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オレの帰る家 難波1話

【空港】

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降り立った那覇空港は、南国特有のムッとした暑さに包まれていた。

サトコ

「ついに来た‥‥沖縄!」

「なんて、浮かれてる場合じゃないよね」

電話口での室長の深刻な声を思い出し、気を引き締める。

その電話は数時間前、休み時間に突然かかってきた。

【学校 廊下】

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サトコ

「え?沖縄に、ですか!?」

難波

そうだ。飛行機はもう手配した。お前のメールに詳細を送ってある

サトコ

「でも、まだこの後も授業が‥」

難波

いいから。今すぐ来い

プツッ‥‥ツーツー

(切れちゃった‥)

急いでかけ直すが、室長は知らんぷりしているのか忙しいのか、ちっとも応答がない。

(どうしよう‥こんなこと急に言われても‥)

困惑しながらメールを確認すると、確かに飛行機の搭乗券が送られてきている。

サトコ

「しかも2時間後って‥」

(今から一回寮に戻って荷造りして‥急いで空港に向かっても結構ギリギリなんじゃ‥!)

サトコ

「もう‥とにかく行くしかっ‥」

焦って走り出そうとした私の背に、鋭い声が飛んだ。

???

「氷川!」

サトコ

「石神教官!」

石神

どこに行く?

もう次の講義が始まるぞ

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サトコ

「そ、それが‥」

私は慌てて事情を説明すると、石神教官の訝しげな視線に見送られながら、

空港へ急いだのだった。

【空港】

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(とにかく来てはみたものの‥室長、一体どうしたんだろう?)

今回の室長の出張は、

1か月後に沖縄で行われるサミットの警護計画を立てるためのもののはずだった。

(そんな重要な任務で、私が役に立てることなんてなさそうだけど‥)

辺りをキョロキョロしながら、迎えに来てくれているはずの室長を探していると、

のんびりとこっちに歩いてくる人影に目が留まった。

(あの感じ、室長だよね‥?)

でもその姿には、電話で感じたような切羽詰まった様子は見られない。

難波

おお、来たか来たか

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サトコ

「はい、なんとか‥」

難波

めんそーれ

サトコ

「‥‥‥」

沖縄という場所がそうさせるのか、室長はいつも以上にのんびりゆったりした口調で微笑む。

(あの電話の深刻さはどこに行っちゃったの‥?)

サトコ

「あの、これは一体‥」

難波

まあ、そう硬くなるな。折角の沖縄だ

とりあえず、行くぞ

言いながら私の荷物を取ると、室長は先に立ってさっさと歩き出した。

【マンション】

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リゾートマンション風の建物の前で、室長は車を停めた。

難波

よし、着いたぞ

サトコ

「‥ここは?」

難波

俺が今借りてるウィークリーマンションだ

サトコ

「えっ、室長、ホテルじゃなくてここにお泊りなんですか?」

難波

まあ、色々あってな

意味ありげに言うと、室長は私の荷物を持って、マンションの中に入っていく。

サトコ

「あの、もしかして私の滞在場所もここなんでしょうか?」

難波

それはまたおいおいな

とりあえず、俺の部屋に来てくれ

サトコ

「はい‥って、え!?」

(室長の部屋!?)

(室長のおうちにお邪魔したことはあるけど)

(任務中の室長の滞在先を訪ねるって、ちょっと緊張する‥!)

【部屋】

難波

ひよっこ‥

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サトコ

「?」

部屋に入るなり、室長は真剣な表情で私に向き直った。

難波

ここで一緒に過ごそう

サトコ

「ええっ!?」

(一緒に過ごすって‥もしかして、私と一緒にいたい一心でここに呼んでくれたってこと?)

(そんな風に思ってくれたなんて嬉しいけど‥)

一瞬舞い上がりかけたところで、ふと冷静になった。

(室長に限って、訓練を放り出してまでそんなことをさせるはずないよね?)

(きっと何か魂胆が‥)

でもここまで来てしまった以上、私に断るという選択肢などあるはずもない。

サトコ

「‥はい」

難波

よかった‥

訝りつつも頷くと、室長の表情が一気に緩んだ。

難波

断られたらどうしようかと思ったが、さすがはひよっこだな

そうと決まったからには、ひよっこには鳥の世話を頼む

サトコ

「と、鳥!?」

(鳥って、一体‥!?)

【リビング】

混乱する私を、室長はリビングへと連れて行った。

そこには、大きな鳥かごに入った大きな鳥がいる。

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サトコ

「なんで‥鳥が‥?」

(しかも、私の背丈の半分くらいあるし‥いくらなんでも大きすぎる気が‥)

難波

もしかしてお前、鳥が苦手とか、ないよな?

サトコ

「そ、それはないですけど‥」

難波

なら大丈夫だな。こいつの名前はネムちゃんだ

サトコ

「ネムちゃん‥ですか‥」

難波

俺が仕事に出てる間、よろしく頼むな

サトコ

「はあ‥」

ガシッと肩を掴まれて、思わず勢いで頷いてしまう。

想像していたのとは全く違う展開に、私はやや困惑していた。

難波

ちなみにこいつは、さるお偉いさんのペットなんだが

そのお偉いさんが、しばらく検査で入院することになっちまった

サトコ

「それは、大変ですね‥」

難波

で、行きがかり上、俺が預かることになったんだが‥

俺も部屋を空けてることの方が多いし、鳥の飼育経験もないしな

困った。これまでの人生最大級に困った‥

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サトコ

「‥‥‥」

難波

そんなわけで急きょ、お前を呼び寄せたというわけだ

サトコ

「そ、そうだったんですか‥」

(なにかあるとは思ったけど、まさかこういうことだったとは‥)

やや愕然としつつも、困った時に私を頼ってくれたことが素直に嬉しくもあった。

(仕事ではまだまだ役に立てないことの方が多いけど、こういうことならきっと力になれるよね)

(長野の交番時代に、迷子になったインコを飼育してたこともあるし‥!)

サトコ

「分かりました。そういうことなら、私に任せてください」

「室長がお仕事に専念できるように、しっかりとお世話しますから」

難波

なんだよ、頼もしいな。ひよっこ

ありがとうな。恩に着る

サトコ

「いえ、そんな‥」

難波

やっぱりお前に頼んで正解だったよ

言いながら、室長はポケットをゴソゴソと探り、何かを取り出した。

難波

それじゃ、そういうわけで、これ

サトコ

「?」

渡されたのは、部屋の合鍵だった。

サトコ

「あ、はい‥」

(ドキドキの瞬間のはずなのに、相変わらず無造作‥)

(確か、室長の家の鍵を渡された時もこんな感じだったよね)

【河原】

難波

‥あった。はい、これ

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サトコ

「!」

「あ、あの、これはどういう‥?」

難波

俺のマンションの鍵だけど?

【リビング】

苦笑いしつつ、まだ室長の温もりの残る鍵を握りしめる。

サトコ

「ていうか、ホテルじゃなくてここに住むんですか?」

難波

さすがにホテルにはこの鳥を連れて行けないからなぁ

かといって、ホテルから毎日ここに通ってくるのも大変だろ?

サトコ

「それはまあ、確かに‥」

平静を装って頷きつつ、内心ではドキドキが止まらなかった。

(今日から室長と2人、普通のお家で一緒に暮らすんだ‥)

(これってなんだか、プチ同棲みたいだよね?)

(飼い主さんの検査入院の間だけだからそんなに長くはないかもしれないけど、嬉しい‥!)

難波

これじゃ、同棲みたいだけどな

サトコ

「え‥」

(室長も同じこと考えてた‥!)

サトコ

「そ、そうですね」

その時初めて気づいたかのように返事をしたら、無性に照れくさくなってきた。

でも頬を赤らめた私とは対照的に、室長は余裕の表情を崩さない。

難波

それじゃ、これからしばらく、よろしくな

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2人の新たな生活のスタートを告げる合図のように、室長はそっと私の唇にキスを落とした。

その夜。

食事を終えた私は、公安学校の課題に取り組んだ。

(特別課題、意外とたくさんあるなぁ‥)

あの後、室長の取り計らいで、

沖縄滞在中は各教官からの特別課題をこなすことで出席扱いにしてもらえることになった。

教官たちは、さっそくメールで大量の課題を送りつけてくれている。

(ネムちゃんのお世話の合間に、計画的にやらないと)

難波

おい、そろそろ寝るぞ

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少しの間、暇そうに私の様子を見ていた室長が、大きなアクビをしながら立ち上がった。

サトコ

「はい、お先にどうぞ。私はそのソファで適当に寝ますので」

難波

ここで?‥なんでだ?

サトコ

「なんでって‥寝室のベッド、確かシングルでしたよね?」

難波

まあ、それはそうなんだが‥

サトコ

「室長はお疲れでしょうから、ゆっくり寝てください」

難波

‥‥‥

室長は少し不満そうに私を見つめた後、いきなり腕を引っ張った。

難波

一緒に寝るぞ

サトコ

「え?で、でも‥!」

【寝室】

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難波

抱き枕がないと寝つきが悪い

サトコ

「そんなこと‥」

最後まで言い終わらないうちに、2人でもつれるようにベッドに転がり込んだ。

サトコ

「きゃっ」

難波

うん、いい感じだ

室長は満足げに私に絡みつくと、さっそく心地よさそうな寝息を立て始める。

サトコ

「もう寝ちゃった‥」

(よほど疲れてたんだな)

(微妙に息苦しいし、きついけど‥こんな風に密着するのも悪くないかも)

室長の大きな体に包まれて、安堵感と幸福感が湧き上がる。

気づいた時には、私も深い眠りに落ちていた。

【玄関】

難波

それじゃ、行ってくるな

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サトコ

「いってらっしゃい!」

翌朝。

室長を見送ると、心なしか気だるさを感じた。

(やっぱりシングルベッドに2人は無理があったかも‥)

(室長は大丈夫かな?室長のためにも、今日は何としてもソファに寝よう)

【リビング】

ぼんやり考えながらリビングに戻ると、背中に何か突き刺さる視線を感じた。

(ん?)

振り返ると、ネムちゃんがその名の通りの眠たそうな目で私をジッと見つめている。

ネムちゃん

「‥‥‥」

サトコ

「あ、ごめん、ごめん‥」

「ネムちゃんの朝ご飯、まだだったね」

室長が飼い主から渡されたというお世話メモを取り出した。

サトコ

「朝はまず‥お水の交換か‥」

「それじゃ、ネムちゃん、お水を交換するよ~」

声をかけながらカゴの扉を開けようとすると、いきなりネムちゃんがくちばしを突き出した。

ネムちゃん

「ギョエッ」

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サトコ

「いたっ」

(突っつくなんて‥!やっぱり長野で飼ってたインコとは勝手が違うかも‥)

(この大きさ、意外とあなどれないな)

サトコ

「ネムちゃん、いい子だからちょっとだけじっとして‥」

ネムちゃん

「ギョエッ」

サトコ

「もう‥怖いってば‥」

再びくちびるで突かれそうになり、私は慌てて手を引っ込めた。

サトコ

「お水取り替えてあげたいだけなのに、なんでそんなに攻撃するの‥」

いきなりの予期せぬ躓きに、途方に暮れる。

(こんなんで私、ちゃんとお世話していけるのかな‥)

to be continued

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