、キミ、すっかり忘れてるみたいだけど‥

宮山の指導報告書

提出期限、今日の昼だったんだけど

(あ、しまった‥)

サトコ

「え、ええと‥」

東雲

‥‥‥

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サトコ

「今すぐ書きます!速攻で書きます!」

東雲

30分

それ以上は待たないから

サトコ

「了解です!」

(うう、サイアク‥)

(なんで忘れてたんだろう‥)

(ええと、このあと鳴子のチームと一緒に反省会をして‥)

サトコ

「‥っ」

(まずい‥寒気がしてきた‥)

(でも、あと10分で終わらせないと‥)

東雲

‥‥‥

(うう、しんどい‥)

(エアコン‥つけたらダメかな‥)

サトコ

「あの‥」

(えっ?)

教官の姿が、視界から消えて‥

すぐに、暖かなものが私の肩に掛けられた。

(これ‥教官のジャケット‥)

サトコ

「あっ、あり‥」

東雲

いいから

あと9分20秒

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サトコ

「‥はい!」

(よし、ラストスパート‥!)

(あと少し‥もう少し‥)

(もう少し‥だけ‥)

(頑張れ、私‥‥‥)

東雲

‥‥‥

そして、ついに‥

サトコ

「でき‥た‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「終わり‥ました‥教か‥」

ガタガタガタンッ!

東雲

ちょ‥キミ‥!

(あれ‥なんか‥)

(力入らない‥)

東雲

ったく‥

ほら、掴まって

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(うう、すみません‥)

【廊下】

肩に担がれてるせいで、ゆらゆらと身体が揺れて気持ちが悪い。

けれども、それに抗議する元気ももはやなくて‥

颯馬

おや‥

難波

どうした、歩。その俵は

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東雲

うちの補佐官です。どうも風邪をこじらせたみたいで‥

難波

ああ‥今、流行ってるもんなー

颯馬

ですが、もう少し丁寧に扱ってはいかがですか?

いちおう病人なんでしょう?

難波

そうだぞ、歩。せめて、ほら‥なんだっけ、こういう‥

颯馬

『お姫様抱っこ』ですか?

難波

そうそう。それだ、それ‥

東雲

必要ありませんよ

自己管理のできない人間は、『俵』扱いで十分です

では、お先に失礼します

難波

おお‥手厳しいねぇ

颯馬

そうとは限りませんよ。彼のことですから案外‥

(うう‥)

(いろいろ言いたいけど、これじゃ言い返せないよ‥)

【寮 自室】

部屋につくなり、俵よろしくドサッとベッドの上に下された。

東雲

着替えは?

サトコ

「ええと、クローゼットのなかに‥」

ああ、これか‥と言いながら、教官はパジャマを手に取った。

東雲

はい

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サトコ

「??」

(なんで背を向けて‥)

東雲

着替えて、早く

サトコ

「あ‥は、はい‥」

(あ、そっか‥)

(そうだよね、着替えないと‥)

東雲

‥‥‥

(ダメだ‥)

(やっぱりうまく頭が働いていない‥)

サトコ

「あの‥着替えました‥」

恐る恐る声をかけると、教官はようやく振り返ってくれた。

東雲

ほら、布団に入って

サトコ

「はい‥‥」

東雲

熱は?

(あ‥)

(教官の手‥冷たくて気持ちいい‥)

東雲

‥なるほどね

体温計は?

サトコ

「あの、棚の中‥」

取って来てもらった電子体温計で熱を測る。

案の定、37度を余裕で越えていた。

東雲

‥病院は明日だね

サトコ

「インフル‥でしょうか?」

東雲

さあ‥

ただ、どのみち熱が出たばかりだと正確な検査結果が出ないって言うし

サトコ

「ですよね‥」

「ゲホゲホッ」

東雲

マスクは?

サトコ

「ないです‥」

東雲

風邪薬や冷却シートは?

サトコ

「それも、ちょっと‥」

東雲

じゃ、寝るしかないね

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教官は体温計をケースにしまうと、当然のように立ち上がった。

(あ、行っちゃう‥)

サトコ

「教官‥」

東雲

なに?

サトコ

「あ、その‥」

本当は『行かないで』って言いたかった。

けど‥

(そんなこと‥言ったら‥)

東雲

は?行くな?

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冗談。うつされたくないんだけど

‥体が辛い?

別に関係ないし

そもそも自業自得だよね。体調を崩すとか‥

自己責任だと思うんだけど

‥キッス?

バカなの?熱でやられたの?頭湧いてんの?

ウイルス保持者とキスとか、ほんとあり得ないんだけど

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(‥ダメだ。妄想だけで心がバキバキに‥)

東雲

‥なに、そのため息

さっさと用件言って欲しいんだけど

サトコ

「そ、そうですよね‥」

「ええと‥」

<選択してください>

A: おやすみなさい

サトコ

「おやすみなさい‥なんて‥」

東雲

‥それだけ?

サトコ

「はい、まぁ‥」

「ふがっ」

(な、なんで鼻をつままれて‥)

東雲

バカ

ほんとバカ

(しかも罵倒!?)

(ただ挨拶しただけなのに‥)

B: 薬が欲しい

サトコ

「薬がほし‥」

「ゲホゲホゲホッ」

東雲

ちょ‥なに?

サトコ

「す、すみません、すみません‥」

(うう、やっちゃった‥)

サトコ

「や‥やっぱり何でもない‥です‥」

東雲

‥そう‥

C: 教官は大丈夫ですか?

サトコ

「教官は‥大丈夫ですか?」

東雲

なにが?

サトコ

「風邪、うつったりとか‥」

東雲

悪いけど、自己管理は徹底してるから

誰かサンと違って

(う、手厳しい‥)

東雲

‥用件はそれだけ?

サトコ

「はい‥」

東雲

じゃあ、早く寝て

サトコ

「‥分かりました」

「おやすみなさい‥」

バタン、とドアの閉まる音がした。

鍵をかけなきゃ、と思ったけど、起き上がる元気がすでになかった。

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(そうだよね‥)

(風邪、うつったら教官も困るもんね)

(私よりも教官の方がずっと忙しいんだし)

サトコ

「そうだよ‥」

「これでよかったんだよ‥」

「これで‥うつさずに済んで‥」

(でも、ほんとは‥本音を言えば‥)

(もうちょっとだけ‥そばにいて欲しかったなぁ‥)

それから、どれくらい時間が経っただろう。

ようやく眠気が訪れて、うつらうつらし始めたころ‥

(ん?足音‥?)

ガチャ‥

(あ‥誰か入ってきた‥)

(なんだ‥この部屋に用事が‥)

サトコ

「!?」

(な、なんで私の部屋に人が‥)

(‥そうだ、鍵!かけるの忘れたままだった‥!)

寒気とは別の意味で、身体がガタガタと震えてきた。

(ど、どうしよう‥教官に連絡‥)

(スマホ‥スマホ、どこ‥)

焦っている間にも足音がどんどん近づいてくる。

(こ、こうなったら自力でなんとかするしか‥)

意を決した私は、布団を手に勢いよく起き上った!

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